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2022/11/18

<ライブレポート>マカロニえんぴつ、レア曲満載のファンクラブ限定ライブで見せた“大好きな音楽への憧れ”

 11月13日、マカロニえんぴつが【マカロック“初”野音ワンマン☆東阪篇】の東京公演を日比谷公園大音楽堂で開催した。この日はバンドのファンの名称であり、ファンクラブの名前でもある「OKKAKE」会員限定のライブ。近年は多くの人に知られるようになったが、日比谷野音は人気の高い会場のため、日にちが押さえられるかどうかは抽選で決定される。この日は小雨まじりの天気だったものの、その抽選を勝ち抜いて得た特別なライブを、ファンクラブメンバーのみで体験できるというのは非常に貴重で、贅沢な体験だったと言える。

 オーディエンス全員がマカロニえんぴつを熱心に追いかけているファンということもあり、セットリストの8割はインディーズ時代の楽曲で、約半数が2017年発表のファーストアルバム『CHOSYOKU』以前の楽曲というレアな選曲。それゆえに改めてバンドの核が浮かび上がるようなライブだったわけだが、やはり彼らの背景にあるのは90年代以前、今ではクラシックロックに分類されるであろうバンドからの影響が顕著であることが伝わってきた。

 ファンにはお馴染みのSE、ビートルズの「Hey Bulldog」で登場し(ちなみに、直前まで会場BGMとしてかかっていたのは、エイジアの80年代のヒット曲「The Smile Has Left Your Eyes」)、一曲目に演奏されたのは「トリコになれ」。高野賢也によるフリー(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)ばりのスラップベースとともに、自らのバンド名を自虐しながら〈あの娘に勧めたいけどバンド名がな ダサすぎ/いや、レッド・ホット・チリ・ペッパーズという親玉の存在を忘れるな〉と歌う一曲だ。

 トレードマークのフライングVでソロを弾き倒す田辺由明のギターにしろ、要所のオルガンやハープシコード使いが印象的な長谷川大喜のキーボードにしろ、やはり感じられるのは70~80年代のロックのテイスト。そして、メインのソングライターであるはっとりにとって大きいのは90年代の英米を代表する2大バンド・オアシスとウィーザーで、代表曲のひとつ「恋人ごっこ」はこの2バンドを無理矢理くっつけたような曲だし、「春の嵐」のアウトロでははっとりが「Champagne Supernova」のフレーズを奏でる場面もあった。

 この日のセットリストで最も注目すべきは、ファンからのリクエスト上位3曲が演奏された中盤の流れ。3位が「零色」、2位が「ワンドリンク別」と、ともに初の全国流通盤『アルデンテ』からの楽曲だったことからして、古参ファンが多いことが伝わるが、1位に選ばれたのは『アルデンテ』よりもさらに前、2014年に自主で制作された4枚目のデモCD『サンキュー・フォー・ザ・ミュージック』のタイトル曲。この曲もやはりウィーザー風で、はっとりのパワーポップ好きが昔から変わらないことを強く感じさせるものだった(ちなみに、このCDに収録の「言い訳ばかりの男」にも「Champagne Supernova」のフレーズが出てくる)。

 先日『アルデンテ』のラストに収録されていた「あこがれ」の再録が発表されたように、結成10周年を経た今も、彼らを動かし続けているのは大好きな音楽への憧れだ。「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」では〈意味のわかんない英語の歌なのに なんかグッと熱くなる/助けてくれてどうもありがとう 悩んでばっかじゃつまらないや〉と歌われているが、「なんでもないよ、」ではgnashの2018年のヒット曲「imagine if」からアレンジの着想を得ていたように、今もはっとりは“意味のわかんない英語の歌”に熱くなり続けている。

 その一方で、ユニコーン、くるり、GRAPEVINEといった国内の上の世代のバンドにも憧れ、さらにはクリープハイプやSUPER BEAVERといった同時代のライブハウスシーンにおける先輩バンドの背中も見ながら、独自のポジションを確立していったのが彼らの希有なところ。だからこそ、決して古臭いだけのクラシックなロックバンドになることなく、“邦ロック”のファンにも愛されるバンドになった。さらには、90年代に青春を過ごした世代が社会の中で決定権を握るようになって、その時代のリバイバルが起きるタイミングも重なり、以前から掲げる「全年齢対象ポップスロックバンド」への道を着実に進み続けている。

 最近知ったのだが、はっとりは今もライブでイヤモニを使っていないのだそう。もちろん、同期を多用するわけではないので、そもそもイヤモニが不可欠のタイプではないのだが、ある程度の規模感のバンドであればイヤモニを使うことが普通になった現代において、すでに日本武道館や横浜アリーナでのワンマンを経験しているバンドのボーカルが、イヤモニを使っていないのはレアケースだと言っていいはず。そこにはプラス面・マイナス面の双方あるだろうが、少なくともリズムの揺れや空気の振動も含めた生感が、ロックバンドとしてのマカロニえんぴつのライブを形成する上で、重要な要素になっているのは間違いない。

 一部ではロックバンドが絶滅危惧種とも呼ばれる時代において、クラシックロックのスタイルを引き継ぎながら、しっかりティーンのファンを巻き込みつつ、第一線で活動を続けることは決して簡単なことではないだろう。「好き」を追いかけ続けること、そんな自分を肯定し続けるのが意外と難しいことは、自分に置き換えてみれば、誰もが感じることのはずだ。しかし、はっとりはこの日の本編ラスト「なんでもないよ、」の前に「(マカロニえんぴつを)10年続けることができてます。あなたが求めてくれるからです」と感謝を伝え、「俺が一番好きなバンドはマカロニえんぴつだ。俺が始めた、マカロニえんぴつだ。あなたもそうであってほしい。いつでも、この先も、あなたの前にいる僕が好きだ」と、自分を愛することの重要性と、それは自分を認めてくれる他者の存在があってこそ可能であるという「なんでもないよ、」のメッセージを、直接言葉で伝えた。そう、ときには時代に揺らぎながら、それでも10年間マカロニえんぴつがマカロニえんぴつであり続けられたのは、間違いなくこの日集まったオーディエンスのおかげだ(配信でライブを見ていた「あなた」も含めて)。

 アンコール一曲目に演奏されたのは、こちらもパワーポップ調の「愛の手」。そして、最後は「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」ともリンクする〈グッと来たあの瞬間から正義なんです永久に〉という歌詞の「OKKAKE」でライブが終了。これからもマカロニえんぴつは憧れを追いかけ続けて、OKKAKEはマカロニえんぴつを追いかけ続ける。そんな両者がライブ会場でお互いを認め合って、自分のことを愛せたなら、そんなに素晴らしいことはない。

Text:金子厚武
Photo:酒井ダイスケ

◎公演情報
【マカロック“初”野音ワンマン☆東阪篇】
2022年11月13日(日)
東京・日比谷野外音楽堂
<セットリスト>
1.トリコになれ
2.レモンパイ
3.洗濯機と君とラヂオ
4.ハートロッカー
5.たましいの居場所
6.恋の中
7.恋人ごっこ
8.春の嵐
9.ヤングアダルト
10.零色
11.ワンドリンク別
12.サンキューフォーザミュージック
13.イランイラン
14.愛のレンタル
15.カーペット夜想曲
16.STAY with ME
17.星が泳ぐ
18.なんでもないよ、
<アンコール>
1.愛の手
2.OKKAKE

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