2023/05/22
ハイブリッドな音楽性とハイテンションなパフォーマンス。ステージ上から放出されるエネルギーと情報量の膨大さに圧倒されると同時に、未知のものに触れたときの高揚感と素晴らしい体験をしたときの多幸感が一気に押し寄せ、正直、ひと言では言い表せない感情に包まれた。5月13日、東京キネマ倶楽部で行われた、ミームトーキョーの全国ツアー【MEMETIC INFECTION TOUR】東京公演は、それほどまでの刺激に満ちたライブだった。
ミームトーキョーは、MEW、RITO、SOLI、SAE、MITSUKI、NENEの6人のメンバーから成るユニット。ディアステージ所属ということで、先輩にあたるでんぱ組.incの系譜に連なる、ポップかつオルタナティブなミクスチャー感覚が活動全体の肝になっているが(ちなみにメンバーのRITOは天沢璃人として、でんぱ組.incのメンバーを兼任している)、でんぱ組.incが「電波ソング」「萌えソング」などの秋葉原発オタクカルチャーや、より広範な意味での「Kawaii」カルチャーを軸にその音楽性を拡張していったのに対し、ミームトーキョーはそれらの要素も内包しつつさらに広い視野で活動している印象が強い。音楽的にもハイパーポップやフューチャーベースといった最新鋭のジャンルを意欲的に取り入れていることを含め、誤解を恐れずにあえて例えるなら、K-POP発の「ガールズクラッシュ」的なスタイルと日本特有のエッジーな「ライブアイドル」文化を掛け合わせたような、型破りの個性が感じられるのだ。
その規格外かつボーダレスな魅力を存分に伝えてくれたのが今回のライブ。ツアータイトルであり、6月7日にリリースされる彼女たちの最新EPの名前でもある「MEMETIC INFECTION」にあやかってか、まるで遺伝子や原子の連なりを想起させるオブジェが舞台を飾るなか、警告音のようなサイレンが鳴り響き、メンバー紹介を兼ねたオープニングムービーがスクリーンに上映されると、続いてガスマスクを被ったメンバーがステージに登場。それを脱ぎ去ると、最新EPからの先行配信曲「GAV RICH」でライブをスタートさせる。新進気鋭のボカロPであるSTEAKAが提供した衝動的なエレクトロサウンドに彩られた本楽曲、メンバーが次々と入れ替わりながらパワフルな歌声を畳みかけていく波状攻撃が凄まじく(特にNENEの速射ラップのようなくだりが強烈!)、MEWがリードするサビのフレーズもキャッチーな愛らしさを備えつつ中毒性抜群。続く「リバーズ・エンド」のギラつき具合もハンパなく、6人は序盤からフルスロットルで駆け抜けていく。
ライブの定番レパートリーとなっている「Sabotage」は、ビースティ・ボーイズの名曲のカバー。もちろんでんぱ組.incのカバーバージョンを踏襲したものだ。MCでそれぞれ気合いの入った挨拶をすると、「メテオ蜃気楼」「アニモア」とウ山あまねが詞曲を提供したハイパーポップ調の2曲を連続で披露。“傷だらけの床に寝転がって眠る”(「メテオ蜃気楼」)という歌詞のところで実際に床に寝転ぶなど、楽曲のイメージを一層鮮やかに表現しつつ、奔放な動きを取り入れたダンスも彼女たちの特色だ。「アニモア」では客席からコールも巻き起こり、会場の熱気が一気に上昇する。
ここからは、最新EPに収録されるメンバーのソロおよびユニット曲をメドレー形式でお披露目。まずはRITOがリズミカルなソロ曲「Mephisto」で妖しくも情熱的な歌声を響かせると、続いてNENEとMITSUKIがエモーショナルな「Melt」でダンスも含めた見事なコンビネーションを披露する。サイドステージから登場したMEWとSAEが歌ったのは、華やかなアップチューン「TWEED」。パンキッシュな歌い口のMEW、艶味を帯びたSAEの対照的なスタイルの融合が楽曲の魅力をさらに際立たせる。最後はSOLIが柔らかなミディアム「ブルーレター」を歌唱。クラップしながら「みんな一緒に!」と呼びかけて、温かな一体感を作り上げてみせた。
その後、SOLIが退場してステージが無人になると、再びサイレンのようなSEが鳴り始め、次は新曲が披露されること、その1曲に限りスマホで撮影OKという旨が告知される。その新曲「Feel the Virus」は、ミームトーキョーの楽曲を多く手がける作家の海猫沢めろんによる歌詞、maeshima soshiとOHTORAのコンビによるダンサブルな曲調がクールかつ刺激的な世界観を描くナンバー。6人のフォーメーションやポージングを活かしたステージングもスタイリッシュで、熱気を孕んだ彼女たち独特のバイブスがウィルスのように広がり感染していく。なお、本楽曲の撮影動画はハッシュタグ「#MEMETIC_INFECTION」を付けたうえでSNSでの公開が推奨されていたので、気になる人はぜひ検索して映像をチェックしてみてほしい。
そこからアッパーなエレクトロスウィング「モラトリアムアクアリウム」で会場をダンスフロアに早変わりさせると、間髪入れず毒々しさがクセになる雑食ファンク「アンチサジェスト」を投入。葛藤を振り切って我が道を進むような気迫とパッションが観客にも伝播していく。その後、MCで客席に向けて檄を飛ばしてラストスパートに突入。最新EPからワイルドなEDMトラップ「SNSKILLER」で熱狂を生み出すと、MEWの「世界の中心で、飛べーっ!」というスクリームを合図にライブの鉄板曲「スーサイド ボーダレス」に雪崩れ込み、その命を焦がし尽くすようなエネルギッシュ極まりないパフォーマンスで、観る者を興奮と恍惚の世界に誘う。そしてライブ本編のラストは、彼女たちのメジャーデビュー曲でもある「THE STRUGGLE IS REAL」。Giga×TeddyLoid製の先鋭的かつモダンなEDMサウンドに乗せて届けられるのは、世間の凝り固まった価値観ではなく自分自身のリアルを信じて生きる者の歌。「THE STRUGGLE IS REAL」はメンバー自身が作詞に関わっている楽曲だが、最後の“この瞬間を燃やしたいの 僕の世界邪魔しないで”というフレーズには彼女たち自身の生き様が詰まっているようで、ステージ上で完全燃焼する6人の在り方そのものだったように思う。
メンバーがステージを降りた後、またもサイレン音が鳴り、今度はミームトーキョーのウィルスをSNS上に拡散して感染者(ファン)を増やすための施策を実施。スクリーンに映し出されたQRコードをスマホで読み取ることによって、自身のツイッターアカウントに今回初披露された新曲「Feel the Virus」の歌詞が自動的につぶやかれるという仕組みだ。先ほどの動画撮影OKの取り組みと合わせて、まだ発売前の新曲を使ったユニークなプロモーションと言えるだろう。
その後のアンコールでは、ライブ人気の高い晴れやかなポップチューン「ニュー・ポスト」、そしてSOLIがソロで歌った「ブルーレター」を改めて6人で歌唱。もともとSOLIのソロ曲として彼女自身の作詞で制作が進められたこの楽曲、韓国出身で今も韓国に住みながら日本でも活動している彼女の淡い心情が描かれており、それをメンバー全員で楽しそうに歌う姿を見ていると、あらゆる境界や垣根を取っ払い、それぞれの個性と価値観を尊重し合いながら、それらをミクスチャーすることで新しいモノを生み出し続けている、ミームトーキョーという存在そのもののかけがえのなさをより実感できる。
これもメンバー自身の作詞となる「スーサイド ボーダレス」の歌詞に“Ah 革命起こして 打ち砕く 固定観念ぶち破れ”という印象的なフレーズがあるのだが、今回のライブを観て、彼女たちは革命を起こそうとしているのだということを、はっきりと感じ取ることができた。それはアイドルやガールズユニットへの先入観や固定観念に対する挑戦であり、既存の価値観に捉われることなく、あらゆるボーダーを越えて、世界中に自分たちのスタイルを届けようとする意志だ。百聞は一見に如かず、ミーム―トーキョーのライブを未体験の人はぜひ一度観に行ってほしい。煩わしいことに溢れたこの世界をストラグルする彼女たちの生命の輝きに、きっと感動を覚えるはずだから。
Text:北野 創
Photo:チェリーマン
◎公演情報
【MEMETIC INFECTION TOUR】
2023年5月13日(土)
東京・東京キネマ倶楽部
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