2022/03/25 18:00
幼少時に慣れ親しんだ古典的なフラメンコやラテン音楽と、思春期に愛聴したヒップホップやレゲトン、ダンスホールといったサウンドを独創的にブレンドするその“個性”が絶賛されている、スペイン・カタロニア地方出身のシンガー=ロザリア。
2016年にシングル「カタリナ」でデビュー。 米LAに活動の拠点を移し、翌17年にはメジャー・レーベル<ユニバーサル・ミュージック>よりその地を冠した処女作『ロスアンゼルス』をリリースした。本作は、後述のブレイク以降とは作風の違う、フラメンコやフォーク・ソングを中心としたアルバムで、本国スペインでは9位にランクインするヒットとなり、ゴールド・ディスクにも認定されている。
そのデビュー作を経て2018年にリリースした「マラメンテ」は、スペインのシングル・チャートで最高2位を記録。秋には<ソニー・ミュージック>へ移籍して、2ndアルバム『エル・マル・ケレル』を発表。4曲のTOP10ヒットを輩出したこともあり、スペイン、そして米ラテン・ポップ・アルバム・チャートで1位を獲得。米ラテン・アルバム・チャート(総合)でも10位にランクインし、 翌年の【ラテン・グラミー賞】では女性アーティストとして最多の5部門にノミネートされ、うち2部門を受賞する快挙を達成した。
その功績を経て、19年にはジェイムス・ブレイクのアルバム参加やJ.バルヴィン&エル・ギンチョ、オズナといったトップ・スターとのコラボレーションでヒットを飛ばし、翌20年開催の【第62回グラミー賞】では<最優秀新人賞>のノミネートと<最優秀ラテン・ロック/アーバン・オルタナティブ賞>を受賞。5月に発表したトラヴィス・スコットとのコラボ曲「TKN」で米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”初のランクインを果たし、同チャートで1位に輝いたカーディ・B&ミーガン・ザ・スタリオンの「WAP」にもビデオ・ゲストで参加する等、急成長を遂げている。
なお、【グラミー賞】と【ラテン・グラミー賞】どちらの<最優秀新人賞>にもノミネートされたのはロザリアが史上初で、スペイン語で歌うアーティストとしても初の快挙となっている。
本作『モトマミ』は、数々の功績を残したその『エル・マル・ケレル』から約3年半振り、3作目のスタジオ・アルバムで、スペインで1位、米ラテン・ソング・チャートでは2位を記録したザ・ウィークエンドとの「ラ・ファマ」など、4曲のヒット・シングルが組み込まれた全16曲の意欲作。なお、前述の「TKN」や「ミリオネア」など、21年以前にリリースしたヒット曲は収録されておらず、アルバムのコンセプトを重視した強気な姿勢が伺える。
その「ラ・ファマ」は、今風の~というよりは古典的なサルサを基としたエキゾチックな曲で、ロザリアのイメージからは違和感ないものの、ザ・ウィークエンドの曲としてはスペイン語で歌うことも含め新鮮。歌い回しも、ロザリアがリミックスに参加した「ブラインディング・ライツ」をはじめ、ここ数年のヒット曲とは同じアーティストとは思えないほどの違い、味わいがある。ミュージック・ビデオでは、ショーの歌手として登場したロザリアが、客として座るザ・ウィークエンドに歩み寄って挑発するという、タイトルのラ・ファマ=名声とのロマンスを再現。ザ・ウィークエンドのネームバリュー“頼り”ではなく、ヒットしたのも納得の出来栄えだ。
対して2曲目のシングル「サオコ」は、ダディー・ヤンキーの「ガソリーナ」を彷彿させるゴリゴリのレゲトン。なお、同曲にはそのダディー・ヤンキーの同名曲も一部使用されている。インタールードでジャズ・ピアノに急転する展開や、どギツい歌詞、見事なラップさばきなど聴きどころは満載で、女友達とバイクを乗り回し挑発するMVの世界観もグレイト。バイクといえば、本作のカバー・アートも裸体にフルフェイスという超奇抜なスタイルだったが、オープニングに配置するあたりもこの曲が“主体”ということなのだろう。
続いてリリースした「チキン・テリヤキ」も、00年代中期のレゲトン(ノリエガ、ニーナ・スカイなど)に通ずるフロア・ライクな一曲。ミュージック・ビデオも「サオコ」同様に、スタジオでフォーメーション・ダンスをお披露目する女性主体の内容で、富と名声、女性の主張をテーマとしたアルバム『モトマミ』の架け橋となっている。
レゲトンを取り入れた曲では、昨年「リンダ」で共演したトキーシャとの再コラボ「ラ・コンビ・ヴェルサーチ」や、神妙な雰囲気でフェイドアウトする「ディアブロ」、レゲトンではないがグウェン・ステファニーの「ホラバック・ガール」風のユニークな「ビスコチート」など、非シングルのアップ・チューンも傑作揃い。
対して、古典的なスペイン歌曲、ミディアム~バラ―ドも柔軟に熟すロザリア。中でも、フラメンコのパーカッションと情熱的なボーカル、バックを彩るコーラスだけでライブ感を伝えた「ブレリアス」は見事だった。たしかに、彼女がインスピレーションを受けたというニーニャ・パストリやホセ・メルセの音楽にも通ずる。失恋を描いたクラシック・バラード「コモ・ウン・G」、涙をこらえるかのように歌うロマンティック・オペラ「G3 N15」、40~50年代の雰囲気を纏った「デリリオ・デ・グランデーサ」もすばらしい。
タイトルからは想像し難い美声で歌われたピアノ・バラード「ヘンタイ」は、ピアノ、ストリングスの心地よい音色からドリルのように突き刺すまさに“ヘンタイ・ビート”に展開する斬新な曲で、曲調とは(良い意味で)反したお下劣な歌詞、それを官能的・芸術的に表現したミュージック・ビデオすべてが彼女の個性で溢れていた。斬新さでは、リフレインする 「モトマミ……」が耳にこびりついて離れないタイトル曲には劣る……が。
その他、ファルセットを浮遊させるチカーノ・ラップ風のミディアム「キャンディー」も、MVが公開されている。カラオケルームで騒ぎ立てるこのビデオの終盤には、日本の金沢のタクシーが登場する演出があり、『モトマミ』の「モト」には日本語の「もっと」という意味も含まれていることや、タイトルに「サクラ」を冠した最終トラックを含め、日本愛が感じられる。「サクラ」では、オペラのステージさながらの天使のようなソプラノを披露し、雑音から浄化されるべくアルバムの完璧な締めくくりを果たした。
なお、タイトルの『モトマミ』とは、アグレッシヴを意味する「モト」と、自然との繋がりを表現する「マミ」の二つの軸を重ねた造語だそうで、ラテン・アメリカの人気スタイルであるレゲトンと、古典的なフラメンコが融合された音楽からも、そのコンセプトが読み取れる。一説によると、彼女の母親が経営する会社の名前も『モトマミ』なのだとか……。
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