2013/09/25
定刻を数分すぎて照明が落とされ、古いジャズが流れるなか、GRAPEVINEの面々がステージに上がっていく。客席に、一粒一粒が鮮明な、こまかな泡粒のような拍手が広がっていく。ボーカル・ギターの田中和将が手にしているのはメタリックな光沢を反射しているブルーのテレキャスター。ギター西川は黒のレスポールだ。
端正なピアノが聞こえてきて、始まった1曲目は「真昼の子供たち」。3年近く前に発表されたときも驚いた、彼らには珍しい向日性のナンバーだ。2曲目は、亀井亨のドラムスから入り、西川のアルペジオがからんだところへ田中が鉈でも振るうかのようにストロークを打ち込む「Glare」。青色の幻想的な照明が似合う、深みとスケールを伴ったヘビーな曲。陽と陰の両極が際立つライブになる予感がする。
「改めましてグレイプバイン、1年ぶりのNHKホール」と田中が短い挨拶。「ほな、行くで」と次の曲をうながす。
ギターリフ、歌い出し、ドラムが叩き出すリズム、すべてが何かに追われているような切迫感を告げる曲「シスター」から、さらに次の「スレドニ・ヴァシュター」へと、がんじがらめに縛られた者が必死にもがいているような感覚が漂う。スコットランドの作家・サキ(ブラックな味わいの短編の名手)の同名小説を想起すれば、閉塞を打ち破ろうとする印象が増幅するかもしれない。ここでも田中がザクザクと刻むストロークと西川の流麗なリードの絡みが堪能できる。
ハードで、漆黒ともいうべきナンバーがつづいたが、「じゃあ、本日、大阪に捧げる--ディス・タウン」という田中の短い一言とその曲「This town」で、やや陽性なムードに転じる。ここで少し長めのMC。前日、近畿地方で猛威をふるった台風18号が去り、一転してさわやかな陽気となったことについて語る。「大阪を離れてからわかったけど、(夏場に)新大阪(駅)に降りると、ムワーっとした熱気がくる。それが今日はなかった」かつての地元の街を語るにしても、ごく普通で、淡々としている。「(今回は)15周年とかそういうのないから。16周年記念ライブ」と笑いを誘うが、これも気負いとは無縁だ。去年のデビュー15周年はそれなりにそういう心持ちを持っていたのかもしれないが。
ここからは、ミディアムテンポの楽曲がつづいた。ニューアルバム『愚かな者の語ること』から「コヨーテ」のあとは、「なつかしいの、やります」と一言あって、キーボード高野勲がピアニカで前奏を奏でると場内がどよめく。2000年のアルバム『Here』に入っていた「ポートレート」。たしかにずいぶんとかわいらしい曲である。田中のギターも、エピフォン・カジノに変わっている。
そして、このあと、ピアノのイントロが力強い「Afterwards」をはさんでからの中盤の4曲に、個人的には聴き入ってしまった。繰り返される鍵盤のミニマムなフレーズと、削ぎ落とされたシンプルな歌詞、ミラーボールの輝きが飛翔感を与えてくれる「Sing」。コントラバスに持ち替えた金戸覚が、ツェッペリンの「Heartbreaker」ばりのベースラインから始める「411」。'80年代のUKロック的を思わせるタッチの、それもスタジオテイクよりもエレクトロ色を増してプレイされた「Neo Burlesque」。そして、風の吹く効果音が流れるなか、アカペラ風に歌い出されたのが「なしくずしの愛」。人生への嫌悪と毒に満ちた語り口で著名なフランスの作家セリーヌを思わせるキーワードが出てくる曲。ここまでが、ひとつの組曲のようだった。高野のフリーキーなタッチのピアノプレイも絶妙である。
一瞬の間をおいて披露されたのは、「なしくずしの愛」と同じくニューアルバムの顔のひとつといえる先行シングル「1977」。歌詞中にも「映画みたいだ」という一節が出てくるが、視覚に訴える曲である。
少しリラックスした様子で田中が語る。「一応、今年、結成20周年らしいですよ。……べつにおめでとうと言ってもらいたいわけじゃないんですけど」。やや催促めかした、おどけた言い方に場内から拍手が湧き起こる。歓声を受けて、「まだまだつづきます!」と力強く言い切ったのは、この日のライブのことだったか、バンドのことだったか。
後半のスタートは「Darlin' from hell」。うねるギターが中東っぽい旋律を奏で、シンセドラムも鳴って、リズムも軽快という楽曲だが、モチーフとなっているのは、半生を塔に幽閉されて没したドイツの詩人、フリードリヒ・ヘルダーリン。三島由紀夫も好んだというこの詩人の、ロマンへの渇望と神学校的な禁欲主義とに引き裂かれた世界を、こんな風に音像化するところにセンスを感じる。
そこからはライブの定番ともいえるハイな曲の連射。「ミスフライハイ」「MISOGI」とドライヴィングチューンをつづけたあと、新作『愚かな者の語ること』からカントリータッチのエレピとスライドギターが光る「片側一車線の夢」でレイドバックしたムードに。本篇最後は、同じくニューアルバムの1曲目であり、やはり顔となっている曲「無心の歌」で飾った。
しばしのち、アンコールに応えてふたたびステージに現れた田中が「じゃ、皆さんに愛をこめて」と歌ったのは「うわばみ」。つづく「君を待つ間」では、身体を揺らす女性の姿が客席に目立った。初期を代表する一曲である。そうか、この曲から15年経ったのかと、さすがに歴史を感じる。不穏な効果音と一定の間隔で単音を叩きつづけるピアノのイントロに、ビートルズの「Helter Skelter」ばりのハードなギター&シャウトが炸裂する「豚の皿」を放ち、残響をループさせてエンディングを迎えた。
……かと思いきや、もう一度登場。ブルースハープが効いてるフォークロック・ナンバー。歌い終えた田中が「いまの曲、知ってた?」と言い残したその曲は、15年前のミニアルバム『覚醒』に入っていたナンバー「手のひらの上」だった。かっきり2時間、大仰に構えるのでなく、バンドの現在と過去を、陰と陽を、往復しながら聴かせる誠実なステージだったと思う。
Text:大内幹男
◎公演情報
2013年9月17日(火) NHK大阪ホール
GRAPEVINE
◎GRAPEVINE オフィシャルサイト
http://www.grapevineonline.jp/
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