2014/10/06
今宵、僕は真の“リアル・ソウル”を目の前で聴いた――。いや、「聴いた」というより、「体験した」と伝えたほうが適切だろう。
決して大きくはない身体の芯から振り絞るようにして発する声。その声はすでに程よく嗄れていて往年の艶はない。しかし、スリムな身体を思う存分使ってダイナミックに感情移入し、歌に濃密なソウルを宿す姿は現役感覚バリバリ。聴いていると鳥肌が立ち、油断すると涙が溢れてきて、あまりの存在感の確かさに打ちのめされる。
キャンディ・ステイトン。この名前に特別の感慨を抱くファンも多いはずだ一昨年に『ビルボードライブ』で初来日公演を実現させ、その比類稀なるディープな歌でオーディエンスをノックアウトした70歳代半ばのベテラン・レディ・ソウル・シンガー。
米国アラバマ州の片田舎に生まれ、ゴスペルを歌いながら育った彼女が注目されたのは、サザン・ソウルの聖地とも言える同州マッスル・ショールズにあるフェイム・スタジオで録音した楽曲が奇跡的とも言える宝石の結晶のようなクオリティを備えていたからだ。
70年にはカントリー・ソングの「スタンド・バイ・ユア・マン」をソウルフルにカヴァーしてヒットさせ、一躍注目を集める存在に。同年代の半ばからはディスコ・ソングのフィールドでもヒットを放っていたが、82年にゴスペルの世界に回帰し、91年にポピュラー・ソングの世界に戻ってくるまでは“伝説”のソウル・シンガーとされていた。
そんな彼女が今年、往年のヒット曲を量産したフェイム・スタジオで、当時のプロデューサーでもあったリック・ホールと運命的な邂逅を果たし、5年ぶりに新作“Life Happens”をリリース。当然、この作品が悪いわけがない。
豪快にグルーヴする華やかなアップ・テンポな曲も、身体に染み渡るように切々と歌われる渋いスロウ・ナンバーも、ステージの上で披露されるキャンディの歌は、まさにリアルな説得力に満ち溢れている。それは新作のタイトル通り、波乱万丈だった彼女の人生が深く刻み込まれているから。誰もが必ず耳を奪われ、心を激しく揺さぶられるはずだ。
今回のライヴでは70年代のヒット曲はもちろん、新作からの曲も確かな手応えを感じさせるパフォーマンスと共に披露している。また、3人のコーラスを従えた7名のバックは重厚なサウンドをドラマティックに聴かせ、黄金期のソウル・リヴューを彷彿させる充実ぶり。インスタントな音楽が氾濫している現代に、彼女のように血も汗も涙も感じさせる歌を届けてくれるシンガーは、もう数えるほどしかいない。
そんな貴重なシンガーが放つ骨太で喜怒哀楽をすべて包み込んだ懐の深い歌を間近で浴びることのできる贅沢。僕たちは、再来日してくれたキャンディに感謝しなければいけない――そんな錯覚に陥るほど、ピュアなサザン・ソウルが堪能できるのだ。
ここまで説明すれば、もう、迷う余地などないはずだ。キャンディ・ステイトンのミラクルな再来日と、そのステージで起こる“Happen(予想外のことが起こること)”を思う存分に味わう以外にない。
◎公演情報
キャンディ・ステイトン
2014年10月4日~5日 ビルボードライブ東京
2014年10月7日 ビルボードライブ大阪
Info: http://www.billboard-live.com/
Text: 安斎明定(あんざい・あきさだ)東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。すっかり秋らしくなって乾いた風が心地好い今は、カリフォルニアのブティック・ワイナリー産のチャーミングなピノ・ノワールがオススメ!
Photo: Masanori Naruse
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