2025/02/19 18:00
ポーター・ロビンソンのワールドツアー【Porter Robinson SMILE! :D World Tour】の日本公演が、2025年2月10日の東京ガーデンシアターから始まり、11日に大阪・なんばHatch、12日に愛知・DIAMOND HALL、そして14日に福岡・UNITEDLABで開催された。
8月にリリースしたアルバム『Smile! :D』を携えたワールドツアーの一環として実現した、ポーター・ロビンソンの約2年ぶりの来日公演。今回は初めてとなるバンドセットでの来日ということで、ファンにとってはまさに待望のツアーとなったが、その期待をさらに高めることになったのが、全4公演のうち東京と大阪の2公演にGalileo Galileiがゲストアクトとして出演するというニュースだった。ポーターはかねてからGalileo Galileiの大ファンであることを公言しており、彼らが6年間の休止期間を経て活動を再開した2023年の来日時には両者によるスタジオセッションも実現。そこでポーターも参加する形で演奏されたGalileo Galileiの名曲「サークルゲーム」は同年8月に「サークルゲーム (ANOHANA Ver.)」として配信リリースされた。
そして今回、ついに両者の共演が実現。アルバムリリースに際して本サイトで掲載されたポーターとGalileo Galileiの4人での座談で、ポーターはこんなふうに語っていた。
「10年前の自分、つまり、Galileo Galileiのライブを観るためなら何を投げ出してもいいと思っていた自分にとっては夢のようなことです。純粋にファンとして、生でGalileo Galileiのライブを体験できることが待ちきれません。いつの日か一緒にステージに立って曲を演奏できたらいいなと思っていたので、本当に夢のようです。」
『Smile! :D』という、自らの殻を破るようなアルバムを作り上げたタイミングで現実となった、憧れのバンドとのライブ。その1日目となった東京ガーデンシアターのステージにはポーターとGalileo Galilei、お互いのリスペクトと愛が溢れ、その幸福なムードのなか、ポーターは自らのキャリアを総括するようなすばらしいパフォーマンスを披露した。いかにその一夜の模様をレポートする。
開演時刻、まずステージに登場したのはゲストのGalileo Galileiだった。ボン・イヴェールの「Salem」をバックに登場した尾崎雄貴(Vo/Gt)、岩井郁人(Gt)、尾崎和樹(Dr)、岡崎真輝(Ba)の4人とサポートメンバーの大久保淳也(Sax/Key)。1曲目「死んでくれ」からパワフルなバンドサウンドが鳴り響く。リラックスした笑みを浮かべる雄貴はハンドマイクで体を揺らしながら気持ちよさそうに歌っている。「日本のみなさん、Galileo Galileiです。今日はよろしくお願いします」。そう挨拶すると、「SPIN!」のダンスビートが鮮やかに広がった。この「SPIN!」はGalileo Galileiがポーター・ロビンソンの音楽にインスパイアされて作った楽曲。カラフルなライトがステージを照らし出すなか、アッパーなサウンドに込められたポーターへの思いが、フロアを軽やかに揺らしていった。
肉体的なグルーヴが会場に気持ちのいい一体感を生み出した「あそぼ」を経て、ここで投下されたのが彼らにとって最初の名刺となった、そしてもちろんポーターにとっても大事な意味をもつ1曲「青い栞」だった。いつになっても色褪せることのない瑞々しいサウンドとメロディ。ポーターとGalileo Galileiのつながりが、特別な空間を作り上げていく。「まずはポーターくんに深い愛と感謝を」。「青い栞」を終えた雄貴がそう口にし、「ポーターくんと一緒に作った曲を」と次の曲へ。そうして演奏されるのはもちろん両者の共同作業によって生まれた新バージョンの「サークルゲーム」である。ステージ上にポーターはいないが(きっとどこかで彼らのライブを食い入るように観ていたはず)、スピーカーから鳴り響く音には彼の存在がはっきりと感じられる。筆者はこの曲が生まれる現場に立ち会っていたが、ポーターはあのセッションのためにトラックをいちから作り、スタジオでも次々とアイデアを出していた。この「サークルゲーム」は彼からGalileo Galileiへのラブレターであり、それを受け止めてこの日紡がれたGalileo Galileiの新たな音像は、バンドからポーターへの返答だった。その後も曲を重ね、雄貴の「ポーターくん、大好きです、ありがとう!」という叫びとともに最後の曲「星を落とす」を披露すると、Galileo Galileiのステージは終了。バトンはポーターへと引き継がれた。
そして転換を経て、いよいよポーターのライブだ。ステージ上には巨大な猫のバルーンが置かれ、その横にバンドメンバーが並ぶ。そして聞こえてきたのはアルバムタイトルにちなんだナット・キング・コールの「Smile」(余談だが、この曲はもともとチャールズ・チャップリンが映画『モダン・タイムス』のために作ったものだ)。その歌詞の“Smile”の部分だけがループし、「Knock Yourself Out XD」のイントロへとつながっていく。そしてステージ袖からポーターが飛び出してきた。たちまち場内に巻き起こるシンガロング。ポーターは手を振ってフロアを巻き込み、いきなり最高のユニティを生み出していく。のっけから大量の紙吹雪が宙を舞い、ショーはいきなりフィナーレのようだ。
今回のツアーは『Smile! :D』を携えてのものではあるが、組まれたセットリストは前述したように彼のキャリアをすべて網羅するもの。ライブは全3部に分かれていて、順番に『Smile! :D』のセクション、2ndアルバム『Nurture』のセクション、そしてデビューアルバム『Worlds』のセクションと展開していく。その最初のセクションでは、もちろん最新作からの楽曲が次々と披露されていく。「Perfect Pinterest Garden」を経て聞こえてきた「Kitsune Maison Freestyle」ではポーターがアコースティック・ギターを弾いて歌う。曲のブレイクで自身の思いを伝え「みんな、歌って!」と日本語で呼びかけると会場中で大合唱が湧き起こった。ここまで3曲を終えて、再び日本語で「正直今、緊張しています。東京、最高だから」(「ごめんなさい、日本語ちょっと下手です」と言っていたが、むしろめちゃくちゃ上手い)と挨拶すると、「Mona Lisa」でパフォーマンスに戻っていく。ベースを弾くバンドメンバーのマーゴットのヴォーカルに歓声が起きたフロアの熱狂にさらに拍車をかけるのが、曲中に投入された巨大なボール(アルバムのアートワークのあの顔の形!)。ライブはまだ序盤だが、ポーターのサービス精神とオーディエンスへの深い愛情がいたるところに散りばめられている。
そして「Galileo Galileiにインスパイアされた曲」として、ここで披露されたのが「Easier to Love You」。ステージ後方のスクリーンには、ストップモーション・アニメーターの村田朋泰が手がけたミュージック・ビデオが流れる。村田はGalileo Galilei「サークルゲーム」のMVの監督でもあり、そのビデオに深く感銘を受けたポーターが彼にオファーを出し、このコラボが実現したのだそうだ。「ケータイの光、お願いします」というポーターの言葉に応えて、客席では美しい光が揺れる。その光景はポーター・ロビンソンというアーティストと日本のつながりを象徴するようで、とても感動的だった。
冒頭からシンガロングが広がった「Is There Really No Happiness Without this Feeling?」に続いてハート型の紙吹雪が降ってくるなか演奏された「Russian Roulette」で『Smile! :D』のセクションは終了。そしてライブは『Nurture』セクションに入っていく。先ほどはギターを弾いていたポーターだが、ここではキーボードをプレイ。「Wind Tempos」から「Musician」に突入すると、場内に一面のジャンプが広がる。もちろんポーターもハイテンションに跳ね回っている。「みなさん、お待たせしました! 大好きだよ!」と「Something Comforting」へ。歌詞の〈Someone tell me〉を〈Tokyo tell me〉と言い換えて耳に手を当てるポーター。もちろんオーディエンスは歌いっぱなしだ。さらに日本のロックへのリスペクトが迸るロックバージョンの「Get Your Wish」を届け、ゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』のキャラクター・ティーモの帽子を被って「Everything Goes On」を披露すると、改めて今回が初のバンドセットでの来日であることに触れ、J-ROCKから多大な影響を受けたことを語るポーター。MVにしろ、サウンドにしろ、彼が日本のカルチャーを深く愛していることはその表現から伝わってくるが、こうして改めて言葉にしてもらうとやはり嬉しいし誇らしい。
「Look at the Sky」で『Nurture』セクションは終了、なのだが、ここでポーターがキーボードで弾き語りを始める。歌い出したのは先ほどGalileo Galileiが演奏した「青い栞」だ。さわりを歌ったところで「ちょっと間違えた」とポーター。そして「ユウキくん、ちょっと助けて」と舞台袖に向かって呼びかけると、尾崎雄貴が姿を現した。ポーターの伴奏で雄貴が歌う「青い栞」。その後もライブは続いていったが、間違いなくこのシーンはこの日のハイライトだった。演奏を終えたポーターは「緊張した、ヤバい」と言いながら嬉しそう。彼にとってひとつの夢が叶った瞬間は、会場のオーディエンスにとっても幸せな体験だった。
そしてライブは最後のセクション、すなわちデビュー作である『Worlds』のパートへと移っていく。先ほどまでステージに鎮座していた猫はいなくなり、代わりに丸いライトがぐるりと囲んだブースがステージに登場する。このライトはシンセパッドのように叩くと光って音が鳴るようになっているのだ。「Sea Of Voices」をイントロに、「Divinity」に「Fresh Static Snow」とちょっと懐かしいナンバーが次々と披露されていく。最初はトラブルでうまく音が鳴らなかった例の丸いライトも無事復活、スティックで叩きながらポーターも笑顔だ。この頃のポーターの楽曲は女性ヴォーカルをフィーチャーしたものが多いだけに、マーゴットも大活躍。バンドセットで生まれ変わった『Worlds』の曲たちに新たな命を吹き込んでいた。クライマックスは「Goodbye To A World」から「Sad Machine」への流れ。〈She depends on you〉の大合唱が会場にこだまし、「トーキョー、サンキュー・ソー・マッチ!」というポーターの叫びとともにライブはいったん終了した。
アンコールではMVに登場した女の子のキャラクターもスクリーンに登場しての「Shelter」で一大パーティ空間を生み出し、記念撮影を経て「Cheerleader」へ。またしても大量の紙吹雪が舞う中、背中にMV同様に悪魔の羽根を着けてギターをかき鳴らすポーターの姿に大歓声が飛んだ。「東京、最高! 大好き!」。最後まで日本へのリスペクトをダダ漏れにしながらステージを終えたポーター。彼にとってもファンにとっても、そしてもちろんGalileo Galileiのメンバーにとっても忘れられない夜となったライブはこうして幕を閉じたのだった。
Text by 小川智宏
Photos by SHUN ITABA
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