2013/06/24 10:56
角松敏生がテーマをギターに絞り、主にインストゥルメンタル曲をプレイする「Kadomatsu Plays The Guitar Vol.2」の初日(6月14日、ビルボードライブ東京1st.ステージ)に足を運んだ。
タイトルに「Vol.2」と添えられていることからも分かるように、2年前にも同じテーマのライブが行われているが、角松本人は「単なる再演にはしたくない」という思いを事前インタビューで語っている。そのために角松が掲げた「公約」は、ライブと同じメンバーでレコーディングに入っているニューアルバムから新曲を披露すること。さらには、その新曲は約20分に及ぶ組曲で、インストゥルメンタル・パートとヴォーカル・パートが複合的に組み合わさった、「プログレッシブ・ポップ」とでも呼ぶべきものになりそうだ——と構想も明らかにした。
取材を担当した筆者は、正直にいえば、これらの言葉を半信半疑で受け止めていた。角松敏生というアーティストの言葉が、信頼に値しないと思ったわけでは、もちろんない。当初の構想がレコーディングの過程で変化していくことは作品づくりの常であるし、まして音楽配信が定着して以降、楽曲は短くキャッチーにつくることが重要視されている。構想が変化するとしたら、壮大なコンセプトがコンパクトにまとめられる方向に進むだろうと予想したのである。しかし、結論から述べると、ライブを観終えた後、筆者は自分の不明を恥じることになる。角松敏生は公約通り、堂々たる組曲をライブ中盤で演奏してみせたからである。以下、その新曲についての記述を中心に、ライブ・レポートをお届けする。
オープニングを飾ったのは、ラーセン=フェイトン・バンドのカバー曲「The Visitor」。マリン・ブルーにもエメラルド・グリーンにも見えるボディのギター(自身が「エレキのエース」と呼ぶフル・オーダーメイドの愛機)を手にした角松は、アグレッシブにメロディを奏で、途中からはティンバレスも叩く。ニール・ラーセン、バジー・フェイトンによるラーセン=フェイトン・バンドは、職人気質のミュージシャンでありつつ、佇まいに華があるという点で角松とイメージが重なるが、華やかにステージの幕を開けるには適した選曲だった。続いてはリバーブが効いた甘い音色で、1作目のインスト・アルバム『SHE IS A LADY』(1987年)収録の「SEA LINE」を演奏した後、いよいよ新曲がプレゼンテーションされた。
MCで「歌詞はだいたい完成しているが、タイトルは未定」と説明された新曲は、角松のギター、本田雅人のサックスが時にはハモり、時には追いかけ合うようにメインのメロディを演奏するパートからスタート。ここはジャズ、フュージョン色が強いが、テンポが変わった後のヴォーカル・パートでは、ファンタジックな内容の歌詞(正確に聴き取れたわけではない)を角松が力強い声を歌い上げ、フルート(同じく本田)やハープシコード風のキーボード(森俊之)も加わる王道プログレ的展開に。二度目のヴォーカル・パートの後は、角松の粘り気のあるロック・ギター・ソロをはさみ、ティンバレス+ドラム(玉田豊夢)、ギターのカッティングとリズムを強調した演奏が続く。さらにインストとヴォーカルが何度か行き来しながら、徐々にスローダウンしていき、エンディングに向かうかと思いきや、最後に再びメインのアンサンブルが帰還して大団円。合計19分。まさに組曲。確かに「プログレッシブ・ポップ」。ジャズ、フュージョン、ロック、ダンスミュージック、AORなど、角松の幅広い音楽性が1曲に組み込まれた圧巻の演奏であった。ニューアルバムには、この日ライブで演奏された構成に幻想的な導入部も付加され、21分ヴァージョンが収録予定だという。
破格の新曲を耳にした客席の興奮をさます役割を果たしたのは、シャカタクの大ヒット曲「Night Birds」のクールなカバー。続いてメドレー形式で「Airport Lady」(85年『AFTER 5 CLASH』収録)、「Mid Summer Drivin’」(『SHE IS A LADY』収録)がプレイされ、全6曲の本編が終了。通常であれば6曲は少ないと感じるかも知れないが、19分の新曲の印象があまりに鮮烈で、もの足りなさは全く感じなかった。さらにアンコール1曲目の「OSHI-TAO-SHITAI」(『SHE IS A LADY』収録)では、もう1人のギタリスト・鈴木英俊のアドリブ・ショーから始まり、山内薫の太いベースラインが引っ張るラテン・アレンジに乗せて、各パートのソロもたっぷりの14分。ラスト・ナンバーはアース・ウインド&ファイヤーの「Fantasy」をインスト・ヴァージョンにしてカバー。角松敏生は流れるようなギター・ソロを弾き、この日の演奏を終えた。
ちなみに、角松のこの日のファッションは、スリーピースのスーツに赤のタイ。この出で立ちでギターを抱え、やや片足を上げてカッティングをする姿は、本当にスタイリッシュだった。クールビズが浸透してから、若いお洒落なビジネスマンがシンプルなジャケット、ノーネクタイで街を歩く姿が目立つが、彼らにはとても三つ揃いのスーツは着こなせないだろう。音楽の聴き方が短時間で1曲1曲を聴き飛ばす傾向へと向かっている中、角松敏生がこの日に披露した新曲はアップ・トゥ・デイトではないかも知れないが、ポピュラー・ミュージックのライブ演奏を全身で堪能する喜びを与えてくれた。重厚かつ洗練されたスリーピースのスーツのような、決して聴き飛ばすことのできないニューアルバムの到着が楽しみである。
TEXT:君塚 太
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