2022/08/10 10:00
TOMOOが8月7日、ワンマンライブ【Estuary】を東京・LINE CUBE SHIBUYAにて開催した。3日に1stデジタルシングル「オセロ」をリリースし、晴れてメジャーデビューを果たしたTOMOO。この日の公演は、そんな彼女を祝うかのような華やかな一夜だった。
開演すると、まず川辺で少年がカセットテープを拾うシーンの映像が流された。ほどなくしてTOMOOが力強くピアノを弾くカットへと切り替わる。そして幕が上がり、軽快なバンド演奏が合流した。序盤は「HONEY BOY」と「らしくもなくたっていいでしょう」で勢いよくスタート。TOMOOがマイクを持って美しい歌声を響かせると、3階席まである広い客席から待ってましたと言わんばかりの大きな手拍子が起きた。
TOMOOは「ずっと“フルカラー”で自分の曲を届けたいと思ってた」と話す。その言葉の通り今回のライブは、ストリングスや金管隊を従えた豪華な生演奏も魅力の一つ。そして照明や映像を用いて楽曲の世界観を巧みに表現している。例えば、次に披露した「酔ひもせす」には“星がきれいだ もうすぐ春だね”というフレーズがあるが、ここでステージのバックに煌びやかな照明が出現した。まるで星空のようなライトの演出だ。このように今回の公演は、これまでの彼女の作品があらゆる演出によって、まさに“フルカラー”に生まれ変わった一日だと言えるだろう。
その後バックコーラスが美しい「雨でも花火に行こうよ」、流麗なピアノのメロディが心地良い「スコール」を経て、弾き語りコーナーへ。今となってはこうして豪華なバンド演奏の中で歌っている彼女だが、元々はピアノ一本の弾き語りから活動を始めている。この弾き語りの時間で何を歌うか直前まで悩んでいたらしいが、1曲目に選んだのは「River」だった。この曲は人生で初めてセットリストを組んでライブをした時の1曲目だという。彼女にとってある意味、原点とも言える曲だ。続いて歌ったのは「レモン」。音楽活動を始めた頃のエピソードを交えつつ、柔らかいピアノのタッチと、TOMOOのあたたかくやさしい歌声が会場全体に響き渡る。TOMOOの創作の原点に立ち返るような時間だった。
次に歌った「窓」は昨年の梅雨ごろに歌詞が出来て、今年になって完成したという一曲。ここでTOMOOは曲中にウーリッツァーからピアノへと演奏を切り替える技を見せた。ウーリッツァーというピアノは、フェンダーローズのように綺麗な音色を奏でるエレクトリック・ピアノだが、ローズより幾らかふくよかで、しっとりとした音を出す。それゆえ演奏に(とりわけ低音に)どことなく湿っぽさが表れる楽器だ。曲の始まりはウーリッツァーによるじめっとした、まさに梅雨のようなサウンドの中で歌い、後半はピアノへと移動して曲の世界を変化させた。なんとなく会場に一本の光が射したような気がした。
ゆっくりと幕が降り、静寂に包まれた会場で再度映像が流された。少年が部屋でカセットテープに録音された音を聴いている。耳を傾けると川のせせらぎが流れ出し、一人の少女が現れた。2人は手を差し伸べ合う。
ここで歌ったのは「泳げない」と「風に立つ」。日の光が射し込む海の中の映像が紗幕全体に映し出された。海の中を漂うような、あるいは溺れているような感覚と言えばいいだろうか。この紗幕越しのパフォーマンスは息を呑むほど美しかった。ふと今回の公演のタイトルを思い出す。「Estuary」とは“河口”を意味する言葉だ。これは約10年間の音楽活動を経てついにデビューするTOMOOの、ここまでの活動の広がり方と重なるものがある。まさに今彼女は、一本の川から大海原へと繋がる“河口”に立っているのだ。
流れるようにして「ロマンスをこえよう」を歌唱。“君だけ”という印象的なフレーズを、強く求めるような歌声で何度も繰り返す。そしてTOMOOによる繊細なピアノの指捌きと豊かなバンド演奏による極上のアンサンブルが、会場を色鮮やかに彩った。
ライブはいよいよ終盤。「ここからもう一度ギアを上げたいんです!」と言って観客を立たせてデビュー曲「オセロ」を披露した。リズミカルな演奏に自然とオーディエンスも体を揺らす。続けて「Friday」と「POP'N ROLL MUSIC」といったアップテンポなポップチューンを続け、会場のボルテージは最高潮に。そして本編ラストは「Ginger」。グルーヴ感抜群の演奏によって大きな手拍子が起き、会場全体の空気が弾む。最後に銀テープが華麗に舞い上がった。
アンコールは「金色のかげ」で始めた。この曲は彼女が外に出て人前で歌うようになった最初の曲だという。Shimotani Stringsの4人を迎えたこの曲のパフォーマンスは、この日一番優しいものだった。
ここでTOMOOはライブタイトル「Estuary」に込めた思いを明かした。「河口って海に行く入り口でもあるし、海から川に入る入り口でもあって。今日は久しぶりに会えた人もいるし、初めて会えた人もたくさんいる。私にとってはこれから知らない場所に飛び出していくような気持ちもあるし、初心に帰ってくる気持ちもあるんです。今日この日は『久しぶり、おかえり』と『はじめまして、いってきます』のどっちもある日だと思ってて」
そしてこうも続けた。「循環して巡っていく水のようなイメージで旅していきたくて。水は形を変えるもの。でも水というものそれ自体は変わらない。姿が見えなくなったとしても、終わりはしない。水が巡るように、誰かと一緒に生きたり、こうやって音楽を聴いてもらって旅をしていきたいなと思います」ついにデビューを果たした彼女が丁寧に紡いだこの言葉は、ファンに向けた真摯な決意表明のように受け取れた。
最後に「What's Up」と「恋する10秒」を披露。ハート型の紙飛行機が天井から舞い降り、大喝采の中で終演した。幕間映像によるストーリー性のあるライブ作り、紗幕を用いた芸術的な表現、豪華な生演奏、現在の自身の状況を適確に捉えたテーマ性、終盤の見事な祝祭感……メジャーデビューとはどんなアーティストにとっても重要なタイミングだが、ここまで細部にこだわったデビューは他にないかもしれない。これから彼女が生み出す世界が一段と楽しみになる一夜だった。
終演後には全国ワンマンツアーの開催も発表された。大海原へと飛び出したTOMOOの今後の旅に注目だ。
Text:荻原梓
Photo:Kana Tarumi
◎公演情報
【TOMOO one-man live “Estuary”】
2022年8月7日(日)
東京・LINE CUBE SHIBUYA
◎ツアー情報
【TOMOO 1st LIVE TOUR 2022-2023 “BEAT”】
2022年12月16日(金)福岡・DRUM Be-1
2022年12月24日(土)北海道・札幌cube garden
2023年1月7日(土)愛知・名古屋THE BOTTOM LINE
2023年1月8日(日)大阪・BIGCAT
2023年1月15日(日)東京・Zepp DiverCity(TOKYO)
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