2013/08/26 16:57
大阪は難波千日前にある由緒正しき元キャバレー、味園ユニバースが今回の会場。パイプ椅子が並べられたフロアの中央をU字型に囲むように40ほどのボックスシートが配されている様子は圧巻。とはいえ非常にリラックスした様子で、靴を脱いでソファーに上がり、足を伸ばしているお女性客もチラホラ。天井からは太陽系の惑星群を模した10個の大きな球体が吊り下げられている。
定刻を15分ほどすぎて、味園ユニバースの昔のテレビCMの音声(「大阪千日前の夜はユニバースから開く」で始まる、関西人にはお馴染みのコマーシャル。「美女の熱烈接待で今宵の歓楽も明日への活力。活力」と「活力」を二度繰り返すところで笑いが洩れていた)がSEとして流れ、妖しげな雰囲気に包まれるなか、メンバーが登場した。
ミトの物憂げな音色のギターから始まった1曲目は「何も言わないで」。5月に出たカバーアルバム『LOVER ALBUM 2』に収められている曲で、現在はジャズクラブを経営しているミトのご両親が70年代に組んでいたデュオ、《カコとカツミ》がレパートリーとしていた曲だ。「親父のパートを歌うのは小っ恥ずかしいものがあります!」と激しく照れながらも「この場所がそうさせた」と語るミト。すかさず「このムードがね」と原田郁子。ゆかりの方のカバーとはいえ、ムード歌謡から始まったのは、まさにこの会場ゆえのことだろう。
バンドがライブをやることはまずないような会場が多くを占めている今回の《ドコガイイデスカツアー2013》は、2011年に続いてのもの。だが、その源流は遠く10年以上前にさかのぼる。「音楽がキレイに鳴るというある特別な状態をつくってしまっている」場所の存在に、クラムボンの3人が最初に気づいたのは日比谷野音だったという。その後、2006年の博多百年蔵(いまも酒造りをしている現役の酒蔵)でのライブを経て、「予想を超えた音が鳴る、ライブハウスではない場所」に目覚めてしまった彼らは、全国のイベンターと一緒にそんな場所を探し求めるようになる。音響機材と機材車も独自で買い揃え、これだけあればスタッフ一同、全国どこへでも行き、どこででも演奏できるようになっていた。そこで、行く先々でこう訊ねるようになる。「来年もまたツアーするよ」「いい会場あったら教えて」「どこがいいですか?」と(このツアー名もそこから来ている)。ここ、味園ユニバースも、そうやって巡りあった場所なのだ。
この日のステージに戻ろう。激しいラテンジャズ・アレンジに変貌した中森明菜の「DESIRE—情熱—」のカバー。そして「はなればなれ」。ようやく普段のクラムボンの顔を見せた郁子が、やや高揚した声で「ボックス席、すごい。ロウソクとか置いときたい」「ブランデー以外飲んじゃダメ。で、ずっといちゃいちゃしといてください」と話すと、「両袖にウサギさんみたいな女の子を立たせときたい」とミト。激しくうなずくドラムスの伊藤大助。
ライブ中盤は前述のカバー盤からのセレクトで「呼び声」「幸せ願う彼方から」「GOLDWRAP」。人気曲「雲ゆき」「ナイトクルージング」に加えて、レアなナンバーも聴かせてくれた。ツアーでやるのは初めてだという「ミラーボール」。元キャバレーという会場の雰囲気に合わせてのチョイスだったのだろう。なのに場内に3つあるミラーボールは「どれも正常に機能しないのだ」と明かすミト。ここに来てから知ったらしい。そんなわけで場内一同失笑&苦笑いといった雰囲気のなかで演奏されたこの曲は、しかし実に素晴らしかった。厚い音を何度も塗り重ねるように繰り返し、高まっていく後奏が特に。こういう風に「場所に呼ばれた選曲」が聴けるのもこのツアーの美質のひとつだろう。
本篇終盤を「バイタルサイン」「サラウンド」「シカゴ」「KANADE DANCE」とライブ定番の曲で盛り上げたあと、アンコールでは空気が一転。笑いと喝采が巻き起こった。ミトが「ひさびさに披露する曲を」と叫び、同期音(つまりカラオケ)をスタートさせると、流れてきたのは「Bass, Bass, Bass」。6年前のアルバム『Musical』の中でもとりわけ異彩を放っていた、ミトが全篇英語詞でボーカルを取るファンクチューンだ。70年代風のギラギラとしたサングラスを装着すると華麗なステップで客席へ降りていくミト。見れば郁子も、客席後方のPA席に現れ、同じく時代物のサングラスをかけて踊っている。まさか、とステージを振り返れば大助までもがカウベル片手にグラサン姿。まばゆいばかりにライトアップされ、あの時代のディスコ、ダンスホールへと一気に変貌を遂げるキャバレー・ユニバース。これもやはり「場に呼ばれた曲」だった。
大騒ぎしたあとはグッと抑えめに、Small Circle of Friendsの「波よせて」のカバー。「ウェイバー ウェイバー」と観客も一緒になって繰り返されるコーラスパートと入れ替わるように、ミトのトーキングスタイルのボーカルが孤独な少年の姿を描き出す。珠玉のチルアウト・ブレイクだった。
最後の曲を前に、「こういう新しい場所と出会えるってのはたまんないね」と充実した表情で切り出すミト。「これならもっと出し物を……」「バニーガールが汗を拭きに来てくれて……」「半分くらいカラオケに……」ミトと大助の止まらない妄想を受け流して郁子がやんわり「……だとしても、来てね♥」とシメてみせる。
アコースティックギターを抱えたミトの、力強いストロークから始まったラスト曲は「Re-Folklore」だった。
新聞記事など、伝達を旨とする文章に必要だといわれる要素に「5W1H」というのがある。Who, What, When, Where, Why, Howというやつだ。これを日本の音楽産業に当てはめるなら、これまでは「誰が」「何を」「いつ」やっているかに多くの比重が置かれてきたように思う。つまり、「どのアーティストが」「どの曲を」「いかに時代に合ったタイミングで」やっているかばかりに目が行っていたのではないかと思うのである。
クラムボンはそこに、「どこで」を持ち込んだ。どこでやるかが、曲を選び、どうやるかを決めることに繋がる。「場所」はそれほど大事なものなのだ。57年の歴史を持つ元キャバレーという空間で、強くそう感じた。次はどこで彼らに会えるのだろう。できれば味園ユニバースでも3年に1度くらいはやってほしいなと思いつつ。
◎ライブ情報
2013年8月17日(土)@味園ユニバース
クラムボン オフィシャルサイト
http://www.clammbon.com/
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