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2022/07/07

majiko、1年半ぶりライブで時間の隔たりを感じさせないパフォーマンス届ける

 2022年7月2日に東京・恵比寿ガーデンホールで行われたmajikoのワンマンライブ【愛わかる】(読み:めでわかる)のオフィシャル・ライブレポートが届いた。

 majikoが1年半ぶりにステージへ戻ってきた。1年半、決して短くはない。きっと緊張していたことだろう、majiko本人も、観客も、スタッフも、みんな。コロナ禍においてどうやって自分自身の表現と向き合えばいいのか、どんな気持ちでライブ会場に足を運べばいいのか、どうやってmajikoをサポートすればいいのか……きっと、いくつもの戸惑いがあったはずだ。

 しかし、7月2日、恵比寿ガーデンホール。彼女はそういったモヤモヤを自らの歌で見事に消し去った。それだけでなく、この日繰り広げられた約120分に及ぶmajikoのショーは、彼女の輝ける未来が思い浮かぶような希望(とユーモア)に満ちた時間だった。

 オープニングナンバー「狂おしいほど僕には美しい」で現れたのは、バックライトに照らされ、シルエットが浮かび上がるmajiko。あえて後ろから強い照明を当てることで、神秘的な視覚効果を生んだ。曲が進むに連れ、彼女の歌声にはさらに感情が吹き込まれていく。緊張感漂う逆光のシルエットが絶妙でどんな表情をしているのかまでは見えなかったが、一曲歌い終えてあれだけの拍手を浴びておいて微笑んでいないわけはないだろう。そもそも、彼女の歌声は笑っていた。

 続く「エスカルゴ」の前、「みんな、立ってもいいねんで」というmajikoの笑い混じりのひと言で観客が一斉に立ち上がる。それを見届けた彼女が歌い出すと、自然と手拍子が起こる。それは1年半という時間を埋める音だった。

 majikoは躍動していた。彼女はソロ・アーティストである。しかし、彼女1人でステージには立っていない。これまでもそうだったのかもしれないけど、みんながいる。この久しぶりとなるライブは、この会場に来ることができなかったファンも含め、新たな、そして大きな一歩になる予感がした。

 簡単な、だけどしっかり笑いをとる挨拶を済ませたあと、ライブは続く。「劫火のエトワール」は、1年半の間に何をやっていたかというmajikoからの回答のひとつ。目眩く展開を見せながら、サビで壮大に広がる歌と演奏がこちらの意識を覚醒させる。その一方、「勝手にしやがれ」ではカラッとしているけど妖しく誘うようなボーカルが、ジャジーかつ、ほんのりダビーな演奏に乗って耳朶を打つ。

 majikoは卓越したボーカルスキルを持ちながら、そこに頼り切らないところがいい。パワーを振りかざすのではなく、自分に酔いしれるのでもなく、曲が、歌詞が必要とする表現によって自分の思いを観客に向けて丁寧に届ける。しかし不思議なもので、それがどんな曲でどんな内容であろうが、彼女の声からは、ステージに立ち大勢の観客の前で歌うという喜びが隠しきれていない。それがすごく、いい。満員御礼の恵比寿ガーデンホールとはいえ、こんなパフォーマンスをほんの数百人という人数だけで楽しんでいいものなのか。近い将来もっと大きな会場で歌うmajikoの姿を思うと、非常に貴重な場だったと思う。

 そんな感慨をぶった切ったのはほかでもない、majikoだった。彼女は観客にぎっくり腰になったことがあるかと尋ね、手を挙げた観客をその場に立たせるというSっ気たっぷりな所業に及ぶ(しかも、結局ただ立たせただけで何もイジらずに座らせた)。さらに、MCの締めは「続いてはそんな曲です」。「いったいどんなだよ!」と皆が心の中で総ツッコミを入れたあとに流れてきたのは、「ひび割れた世界」のイントロ。この曲は2019年に書かれた楽曲だが、今の時代に聴くと深みがまったく違う。<僕らが生きる世界はまるで 触れれば割れる 脆く儚い硝子 怖かったのは ただ一つだけ 破片が君の心を傷付けないか>。緩いMCからグッとシリアスに展開していくので、大事な表現を聴き逃しそうになるし、感情が追いつかない。しかし、考え方によっては、majikoはリラックスできるMCで観客の緊張をほぐし、徐々に自身の世界観へ誘っているとも言える。ステージ中央で肩幅程度に足を広げて立ち、客席と正対して堂々と歌い上げる姿はこの日のハイライトのひとつ。摂氏35度の外気を一瞬忘れるぐらい凛々しい姿だった。

 彼女はセンターから外れることがあまりない。パワーバラード「世界一幸せなひとりぼっち」でも体こそ揺らすものの、足はほとんど動かない。ステージに根を張って歌っているようで、すごくカッコいい。

 で、またそんなこちらのいい気分をぶち壊すのがMCだ。次に披露する「交差点」のミュージック・ビデオ公開を報じた記事のタイトルが「ドSなmajikoがサラリーマンをガン攻め!」だったらしく、「ほぼAVのようなMV」(majiko談)だと笑わせる。そんな「交差点」だが、なんと動画撮影OK。これはもちろんファンサービスのひとつ。しかし、だ。何もライブ初披露の新曲じゃなく、もっとやり慣れている過去曲を撮影OKにするほうがパフォーマンス的に安心だったのではないか。しかし、そうはしなかった。これは自身のパフォーマンスに対する絶対的な自信、そしてバンドメンバーに対する信頼が可能にしたんだろう。

 そう、majikoの歌は当然素晴らしいんだけども、バンドも最高だ。木下哲(Gt)、伊藤翔磨(Gt)、吉野ユウヤ(Key)、camacho(Dr)、北原裕司(Ba)は、あくまでもmajikoのボーカルを影で支える存在。しかし、この日一点の曇りもないライブを完遂できたのは、5人の職人技によるところも大きい。拍手喝采モノである。「ミミズ」で聴かせたアンサンブルも完璧だし、彼らの間に流れる空気も温かい。徐々にリズムチェンジして疾走感を増していく演奏に、大きな拍手が贈られた。

 一方、アッパーな四つ打ちダンスチューン「FANTASY」では硬質なビートにmajikoのボーカルが乗る。彼女のボーカルがこういう無機質なビートにも合うというのは発見だった。真っ暗なステージに、バンドメンバーを含めた全員が着用した光るサングラスが映える。さらにmajikoはMVでもお馴染みの不思議なダンスを披露。「すごい感情の振り幅だね」とは曲終わりのmajikoの言葉。この曲は今後、新たなキラーチューンとして成長していく予感がする。

 観客にスマホのライトを振るように求めた「ワンダーランド」もよかった。ホール内に揺れた数百のライトはステージに向けられていたので客席からはよくわからなかったが、照らされていたmajikoはさぞ気持ちよかったことだろう。

 で、だ。MCではしっかり筋トレの話をして、先ほどまでの印象的な光景の残像を無惨にも消し去る。ジムでよく会うおばさんに「あなたはもう筋トレする必要はないわね……でも、太ももはもうちょっとね」と言われたという。そこで「う゛う゛う゛~ん」となったときの曲です、と「パラノイア」へ。いや、もうめちゃくちゃで楽しい。ここまでMC力のあるアーティストだとは思わなかった。

 彼女のボーカルはライブ終盤になってもまったく力を失わない。それどころか、1年半ぶんの想いを乗せたボーカルは観客の興奮をどんどん煽っていく。ライブ冒頭はまだノリきれてない姿が見受けられた客席も、気づけばみんな体を揺らし、大ハンドクラップをステージへ送り、拳を掲げている。本編ラストのMCで「楽しかったですか?」と問いかけるmajikoに対して食い気味に拍手が送られたのは彼らの興奮をわかりやすく表していた。そして、そんな反応に対して「私はその100倍楽しかったけどね」と笑ったmajikoの言葉は本音だろう。

 majikoの話は続く。人から「戻れるならいつがいい?」と聞かれた彼女は、長考の末に「今が楽しいから戻る必要はない!」と答えたという。そして、こう付け加えた。「たとえ疫病が世界を脅かそうが、自己嫌悪で嫌になる日々が続こうが、終わらない過去より、いつか終わる未来のほうがいい。そんな未来をみんなと一緒に楽しく迎えたい」。そんな強い思いがいま、こうして彼女をステージに立たせている。この日、ホール内に常にポジティブな空気が流れていた理由がわかった気がした。

 本編の最後を飾った轟音のピアノロックチューン「23:59」はラストにふさわしい楽曲だった。曲はもちろんのこと、majikoという人間から放たれる声と<何か>が、自分にまとわりついているモヤモヤとした膜を吹き飛ばしていくようだった。<この世界が終わっても終わらなくったって 最後の最後には笑い合える そんなエンドロールがいいんだ 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1>で演奏が終わり、ピンスポットに照らされるmajikoがお辞儀をして去っていく。完璧なエンディングである。ここで終わっても何も文句はなかったが、ちゃんとアンコールも用意してくれていた。

 アンコールを求める熱心な手拍子に迎えられたmajikoは、なかなか鳴り止まない拍手が止んでから、すぅっと息を吸って「心做し」をアカペラで歌い出す。サブスクでは数千万回も再生されている大人気曲だが、生歌の力はやっぱりすごい。

 そして、この日素晴らしいパフォーマンスを見せてはMCで落とすという所業を繰り返してきたmajikoのトークはこのアンコールでのグッズ紹介で頂点に達した(彼女のトークスキルは文字では再現しきれないので割愛)。ここでは秋にフルアルバムをリリースすることを発表。さらに驚くことに、「スタッフにも言ってないけど、12月にワンマンライブやります! いま決めました! めちゃくちゃ今日楽しかったから絶対やる! 怒られてもやります!」と宣言。そして、最後に盛大なハンドクラップが鳴り響くなか、「声」を歌い上げたのだった。

 終始、ポジティブなムードで進行した120分にわたるパフォーマンスは、時間の隔たりなんて一切感じさせない完璧なものだった。何かが始まりそうな、何かが起こりそうな、そんな予感が抑えられない。コロナ禍を経て、majikoの表現は新たな領域へと突入していく。7月2日、majiko ワンマンライブ【愛わかる】はその華々しいスタートだったのである。

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