2013/09/04
気鋭のジャズ・ピアニスト、ハクエイ・キムの3枚目のアルバム「ボーダレス・アワー」を引っ提げての、ビルボードライブ公演の大阪場所。メンバーは同アルバムと同じく、ベースに杉本智和、ドラムに大槻“KALTA”英宣の、ハクエイ・キム自身のトリオ「トライソニーク」。
今回のアルバムで特筆すべきは神奈川工科大学の研究チームが開発した新型の鍵盤楽器=ネオヴィコード。アルバム中でも多用されているのだが、ここでもその真価が発揮される時がやってきた。
一曲目は「ボーダレス・アワー」から、流れるようなピアノの旋律から始まる「Mesopotamia」。ネオヴィコードとピアノを操り、エキセントリックな旋律を生み出すこの曲は、彼曰く、文明の始まりと終わりを表しているという。ネオヴィコードは、鍵盤楽器というより、弦楽器のような調べで、時にはエレキ・ギターのようで、時にはアコースティック・ギターのようで、また時には胡弓のようで…、アンバランスさの中に奥深さが垣間見られ、トリオの演奏に不可思議な要素をプラスする。
演奏者は3人しかいないのに、ハクエイの操作するシーケンサーの効果もあってか、メンバーが4人、5人と錯覚に陥ってしまいそうになる瞬間が多々ある。それほど、楽曲が巧みに構成、形成されているということに感心させられてしまう。メンバーもそれぞれ様々な楽器を駆使し、ポップで飛び跳ねていると思いきや、アンダーグラウンドでジャジーになったり、安定さの中に不安定さがあったりと、エレクトロなのにどこか人間味のあるサウンドがそこにはある。
「古代のコンピューター(Antikythera Mechanism)」と題された楽曲は物憂げで、長い長い年月、地の底で眠っていた太古の存在のようである。いつ朽ち果て、土に還るかもしれない存在がようやく光を浴びたのもつかの間、常識という壁が彼を拒み、彼が何者かを知らしめないようにしている。だがその壁はやはり誰かに壊され、そこにある理解こそ、彼が求めていた光のようにスポットライトが当たり、また彼はいつ終わるとも知らない時間旅行に出かける。そうして、旋律は風にも似た音を混ぜながら、見るもののイマジネーションを掻き立てていく。
今回のライブは彼(ら)にとっても冒険的かつ実験的な要素を多く含んでいるように感じられ、しかも観客を引き込む引力のようなモノが、この実験室にはあった。それはここにいる観客が音を聴いて楽しむというより、この実験に参加しどういう結果が出るのか、わくわくしながら結果を待っているようにも感じられる。それぞれの実験結果は違えどそれぞれが個々に感じることで昇華される、一夜限りの実験ライブを堪能した、そんな空間がそこにはあった。
◎ライブ情報
8月30日(金)
ビルボードライブ大阪
9月13日(金)
ビルボードライブ東京
More Info:http://www.billboard-live.com/
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