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2024/05/08 18:00

<フジロック’24出演>レイ(RAYE)が語る、インディーズでの全英1位獲得&【BRITs】歴史的快挙への軌跡

 約3年前、レイ(RAYE)は自身のレーベルの状況について、「ベッドから出たくないし、孤独を感じている」とツイートした。2014年に契約したポリドールは、彼女のシングルが一定の商業的成功を収めない限り、楽曲のリリースを禁じていたのだ。そんな彼女は現地時間2024年3月2日、【ブリット・アワード2024】(BRITs)で7つのノミネートのうち6つを獲得し、それをすべてインディーズという立場で達成した。

 【ブリット・アワード】の翌日の月曜日、レイはGoogle Meetで米ビルボードとのインタビューに応じ、「2日間の二日酔いから回復中」だと明かした。この高く評価されたシンガー・ソングライターは、<最優秀新人賞>、<R&Bアクト賞>、<最優秀ソングライター賞>、<最優秀楽曲賞>(ラッパーの070シェイクをフィーチャーした「Escapism」)、<最優秀アーティスト賞>、<最優秀アルバム賞>(『My 21st Century Blues』)の6部門を受賞し、当然ながら週末を祝って過ごしていたのだろう。特に<最優秀アルバム賞>が一番意義深かったという彼女は、「子どものように号泣しました!」と述べた。

 レイを現在の世界的なポップスターの時代へと導いた音楽ディストリビューション会社、ヒューマン・リ・ソーセス(Human Re Sources)の創設者であるJ・アーヴィングが、彼女の後ろに置かれた巨大なテディベアの椅子の上でくつろいでいる。Google Meetのウィンドウとしてはなかなか絵になる光景だ。この巨大なテディベアは、ナイジェリア出身のDJ兼プロデューサーのDJカッピーからの贈り物で、ポリドールからの移籍後にレイに贈られた。彼女は、「(アルバムの)ボーカルとかを仕上げている時、私はそのテディベアの上にいたんです!」と明かす。

 そのアルバムとはもちろん、大胆不敵なソングライティングと大げさなボーカル・パフォーマンスが刺激的な力作である『My 21st Century Blues』だ。レイはビッグ・バンド・ジャズ、ブーンバップ、ゴスペル、ダンス、R&Bを含む広大なサウンド・パレットに乗せ、性的暴行のトラウマ、身体醜形障害、薬物乱用、信仰の旅、そして一般的な実存主義などと向き合っている。まさに万華鏡のようなこのアルバムは、レイがかつて所属していたレーベルから受けたメッセージ、そして彼女の特異な芸術的ヴィジョンを剥奪しようとした他のレーベルへの完全なアンチテーゼとなっている。

 2021年7月にポリドールと別れたレイは、ディストリビューションを中心とした音楽&エンターテインメント会社であるザ・オーチャードの子会社、ヒューマン・リ・ソースと契約した。そこから彼女は、“最も協力的で美しいチーム”と共に、デビュー・アルバムのためのキャンペーンを適切に展開し、【ブリット・アワード】での歴史的な夜まで駆け抜けた。授賞式でレイは、 「Prada」(2021年のディーブロック・ユーロップとのコラボ曲「Ferrari Horses」をCassöのプロデュースでリワークしたバイラル・ヒット)のオーケストラ・アレンジ、UKチャートで首位を獲得した「Escapism」、そして音楽プロデューサーから受けた性的暴行について歌った痛ましい「Ice Cream Man」などからなる人目を引くメドレーを披露した。



 授賞式の数日前にツアーを終えたばかりだったため、リハーサル期間が短縮されたものの、レイにとってこのメドレーは至福の凱旋の瞬間だった。「あのピアノの前に座った瞬間、その夜初めて本当に心が安らぎました。私はステージの上でとてもくつろげるんです……ここが私のいるべき場所だと感じるんです」と彼女は述べている。

 しかし、【ブリット・アワード】のステージでくつろぐためには、レイはまず、独立したばかりのアーティストとしての旅路で、新たなパートナー(会社)を安息の場所にしなければならなかった。アーヴィングは、「レイは船の船長でした。僕が最初に聴いたこのアルバムは、まさにリリースされたアルバムそのものでした。我々の仕事はレイの邪魔をせず、できる限りのサポートをすることでした。我々はとても機敏にもなれますし、何かが活気づき始めたらすぐに動くことができますが、レイが今やっていることに青写真はないんです」と話している。

 アルバム時代の成功だけでなく、熱狂的なファンベースと確固たるキャリアを築き上げるという進歩的なアプローチが、レイが「Escapism」の勢いを1年間維持することを可能にした。2022年後半にTikTokで人気を集めた「Escapism」は、翌年1月には彼女と070シェイクにとって初の全英1位を獲得した。『My 21st Century Blues』はその翌月(2023年2月3日)にリリースされ、UKアルバム・チャートで2位を獲得した。ここ数年のレイの驚異的な成長の原動力が「Escapism」だったことはまさに彼女らしいと言える。この夜っぽいエレクトロ・ポップ/ヒップホップのハイブリッドは、意味のないセックス、パーティー、ドラッグを通して現実逃避と傷心を怯まずに見つめ、オーディエンスを熱狂させた。つまり、従来のレコード会社が警戒していたレイのレコードそのものだったのだ。



 レイは、「本当に、私たちが出向いてこの音楽を聴いてもらったところのうち、楽曲がそのままでOKというところはほかに一つもありませんでした。“レイは好きだけど、もう1回やる必要がある”というのがほぼ一致した意見で。“我々が決めたい、我々がコントロールしたい、我々がA&Rしたい”というような話ばかりでした。私は今、ようやく独立して、またすべてを手放す必要がないところまで来ました。もうそんなことはしません」と語っている。

 ヒューマン・リ・ソーセスで、アーヴィングはレイと『My 21st Century Blues』のために、自由放任と同じくらい反応の早いチームと戦略を組み立てる手助けをした。彼は、「これはソウル・フードです。調理に少し時間がかかりますが、電子レンジで作るものよりずっと満足感がある。レイが特定の1曲よりも大きな存在であるという啓示を人々が毎日のように受けています。彼女が行ってきた公演やサポート公演、客席と近い空間でのライブの数々によって、本物のオーディエンスやファンベースが形成されているんです。大事なのは、ちゃんと聴いてくれる人たちを惹きつけることです」と述べている。

 レイと彼女のチームは、どの楽曲が全力でプロモーションするにふさわしいかを計画したり予測したりする代わりに、ただ音楽がリスナーとつながり、リスナーが反応するものに応えるようにした。例えば、レイは米国でのいくつかのライブで「Prada」をピアノで演奏したあと、この楽曲の公式アコースティック・バージョンをストリーミング配信し、その結果、独自のTikTokトレンドが生まれた。「Prada」は最終的にUKチャートで2位、米ビルボードの“Hot Dance/Electronic Song”チャートで5位を記録した。



 レイの勢いを維持するためのその他の重要なプロモーション活動としては、目を見張るようなミュージック・ビデオや盛り上がるライブ・パフォーマンス映像のほぼ絶え間ない流れや、『My 21st Century Blues』を引っさげたヘッドライナー・ツアー、シザ、カリ・ウチス、ルイス・キャパルディのツアーでのオープニング・アクトを含むステージで埋め尽くされた一年があった。最近では、英ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでヘリテージ・オーケストラとフレイムズ・コレクティブと共に出演したライブ・コンサート『My 21st Century Symphony』を撮影し(2023年9月26日)、この模様は英BBCで放送され、ライブ・アルバムもリリースされた。

 レイは自身のプロモーションへのアプローチについて、「私たちが計画したり、それなりにコントロールできたのは芸術だけでした。私たちは、何が“大ヒット作品”になるか計画できない、奇妙で美しい時代にいます。私はライブをしたり、サポート・アクトとしてライブをしたり、プロモーションしたり、SNS関連もしてきました。最終的には、芸術が最も多くの人の耳に届くよう可能な限り最高のチャンスを与えることです」と話している。

 レイはヒューマン・リ・ソーセスで、アーヴィングという同じ考えを持つパートナーを見つけた。ブレント・ファイヤズやピンク・スウェッツのような著名なインディペンデント・アーティストのキャリアの立ち上げを手助けした会社を設立したアーヴィングは、単なる配給会社以上のものを育てることができた。

 「J(・アーヴィング)に会った時、他の誰とも違っていたのは、彼が実際に音楽を気に入ってくれたことでした。“君を信じている”と言ってくれたんです」とレイは振り返り、「(ヒューマン・リ・ソーセスが)理にかなった唯一の選択肢です。ここだけが、誰かが私を導こうとしたり、舵取りをしたり、何をすべきかを指示したりする心配をしなくていい場所なんです」と話している。

 レイは、ヒューマン・リ・ソーセスで人間として、アーティストとして、そして明確なビジョンを持った人物として話を聞いてもらえて尊敬されていると感じたことに加え、ヒット曲から正当な金銭的リターンを得られる契約を獲得した。これは、ほとんどのアーティストにとって権利ではなく、不当に特権的なものだった。自身の音楽の権利を売ることを決めるアーティストが増えている中、レイのヒューマン・リ・ソーセスとのパートナーシップの成功は、アーティストにとって別の選択肢を示唆している。アーヴィングによれば、レイは現在自身のカタログを所有しており、永続的に収益を上げ続けることができる。これは、彼女が【ブリット・アワード】で祖母のアガサ・ドーソン=アモアをステージに上げて賞を受け取ったときに披露したレガシーに加わった実利だ。

 レイは、「自分のレコードで実際にお金を稼ぐ!それがどんなに素晴らしいことかわかります?自分たちの楽曲でお金を稼いでいるんです。出版や作詞作曲の面だけでなく、実際に売り上げがあるんです。それがあるべき姿なんです」と話す。

 現在【ブリット・アワード】で6つの賞を受賞しているレイは、世界を制覇するインディーズ・アーティストとしてのキャリアの次の段階に照準を合わせている。彼女は、“これまで頑張ってきたことを心の中で整理する”ために、そしてまた作詞作曲を始め、“プロデューサー・バッグに入る”準備をするために2週間の休暇を取る予定だ。米TV番組『サタデー・ナイト・ライブ』(4月6日)、【コーチェラ】(4月13日、20日)、【FUJI ROCK FESTIVAL】(7月28日)、英【リーズ・フェスティバル】(8月25日)など、いくつかのパフォーマンスが控えており、結局のところ勢いがすべてであるため彼女は”ただ進み続ける”のだ。



 しかし、レイが【ブリット・アワード】の歴史的な一夜に残したいと願うレガシーがあるとすれば、それは自身が、そしてすべてのアーティストが、外での功績よりも自分の芸術に誇りを持つことを優先すべきだということだ。

 「私は自分の音楽と芸術に夢中になっているアーティストです」と彼女は述べ、「【ブリット・アワード】でのような一夜を幸運にも過ごすことができたとしても、自分の芸術についてそう感じることができなかったとしたら、私は何のためにそれをやっているのでしょうか?【ブリット・アワード】でのような一夜を過ごしたとしても、(さまざまなことを)やったりやらなかったりした2年がなかったとしても、自分の音楽に対する思いは変わりません。それが大事なんです」と語っている。

By: Kyle Denis / 2024年3月14日 Billboard.com掲載

◎公演情報
【FUJI ROCK FESTIVAL '24】
期間:2024年7月26日(金)、27日(土)、28日(日)
会場:新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※レイの出演は28日となります。
<2次先行販売>
3日通し券:54,500円、1日券:24,500円、金曜ナイト券:16,000円
3月1日(金)~5月30日(木)
<一般発売>
3日通し券:60,000円、1日券:25,500円、金曜ナイト券:16,000円
5月31日(金)~

Under22/18
<2次先行販売:Under22>
1日券:18,000円
<2次先行販売:Under18>
1日券:9,000円
3月1日(金)~5月30日(木)
<一般発売:Under22>
1日券:18,000円
<一般発売:Under18>
1日券:9,000円

INFO: FUJI ROCK FESTIVAL
https://www.fujirockfestival.com/

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