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2024/02/25

<ライブレポート>Tani Yuuki、物語のように紡ぐ初のホールツアー「あなたが求めてくれる限り僕は歌い続けます」

 物語のように展開するだけでなく、彼の揺るがない信念が突き続けられた、2時間を超える熱演だった。2023年11月よりスタートしたTani Yuuki初のホールツアー【Tani Yuuki Hall Tour 2023 “kotodama”】。初日の東京国際フォーラムホールA公演が即日ソールドアウトしたことを受けて、東京・TOKYO DOME CITY HALLにて追加公演が開催された。

ステージには桃色の草花がステージに広がり、オープニングムービーでは植物が生い茂る電話ボックスの中でTaniが桃色のダイヤル式電話に手を掛ける。桃色のアイテムは、今ツアーのメインビジュアルであしらわれていたものだ。電話と植物。桃色と“kotodama”。どんな思いを込めたのかの詳細は知り得ないが、電話や言霊は“伝達”、桃色は“ロマンチック”や“恋”、“優しさ”などのイメージを彷彿とさせる言葉である。それは彼が発信してきた楽曲の基軸にもなっている要素とも言えるだろう。

 オープニングムービーに映るTaniが受話器に向かって声を発しようとすると、アコースティックギターを抱えてステージに現れたTaniが「おかえり」を歌い出し、ライブがスタートする。「今日あなたに出会えてうれしいです!」と喉を嗄らしながら全力で呼びかけたり、ハンドマイクで披露した「生きる偉人たちよ」ではコールアンドレスポンスやシンガロングを求めるなど積極的に観客とコミュニケーションを取り、冒頭から会場が一丸となって楽曲を鮮やかに色づけた。

 4曲歌い終えた後は観客に向かって軽妙に語り掛けるなど、気さくなキャラクターを発揮する。観客に着席を促し、「今まで送り出してきたラブソングをひとつの物語にして、映像とともにお届けしようと思っている」と告げると、恋仲であろう男女の映像と台詞で構成されたブリッジムービーが流れる。ここからストーリーと絡めながら、会場をより楽曲の深い精神性へといざなった。

 映画のように進んでいくステージで、まず彼は学生時代に制作した「最終想者"アンカー"」など3曲演奏する。当初は物語の中に引き込まれていくような感覚に陥ったが、曲に描かれた世界を聴き手の記憶にねじこむようなパワーを持ったTaniの歌を聴いていくうちに、ふと「ここはTani Yuukiの精神世界なのではないか」と思う瞬間があった。彼が作る音楽の主人公たちに共通しているのは“乗り越えようとする意志”や“諦めない心”を持っていること、そしてラブソングにおいては主人公の“あなたへの愛情”がまっすぐに綴られているということだ。それはこれまでの彼の音楽活動のスタンスとも重なる。ぶれることのない情熱を灯す歌声が、不器用でピュアな心情を綴ったバラードを美しく照らした。

 物語はさらにその本質へと進んでゆく。焦燥感で聴き手の心をかきむしる「非lie心」、心地よい打ち込みのリズムときめ細やかな生演奏が混ざり合う「Myra」とセンチメンタルな空気感で包み込むと、下北沢の風景で構成されたブリッジムービーを経て軽快なポップソング「Cheers」へ。この流れで同曲を聴くと、ひとつの恋が終わり新たな幸せを迎える若者の曲のように響く。彼が歌い出した瞬間に観客も一斉に立ち上がり、その物語の参加者となった。楽曲をつなぎ合わせることで生まれるストーリー、それによって呼び起こされる聴き手自身の恋愛の記憶、Taniの精神世界、そしてTaniと観客が紡ぎ出すライブという空間が溶け合う様子は、ファンタジーとリアリティをどちらも抱きしめるような許容があった。

 そして物語は記憶の中にいる最愛の人に思いを馳せるセクションへ。「記憶」では真摯なボーカルからは離れてしまった悲しみ以上に、離れてしまったあなたの幸せを願う気持ちが伝わってきた。「Unreachable love song」ではハンドマイクスタイルで会場を盛り上げながら恋の痛みを歌い上げる。ロックナンバー「夢喰」では観客にタオルを回すよう、「Life is Beautiful」ではジャンプを呼び掛け、それを追い風にして熱い歌声を響かせた。

 ブリッジムービーを挟みながら10曲連続で披露した彼は、曲作りを始めた頃は聴いてほしい、届いてほしい、認めてほしいという“渇き”が原動力になっていたこと、出会いやヒット曲に恵まれたことで、それが潤ってきたことを明かす。そしてなぜ今も走り続けているのか、音楽活動を続けているのかを考えたところ、「頑張っているあなたが帰ってこられる居場所であり続けたら、音楽を続けていて良かったと思える気がします。これからもあなたに歌を届けていきたい」という結論に至ったという。そして彼の音楽が多くの人に届くきっかけとなった「W/X/Y」を歌い出した。最後のサビの大合唱では、この場にいた一人ひとりがこの曲に自分自身の思いを重ねているようにあたたかい空間が出来上がった。

 再びムービーが流れるとそのまま「最後の魔法」へ。ひとりの若者の恋物語を締めくくると同時に、人生はまだ続くことを示唆するような、日の出のようなサウンドスケープだ。「あなたに出会えてよかった。僕が走り続ける理由は僕自身でなくていい、綺麗事であってもいい。あなたが求めてくれる限り僕は歌い続けます」と身体を振り絞りながら叫ぶ姿がまっすぐ胸を掴む。そして受話器を下ろすシーンがエンディングムービーとして流れ、本編を締めくくった。

 アンコールではクリスマスイブと掛けてバズーカやチケット半券のくじ引きでグッズを贈呈し、客席に降りてアリーナを1周して観客とハイタッチしたり、クリスマスソングをアレンジしながら歌い上げるなど、Taniサンタが大盤振る舞い。その後もツアータイトル「kotodama」をタイトルに冠した新曲の披露、その撮影を許可するなど、予想だにしないサプライズの連続に客席は大いに沸いた。

 25歳になるまでに成功できなければ音楽を辞めると両親と約束をしていたエピソードや、2020年12月に初めてのワンマンライブを行った際に話した内容などを明かすと、「25歳になってもこうして音楽を続けることができています」とあらためて感謝を告げる。そして夢を追いかけ続ける強い意志を「百鬼夜行」と「運命」の歌に込めた。「ワンダーランド」でこの夜に幕を下ろすかと思いきや、「みんなまだ元気そう? もう1曲やってもいいですか?」と笑い、最後に「We are free」を披露する。余力を余すことなく注ぎ込むほどのエネルギーは爽快で、何よりも圧倒的だった。

 終演後には2024年6月より自身最大規模のホールツアー【Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"】が開催されることが発表され、MCで話していた“これからも走り続ける”を彩度強く印象付けた。自分の音楽を求めてくれる観客と顔を合わせることは彼の掛け替えのない喜びであることを痛感させられたツアーファイナル。最後に見せた「今日も幸せだ!」という満面の笑みと叫びは、彼の音楽を続ける理由そのもののような気がした。

 

Text:沖 さやこ
Photo:toya


◎公演情報
【Tani Yuuki Hall Tour 2023 “kotodama”】
2023年12月24日(日) 東京・TOKYO DOME CITY HALL

◎公演情報
【Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"】
2024年6月1日(土) 東京・LINE CUBE SHIBUYA
2024年6月7日(金) 宮城・仙台サンプラザホール
2024年6月9日(日) 福島・けんしん郡山文化センター(郡山市民文化センター)
2024年6月14日(金) 福岡・福岡サンパレス
2024年6月16日(日) 熊本・市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
2024年6月21日(金) 埼玉・大宮ソニックシティ 大ホール
2024年6月30日(日) 京都・ロームシアター京都
2024年7月11日(木) 広島・上野学園ホール
2024年7月13日(土) 大阪・フェスティバルホール
2024年7月15日(祝月) 石川・本多の森 北電ホール
2024年7月20日(土) 愛知・名古屋国際会議場 センチュリーホール
2024年7月28日(日) 北海道・札幌文化芸術劇場hitaru
2024年8月4日(日) 香川・サンポートホール高松
2024年8月31日(土) 沖縄・沖縄コンベンションセンター劇場棟
2024年9月23日(祝月) 神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール

◎リリース情報
1st EP『HOMETOWN』
2024年5月 ※詳細は後日発表

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