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2024/12/28 19:00

<ライブレポート>Ado【モナ・リザの横顔】が終幕、「自分を好きになるための旅」の途中で見せた覚悟

 Adoが2024年7月の大阪・大阪城ホール公演を皮切りに、約3か月にわたって開催した【モナ・リザの横顔】が、10月13日の神奈川・Kアリーナ横浜公演で大団円を迎えた。

全公演のオープニングアクトを務めたのは、Adoがプロデュースするレトロホラーをコンセプトとしたアイドルグループ・ファントムシータ。そのユニークな演出も強烈なインパクトを突きつけていた。

 特に今年は全14公演で7万人以上動員した初の世界ツアー【Wish】、2日間で14万人以上を動員した東京・国立競技場の2Days【心臓】、そして【モナ・リザの横顔】と、Adoにとってものすごく活動的な1年になったことだろう。

 ボックスのなかでのパフォーマンスは周知の事実だが、非凡な歌声だけでなく、上品に、狂いながら、楽しそうに……感情の忙しない人間を表すダンスパフォーマンスもあってこそ、初めて“Ado”といえる。ステージ後方の大スクリーンに映し出されたオープニングムービーを経て、シームレスにステージ下からリフトアップされたボックス。もちろん、この日もそのなかにAdoが登場した。

 Adoの演奏中の叫びは、怒り、悲しみ、恐れ、嫌悪、哀れ、不満、嫉妬といった人間のありとあらゆる負の感情を色濃く内包した叫びだが、Adoの心の指針となる歌い手・まふまふが書き下ろした1曲目の「心という名の不可解」で解き放たれた叫びもまさにそういう思いが込められていたものだった。そこから「逆光」「唱」と連続で起こるハンドクラップは、多くの人のAdoへの期待の高さの証明だ。確実にスケールアップした歌声と豪快なバンドサウンドが、それにしっかりと応えているのをさっそく体感した。「ウタカタララバイ」のリリックが凝縮されたラップパートも難なく歌いこなし、むしろAdoは「まだまだ」と新たな挑戦を求めているようにも見える。ハンドマイクをフロアに向けての「リベリオン」、エフェクトのかかった歌声が響く「過学習」へ。

 ラブバラード「会いたくて」は、2021年8月に配信リリースされた映画『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナル』の挿入歌。当時は、まだワンマンライブの経験がなかったAdo。人生経験が人間性の奥行きを広げ、その口から出る言葉がうわべではない説得力を放つのと同様に、様々な感情の経験の先で確実に音の層が厚くなったと感じ取ることのできた歌声が、心に訴えるリアリティをもたらしていたと思う。ダンスで遊び心を解放した「フェイキングオブコメディ」からのリズミカルな「ハングリーニコル」では、チェアダンスとともに駆使するフェイクが曲にアクセントを与えていく。まるで予測不可能な人生のように、歌で新鮮な発見を常に届けるAdoは、正真正銘“生”そのもの。

 フォーカルポイントとなったのは、フロアをダイナミックに揺れ動かした「ルル」だった。イントロが鳴り響いた瞬間に沸き上がった歓声から、この楽曲への期待の高さが一瞬で伝わってきた。シルエット越しに表情までは確認できなかったが、ボックスのなかで椅子に腰を掛けたAdoは、意味もなく笑い、無の境地に達した人間を体現。髪を激しく振り乱し、足先にまで鬱憤を通わせた姿は全ての体力をここに捧げたと言っても過言ではないほど、最も激しいパフォーマンスだった。喉の奥から絞り出した声で、複数の人格を宿すさまは圧巻。最後には、椅子の上に立ち上がり、すぐ床に倒れ込む――もはや「歌」だけにとどまらない、圧倒的かつシアトリカルな演出に、瞬きすら忘れるほど釘付け。MCで「脇役Adoとして、自分の存在が誰かのためになれたら、きっと私は私のことを好きになれると思っています」そう語った通り、獰猛なバケモノに化したかのごとく圧倒的なボーカリゼーションで凡人には到底真似できないことを軽々とやってのけるAdoを目の当たりにしていると、自分が歌わずとも、心が浄化されていく感覚に満たされた。それを叶えるのがAdoの歌唱であり、他人が作った楽曲であっても実行するスキルの高さには脱帽する。

 ボックスが面積を横に広げて、移動できるエリアが増えた後半。シンガロング、クラップハンズで一体になった「アタシは問題作」「クラクラ」「ショコラカタブラ」で印象的だったのは、Adoの一つ一つの挑戦的な歌声に観客がフィーバーしていたこと。クラブミュージック寄りの「抜け空」「夜のピエロ(TeddyLoid Remix)」だけではなく、シティポップ「オールナイトレディオ」など、幅広いジャンルを完全に自分のものとして昇華していく手腕の引き立つ楽曲が次々と披露される。イントロが始まった瞬間の観客の反応からも、「ルル」と並ぶハイライトと確信したのが、2024年7月にリリースされた2ndアルバム『残夢』のラストを飾る「0」。地下に潜伏するムードを纏い、大衆にはまだ知られたくないと思わせる曲で、Adoの心情がこの2曲に強く表れている気がしてならなかった。

 アンコールでは、誰にも見せたことのない2つの顔を届けた。「Hello Signals」、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』のロックバンド「結束バンド」のオリジナル曲「あのバンド」「向日葵」。そして、17、18歳の頃に完成した曲に今少し手を加えた初の作詞作曲作品「初夏」を、13歳の頃に手にした自前のギターで弾き語った。

 「私が私自身を超え続けることは、私がいつか自分を愛せるようになるために、自分を好きになれるようになるために行っています」とAdoは口にする。そんな彼女が歩んできた「自分を好きになるための旅」のなかでは、表面上の解釈だけで判断されて、真意が伝わらないことに苦しんできたこともあった。その中で、Adoは自分の意思や本質、本当に言いたいことを見せつける覚悟に至ったという。そこでたどり着いたのが、世界で最も知られているモナ・リザの誰にも知られていない横顔になぞらえて、一度は諦めたギターと作詞作曲に挑戦し、誰にも見せたことのない“自分の音と言葉で自分自身を表現する”という考えだ。今もAdoは「(信じたこの旅は)間違っているだろうか?」と、心に問いかけながら戦い続けている。たとえ、環境が目まぐるしく変わってもAdoの根っこは変わっていなかった。その旅がこれからも続いてほしいと、願ってやまない。

 なお、Adoは12月27、28日に名古屋振替公演を名古屋市国際展示場(ポートメッセなごや)で開催。そこでは、公開中の映画『劇場版ドクターX FINAL』の主題歌「Episode X」が披露された。

Text by 小町碧音
Photo by Viola Kam (V’z Twinkle)


◎公演情報
【Ado JAPAN TOUR 2024『モナ・リザの横顔』】
2024年10月13日(日)
神奈川・Kアリーナ横浜
<セットリスト>
1. 心という名の不可解
2. 逆光
3. 唱
4. ウタカタララバイ
5. リベリオン
6. 過学習
7. 会いたくて
8. フェイキングオブコメディ
9. ハングリーニコル
10. MIRROR
11. ルル
12. アタシは問題作
13. クラクラ
14. ショコラカタブラ
15. 抜け空
16. 夜のピエロ(TeddyLoid Remix)
17. オールナイトレディオ
18. Value
19. 立ち入り禁止
20. 0
21. FREEDOM

ENCORE:
22. Hello Signals
23. あのバンド
24. 向日葵
25. 初夏

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