2022/07/15
現在公開中の『ソー:ラブ&サンダー』には、ガンズ・アンド・ローゼズをはじめとするメタル音楽が多く登場する。そこで、マーベルとメタルの融合を実現させたタイカ・ワイティティ監督と彼が描くソーの進化に迫る。
『マイティ・ソー』(2011)そして『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013)では、地球に落ちた雷神ソーと、弟であり地球を我が物にしようとするロキ、そして邪悪なダーク・エルフとの戦いが描かれ、ダークな世界観と唯一無二のパワーを持つ彼のクールさが際立つ作品となっていた。しかし、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)では、ソーのお茶目で人間味たっぷりな一面が描かれ、今までのクールなイメージに加え、親しみやすいユーモア溢れるヒーローへと進化を遂げている。
このポジティブな進化を見事成功させたのが俳優兼コメディアンとしての顔を持つタイカ・ワイティティ監督だ。『ジョジョ・ラビット』(2019)で【アカデミー賞脚色賞】を受賞、さらに彼が選曲したサウンドトラックは【第63回グラミー賞】でも受賞を果たし、監督としての手腕だけでなく音楽のセンスも高い評価を得ている。
『ジョジョ・ラビット』のラストシーンではデヴィッド・ボウイの「ヒーロ-ズ」、長編デビュー作となった『イーグルVSシャーク』(2007)ではザ・ストーン・ローゼズの「ディス・イズ・ザ・ワン」、長編2作目『ボーイ』(2010)ではマイケル・ジャクソンに憧れる少年を描くなど、80年代の音楽を好んで劇中に登場させてきたワイティティ監督。『ソー』3作目のメインテーマにはレッド・ツェッペリンの「移民の歌」が使用され、ソーのパワフルなアクションとロック・サウンドの相乗効果が観客のボルテージを沸騰させると同時に、タイカの持ち味であるブラックジョークを交えた笑いとエンターテイメント性がキャラクターに存分に組み込まれ、ソーをポップでコミカル且つロックで破天荒なキャラクターへと進化させた。
『ソー:ラブ&サンダー』ではガンズ・アンド・ローゼズの「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」が予告編に使用。発売から約35年経った同曲は予告編の公開をきっかけに米ビルボード“Hot Hard Rock Songs”チャートで1位を獲得し、映画業界のみならず音楽業界にも多大な影響を与えた。
最新作には、80年代から90年代初期にかけて黄金期を迎えたヘヴィメタルの数々の名曲が響きわたる。たとえば、ソーの登場シーンに流れるガンズ・アンド・ローゼズの「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」は、彼らのデビュー・アルバム『アペタイト・フォー・ディストラクション』に収録されている人気ナンバーで、名盤との呼び声高い本作で世界に衝撃を与えたガンズは計4曲がセレクトされている。
さらにエンドロールには、レインボーとブラック・サバスの元ボーカルで、メタルボーカリストの頂点の一人と讃えられる故ロニー・ジェイムス・ディオのバンド、ディオの「インボー・イン・ザ・ダーク」が使用されている。<稲妻が光る時>という歌詞から始まるこの曲は、自分探しを続けるソーがたどり着いた、アンサーソングのひとつかもしれない。
また、アルバムのカバージャケットがキャラクターのイメージと結びついている点も音楽ファンを喜ばせている。本作のヴィランであるゴアがデフ・レパードの『ヒステリア』やデスの『レプロシー』を想起させ、ゴア率いるモンスターもディオの『情念の炎~ホーリィ・ダイヴァー』に近い雰囲気を醸し出しており、「あのシーンは、あのバンドのミュージック・ビデオへのオマージュじゃないか」と発見することもあるだろう。というのも、ゴアとの戦いのシーンで突如、神秘的かつ不穏なモノクロ映像に変わるのは、ガンズ・アンド・ローゼズの「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」(こちらはモノクロからカラー)をはじめ、ヘヴィメタルのMVでよく見られる演出だからだ。
『マイティ・ソー バトルロイヤル』で「移民の歌」が物語の重要な伏線となっていたが、今回のメインテーマ「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」にも何か重要な伏線が張り巡らされているのだろうか。ハードロックだけでなく、ロマンティックかつ切ないシーンにはエンヤやABBAのヒット曲で美しく彩るなど、監督の音楽愛が感じられる『ソー:ラブ&サンダー』。最後に流れるエンドクレジットのキャスト名にも注目だ。
◎公開情報
『ソー:ラブ&サンダー』
全国公開中
監督:タイカ・ワイティティ
出演:クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン、テッサ・トンプソン、クリスチャン・ベール、ラッセル・クロウほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C) Marvel Studios 2022
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