2024/01/15
マオ(Vo)のコンディション不良を乗り越え、2023年1月に約1年2か月ぶりにライブ活動を再開したシド。バンドのキャリア史上最大と言っても過言ではない苦難を乗り越え、結成20周年イヤーを突っ走ってきた彼らが、その集大成として2023年12月27日に東京・日本武道館にて【SID 20th Anniversary GRAND FINAL「いちばん好きな場所」】を開催した。
ドレープ状の布と大きなシャンデリアによってグラマラスに彩られたステージ。幻想的なSEの中、ゆうや(Dr)、Shinji(Gt)、明希(Ba)、マオとメンバーが一人ずつ登場する。Shinjiのアルペジオから始まったのは1stアルバム『憐哀-レンアイ-』収録の哀愁たっぷりのバラード「紫陽花」。活動初期の情熱的な音色が武道館に響き渡る。そこから、久しぶりの披露となった「NOMAD」でモダンな美しさを魅せると、まさにこの日に相応しい「ANNIVERSARY」で爽やかに、会場を“光”で照らす。メンバーもファンも笑顔が弾けている。
すっかり上がった状態となったボルテージをそのままに、バンドは「アリバイ」(2ndアルバム『星の都』収録)「罠」(3rdアルバム『play』収録)「妄想日記」(『憐哀-レンアイ-』収録)と活動初期の人気曲をたたみ掛ける。この時期のシドならではのディープな世界観はもちろん、ファンキーさやレトロ感などを取り入れたサウンドの多彩さが際立つ形となった。彼らが初期から非常にクリエイティブなバンドであったと改めて実感したブロックだった。
MCでは、Shinjiが「「今日も1日」と言ったら「小粋に決めなきゃ」と言って欲しいんです」と、ゆうやは「何がなんでも」→「やるぞ!」というコールアンドレスポンスを披露するなど、ファンへの感謝を交えつつ各々の形で場を盛り上げた。そして、マオの「シドの新しい挑戦ということで、メドレーを作ってきました」という紹介から、この日のために組まれた「SID 20th Special Medley」へ。「モノクロのキス」、「乱舞のメロディ」、「嘘」、「V.I.P」とアニメタイアップとしても世界で幅広く愛されてきた4曲が時を超えて匠につなぎ合わさっていく流れは圧巻だった。
メドレーの後は各メンバーのソロ・ブロックに突入する。照明とダイナミックなリズムが見事にシンクロしたゆうやのドラムソロ、パワフルで“ライブ感”に満ちた明希のベースソロ、そして技巧的なフレージングが詰め込まれたShinjiのギターソロと続いた後、ステージ上にスペシャルゲストの葉山拓亮がピアノと共に登場する。そこにマオが一人で合流し、始まったのは「声色」。逆境を乗り越えて今年復帰したマオが、エモーショナルに自身の声で表現を美しく、そして生々しく届ける。後半にマオがアカペラで歌唱した際には、会場全体が息を飲んでいた。観るものの心を揺さぶる感動的な一幕だった。マオは武道館でアカペラを披露するために必要なものを「度胸」だと直後に語っていたが、まさしくその“度胸”が現れていた力強いパフォーマンスに感じた。
マオが「俺の息遣いだったり、呼吸や背中の動きだったりをしっかり汲み取って演奏してくれました。ありがとうございました」と葉山への感謝を伝えると、楽器隊がステージに再登場する。そのまま葉山を交えた5人編成で新曲「面影」(2024年1月8日に配信リリース)が初披露される。TVアニメ『天官賜福 貮』のオープニングテーマに決定しているパワフルで切ないミッドテンポのナンバーに会場も静かに身体を揺らす。明希が「今の曲、めっちゃいい曲じゃない?俺が作りました。2024年のシドの道標になってくれると思います」と語った通り、また新たなシドを魅せてくれるナンバーだ。
本編の最終ブロックは怒涛の展開だった。マオが「いけるか?」と煽ると、インディーズ最初期からの定番ナンバー「循環」で武道館中のオーディエンスを回転させたと思えば、「そろそろ結婚しようか!」とハイスピードな「プロポーズ」、そしてそこからパンキッシュな「park」と、次々と暴力的な音を叩きつける。武道館はもうヘッドバンキングの海だ。「眩暈」の炎の演出が会場のエネルギーをさらに煽り、ボルテージは最高潮へ。そして極めつけに、ラストナンバーとして最終兵器「吉開学17歳 (無職)」が投下される。狂気そのものを楽曲化したようなバンド最初期のハードコアチューンは全てを混沌に変える。マオはシャウトでまくしたて、楽器隊は荒々しく音を響かせる。残響のような余韻を残し、メンバーはステージを後にした。
アンコールでは「20年の思い出を曲に残す」という意味で作った温かい新曲「微風」(2023年12月6日配信リリース)を初披露。バンドの歩みを詰め込んだような歌詞が胸に刺さる。そこから、インディーズ後期にリリースされ、今でもバンドの代表曲として愛され続けている「夏恋」と「Dear Tokyo」をオーディエンスと共に歌い上げる。特に「Dear Tokyo」の一体感ある合唱は涙腺を刺激する感動的なものだった。
会場は完全に多幸感で満ちている。その中でマオが語り始める。「ここ数年はずっと“上手く歌えるかな”とか“喉は大丈夫かな”とか“上手に歌いたいな”とか、そういうことばかり考えていたんですけど、今日のライブは始まる前からすっげぇ楽しみだったんだよね。“歌”って、どんなに上手く歌えてもそこに“楽しむ”という気持ちが少しでも足りないだけで違ってくる。今日に関しては、みんなにどうやってこの20年の俺達の足跡をしっかり刻めるか、20年分の愛をどうやって届けられるかだけを考えて歌って、心の底から気持ちいいライブでした。どうもありがとう」と自身の心境を明かしていく。「2年くらい前は、1・2曲まるまる歌えるか歌えないか、という時期もあったんだけど、そこから色々試しながら徐々に曲数を増やしていって、今日ここにたどり着くことができました。なので、シドの第2章は今日から始まると俺は思っています。やっぱり、俺が生きる場所はここだし、俺がいちばん好きな場所はこのライブのステージです。そこにはみんながいないとダメだし、スタッフのみんなやメンバーがいないとダメだし、そういう気持ちを込めて、最後は上手いとか下手とか全部取っ払って、気持ちで歌います」という力強い宣言から、本公演のタイトルにもなっている「いちばん好きな場所」へ。ただでさえ感動的な楽曲だが、マオの吐露を聴いた後だと何倍も染みる。シドの20年の歩み、マオの近年の戦い、そしてこれから始まる“シド第2章”。紙吹雪が舞う中で奏でられたこの優しいラストナンバーには、シドの過去と未来が凝縮されたパワフルな想いが込められていた。
最後の楽曲が終わると各メンバーが改めて20周年イヤーを振り返り、改めて未来への決意を伝えた。名残惜しそうにメンバーが一人ずつステージを去ると、最後にマオがステージの真ん中でマイクを使わずに「愛してます!」と叫び、自分の身体を両腕でハグする。武道館に駆けつけたファンたち、そしてこのステージにたどり着いた自分自身を抱きしめるような、彼の想いが溢れた壮大な抱擁でステージは幕を下ろした。
Text:Haruki Saito
Photo:今元 秀明・西槇 太一
◎公演情報
【SID 20th Anniversary GRAND FINAL「いちばん好きな場所」】
2023年12月27日(水)東京・日本武道館
<セットリスト>
1. 紫陽花
2. NOMAD
3. ANNIVERSARY
4. アリバイ
5. 罠
6. 妄想日記
7. SID 20th Special Medley(モノクロのキス~乱舞のメロディ~嘘~V.I.P)
8. 声色
9. 面影
10. 循環
11. プロポーズ
12. park
13. 眩暈
14. 吉開学17歳(無職)
アンコール:
15. 微風
16. 夏恋
17. Dear Tokyo
18. いちばん好きな場所
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