2024/06/07 18:00
ACIDMANが2024年第2弾となる新曲「白と黒」をリリースした。この楽曲は、ドラマ『ダブルチート 偽りの警官』の主題歌として書き下ろされ、現在開催中の全国ツアー【ゴールデンセットリスト】でも披露されているもの。向井理が演じる「警察官」と「詐欺師」という二つの顔を持つ主人公・多家良の葛藤や内面を掘り下げ、善と悪の境界が曖昧になるドラマの世界観を、歌詞とサウンドの両面から見事に表現した。
レコーディングにはSOIL&“PIMP”SESSIONSのタブゾンビ率いるブラスセクションが参加し、プログレッシブな展開とエッジの効いたサウンドスケープから、新たな挑戦を感じさせる仕上がりになっている。5年ぶりのワンマンを成功させた北海道公演を終えたばかりの大木伸夫(Vo. & Gt.)に、楽曲制作のエピソードに加え、初ワンマンの地・京都にて観客を魅了した初日公演など、ツアーの手応えについてもたっぷりと聞いた。
──現在ACIDMANは全国ツアーの真っ最中。まずその辺りから少しお聞かせいただきたいと思います。今回初の京都と、5年ぶりのワンマン公演となる北海道公演を終えましたが、その手応えはいかがでしたか?
大木:すごくありがたいですね。昔の曲から最近の曲まで、かなり幅広く演奏しているし、普段あまりライブではやらないレアな曲も披露しています。お客さんがすごく満足してくれているのを実感しています。
──【ゴールデンセットリスト】というツアータイトルの通り、今回は「金」をテーマにしたセットリストになっているそうですね。これまでのライブ用のセットリストとは少し違う雰囲気になっていますか?
大木:かなり違うと思います。もちろん定番曲もやりつつ、たとえば10年ぶり、15年ぶりに演奏する曲もあるので。
──しかも、ツアーのグッズは「ゴールド」の物が多く、今回は初めてペンライトも販売されていますね。
大木:そうなんですよ。ペンライトは物議を醸しました(笑)。僕は、いわゆる固定概念にとらわれたくないと常に思っていて、過去にはグッズで無地のTシャツを売ったこともありました。そんなバンドは世界中探しても僕らくらいじゃないかな(笑)。そういう遊び心が好きなんです。ペンライトも、たとえばアイドルのコンサートではよく見かけるしすごく綺麗なのに、ロックバンドではあまり見かけないじゃないですか。ライブハウスで振るのはちょっと危ないかもしれないけど、ホールならいいんじゃないかなと。
みんな最初はどう振っていいか分からない感じでしたが、それも含めてやって良かったと思っています。しかもペンライトは非常時にも使えるそうなので、ぜひ枕元に常備して停電に備えてほしいですね。
──また、今年2月26日にはTOKYO DOME CITY HALLにて「輝けるもの」発売記念ライブも開催されました。そちらの雰囲気はいかがでしたか?
大木:普段の僕らのライブとは、ひと味違う雰囲気のイベントになりました。たとえば会場で流した映像は、劇場版『ゴールデンカムイ』の久保茂昭監督が作品から再構築してくださったものでしたし、友人の玉木(宏)くんがサプライズゲストとして登場してくれて。
──イベントの時も話していらっしゃいましたが、玉木さんとは古いお付き合いなんですよね?
大木:はい。共通の友人を通して知り合い、よく集まっていました。出会ったばかりの頃は、まだ彼も駆け出しだったし、僕らもデビューしたばかり。あれから20年近くの時が経ち、以前ラジオに呼んでもらったことはありましたが、本格的に一緒に仕事をするのは今回が初めてです。しかもイベントで同じステージに立つのはなんだか感慨深かったですね。
──さて、新曲「白と黒」についてもお聞かせください。すでにツアーでも披露されているこの曲は、ドラマ『ダブルチート 偽りの警官Season1』の主題歌です。オファーがあった時はどんな心境でしたか?
大木:嬉しかったですね。以前、吉田恵輔監督の映画『犬猿』で、「空白の鳥」(11thアルバム『Λ』収録)という楽曲で主題歌を担当させていただいたことがありますが、それ以降はなかったので、ここ最近、『ゴールデンカムイ』も含め主題歌が続いているのは本当に光栄なことです。
──プロデューサーの木下真梨子さん(テレビ東京)がACIDMANの大ファンで、学生の頃に「赤橙」を聴きながら通学していたことを思い出し、「ドラマにぴったりだ」と思ってオファーしたそうですね。今、ドラマや映画などの制作現場の中核にいる人たちが、ACIDMANを聴いて育った世代になってきているということなのかなと。
大木:確かに。今までやってきたことが、確実に実を結んでいることを実感できて嬉しい限りです。最初の打ち合わせでは、僕らの曲の「FREE STAR」(6thアルバム『LIFE』収録)みたいなイメージを提案されました。ただ、台本を読んでいくうちに、もっとダーティーな楽曲のほうがドラマの雰囲気に合うんじゃないかと思ったんです。実は、僕が作りためていたストックの中に合いそうな曲があったので、それに歌詞をつけたデモ音源を、ドラマの監督も交えた会議で聴いていただいたところ、満場一致で「この曲がいい」とおっしゃっていただきました。
──主人公・多家良は、交番に勤めながら「詐欺師」という裏の顔を持っています。もともと警視庁に所属していた彼が、法律やシステムで裁けない悪事を超法規的に成敗していくわけですが、そういった行動について大木さんはどう思いましたか?
大木:まず、詐欺師が詐欺師を騙すという設定が面白かったです。物語が進んでいく中で、多家良の過去が少しずつ明らかになったり、彼の恋人が失踪したりする展開がとても気になります。彼がやっていることは「人助け」のように見えるけれど、実際には詐欺であり、法律に違反している行為。それでも見方や価値観が違えば、どちらが被害者で、どちらが加害者なのか分からない場合もあります。多角的に考えれば考えるほど、何が善で何が悪かを決めるのは難しい。
法律というのは、人類が作り上げたルールであり、そこに反すれば悪とされます。しかし、その境界を安易に決めるのは危険なことですし、常に曖昧にしておく必要があるのではないかと。例えば、「人を殺してはいけない」という絶対的なルールも、戦争では一人でも多くの敵を殺せばヒーローになるという悲しい矛盾が生じる。僕たちはそうした矛盾の中で生きているのであり、善悪を簡単にジャッジするのではなく、自分の頭で考えることが大事だということを、このドラマは教えてくれますね。
──ここ最近、SNSでも私刑やリンチに近いことがたびたび起きていて、正しいと思ってやっていることが暴走する危うさについて考えさせられることも多くなりました。
大木:善悪というのは誰かがジャッジした瞬間に危うくなるもので、「本当にそれが正しいのか?」と疑う心が必要です。このドラマも、決して詐欺師を応援する内容にはなっていません。後半になるにつれて、そのような側面が出てきます。だからこそ、いいドラマだと思いました。
──「白と黒」にもまさにそういうメッセージが込められていますし、タイトルもそれを表しています。歌詞はどのように作り込んでいきましたか?
大木:「綺麗事と思われてもそれでも歌い続けたい」という、僕の言いたいことやアイデンティティを全て詰め込みましたが、全体として「このドラマに捧げた」という思いが強いです。善と悪について悩み、葛藤する多家良の心情に寄り添った歌詞になったと思いますね。
前作「輝けるもの」の時も、映画『ゴールデンカムイ』の世界観に寄り添い、作品のために自分の楽曲を「捧げる」という行為がとても楽しかったんです。これまで僕は、バンドやファンのために曲を作っていましたが、今回はある作品を盛り上げるために「裏方」とまではいかないけれど、「作品の一部」としての役割を担った。それはとてもやりがいのある作業でした。
もしかしたら制作サイドは「そこまで寄り添わなくてもいい」と思っていたかもしれません。でも、せっかく自分がやるならちゃんと作品に寄り添いたいと思ったんです。
──ブラスセクションは、どの時点で入れようと思ったのでしょうか?
大木:この曲を書いた5、6年前から「ピアノかトランペットを入れたいな」とぼんやり考えていて、今回デモ制作を始めた段階ではタブ(ゾンビ)くんのことを明確にイメージしていました。彼とはプライベートでも仲が良く、オファーしたらすぐに快諾してくれましたね。
──後半のプログレッシブでフリーキーな展開はどのように思い浮かんだのですか?
大木:ドラマ自体が一筋縄では行かない話なので、レコーディングも普通にやったら面白くないなと。スタジオでギターを弾きながら「ジャズっぽい感じにしよう」と考えている時に、全てを壊したくなったんです。僕はもともとキング・クリムゾンが大好きで、いつかああいったプログレッシブなギターリフを自分の楽曲にも取り入れようと思っていました。裏切っていると思ったら裏切られたり、騙しているつもりが騙されていたりする、このドラマが持っているテンポの良さを楽曲にもうまく反映させられたと思いますね。
──エフェクティブかつエッジの効いたサウンドプロダクションも、この曲の魅力です。ミックスにもこだわりましたか?
大木:ブラスのリアルなテクスチャーを求めると少しイメージが違うのかなと。そこで同じフレーズを重ね録りしてもらったり、エンジニアの西川くんにディレイやリバーブなどのエフェクトを駆使して空気感を出してもらったりしながら、イメージ通りの音像に近づけていきました。ボーカルも、少しぶっきらぼうでクールな歌い方にしました。「この世界なんて滅んでしまえばいい」と思いながらも、捨てきれない何かを抱えて葛藤している。そんな主人公の心情をボーカルで表現しようと思いましたね。
──〈愛よりも大切なモノなんてないはずさ そんな綺麗事を歌い踊るのさ〉というフレーズが、その「捨てきれない」思いなのですね。
大木:はい。何が正しいかすら分からない世界で、愛だけは確かであり諦めてはいけないもの。どんなに綺麗事だと言われようと、その愛を失ったら終わってしまうような世界を、僕らも、そしてこのドラマの登場人物たちも生きているのだと思います。
──実際に「白と黒」がドラマの中で流れた時は、どう思いましたか?
大木:ドラマの制作サイドから、「(楽曲の中に)多家良の悲しさ、切なさを表すセクションを入れてほしい」と言われていたので、それを冒頭部分に入れました。実際、ドラマを見ていたらピッタリとハマっていたのですごく嬉しかったです。
ドラマもすごく面白くて、自分が主題歌を担当したことすら忘れて見入っていたら、急に曲が流れ始めて「あ、そうだ、これが主題歌だった」と、めちゃくちゃびっくりしました(笑)。毎回、少しずつ使われる部分が変わっているのも見ていて面白い。制作側が、この曲を本当に活かそうとしてくださっているのが伝わってくるし、「これこそがコラボだな」と感動しながら毎回どこでどう使われるのかを楽しみにしています。
──映画、ドラマと主題歌が続き、これからのACIDMANはどんな方向へ進んでいきたいと思いますか?
大木:仰るように、このところ大きなタイアップが続き知名度も上がってきている実感もあります。以前からファンでいてくれている人たちも、そういう僕らの状況を素直に喜んでくれていて、心からありがたいことだなと思っています。この先ももっと多くの人に聞いてもらえるように、とにかくいい曲を作り続けていきたいですね。
Text & Interview by 黒田隆憲
◎リリース情報
「白と黒」
2024/5/10 DIGITAL RELEASE
https://acidman.lnk.to/blackwhiteWE
◎公演情報
【This is ACIDMAN 2024】
2024年10月30日(水)神奈川・KT Zepp Yokohama
【ACIDMAN LIVE TOUR “ゴールデンセットリスト”】
2024年6月16日(日)石川・金沢市文化ホール
2024年6月28日(金)愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
2024年7月12日(金)宮城・トークネットホール仙台(仙台市民会館)
2024年7月19日(金)岡山・岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場
2024年8月11日(日)東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
2024年8月16日(金)福岡・ももちパレス
◎放送情報
テレビ東京開局60周年 ドラマ8
『テレビ東京×WOWOW共同製作連続ドラマ ダブルチート 偽りの警官 Season1』
毎週金曜20:00~20:54、テレビ東京、テレビ大阪、テレビ愛知、テレビせとうち、テレビ北海道、TVQ 九州放送で放送
主演:向井理
出演:内田理央、荒川良々、結木滉星、上川周作/松本若菜、橋本じゅん、梶原善、伊藤淳史
https://www.doublecheat.com/
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