2022/08/30
2022年8月28日に東京・Zepp DiverCityで開催された、MUCCの現体制初のアルバム『新世界』を引っ提げた全国ツアーのファイナル公演の公式レポが到着した。
新世界とは真なる世界であり、どこか神がかり的な世界でもあり、何よりも進み続けることの意味を感じさせてくれる世界でもあった。今年の6月9日に結成25周年の大きな節目を迎えたMUCCが発表した、現体制による初のアルバムであると同時に通算16枚目のアルバムともなった『新世界』。その内容はまさにタイトルのごとく、MUCCというバンドが提示する新世界秩序そのものであったのではなかろうか。
新体制での緻密かつ濃密なグルーヴ。今の体制になったからこそ繰り出せるさらに洗練されたサウンドメイク。フェイクとリアルが雑に混ぜあわせられ氾濫する市井のタイムラインを横目に、巧妙な表現をもって彼らにとっての現実と願望が織り交ぜられていく歌詞たち。それらが渾然一体の様相で供されることにより、アルバム『新世界』の中には“四半世紀の歴史を紡いできたMUCCが進みゆく、ここからの新たなる世界”の姿が描かれていたに違いない。
また、アルバム『新世界』のリリース直後から始められた【MUCC TOUR 2022「新世界」~Beginning of the 25th Anniversary~】について言えば、なんと彼らは今までになかったアプローチでライブ自体を“アトラクション”として定義する、というなかなかに斬新な手段を選択。最新鋭のライティングシステムや、随所にまでこだわった演出をしていくことで、生演奏の迫力や臨場感を前提とはしつつも、そこに完成されたエンターテインメントとしてのショー要素を盛り込んでいくことになったのである。
ゆえに、このたびツアーファイナルを迎えたZepp DiverCityの場内においては開演前に日本語・中国語・韓国語で順次《新世界は夢烏(ムッカー=MUCCファンのことをさす愛称)の皆様の心が、猛スピードで、急旋回、急上昇、急降下するアトラクションです。みなさま、MUCCの新世界を心身ともにご堪能ください。それではいってらっしゃいませ》という、テーマパークでよく耳にするようなアナウンスが流されていた点も演出としてなかなかに粋だったかと。
そして、アルバム『新世界』と同じようにインスト「新世界」をイントロダクションとするかたちで、象徴的な〈狂いそうな新世界 綺麗だった?旧世界〉というフレーズがスケール感のある音像の中で歌われていった「星に願いを」、いかつい重低音が轟く中で曲にあわせ夢烏たちがクラップで加勢した「懺把乱」、昨秋に現体制でのあらたな一歩として世へ発表された楽曲である「GONER」までの3曲が新譜のとおりの流れでプレイされていった場面は、観衆たちの意識が一気に新世界という名の異世界へと誘い込まれることに。だが、フロントマン・逹瑯は我々がただただ彼らの音楽に漫然と魅了されていくことを許してくれるわけもない。
「Tokyo!ひとり残らず、全員で暴れ狂えよ。いいか!!」(逹瑯)
ここで投入されたのは、かれこれ20年前に発表されたセカンドアルバム『葬ラ謳』に収録されていた、根強い人気曲として夢烏から長く愛されている「スイミン」。逹瑯が派手に煽ったこともあり、ここでは夢烏たちの飛び跳ねぶりによってZepp DiverCityの2階席が激しく振動しだしたのだが、コロナ禍以降に筆者が同会場にて臨場したさまざまなライブと比較してもこの時の震度は限りなく随一であった気がする。
以降、今回のツアーファイナルではアルバム『新世界』の流れを下敷きにしながらも、絶妙な配分と配置をなされた楽曲たちが続々とオーディエンスを楽しませていくことになったのだが、本編中盤にてYUKKEがアップライトベースを使うことで艶っぽくアンニュイな空気感を醸し出してくれた「COLOR」、そこはかとなく90年代UKロックの香りが漂う「R&R darling」の2曲は中でもすこぶる秀逸で、特に後者に関しては音源だとフェードアウトするところをフリーの尺でアウトロセッションをしていった展開が胸熱すぎた。優しく穏やかなミッドテンポの揺れがひたすら心地よく、かれこれ後半のセッション部分だけでも約4分半が費やされ、ミヤが楽しそうにインプロヴィゼイション的にソロを弾き、YUKKEが小気味よくジャンプしながら指弾きフレーズを響かせ、逹瑯が観客たちの顔を見わたしながら踊ったりフェイクをしたり、かと思うとメンバー同士が笑顔でアイコンタクトをとりあったり、というその様子は、時を忘れるくらいに素晴らしいもので、その様は彼らがさぞかしこのツアーで充実した時間を過ごしてきたのであろうな、ということをよく証明していたと言える。
「…今日の(アウトロ)はこのツアーで一番長かったな(笑)。楽しかったね!というわけで、今回は『新世界』というアルバムを作って良いツアーを廻れたと思います。今日でひとまずツアーは終わりますが、まだ君たちの声を聴くことが出来ていないので。本当の意味で『新世界』を完成させるのは、もうちょっと先のことなのかなと思ってますから、その時はまたよろしくお願いします」(逹瑯)
この言葉の後には以下のような意思表明が付け加えられたことも、このライブにおいては重要なポイントだったように思う。「そしてね。25年前に始まったMUCCというバンドは、最初の頃ずっと「現実なんて最悪だ、絶望だ。未来なんてくそくらえ!」という感じで歌ってきていましたが、ここに来て「現実を噛みしめて、未来を見ようじゃねーか」という思いをのせた作った歌がたくさん出来ているというのは、非常に感慨深いなと。てめーらの後悔も、失敗も、願いも、全部を連れてこの先の未来へ行こうと思います!」(逹瑯)
ここからの「咆哮」の歌詞にある〈響かせろこの決意を〉〈決意の時がきたのなら 声枯らして叫べ〉なるくだりは、当然ながら我々にとってもリアルな言葉として受け止めることが出来た。サポートドラマー・Allenがミヤと共作した「Paralysis」、ミヤがサイケデリックペイントが施されたX JAPAN・hideモデルのモッキンバードを持ってパフォーマンスした「零」、この夜Zepp DiverCityに観客として来場していたというSATOちの存在を意識して選曲されていたとも推測出来る「前へ」と、相変わらず彼らの組むセトリは隙がなく完璧。
そのうえで、MUCCは勢いやノリだけにまかせて能天気に前進していくタイプのバンドではないことを本編の最後であらためて実証することになり、昨今の世界情勢ともリンクした残酷で辛辣な現実が綴られた「いきとし」では重苦しい空気がこの場に生み出されてしまう。だからこそ、そのあとに「世界中に明かりが灯りますように…」という逹瑯の一言が添えられてから放たれた「WORLD」はこの場内に居合わせた人々の心を浄化し、温かく包容していく救いの歌として聴こえてきたのかもしれない。
なお、アンコールでは名は体を表すパワーチューン「爆弾」、MUCCのライブには欠かせない「蘭鋳」、これまたSATOちが作曲に参加している「家路」、ツアー中に各地で披露されていったという新曲「終の行方」の計4曲が奏でられたのだが、終演後には会場出口にてQRコードがプリントされたフライヤーが来場者全員に配布され、これをデジタル端末で読み込むと“エンドロール動画”が再生され、それをもってこの日のライブが終結するという締めくくり演出が観客たちのことを待ち受けていた。
ちなみに、その動画によると12月21日にはミニアルバム『新世界 別巻』が発表となり、12月22日と23日には恵比寿リキッドルームにて【新世界 完結編】と題されたワンマンライブが開催されるという。詳細が発表済みの10月から12月まで続いていく【MUCC 25th Anniversary TOUR 「Timeless」~朽木の灯~】も含めて、MUCCの25周年はまだまだこれからもてんこ盛りらしい。
真なる世界であり、どこか神がかり的な世界でもあり、何よりも進み続けることの意味を感じさせてくれる世界でもあった、新世界を経て。MUCCの前途が洋々たるものとしてこれからも続いていくことは、もはや約束されたも同然だ。
Text:杉江由紀
Photos:冨田味我
◎公演情報
【MUCC TOUR 2022『新世界』~Beginning of the 25th Anniversary~】
2022年8月28日(日)東京・ZeppDiverCity
セットリスト:
01.星に願いを
02.懺把乱
03.GONER
04.スイミン
05.パーフェクトサークル
06.KILLER
07.NEED
08.HACK
09.未来
10.COLOR
11.R&R darling
12.咆哮
13.Paralysis
14.零
15.前へ
16.いきとし
17.WORLD
encore
en1.爆弾
en2.蘭鋳
en3.家路
en4.終の行方(新曲)
◎配信情報
ニコニコ生放送『MUCC TOUR 2022「新世界」~Beginning of the 25th Anniversary~』
https://live.nicovideo.jp/watch/lv338205584
視聴チケット価格:4,500円(tax in.)
チケット販売期間:2022年9月10日(土)23時59分まで
アーカイブ視聴期間:2022年9月11日(日)23時59分まで
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