2023/11/10
GLIM SPANKYが、2023年8月5日に東京・恵比寿ガーデンホールにてワンマンライブ【Velvet Theater 2023】を開催した。
2015年から過去3回に渡り開催されている【Velvet Theater】は、GLIM SPANKYの音楽から幻想文学、シュールレアリスム的な面にスポットを当て、普段あまりやらない曲、サイケデリックでディープな曲を多めに披露するという“趣味爆発”なコンセプトワンマンライブ。GLIM SPANKYの世界観をより深く知ることができるセットリストや演出が楽しめるとあって、チケットはソールドアウトとなっていた。
BGMが大きくなり暗転してメンバーが暗闇のステージに姿を現す。場内からステージに向けられたものすごい歓声と拍手の音が、スペシャルな一夜への期待感を伺わせた。グリーンの衣装を着た松尾レミ(Vo./Gt.)がアコースティックギターを鳴らしながらゆっくりと歌い出したのはライブタイトルになっている「Velvet Theater」。ドラムのフィルインからバンドが加わり、間奏で地鳴りのようなビートを響かせて、亀本寛貴(Gt.)のねっとりと濃密なギターソロへ。スクリーンに映し出されるリキッドライトの色彩が、美しく時折グロテスクにも見える。フワフワと夢の中に誘われるようなオープンニングにうっとりしていると、松尾の「こんばんはGLIM SPANKYです! Velvet Theaterへようこそ!」のひと言と共に、亀本のワウギターがファンキーな「レイトショーへと」が飛び出した。アルバム『Into The Time Hole』収録のスタジオバージョンよりも躍動的なアレンジで会場を揺らす。
「今夜は真夜中にしか現れない最高のパーティー、一緒に楽しんでいきましょう!」(松尾)
サポートメンバーの中込陽大(Key.)、栗原大(Ba.)、大井一彌(Dr.)によるダンサブルな演奏が際立つ「A Black Cat」で踊らせると、「NIGHT LAN DOT」「MIDNIGHT CIRCUS」ではスクリーンにスペイシーな空間が映し出される中でエキゾチックな音像を聴かせるなど、曲ごとに心がどこかに運ばれていくようだ。ダイナミックな「ダミーロックとブルース」では、亀本がステージ前に出てソロを弾くと大喝采。アクションを見せるごとにリアクションするオーディエンスのテンションも相当高い。
そんな盛り上がりから一気に会場が静まり返ったのが、続く「題名未定曲」。松尾の語りから始まり、アコギ弾き語りでストーリーを紡いでいく。途中からバンドが加わりヘヴィなビートに幻想的な音を散りばめた演奏の中、夜の空へ飛んでいくように伸びやかな松尾のボーカルが再びアコギの音と共に部屋に帰ってきたイメージが浮かんだ。続く「AM06:30」もそんな内省的な心象風景が感じられた。
王道なサイケデリックギターリフが先導する「In the air」が始まると、一気に展開が変わり、曲中のハンドクラップで会場が一体に。間奏で聴かせた亀本の縦横無尽なスライドギターは絶品だった。続いて「吹き抜く風のように」が始まると、歓声と共に手拍子が沸き起こる。サビで眩いライトで会場が一気に明るくなると、フロア中からステージに手を伸ばす人々の姿が。松尾が「恵比寿!」と声を掛けると「ウォォ~!」と大歓声で答える観客たち。<何もない 縮こまることなどない 生き様や価値観に答えはないよな>と、明確に意思表示する言葉と、耳に残るメロディ、鋭い演奏による力強いメッセージは、GLIM SPANKYがオーセンティックな本物のロックを継承しながら常に瑞々しい活動を続ける、稀有なアーティストであることをハッキリと証明していた。
これまで【Velvet Theater】は東京キネマ倶楽部を舞台に行われており、ここ恵比寿ガーデンホールでは初開催となる。MCでは松尾が、「2022年にザ・ゴールデン・カップスのゲストとして出演したときは椅子席だったので、オールスタンディングの光景を今日ステージから初めて見ました」と感激の様子。それを受けた亀本の「ここから見てる感じ、わりとZeppっすね」とのひと言に会場から笑いが起こり和む場面も。実際、ステージ前から後方までぎっしり埋まった光景は壮観だった。また、7枚目のアルバム『The Goldmine』を2023年11月15日にリリースすることについて松尾は、「1曲1曲、すべてがメインの曲です。今まで以上に開けた感じの曲も作ってるし、とても楽しく作ってます。早くみんなに聴いて欲しいです」と語り、会場は大きな拍手に包まれた。
ここで、スタジオジブリ作品『アーヤと魔女』のコンセプトアルバム『アーヤと魔女 SONGBOOK ライムアベニュー13番地』に収録された曲で、GLIM SPANKYの作品には未収録となっている「The House in Lime Avenue」を「60年代後半のバロック・ポップとか70年代初頭のアシッド・フォークから影響された、【Velvet Theater】の夜にピッタリな曲」との松尾の紹介からライブ初披露。アコースティックギターを中心に素朴に歌われるクラシカルな曲調にサイケデリックサウンドを纏った、まさにこの夜のための記憶に残る1曲だった。ガラリと雰囲気を変えたドラマティックな旋律の「こんな夜更けは」から、『BIZARRE CARNIVAL』収録のロックバラード「美しい棘」へ。イントロのアルペジオに拍手が起こり、歌い終えるとステージに拍手が送られる等、名曲に相応しい歌と演奏だった。
どっしりと迫力の演奏を聴かせた「Breaking Down Blues」から、ライブは終盤へ突入。「怒りをくれよ」、最新曲「Odd Dancer」と、新旧の楽曲が続く。バンドが一丸となってループする横ノリのグルーヴがクセになる「Odd Dancer」は、新境地を感じさせる楽曲だ。
MCで松尾は、「インスタとかで「【Velvet Theater】だからこういうファッションしていきます」ってメッセージをくれる子たちがすごく多くて。例えばTシャツでもなんでもいいんです。自分の中で好きなファッション、表現をすること、それが一番カッコイイから。“音楽は音だけじゃない”ってずっと言い続けているし、そういう気持ちで来てくれている人たちが今日はいっぱいいて本当に嬉しく思います。ありがとうございます!」と、思い思いの服装で集まったお客さんへの感謝を伝えると、「大人になったら」をエモーショナルに歌い上げてステージを降りた。
アンコールで披露されたのは、「Circle Of Time」。真骨頂ともいえるスケールの大きなサイケデリックサウンドで再びオーディエンスに火をつけると、サッとステージを後にしたものの、鳴りやまぬ拍手に三度ステージへ。「高校1年生のとき2007年に結成して、来年でメジャーデビュー10周年です。初心を忘れないように高校生の頃に書いた曲をやります」との言葉から最後に歌われたのは、「焦燥」。背後のスクリーンに映し出される真っ赤なリキッドライトが細胞のように脈打って、バンド結成時から決して色褪せることのないパッションを想起させた。サイケデリック且つディープな表現で魅了したこの日のライブの真ん中にあったものは、ロックミュージシャンとして混沌とした時代を生き抜く揺るぎない意思、“自分で居続けること”への不変のメッセージ。そしてそれを最高にカッコイイ音で表現するバンドの美学だった。
Text by 岡本貴之
Photo by 上飯坂一
◎公演情報
【Velvet Theater 2023】
2023年8月5日(土)
東京・恵比寿ガーデンホール
<セットリスト>
1.Velvet Theater
2.レイトショーへと
3.A Black Cat
4.NIGHT LAN DOT
5.MIDNIGHT CIRCUS
6.闇に目を凝らせば
7.ダミーロックとブルース
8.題名未定曲
9.AM06:30
10.In the air
11.吹き抜く風のように
12.The House in Lime Avenue
13.こんな夜更けは
14.美しい棘
15.Breaking Down Blues
16.怒りをくれよ
17.Odd Dancer
18.大人になったら
EN1.Circle Of Time
EN2.焦燥
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