2013/11/21 16:25
毎年、春にはライブハウスツアー、秋にはホールツアーというスケジュールが多いクレイジーケンバンド(以下、CKB)。紅一点のボーカル・コーラス、菅原愛子が産休中のため、現在は男ばかり11人の所帯。今回は、劇団四季のミュージカル公演などで知られる京都劇場に初見参とあいなった。5月に発表したアルバムのタイトルを冠したツアー《Flying Saucer 2013》、残すはふたつの港町、神戸・横浜のみという大詰めにさしかかったところでの古都来襲である。
古いソウルの流れるなか、お客さんが揃った頃、突然明かりが落ちると、スパイ映画の冒頭のようなサーチライトが緞帳を照らして忙しく駆け回る。バンドが演奏を始め、幕が上がると、そこには巨大なフライングソーサー、「円盤」のセットが! ……とはいえ、書き割りとひと目で分かるところがご愛敬ではあるのだが、中央には出入口となるハッチがあり、そこからボーカルの"クレイジーケン"こと横山剣が現れた。黒地に黄金のドラゴンの刺繍が入ったチャイナ服に身を包み、ボンジッパーと思しきゴツめのサングラスにボルサリーノを頭に乗せての登場。
最新アルバムのオープニングを飾っているのと同じ曲「円盤 -Flying Saucer-」でスタートすると、トボけた味がただよう軽妙なラテンチューン「Hey Que Pasa?」で調子をうかがい、「旅客機」で羽田から国際線に乗り込む男の恋心を歌うと、「当機はすでに金浦空港に到着いたしました」というアナウンスをはさんで、ソウルは「ウォーカーヒルズ・ブーガルー」で賭け事に熱中。カジノらしくミラーボールが盛大にまわり、ガーちゃん(新宮虎児)による流暢すぎてかえってアヤしい韓国語ナレーションでシメたところでMC。
剣さんいわく、京都は久しぶりとのこと。「全日空ホテルのディナーショウというのはあったけど、ワンマンのライブとなると……丸太町の……そう、メトロ! メトロ以来だね」クラブから大劇場まで、CKBのレンジとフトコロの深さを物語る話である。「今日はKYOTOスペシャルだから、ここでしかやらない曲もあるしね」という言葉に沸き返る会場を、今度は「金浦空港から香港へお連れします」と次曲へ。
トロンボーン、トランペット、ギター、ドラムス、サックスとそれぞれのソロ回しも愉しい「スージー・ウォンの世界」から、銅鑼の前での演舞も華麗な「Hong Kong Typhoon」という流れ。剣さんのMCによると「香港の啓徳空港から、ブルース・リーのジークンドー道場へ忍び込んで警備員にやられる」という妄想ストーリーを反映した動きだった模様。
ここから「男なら京都に別宅を持ちたいものだ」という妄想や、京都は「和」を徹底しているだけに逆にインターナショナルなんだという京都賛美、つづいてなぜか、テレビの話題……「永ちゃんの食わず嫌い、観た?」という話に。前夜放映されていたとんねるずの番組のコーナー「新・食わず嫌い王決定戦」に矢沢永吉が出演していたのだった。「(食わず嫌いなのは)シャコ!」「フォルムが!」って言ってましたね。チャーミングだね」と触れ、矢沢スタイルで「Somebody's Night?」とひとフシうなる一幕も。さらに話は、かつて京都の円山公園で開かれたキャロルの野外コンサートにリーゼント族と長髪族が集合して乱闘になった逸話へ。
このコントロールなく横すべりしていく感覚もCKBのライブの魅力である。
曲は「ランタン」「混沌料理」「タイに行きたい」という、それぞれに煩悩を馳せるナンバーを3曲。中華街や「広東料理フェア」実施中のフェミレス、タイから輸入するレコードやカセットテープと、CKBの楽曲のなかではあらゆるものが、世界に恋焦がれる触媒になるんだなと感心してしまう。
さらに「箱根スカイライン」「SOUL FOOD」と最新アルバムからの曲をつづけたあと、バンドの歴史を振り返る剣さん。「CKBの結成からは16年?」「廣石さん(廣石惠一。ドラムス。バンドマスター)と組んだのは'86年……27年前……」「澤野君(澤野博敬。トランペット)と会ったのは'84年だから……」と指折り数えて沈黙、というネタのようなやりとりに続けて、「ワケありのメンバー。いろんなところで問題を起こしてここにいるんだから」と爆笑を誘う。「(自分も)人にわがままを聞いてもらってやってきたから、みんなのリクエスト聞かなきゃ!」と恒例のリクエスト・コーナー。
と思いきや、「でもその前に、ここは京都! これやらなきゃ」と昨年のアルバム『ITALIAN GARDEN』に収められていた曲「京都野郎」を披露してから、改めて会場の希望を募る剣さん。
待ち構えていたように、いろんな曲名が飛び交うなか、「1107! ……1日遅れのイイオンナ? そうか、(今日は)11月8日……」と反応した剣さん。軽くひとふし唄ってみて、リクエストしてくれたお客さんに「(これで)どう?」と訊ねるが納得を得られない模様。「やれますかね? やってみようか」とバンドに確認しながら、結局、ほぼフル尺で完奏してしまった。エンディングだけは、剣さん呼ぶところの「フィリピンバンドスタイル、あるいは、ソウルトレインスタイル」でフェイドアウトしていくという曖昧な終わり方。これができるのは、芸達者な証拠。
もう一曲、「た・す・け・て」のリクエストにご機嫌に応えたあとは、小野瀬雅生ショウ! ハマのギター大魔神、小野瀬雅生によるギターインスト「UFO BOOGIE」が炸裂する。
剣さんは黒シャツ、黒タイ、黒ジャケットに着替え、颯爽と再登場。ニューアルバム『FLYING SAUCER』から、ヨコハマ、ヨコスカを舞台にした「廃車復活」、そしてフォード・ムスタングが活躍するスティーブ・マックイーンの映画『ブリット』を夜中に観ている男の話「シフトチェンジ」とカーソングを2曲。
この「廃車復活」にひっかけて、宇崎竜童・阿木耀子コンビのナンバーを唸ってみせる。百恵ちゃんの「横須賀ストーリー」(これっきりーこれっきりー/もうこれっきりーですかー)につづいて、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」を唄おうとするが、ムニャムニャとなりうまくいかない。「だめじゃん」と自嘲する剣さんに、歌舞伎でいう大向うよろしく、客席からすかさず「雑!」と声が飛ぶ。
CKBが体現する「ま、いいや」の精神--いつまでも考え込んでいるのではなく、やることはやって、あとは流れを断ち切って次へ行こうという感覚--を言い換えたこの言葉。剣さんもお気に入りの様子で、「浸透してますねえ。『雑Tシャツ』とか作ったら買ってくれますか?」と場内マーケティングに余念のない様子。すっかり定着した「ィイネ!」につづいて、「ま、いいや」や「雑!」も日本中に広まっていくかもしれない。
そこからは、横須賀といえば……という繋がりから「タイガー&ドラゴン」へ。そして「不良倶楽部」「Lady Mustang」とホーン隊が大活躍するアッパーな曲からお馴染みの「JBメドレー」へとなだれこんでいく。
バンマス廣石組長に皆がお辞儀すると、逆に敬礼を返されて一同あたふたというこれもお馴染みのオチから、本篇ラストナンバー「香港グランプリ」でスピード感たっぷりのエンディング。もちろん、スモーキー・テツニ(MC、ボーカル)が手動でまわす回転盤に剣さんが乗っての「ィイネ!」ポーズから「逃げろっ!」で、退場である。
アンコールでは、まず剣さんとテツニのふたりによる鍵盤コーナー。思いつくままに鍵盤を弾き語り、いろんな曲を適当にカバーするという企画だが、今日は「京都に関係のある人」の曲ばかり。
加藤和彦「悲しくてやりきれない」、ベッツィ&クリス「白い色は恋人の色」、沢田研二「勝手にしやがれ」、都はるみ「好きになった人」、ダウンタウン・ブギウギ・バンド「身も心も」、ばんばひろふみ「SACHIKO」、大野克夫が編曲した「学生街の喫茶店」、同じく大野克夫作曲の「太陽にほえろ!のテーマ」とあふれるように出るわ出るわ。
やがて、「関係ないけど……」と剣さんの無茶振りが、西城秀樹の楽曲に飛び火。「激しい恋」から、ワム!の「ケアレス・ウィスパー」を改題した「抱きしめてジルバ」のイントロのフレーズを繰り返していると、ファンから"スター"の愛称で慕われるサックスプレイヤー中西圭一が同じフレーズを重ねながら登場。
これを「やればできるじゃん」「楽屋じゃ『勘弁してくださいよ-』って言ってたけど、やればできんじゃん!」と誉めちぎっておいて、「あ、やるときゃやらなきゃ、ダメなのよ」を始める。こんな風に、CKBはトークやお遊びと楽曲がシームレスに繋がっているので、観るほうはずっと入り込んでいられる。3時間に及ぶショウでも飽きることがない。
「木彫りの龍」でドリフターズ的大騒ぎのあと、もう一度、ダブルアンコールがあった。。
ノーネクタイの赤いシャツに着替えた剣さん。「男の滑走路」を歌ったあと、メンバー紹介。京都でやれて本当によかったと嬉しい感慨を語り、万感の想いを込めてのグランドフィナーレは「地球が一回転する間に」。ニューアルバムから壮大なスケールの視点を感じるこの曲を最後に、剣さんはまた、円盤のハッチの向こうに消えていった。地球の、古都のお客さんから手渡されたたくさんのプレゼントを抱えて。
CKBはレコーディングとライブパフォーマンスが交互に、有機的に連関して進んでいくバンドである。新曲が生まれ、ステージで試され、レコーディングされ、またライブに戻ってきて楽曲が育っていく。ライブで触れたときのほうが、歌詞もよく聴き取れたりする。単なるアルバムの再現ではないのだ。こういうバンド、そうはいない。
今回も、見どころ満載のショウで大いに楽しませてもらいながら、ニューアルバムの曲たちへの理解が深まったような、そんな気がしている。身体も脳も、そのほかの部分も、すべてを刺激してくれるのである。
ライブバンドであり、ショウバンドであり、レコーディングアーティストである、つまりはそれが「サウンドマシーン」ということなのだろう。
Live Report:2013年11月8日(金) 京都劇場
Text:大内幹男
新年のビルボードライブ大阪&モーション・ブルー・ヨコハマ公演が決定
◎公演情報
『ビルボード大阪のクレイジーケンバンド』
2014年1月30日(木) Billboard Live OSAKA
More Info:http://www.billboard-live.com/
『モーション・ブルーのクレイジーケンバンド』
2014年2月1日(土)・2日(日) モーション・ブルー・ヨコハマ
More Info:http://www.motionblue.co.jp/
◎クレイジーケンバンド OFFICIAL WEB SITE
http://www.crazykenband.com/
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