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2023/10/05

<ライブレポート>斉藤朱夏“愛のやじるし”が飛び交ったツアーファイナル

 1996年8月16日生まれ。斉藤朱夏、27歳。今年の誕生日プレゼントは少し特別で、あの日から約4年間、待ち侘びていた“声”だった。

 2019年8月にアーティストデビューを果たし、同年11月に東京 渋谷・TSUTAYA O-EAST(現:Spotify O-EAST)にて、自身初のワンマンライブ【朱演2019「くつひもの結び方」】を開催してから間もなく。斉藤はコロナ禍を機に“声”を失った。

 その声、もといフロアからの“歓声”を取り戻し、自身の音楽活動における“第2章”のはじまりの場として、あのO-EASTから帆を上げたのが、今回の【朱演2023 LIVE HOUSE TOUR「愛のやじるし」】。9月17日には神奈川・KT Zepp Yokohamaにて、千秋楽公演が開催された。「みなさん、今日はファイナルですけど、たくさんの愛、朱夏にくれますか?」。そんな開幕宣言とライブタイトル通り、たくさんの“愛のやじるし”が飛び交った幸せな空間での記憶を、じっくりと大切に蘇らせてみたい。

 オープニングに流れてきたのは、街の雑踏、あるいはラジオの音声のようなもの。斉藤のさまざまな楽曲から歌声をサンプリングし、いくつも交差させたものだ。届いてくるのは、まさに開幕の曲名そのもの。「声をきかせて」という想いである。

 斉藤は歌唱前、短く挨拶をしたのだが、その際には潤んだ瞳を乾かすように、すぐに上を向いていた。この流れは、筆者が個人的に参加した初日公演でも同様だったのだが、違ったのは彼女の自信満々な表情。<出会ってくれてありがとう>など、歌詞にあわせて上手、下手へと合計4回に頭を下げた後、最後にはフロアから目一杯のシンガロングを受けたのだが、その際の顔つきは始まって1分間足らずながら、“うんうん、今日も大丈夫だ”と確信を示すものだった。

 ライブ前日に“自主練”としてスタジオ入りをしていた斉藤。賞レースの決勝戦を控えたラッパーばりに、気合いが滾りまくっている。これから、そんな斉藤朱夏の夏が、終わる。

 続く楽曲は「くつひも」。前述の通り、この約4年間で最初で最後の声出しが叶ったライブでも、2曲目に披露された楽曲である。ハチマキならぬ“くつひも”を結び直すことで、この期間の想いを改めて清算するような……この楽曲を披露せずして、今回のライブは成立しない。お立ち台に左足だけを乗せて、自慢のコンバースをアピールしたり、彼女の笑顔が音符のように届いてきたり。<もっと近づきたいよ>のフレーズが、フロアのファンに対する想いを表してくれる。体温のように心地よい熱が絡む、温かい時間が流れていた。

 ということで、“大義”は果たした。あとは好き放題にやらせていただく、などと言わんばかりに、ここから一気にアクセルを踏み込む。“タオル曲”こと「しゅしゅしゅ」では、2番の歌詞にあわせて、斉藤が拳にタオルを握るように巻きながら、フロアにチャレンジャーのような睨みを利かせてパンチを繰り出さんばかりの仕草を見せる。斉藤さん、これが“第2章の風格”ってやつですか?

 「パパパ」では、たとえ視線を向けていなかろうと、2階席を含めたフロア全体の変化に気づくのなんてお手のもの。しかも、今回は特別なサプライズが。楽曲終盤、フロアに背を向けて、自身の着用するスカートに手をかけた斉藤。もしかすると、衣装に仕掛けが施されており、この場でアレンジが加わるのかと思いきや、“これからの準備”のために、念入りにごしごしと手を拭いている。すると、台の裏に隠してあった“あるもの”に手をかける。

 取り出したのは、黄金に輝くトランペット。バンド隊の伴奏にあわせて、一音一音を確かめるようにゆっくりと鳴らし始めたところから、徐々に主旋律をなぞっていき、最後にはメロディの細かな部分までを再現する。小学校時代に器楽クラブで担当し、ここ最近も“とある楽器”に触れていると知ってはいたが、「正解はトランペットに挑戦しました!」の一言には、さすがに渾身の拍手を送る以外になかった。

 さて、今回のライブで印象的だったのが、ここからのしっとりとした展開。最新ミニアルバム『愛してしまえば』は、公式リリースで“ラブ&ポップ”と謳われた通り、表題曲をはじめ、この後に披露される「はんぶんこ」「夏唄」など、ポップス特化の一作だった。斉藤の音楽活動は第2章を迎えて、「くつひも」のようなポップスに立ち返るのか……などとは明かされていないものの、直近数作でフロアバンガーな楽曲も急増したぶん、今回のライブではこうしたミドルナンバーが斉藤の現在の心境をかなり代弁してくれていたように感じる。

 5曲目「はんぶんこ」では、“朱夏バンド”の西野恵未が演奏する、小学校で誰もが触れる鍵盤ハーモニカや、ひぐちけいのアコースティックギターなど、日常に溶け込むようなサウンドを通して、明日からの毎日を元気に過ごす活力を与えてくれる。曲中、歌詞にあわせた優しい手招きや、“はんぶんこっ”と、小さな“っ”が自然と語尾に付いてしまう彼女らしいボーカルも魅力だった。

 「夏唄」では、コーラスの音声も重なり、斉藤の歌声が凛とした光彩を纏っていく。青や水色の照明に照らされながら、“いつかの夏”の記憶を蘇らせるような感覚にさせられる。最後の<君だから 夏があふれてく>はアカペラで。この楽曲こそ、夏の始まりを歌ったものではあるが、今回はこの夏を愛しく振り返り、来年の夏へと想いを馳せつつ、残りわずかな残暑にそっと置き土産を残していくような、少しばかり切ないニュアンスが込められていた。彼女の歌は、その時々で聴こえ方がまったく変わってくる。

 「セカイノハテ」は、本人がツアー初日公演にて、コロナ禍に生まれてから、初めてコール&レスポンスが入ったことで、本当の意味でようやく“完成した”と熱く語っていた楽曲。そこから「みなさん、最強になりたいですか?」の問いかけで、ブチ上げ古今東西、国士無双パーティチューンこと「最強じゃん?」に。

 次曲「Your Way My Way」では、フロアを赤・青チームに分ける恒例のフラッグゲームに挑戦。普段は赤と青のどちらか、自身が頭をこんがらがらせている姿が印象的だが、この日はツアーで公演数を重ねていることもあり、「まぁまぁまぁまぁ」とフロアの興奮を宥めて落ち着けるなど、余裕のある振る舞いが新鮮に映った。

 そのまま、マシンガンリリックを放ちつつ、最後の〈紅茶もつけてどうぞ〉で、最前列の“キミ”とエアで乾杯のグータッチをぶつけあっていた「イッパイアッテナ」、斉藤とファンたっての願いが叶い、くじで選ばれた2名が叩く係・持つ係として、楽曲冒頭のドラを盛大に鳴らす「僕らはジーニアス」と、まだまだ手を緩めない。

 最新ミニアルバム収録曲「伝言愛歌」は、恋の病に胸を詰まらせ、あの強がりだった斉藤が〈誰か助けて〉と歌う、長年のファンにとっての衝撃作。途中にため息などの細かなニュアンスを含ませたかと思えば、終盤にはバンドの音が止まり、鼓膜が割れるのではないかというくらいに、声量バグなシャウトを爆発させる。

 そのシャウトの余韻が残ってか。夏のライブでは外せない「ゼンシンゼンレイ」でも、ラストの<何度も言うけど 間違いないのさ>を再び叫ぶように歌い上げる。ここで再び、最新ミニアルバム収録曲「ベイビーテルミー」が入ると、「伝言愛歌」と同じく、恋する気持ちを表現しながら、原曲よりも溜めを作り、歌声をレイドバックさせる場面も。意中の相手に対する想いが抑えきれずにたまらない様子が伝わってきた。

 夏、そして笑顔の象徴――<枯れないように 萎れぬように 君が水を注いでくれるよね>というフレーズに、“キミ”に対する斉藤の想いが象徴づけられているお気持ちソング「ひまわり」。会場一体となった最後のシンガロングでは、ワンフレーズが終わるたびに「もっともっと聞かせて!」、「まだまだ!」、「もっと!」と、斉藤が純粋無垢な表情でフロアに呼びかけ続ける。初日から千秋楽のために取っておいた涙が、拭っても拭っても、何度だって彼女の頬を伝っては溢れる。

 2022年夏にも全国ツアーを開催していた斉藤。勝手な想像だが、その時々で全力を尽くしながらも、日焼けした後の火照りのように、歓声を控えねばならない状況に心残りを抱き、その想いに対して約4年越しにようやくピリオドを打てたのではないだろうか。フロアからのこの日いちばんの“声”に酔いしれ、報われる、一世一代の夏の終わりに相応しい光景だった。

 アンコールはなし。最後の楽曲は「愛してしまえば」。CD音源からもわかる通り、ファンとのコーラスが重なって初めて完成する人間讃歌である。かわいらしいピアノのメロディに導かれながら、〈ドレミファソラシド〉など、純粋に音楽を楽しむことだけに没頭する。“キミ”と一緒に交わした声が愛へと変わり、身体の内側から溢れるエネルギーが、ライブ空間に充満していた。

 この日の締めくくりとなったフレーズは<La la la, All you need is love!!>。これまで、さまざまなアーティストが何年、何十年と歌い継いできたメッセージを、今度はこの世代で、斉藤朱夏が体現する番が回ってきた。これこそもしかしたら、斉藤の音楽活動における新たなテーマになっていくのかもしれない。

 「自分のことを愛すことができたなら、ここにいるキミ、大切な仲間、家族、友だちーー(みんなにも)そんな大切な人のことを愛してほしいなというキモチで、この“愛のやじるし”という言葉をつけました」。斉藤は別れ際、今回のツアータイトルに込めた願いを語った。ライブ中、彼女の姿を見ていてふと感じたことがある。

 この人は声優だが、それと同時に……いや、時にはそれ以上に大きな意味で、アーティストとしてステージに立つために生まれてきた気がしてしまった。あくまでも筆者の主観に過ぎないかもしれないが、この気づきにもし疑問を感じたようであれば、ぜひ次のライブ会場に足を運んでみてほしい。斉藤朱夏は、いつだって“キミ”の声を待っている。


Text:一条皓太
Photo:江藤 はんな ( SHERPA+ )

◎公演情報
【朱演2023 LIVE HOUSE TOUR「愛のやじるし」】
2023年9月17日(日) 神奈川・KT Zepp Yokohama

◎リリース情報
DVD/Blu-ray『斉藤朱夏 -朱演2023 LIVE HOUSE TOUR 愛のやじるし- at KT Zepp Yokohama』
2023/12/6 RELEASE

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