2022/06/22
ムロツヨシのキレる姿が真新しく、そして多くの人の生活に欠かせないツールとなっているYouTubeがテーマの映画『神は見返りを求める』は、観た後、「果たして、どこで間違えてしまったのだろうか?」と深く考えさせられる作品だ。見返りを求める男・田母神(ムロツヨシ)と、恩を仇で返す女・ゆりちゃん(岸井ゆきの)の遠い話のようで意外と身近に潜んでいるストーリーを描いた本作の主題歌と挿入歌には、インターネットシーンを中心に活動する3人組バンド・空白ごっこが初めて書き下ろした「サンクチュアリ」「かみさま」が起用されている。
この度、映画公開を前に、監督と脚本を務めた吉田恵輔と空白ごっこのセツコ(Vo.)の対談が実現。その日は、監督とセツコの人柄もあって、かなり和んだ雰囲気のなか、巷で話題の暴露系YouTuberの話に花が咲いていた流れでインタビューはスタートした。
――暴露系YouTuberのお話で盛り上がっているのが聞こえましたが、本当に今の日本の雰囲気にタイムリーな映画だと思います。
吉田恵輔:俺、その逆だと思ったんだ。人をディスる系、特定の人を名指しして発信するものはYouTubeではダメになるって聞いていたから、どんどんBAN(規制)されて、この映画が公開される頃には、「この映画はあり得ない」っていう雰囲気になっているかと思ってたから。でも、もっとひどいやつが出てきて(笑)。それに比べたら、俺のゴッティー(劇中に登場するムロが演じる暴露系YouTuber)は弱いなって(笑)。
――ドッキリ系から食べる系まで、いろんなYouTuberがいますが、この映画はYouTuberに見せられないんじゃないかと正直思いました。
吉田:下手したら、YouTubeから訴えられるんじゃないかとも思ってる(笑)。映画業界はYouTubeに対して、「YouTubeが取って代わるわけねぇじゃん」って少し上から目線なところがあるんだけど、今のZ世代って映画よりYouTubeを見てるじゃない? ラジオの時代にテレビ、舞台がメインだった時代に映画が出てきた時と同じで、(新しいものに対して)悪口言うんだよ。正直、俺にもあるんだけど、YouTubeって未来でもあるから、リスペクトしないといけないと思ってる。YouTuberから叩かれても、リスペクトする気持ちで描いてる。でも、怒る人はいるだろうな。
――セツコさんは、この映画を見てどう思いましたか?
セツコ:「私だったらこういう言い方するのにな」って思いました。なにか大きな失敗をしたとして、その失敗を踏み台にしたとしても、急に右フックが来たら避けられないじゃないですか? そういうモノに慣れていない2人だったんだと思います。経験がないからこそ、折り合いが自分の中でつけられないまま、落ちるとこまで落ちて初めて気づいたんだと思いましたね。
吉田:求めちゃったから失望したのかもしれないっていうのはあるよね。ゆりちゃんはバズったものを田母神に褒めてほしかっただけ。若い子って、自分が興味あるものの最先端を行ってる人との出会いって、ものすごく刺激的じゃない? 若い時は、それを吸収して成長していくから、田母神を超えるレベルの人とゆりちゃんは、出会うべくして出会ったんだよ。新しいものが生まれるってことは、それだけ古いものが捨てられるってことなんでしょうね。
――田母神は後輩からは表向きには尊敬されていますが、裏で影口を言われてるのが悲しかったです。
吉田:自分の場合、学生時代に見ていた作品の映画監督が、今ではおじいちゃんになってて。「まだ作ってたんだ」とか「センスが古くてダサい」って言われたりするわけじゃない? でも、それって「何様だよ。お前がひよっこの頃から、こっちは第一線でやってるんだ」っていう話でもあって。いずれ何年かしたら、俺も「吉田の映画ってもう古いよね」って言われる順番が回ってくる。ただ、そうなったとき、俺は覆面かぶって追いかけ回したりしないけどね(笑)。
――監督は脚本も手掛けられてます。この映画を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
吉田:実体験をベースにしてるんです。恩をあだで返す女性と見返りを求める男性……男女だけでなく、男同士でも、そういう経験を何度もしてきたので、自分のやましい部分を面白おかしくできたらなと。自分の恥ずかしいところを広げて見せるのが好きなんです。
――セツコさんは、映画を一度観てから主題歌と挿入歌を作られたそうですが、どういうことを歌詞で表そうと思いましたか?
セツコ:両方とも、もう本当に、映画の隅っこみたいな感じの曲にしたくって。私はただの一視聴者という前提がまずあって、その視聴者が映画の中に入り込んで、何かを決めつけることは野暮だと思ったんです。なので、「こう思ったので、こういう詞を作りました」って提示するよりかは、あいまいな感じで、「あんなにボロボロになっても、思い出すのは楽しかったあの日々」みたいなものを歌詞にしました。あんな終わり方をしたけど、まだ未練がましいというか。
――肯定的な青春ラブソングと捉えてもいいでしょうか?
セツコ:詞を書いてる時は、「あの頃は楽しかったな~」っていう田母神さんとゆりちゃんの気持ちになって書いたんです。それがベストだと思ってたんですけど、曲と一緒に映画を観た時に、第三者目線で考えたら、この曲も「気分の悪い出来事の一連でしかない」という気持ちにもなって。どっちもすごくいいと思ってて、変に歌で映画に色を付けるよりかは、特に何も決まりなく終わってほしいです。なので、「こう感じてほしい」という希望はあまりないですね。
――なるほど。監督はこの映画からオーディエンスに何を受け取ってもらいたいですか?
吉田:今の世の中は攻撃的で、わりと閉塞感もあると思っているんです。しかも、誰もそれを自分がしてるという自覚がない気がしていて。この映画には、「それ、お前だからね」って伝えたい気持ちが非常にあるんです。非難しているわけではないし、それが人間でもあるので、「そんな自分、ちょっと恥ずかしいな」って、みんなが自覚して、「だから、ツイートも優しめにしよう」って思ってくれたら、世の中も少しだけよくなるんじゃないかなと思います。
※吉田恵輔監督の「吉」は土の下に口が正式表記
Interviewed by Mariko Ikitake
Photographed by 辰巳隆二
◎公開情報
『神は見返りを求める』
2022年6月24日(金)より、全国公開
監督・脚本:吉田恵輔
出演:ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、栁俊太郎ほか
主題歌:空白ごっこ「サンクチュアリ」
挿入歌:空白ごっこ「かみさま」
配給:パルコ
(C) 2022「神は見返りを求める」製作委員会
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