2013/10/23
「ビートルズの再来」と呼ばれたり、ローリング・ストーンズ、フー、ゼム(ヴァン・モリソン!)といった伝説的バンドのデビュー時と比べられることも多い、アイルランド出身の4人組、ザ・ストライプス。その名は昨年あたりから破格の話題性とともに日本にも届いていた。
平均年齢16歳という驚異的な若さ、エルトン・ジョンの事務所がマネジメント契約を結び、ポール・ウェラー、デイヴ・グロール、ノエル・ギャラガーらも注目している……などなど、煽り文句には事欠かない。「次世代のスター」を欲してやまない音楽業界の思惑も、正直感じないではなかった。
だが彼らの音楽性は、手放しでポップと言い切れるほど軽くはない。1950~60年代のリズム&ブルースを基調とした、どちらかといえば渋いロックンロールだ。それがここまでの熱狂を生む理由は、やはりステージを観てみないとわからなかった。
観客は、半々、あるいは6:4くらいの割合で男性のほうが多いようだ。しかもストライプスと同世代の若者というよりも、意外に年長の中年男性が目立つ。年季の入ったロックファン、ブルースファンという佇まい。皆、気になっているのだ、この若いバンドが本物のリズム&ブルースを聴かせてくれるのかどうか。
開演前の場内には、カントリー、ガレージ、ブルースといったナンバーがBGMとして流れ、ステージの背面に掲げられたバンド名の大きなロゴを青白いライトが照らしている。手前には3点セットのドラムス、ギターアンプとベースアンプ。それだけのシンプルな構えの中に、定刻を少し過ぎて、スーツ姿の4人が現れた。
スーツといっても4人それぞれに着こなしが違う。ギターのジョシュ・マクローリーは白いシャツに紺の水玉のタイを締めて、シャギーがかったマッシュルームカット。長めの天然パーマを揺らせているベース、ピート・オハンロンはノータイ。ふわふわのカーリーヘアーのドラムス、エヴァン・ウォルシュは装飾性の高いドレスシャツに襟の大きなジャケットを合わせたロカビリースタイル。そしてボーカルのロス・ファレリーはワインレッドに白のドットが入ったシャツを着込み、トレードマークのレイバンのサングラス。
ビートルズでいえば、嫌がるメンバーにブライアン・エプスタインがお揃いのスーツとおかっぱ頭をあてがった時期をとうに過ぎ、すでに自分に合った着こなしをそれぞれが始めている印象。
スタイルと同様、出す音にも充分に個性がみなぎっていた。1曲目は、バンドの名刺がわりともいえるナンバー「Mystery Man」でスタート。ジョシュはグレッチを、イマジネーション豊かな演奏で弾きまくる。ピートもテレキャスターのボディを改造したとおぼしきユニークな愛器で、音数の滅法多いベースプレイを繰り広げる。ドラムのエヴァンはキース・ムーンばりの手数…とは違って、正確でタイトなビートを叩き出す。ボーカルのロスが細い体躯から絞り出す、想像以上に野太い声にも驚かされる。
2曲目の「She's So Fine」から、ロスは達者なブルースハープも披露。3曲目には早くもカバー曲……キンクスやドクター・フィールグッドでお馴染みの「I'm A Hog For You Baby」を繰り出してくるが、前後のオリジナル曲と全く遜色のないシームレスな挟み込み方。それはキャッチーなギターリフで始まるボ・ディドリーの「I Can Tell」でも同様だ。
6曲目のスローブルース「Angel Eyes」ではタメの効いた演奏と歌唱も披露。そのあとに続けて、ニューオリンズ・リズム&ブルースの快作(怪作?)、ジェシー・ヒルの「Ooh Poo Pah Doo」をぶつけてくるあたり、センスある。
ストーンズも演っていたブギウギ・チューン「Down The Road Apiece」は速度を上げて突っ走り、キャンドヒートの「Going Up The Country」はオリジナルのピースな雰囲気をワイルドな匂いに変えてしまう。"カバー巧者"などという次元を超えて、まるで呼吸するかのように、リズム&ブルースの名曲たちを次々と現代に召喚してみせる。その情熱と手腕の冴えは神業というか、十字路で魂を交換した悪魔の仕業というか……。
その「Going Up The Country」では、ベースを置いたピートがブルースハープを吹きまくり、つづく「Got Love If You Want It」では、そのままハープを手にセンターへ。そしてボーカルのロスがギターを、ギターのジョジュがベースを弾くというパートチェンジの一幕も。飽きさせないステージ運びは、やはり年に似合わない経験の豊富さを感じさせる。
白眉のひとつは、後半、ヤードバーズのバージョンで有名なシカゴブルース「I Wish You Would」だった。歌を叫ぶ(というかガナる)のとハープを交互にこなすロス、淡々とリフでバッキングをしているジョシュ。そこへエヴァンがフィルインをドカスカと叩き出し割り込んでくると、それを合図に間奏へ突入。ドラムにギター、やがてベースが加わり、ロスのハープが戻ってくると、のぼりつめるように4人のプレイが高揚を極める。曲はいつのまにか、ブルースの古典「C.C. Rider」に変わっているという鮮やかさ。
もうひとつの見せ場は本篇のエンディング。ストライプスはその演奏技術をアイルランドのパブ巡業で鍛えたというが、40年前、同じくそういったパブロック・シーンから登場した大先輩ニック・ロウのカバー「Heart Of The City」から、マディ・ウォーターズの「Rollin' & Tumblin'」へという流れ。
どちらも1stアルバムの後半に収められている重要曲だが、特に「Rollin' & Tumblin'」は彼らのライブパフォーマンスに欠かせない曲となっているようだ。ステージの前に出てきてひざまずいたジョシュがジミ・ヘンドリックスばりのギタープレイをみせるなど、破壊力抜群だった。
アンコールでは、チャック・ベリーの「Little Queenie」とスタンダード「Route 66」(セットリストには「Route 666」と記されていたが)でとどめを刺し、去って行った四人。怒濤の22曲、75分間の密度の濃いステージを堪能させてくれた。
最後に、蛇足ながら、いくつか感じたことを付記しておきたい。
ひとつは、カバーというものの捉え方について。
いまだに日本では、「みんなが知っている曲」をやってみました、「お馴染みのあの曲」を集めてみましたというコンピレーション企画が多い。しかしストライプスのような咀嚼力とアイデアに満ちたバンドをみていると、過去から引き継がれてきた曲を、そういった「既知/未知」といった分類で仕分けすることの無意味さを感じざるを得ない。
もうひとつは、ロック・ミュージックにおける「自己表現」というものを、ここらで一度見直したほうがいいのではないかということ。
日本のロック/ポップスの世界には、いつの頃からか(70年代のニューミュージック・ブーム以降?)妙なオリジナル信仰がまかりとおるようになった。自作した楽曲であればそれだけでずいぶんと高い価値をつける傾向が強まって久しい。
だが考えてみてほしい。その行き着く先が、近頃とみに目につく、「自分のことしか語らない歌詞」と「他の曲を参考にしない曲づくり」ではないか。悩むのが好きな若年層がそういう表現に捉えられる心理は分からないでもないが、そろそろ「解放」に舵を切るときが来たように思う。
自分に憑かれてしまったときは辛気臭い自己言及ロックが必要なこともある。けれど、いつかそういう自分にも疲れたなら、ザ・ストライプスを聴いたほうがいい。
ザ・ストライプスは、「自分」よりも好きなものを見つけたのだ。「自分より大事なもの」に夢中だから、あんなに迷いがなく、爽快で、格好いいのだ。心と身体を同時に踊らせるロックンロール、リズム&ブルースが教えてくれるものは、思いのほか多い。
Photo:Mitch Ikeda
Text:大内幹男
◎イベント概要
2013年10月16日(水)@ 梅田クラブクアトロ
The STRYPES JAPN TOUR 2013
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