2024/01/19
ACIDMANによる、前作からおよそ3年ぶりのシングル『輝けるもの』がリリースされた。表題曲は、シリーズ累計2,700万部を超えるベストセラー漫画『ゴールデンカムイ』の実写版の主題歌として書き下ろされたもの。自然を尊ぶ美しい心と、欲望を追い求めてしまう儚い心、その狭間で揺れつつ迷いつつも、強く生きようとする人間に対する賛歌のような仕上がりとなっている。かねてより原作漫画の大ファンだったというボーカル&ギターの大木伸夫に、『ゴールデンカムイ』に対する思い入れや、「輝けるもの」楽曲制作のプロセスについてはもちろん、昨年逝去した坂本龍一との思い出についても語ってもらった。
──まずは、劇場版『ゴールデンカムイ』の主題歌のオファーをもらった時の心境から聞かせてください。
大木:もともと僕は『ゴールデンカムイ』という漫画がとても好きだったんです。最初はファンの方に、単行本の第1巻をいただいたんです。ただ、当時の僕はあまり漫画を読む習慣がなかったので、しばらく置きっぱなしにしてあったんですよね。でも、それからしばらくして気になって読んでみたら、一気に引き込まれてしまいました。それでまとめ買いしたのが2年くらい前だったかな。実写化されるのもすごく楽しみにしていたので、自分たちがその主題歌を担当することになって、嬉しさと同時に驚きも大きかったです。
──『ゴールデンカムイ』のどんなところに魅力を感じますか?
大木:なんといっても、スケールの大きなストーリーにまずは魅了されました。金塊をめぐるアクションやバトルはもちろん、登場人物たちの過酷な運命さえエンターテイメントとして成立させているところはさすがだなと。同時に、アイヌという民族の自然を敬う心、食事を含めた文化の素晴らしさを、作品を通して学ぶことができたのも嬉しかったです。単純にワクワクするし、自然への憧憬も深まるし、さまざまな要素がぎっしり詰まっているから、どんな角度からも楽しめるところが魅力なのかなと思います。コミック版のラストも、まさに「大団円」という感じで最高でした。
──大木さんに以前、インタビューをさせていただいた時、「ネイティブアメリカンの考え方や文化にとてもインスパイアされている」とおっしゃっていました。『ゴールデンカムイ』は西部劇的な要素もあり、アイヌの人々をネイティブアメリカンに見立てて描いているところもあるように思いました。
大木:確かにそうですね。僕はネイティブアメリカンの、自然と共に生きるライフスタイルや目に見えない世界を大切にするその思想、宗教観にとても惹かれるのですが、確かに彼らとアイヌは通じるところがあるかもしれない。アイヌの文化については、随分前にアイヌ神話に関する本を一冊読んだ程度の知識しかないのですが、すべての存在と現象に神性を感じ取る神道の「八百万の神」の概念とも非常に親和性が高い気もします。
もちろん、僕自身は現代文明の中で生きていますが、アイヌの思想はネイティブアメリカンのそれと同じく憧れの対象であり、もっとリスペクトの念を持ちたいという気持ちでいます。
──では、実際の曲作りについてお聞かせください。
大木:実は映画のプロデューサーさんからは、ACIDMANの「ある証明」をイメージとしてあげてもらっていました。でも今回の劇場版は、漫画の中にあったギャグ要素は少なめで、かなりハードなバトルアクションものになりそうだと事前に聞いていたので、「ある証明」よりも「Stay in my hand」(2014年7月16日発売のACIDMAN24枚目のシングル)という曲の方が合うんじゃないかなと個人的に思ったんです。最初の要望とは違うかもしれないけど、念の為「Stay in my hand」に寄せた楽曲にしようと考えていました。その数日後にプロデューサーさんとの打ち合わせがあった時に、なんとプロデューサーさんから「実は『Stay in my hand』がいいんじゃないかと思っていて……」と言っていただけて。「マジですか! 実は僕もその曲をイメージしていたんです」と。。
──数あるレパートリーの中からお互い、同じ曲を思い描いていたのはすごいですね。
大木:そうなんです。目に見えないところでの意思の疎通が早めに成立していたような気がして嬉しかったですね。
そんな感じで曲の骨子は2週間くらいでできたので、すぐメンバーに聴いてもらいました。とにかく2人に何度も言っていたのは、「この曲は爆発なんだ」ということ。イントロから思いっきり爆発したいから、そういうイメージで演奏してほしいとレコーディング前に伝えましたね。
──歌詞にはどんな想いを込めましたか?
大木:『ゴールデンカムイ』は金塊をめぐる「欲望」の物語。僕ら現代人も、自分の欲望のために誰かを傷つけてしまったり、時には殺し合いに発展する場合もあったりして。お金だけでなく、宗教や政治思想の部分での対立もあり、いまだに世界中で戦争や紛争が起きている。
もちろん、僕は常に反戦の立場です。でも、どんな人でも多かれ少なかれ「戦いたくない、けど戦わざるを得ない時もある」という矛盾の中で生きていますし、『ゴールデンカムイ』の中でもそのことが描かれています。
だからこそ、誰もが内包する「欲望」に対して否定も肯定もしない曲にしよう、と思いました。人は皆、生きるために常に「まっすぐ」ではいられない、ひん曲がった道だろうが汚れた道だろうが、必死に這いつくばり、光り輝くものについ手を伸ばしてしまう。その「輝けるもの」とは一体何なのか? がこの曲のテーマですね。
──おっしゃるように、『ゴールデンカムイ』は単なる勧善懲悪のストーリーではなくて。「悪党」のように見えるキャラクターでも、どこかそれぞれの動機があって動いているからこそ深みや魅力を感じるのでしょうね。ちなみに「輝けるもの」というタイトルの由来は?
大木:僕にとって「ゴールド」「金」は、昔から大きなテーマの一つだったんです。例えば、その響きによって世界のすべての歪みが調和する「黄金のコード」とか、そういうスピリチュアルな話も好きですし。
で、今回の楽曲を書くにあたって「金」について改めていろいろと調べていた時に、たまたま壁一面の本棚の中から、もう何年も前に手に入れた「黄金律」についての書籍が目に入ったんです。それを手に取りパラパラとめくっていたら、ある章のタイトルが「輝けるもの」だった。それでピンと来て、曲名に使うことにしました。
──映画本編の中で、この「輝けるもの」が流れているのはもうご覧になりましたか?
大木:はい。試写会で観て感動しました。「ここから一体、どうなっていくの?」というところで本編が終わり、エンドロールでこの「輝けるもの」が流れ出す。次作があるのであればめちゃくちゃ楽しみになりますし、自分たちの楽曲が、そんな壮大な物語の一部になれたことを本当に嬉しく思いました。
──ところで2023年は、坂本龍一さんが亡くなった年でもありました。ACIDMANは2013年のアルバム『新世界』で、坂本さんとコラボするなど交流も深かったと思いますが、心に残っているエピソードなどありましたらお聞かせください。
大木:今から10数年前、とある新聞の取材を受けた時に、その記者の方から「坂本龍一さんが、『今、気になるアーティスト』としてACIDMANをあげていましたよ。」と教えてもらったんです。僕、昔から教授の大ファンだったのでめちゃくちゃ興奮して。後日、お会いできるチャンスがあった時に「教授、大ファンです。今度僕らの曲で弾いてください!」と直談判したら、「ぜひ」と即答してくれた。それで、「風追い人 -前編」「風追い人 -後編」の2曲にピアノを入れていただくことができました。日本のロックバンドで坂本さんがピアノを弾いたのはACIDMANだけらしく、本当に宝物のような楽曲になりましたね。
僕の中で、まだ坂本さんは亡くなっていないというか。訃報を聞いて最初の1週間はとても辛かったんですけど、今はまだ、どこかで元気に暮らしていらっしゃるような感覚でいます。最後に坂本さんからもらったLINEのメッセージが、ドラえもんのスタンプだったんですよ(笑)。それも大切にとってあります。
──では最後に、2024年の抱負を聞かせてください。
大木:まずは映画『ゴールデンカムイ』が大ヒットしてほしいですね。そして、毎日を楽しく真剣に生きて、ご飯を美味しく食べて、いい曲を作っていいライブをするというのが僕にとって一生の課題なのかなと思います。「ありがたい」と常に感謝の気持ちを忘れずに。「『有る』が『難い』、ありがたい」と唱えながら、おじいちゃんのような感覚で生きています(笑)。
Text by 黒田隆憲
◎リリース情報
シングル『輝けるもの』
2024/1/17 RELEASE
<初回限定盤(CD+DVD)>
TYCT-39220 4,950円(tax in.)
<通常盤>
TYCT-30143 1,320円(tax in.)
◎映画情報
映画『ゴールデンカムイ』
全国公開中(IMAX同時公開)
◎公演情報
【New Single Release Live「輝けるもの」】
2024年2月6日(火)
東京・TOKYO DOME CITY HALL
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