2023/11/14 20:00
あいみょんが、10月31日に【AIMYON TOUR 2023 -マジカル・バスルーム- Additional Show】を東京・東京ガーデンシアターにて開催した。
あいみょんにとって、自身最多公演数となった今回のツアー。4月7日の神奈川・よこすか芸術劇場から、追加公演ファイナルである11月2日の和歌山・和歌山県民文化会館大ホールまで、約7か月、40公演ものロングツアーを駆け抜けた。追加公演で2日間行われた東京公演のうち、10月31日公演はツアーセミファイナルにあたる。
この公演を思い返して特に印象に残っているのが、高校生くらいの女の子とスーツ姿のお父さんの親子が、連れ立ってこの公演に足を運んでいた姿だ。途中のMC、恒例の“双眼鏡”タイムで客席を見渡したあいみょんが見つけて声をかけていたのだが、この平日の公演に、ふたりはそれぞれ学校と仕事を終え、このライブのために合流し、連番でパフォーマンスを楽しんでいたという。会場には他にも親子連れが何組もいて(ちなみに、ひとりで参加している親世代のファンも多かった)、あいみょんも自らを「親御さんキラー」と称して満足げな表情を見せていたのだけれど、なかでも、ハイティーンの女の子とそのお父さんという、あらゆる面でギャップを感じることが多いであろう組み合わせのふたりが、あいみょんの音楽という楽しみを仲良く共有していることに、なんだかとてもあたたかい気持ちになったのだ。
あいみょんの正直で飾らない性格は、彼女の振る舞い、そして生み出す楽曲の端々から滲み出ている。歌詞も、「僕」「私」と主人公はさまざまだが、基本的には一人称で、主人公から見た世界や「君」「あなた」への思いを、時に驚くほどパーソナルに描き出す。さらに、その詞世界のほとんどが、日々の生活に根付いたちょっとセンチメンタルな情景なのも印象的だ。この日のセットリストを振り返ってみても、1曲目の「貴方解剖純愛歌 ~死ね~」から始まり、MVでひとり、ただただ涙をこぼすあいみょんの姿もインパクトがあった「初恋が泣いている」、「愛を伝えたいだとか」「ら、のはなし」「空の青さを知る人よ」「皐月」と、10曲目の「ハルノヒ」まで、シンプルに“幸せ”なシチュエーションを描いた曲が登場しなかったのには驚いてしまった。人の脳は、楽しい記憶より辛い記憶のほうが残りやすいようにできているとよく聞くけれど、その、いわば自分の手が届く範囲よりほんの少し外――半径3m以内で起こるセンチメンタルな部分(それでこそ“フォークソング”なのかもしれない)が、パーソナルなのにとても普遍的な感情だからこそ、1995年生まれのあいみょんと近い世代の女子にも、そのお父さん世代にも、もちろん男子やお母さん世代にだって同じように、あいみょんの歌が響いているのだろう。
そして改めて思うのが、あいみょんの歌声がまるで、真っ白なシーツのようにピュアであることだ。先に述べた通り、彼女の綴る歌詞はセンチメンタルで、あけすけなほど感情が滲むものが多い。しかし、それをエグ味なくすっと耳に届けるのは間違いなく、あいみょんの歌声が過度に飾らない“真っ白”さをもって、聴き手を包んでくれるからだと思う。さらに、柔らかくとろみがあったり、ざらっとした素っ気なさを感じさせたり、透き通るように繊細だったりと、その質感は楽曲にあわせて自在に変化する柔軟さも持ち合わせている。この日「裸の心」で見せた、弾き語りアレンジにぴったりの柔らかく甘い歌声、「強くなっちゃったんだ、ブルー」での、仄暗い雰囲気の詞に合わせた大人っぽい抜け感のある歌い回し……。そして「彼氏有無」「マシマロ」「夢追いベンガル」でどんどん盛り上がるバンドサウンドを乗りこなしての、キラーチューン「マリーゴールド」で弾き語りモードのしっとりした歌声に切り替える器用さ。余分な感情を乗せない歌声なのに、たっぷりの表現力を感じる理由はここにあるのだと、このセットリストでのパフォーマンスを観て改めて思わされた。
また今回、あいみょんのツアーとしてはコロナ禍以降初めて、声出しが解禁に。あいみょんが煽るコール&レスポンスに毎度抜かりなくついていく観客にも驚いたが、何よりも圧巻だったのは「君はロックを聴かない」の落ちサビでの大合唱だ。このタイミングで客席の照明も明るくなって、まるで歌う観客たちも大事なメンバーだと言われているようだと思ったし、何より、大声で歌う観客の姿を心底愛おしそうに見つめていたあいみょんの姿が心に残っている。曲前のMCで「今回のツアーでみんなの声を聞けることが、自分にとっていちばんのご褒美」と語っていたのだが、その言葉が彼女の本心からきたものであることが伝わってくる表情だった。
公演の最後を飾ったのは、最新曲「ノット・オーケー」。また、来月12月6日には、アニメ映画『窓ぎわのトットちゃん』主題歌に決定している新曲「あのね」のリリースも決定し、残りわずかな2023年もまだまだ精力的に活動することを、最後の挨拶で明らかにしていた。天性の素直さと人懐っこいキャラクター、そして感性と歌声をもって、その魅力が老若男女をとりこにしてしまうことをこのライブで証明してくれたあいみょん。次回のライブも楽しみだ。
Text by Maiko Murata
Photo by 永峰拓也
◎公演情報
【AIMYON TOUR 2023 -マジカル・バスルーム- Additional Show】
2023年10月31日(火) 東京・東京ガーデンシアター
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