2023/06/08
原 由子のライブ映像作品『スペシャルライブ2023 「婦人の肖像 (Portrait of a Lady)」 at 鎌倉芸術館』がBlu-rayとDVDでリリースされた。
ソロキャリア初のライブ映像作品となる今作は、昨年10月にリリースされた31年ぶり、4作目のオリジナル・アルバム『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』のリリースを記念して、2023年3月6日・7日の2日間にわたり、神奈川・鎌倉芸術館で開催された13年ぶりのソロワンマンライブの模様を収録している。
2日間のチケットは、客席数の10倍以上の応募が殺到して即日完売。急遽、3月7日の公演では、全国13都市16館の映画館でライブビューイングが実施された。いかにソロアーティスト・原 由子のライブが長年期待されていたかがわかるエピソードだ。そんな貴重なライブだっただけに、観ることが叶わなかった人たちから映像作品化を熱望する多くの声が寄せられたという。
そしてこの度、40年を越えるソロキャリアで意外にも初めてとなるライブ映像作品がリリース。ファンにとって待望の映像作品であり、サブスクなどで『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』を聴いて原の音楽と出会った人たちにとっては、これまでサザンオールスターズでボーカルを取った曲、ソロ代表曲など彼女のヒストリーを知ることができる、またとない機会になっている。
筆者は、最終日の3月7日の模様をBillboard JAPANでレポートさせてもらった。期待を遥かに超える素晴らしいライブで、しばらくアルバムを聴きながら余韻に浸っていただけに、映像化は本当に嬉しい。発売日に早速今作を鑑賞したので、ライブでの原 由子の魅力を改めてお伝えしたいと思う。
見どころは山ほどあるが、まずはやはり、原と縁深い鎌倉を舞台にしていることを念頭に置いて見てみたい。ライブは「鎌倉物語」(サザンのアルバム『KAMAKURA』(1985年)収録曲)からスタートする。原の柔らかな歌声、純朴なピアノの旋律と共にスクリーンに映し出される江の島、江ノ電、鶴岡八幡宮など鎌倉周辺の名所を巡りつつ、自分が物語の主人公になった気分でライブに入っていけるオープニングが秀逸だ。広大な田園風景をバックに歌う「花咲く旅路」、映像を使わず照明もシンプルにメロディの良さを際立たせている「旅情」、京都の風景をバックにドラマティックな演奏と歌に引き込まれる「京都物語」。四季折々の日本の美しさと抒情性を表現した、旅にまつわる曲たちのステージ演出は見事で、このライブ映像をきっかけに原の曲を聴きながら旅に出たくなるほどだ。「今日は全国から駆け付けてくださった方も多いと聞いています。本当にありがとうございます。長旅でお疲れが出ませんように、くれぐれもご自愛ください」と、微笑みながらファンを気遣う原のMCも人柄溢れまくりで、今作の楽しみのひとつ。
演奏は、斎藤誠(G)、角田俊介(B)ら、サザンや桑田佳祐ソロでもおなじみのミュージシャンたちによる10人編成バンドによるもの。河村“カースケ”智康(Dr)のプレイを上から捉えたカメラアングル等、演奏の細部を垣間見ることができるのも見どころだ。『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』全曲を中心とした新旧楽曲で構成されたセットリストでは、「私はピアノ」(1980年)、「恋は、ご多忙申し上げます」(1983年)、「ハートせつなく」「じんじん」(共に1991年)といった代表曲も散りばめられていて、大いに会場を盛り上げている。また、鍵盤だけでなくアコースティック・ギターを弾きながら歌ったり、ハンドマイクで歌ったりする原の姿も収められている。
中盤では、再び鎌倉の風景と共に「あじさいのうた」から「鎌倉 On The Beach」が歌われる。「鎌倉物語」の続編をイメージして書かれたというこの曲は、当時恋をしていた若者たちが、時を経て成熟し大人になった世界が描かれている。この日のライブは、様々な曲を織り交ぜながら過去と現在を繋ぐものであると同時に、第一線で活躍してきたアーティストであり母親でもある彼女の人生と、その姿に長年励まされてきたファンたちの人生を繋ぐものでもあった。そういえば、映像の冒頭で鎌倉芸術館の正面入り口の上に墨字で書かれた「共に生きる」という文字が映っているのが、なんだかこのライブを象徴しているように思えてくる。
アンコール最後の「いつでも夢を」(橋幸夫と吉永小百合のデュエット曲カバー)では、途中から桑田佳祐がサプライズ出演する。この登場シーン、会場でもライブビューイングでも、興奮のあまり冷静さを失っていた人もいたのではないだろうか。筆者もまさしくその一人である。サザンのライブでは、こんな至近距離で原・桑田コンビを見ることはできないはず。今思い返しても客席からの大声援は本当にものすごくて、一瞬歌声がかき消されたぐらいだった。そんな瞬間を、落ち着いてじっくり鑑賞できるのも嬉しいところ。とはいえ、何度見てもやっぱり大興奮してしまう。
何かと心がささくれ立つ今の世の中で、こんなにも音楽を純粋に楽しく素直に受け取れる、心地良いライブ映像があるだろうか。エンディングで繰り広げられる原と桑田のやりとりも、ほっこりとしつつ思わず目が潤む。きっとこれから先も、彼らが作る音楽が私たちに“いつでも夢を”見させてくれるに違いない。
尚、【完全生産限定盤】には「ヤバいね愛てえ奴は」「鎌倉 On The Beach」「スローハンドに抱かれて (Oh Love!!) 」のミュージック・ビデオと「Making of “婦人の肖像 (Portrait of a Lady)”」がボーナストラックとして収録される他、64ページにおよぶ「スペシャルライブ2023 “婦人の肖像 (Portrait of a Lady)”」フォトブックも同梱。アートワーク、パッケージデザインも美しく、原からの贈り物のように感じられる。長年のサザン、原 由子、桑田佳祐ファンにとって今作は、青春時代の甘酸っぱくもほろ苦い思い出が詰まったタイムカプセルであり、現代を生きる自分たちへのご褒美、宝物。それでいて、初めて原の曲を聴く人、ライブを観る人にとっても極上の音楽体験ができる作品だ。
Text by 岡本貴之
◎リリース情報
Blu-ray&DVD『スペシャルライブ 2023「婦人の肖像 (Portrait of a Lady)」at 鎌倉芸術館』
2023/6/7 RELEASE
<完全生産限定盤(Blu-ray+Book)>
VIZL-2800 / 8,580円(tax in.)
<完全生産限定盤(2DVD+Book)>
VIZL-2801 / 8,580円(tax in.)
<通常盤(Blu-ray)>
VIXL-1700 / 7,480円(tax in.)
<通常盤(2DVD)>
VIBL-2100~2101 / 7,480円(tax in.)
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