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2023/06/16 20:00

<ライブレポート>「BanG Dream!」の新バンド・Ave Mujica、シアトリカルな世界観へと誘った“0th"ライブ

 6月4日、東京・中野サンプラザでAve Mujicaのワンマンライブ【Primo die in scaena】が開催された。

 Ave Mujicaはブシロードが手がけるメディアミックスプロジェクト『BanG Dream!』(バンドリ!)の一角を担う新たなバンド。これまでバンドリ!プロジェクトではいくつものバンドの姿を追うゲームやアニメ、マンガ、小説を発表するとともに、ゲーム・アニメの担当声優によって結成された“リアルバンド”が実際に音楽活動を行うメディアミックス企画を展開してきた。そして、Ave Mujicaではそのコンセプトをさらに深化。2月に公式サイトが開設され、4月には初の楽曲となる「黒のバースデイ」のミュージックビデオが公開されている。しかし、キャラクターの顔にはいずれも仮面やマスクがあしらわれており、それぞれの名前は明かされていなかった。その後も音楽配信サイトなどでオリジナル楽曲を発表しはするものの、公式サイトや公式SNSで発信されるメッセージは謎解きゲームめいた意味深な言葉ばかりで、YouTubeにも不思議なボイスドラマが公開されるなど、もはやその実存すらも疑いたくなる覆面バンドとして活動してきた。

 そんな彼女たちが“0th”と位置付けたステージは、そのナンバリングと、ラテン語で“ステージ初日”を意味するサブタイトル【Primo die in scaena】にふさわしいものとなった。

 定刻、Ave MujicaのSNSで見つけたミュージックビデオに惹かれて、その世界に迷い込んだ少女・莉伽と彼女の行方を追う友人・瑠奈の物語を追うボイスドラマが会場に流れたのち、ボーカリスト&リードギタリスト、サイドギタリスト、ベーシスト、ドラマー、キーボーディストの5人がその顔に仮面やマスクをあしらった上、漆黒のローブのフードを目深にかぶった姿でステージに登場。2023年4月公開のAve Mujica名義での記念すべき1曲目「黒のバースデイ」で“ステージ初日”をキックした。

 このゴシッキーな高速ヘヴィメタルナンバーでテクニカルなアンサンブルとハイトーンボーカルを魅せた5人は、2曲目にangela「KINGS」のカバーバージョンをセレクト。変則的かつキレのいい8ビートに、硬質なスラップベースと正確なリズムギターが絡み合う原曲に最大のリスペクトを払ったアレンジで、客席のバンドリ!シリーズファン・バンドリーマーを唸らせた。さらにボイスドラマがインサートされたのちには、「ふたつの月 ~Deep Into The Forest~」と、ALI PROJECTの「暗黒天国」カバーバージョン、「Determination Symphony」を3連発する。彼女たちはストリングスとシーケンスを多用するオリジナル版の「暗黒天国」を大胆に翻案。スウィング仕立てのAメロから曲が進むにつれ高速2ビート、8ビートへと目まぐるしくリズムチェンジするバンドバージョンにお色直ししたこの曲で、不穏なピアノのアルペジオに背中合わせになったツインギタリストが重厚なリフを重ねるヘヴィロックチューン「ふたつの月 ~Deep Into The Forest~」と、威勢のいいギターロック「Determination Symphony」をリレーした。

 ボイスドラマ第3パートののちに始まったライブ中盤戦は、タイトルのとおり、クワイアをフィーチャーしたイントロと、リズミカルに言葉を浴びせかける平歌と流麗なメロディのサビが耳に残る「Choir ‘S’ Choir」からスタートする。そしてCreepy Nuts「堕天」をカバーした彼女たちは、オリジナル曲のトラックメーカー・DJ松永が繰り出すレゲエに軸足を置いたビートを高速に。スカパンクナンバーへと変身させてまたも客席を驚かせると、ボイスドラマを挟みつつ、コミカルなタイトルとは裏腹に正調ハードロックバラードといった趣きの「神さま、バカ」、バンドリ!シリーズの先輩バンド・Roseliaのアップリフティングなロックナンバー「PASSIONATE ANTHEM」、ドラマーの踏む高速2バスドラムが光る「Mas?uerade Rhapsody Re?uest」を畳みかけるセットリストでこの日一番の熱狂を巻き起こして、ひとまずステージをあとにした。

 再びボイスドラマが流れたライブ最終盤、ステージ上ではこの日最大のサプライズが。ボイスドラマが終わり、暗転していたステージに再び光が灯ると、そこにはローブを脱いだ5人の姿。マスクこそしているが、キーボーディストの「マスカレードの前に仮初めの名を与えましょう」の声とともにドロリス(Gt. & Vo.)、モーティス(Gt.)、ティモリス(Ba.)、アモーリス(Dr.)、オブリビオニス(Key.)とメンバーそれぞれの“仮初めの名前”が明かされた。これにどよめくバンドリーマーを前に、ドロリスの「……ようこそ。Ave Mujicaの世界へ」の言葉とともに、未発表の新曲にしてセルフタイトルナンバー「Ave Mujica」をドロップ。そのアウトロでサイドギターが鳴らしたフィードバックノイズを背にあらためて舞台袖へと歩を進め、自らの“0th"ライブを締めくくった。

 前述のとおり、この日の公演は“ステージ初日”という名にふさわしいものとなった。まず彼女たちは、半年間、名前はおろかメンバーのルックスすら明かされない覆面バンドが、先輩バンドリ!バンドと同じようにオーディエンスの前に自身の姿を晒したこと、そしてそれぞれのステージネームを公表することで、Ave Mujicaがまさに“リアルバンド”であることを高らかに宣言した。

 そして、そのプレイとセットリストは幕間のボイスドラマのセリフにあった「シアトリカルな世界観と歌詞は 誘惑であり抱擁。」というバンドのコンセプトを裏付けるに十分なものだった。全プレイヤーともそのテクニックをもってオリジナル曲をドラマチックに届け、また愛を手に他者との理解を願うangela「KINGS」や、妄想と現実のあわいを歌うALI PROJECT「暗黒天国」、アダムとイブの神話をモチーフにしたCreepy Nuts「堕天」、ステージに上がる者の希望や決意を表明するRoselia「PASSIONATE ANTHEM」をカバーするあたり、いかにもゴシックテイストな楽曲、ビジュアル、コンセプトを掲げて “初日”の“ステージ”に臨んだ彼女たちらしいものだったと言えるだろう。

 さらに、マスクやフードに覆われて表情こそ伺えなかったものの、彼女たちはそのパフォーマンスを通じて音楽を奏でる楽しさ、喜びをバンドリーマーに伝えることにも成功している。「堕天」のプレイ中、ドロリスはエキサイトしたか、軽いシャウトを挟みつつ、R-指定一流のリリックをフロウし、ティモリスは軽くステップを踏みながらこの曲のリズムを支えていた。また、モーティスは再三ステージ最前に繰り出してはバンドリーマーを挑発。アモーリスも左手でリズムを刻みつつ、右手のスティックを天高く掲げては彼らの盛り上がりを煽り、オブリビオニスは時折、ドロリスの歌うメロディをなぞるように流麗なダンスで客席を魅了していた。

 聴く者に自らのコンセプトとありよう、そしてチャーミングな横顔をテクニカルでエモーショナルなステージングを通じて伝えるAve Mujicaの姿は、正しくロックバンドのそれだった。それだけにバンドについて、メンバーについて、さらに明かされていくだろう今後の彼女たちから目が離せない。そんな期待を抱かせてくれる一夜だった。

Text by 成松哲
Photo by ハタサトシ


◎公演情報
【Ave Mujica 0th LIVE「Primo die in scaena」】
2023年6月4日(日)
東京・中野サンプラザ
<セットリスト>
01. 黒のバースデイ
02. KINGS
03. ふたつの月 ~Deep Into The Forest~
04. 暗黒天国
05. Determination Symphony
06. Choir ‘S’ Choir
07. 堕天
08. 神さま、バカ
09. PASSIONATE ANTHEM
10. Mas?uerade Rhapsody Re?uest
11. Ave Mujica

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