2022/01/31
DJスネイクと客演したメジャー・レイザーの「リーン・オン」(2015年)で知名度を高め、世界的ブレイクを果たしたデンマーク出身のMØ(ムー)。その翌16年には、ジャスティン・ビーバーを迎えたメジャー・レイザーの「コールド・ウォーター」、そしてセルフ・タイトルとしてリリースした「ファイナル・ソング」が自国で初めてTOP10入り(最高4位)し、同年8月には【SUMMER SONIC 2016】での初来日と単独公演、17年には初ジャパン・ツアーも決行されるなど、ここ日本でも多くのファンを獲得している。
スタジオ・アルバムは、2014年にデビュー作『ノー・マイソロジー・トゥ・フォロー』を、2018年に2nd『フォーエバー・ネバーランド』の2枚をリリースしている。その間には前述のヒット曲が世界を席巻し、喜びと同時に大きなプレシャーがのしかかったが故、完成までに約4年もの時間を要したのだという。結果、『フォーエバー・ネバーランド』はデンマークで初のNo.1に輝き、4曲のTOP40ヒットを輩出する大成功をおさめたわけだが、その功績も手放しには喜べなかっただろう。
本作『モータードローム』はそれに続く3作目、約3年ぶりの復帰作となる。その間にも様々な葛藤があったかと思われるが、前作とは明らかに違う何かが感じられたのは、呪縛から解き放たれた……ようなニュアンスだろう。前2作のメイン・プロデューサーだったディプロはクレジットから外れ、過去作でもお馴染みのロニ・ヴィンダールやスティント、アリエル・レヒトシェイド(アデル、ビヨンセ等)、オリヴィア・ロドリゴの「jealousy, jealousy」を手掛けたジャム・シティなど、彼女の“本来の音”を追求するに適した面々が支えている。
昨年5月、約2年半ぶり発表したリード・シングル「リヴ・トゥー・サバイブ」は、ザ・ウィークエンドやデュア・リパなど、昨今のブームに則った80年代風シンセ・ポップで、過去と現在の自分を第三者目線で見たような心境が読み取れる。類似する曲では「ニュー・ムーン」もデュア・リパやカイリー・ミノーグを意識したニュー・ディスコ風。耳が割れるようなエレクトロ・ビートが商標だっただけに、その適応能力には感心してしまった。
適応能力~昨今のヒットに乗じたといえば、4曲目のシングルとしてリリースした「グースバンプス」もそう。この曲は、昨年主要各国のチャートを制したオリヴィア・ロドリゴの「drivers license」や、最新のチャートを圧巻しているアデルの「イージー・オン・ミー」に習ったようなピアノ・バラードで、曲調のみならず、機械的な印象を植え付けたボーカルも正当な形で払拭した。その驚きも、悪い意味で捉えるリスナーはほとんどいないだろう。
歌唱力を知らしめた曲では、高らかな歌声で光を放つ「ヒップボーン」も傑作。ボーカルもさることながら、曲中で強い存在感を示すギター・ソロが痛感で、ロック色を強めたサウンドで過去2作にはなかった魅力を引き出した。感情を抑える必要はないと歌う「クール・トゥ・クライ」も、ギターをアクセントとした意欲作で、その叙情を奏でる攻撃的なロック・サウンドで新しい一面をみせた……ようにも受け取れる。男装したミュージック・ビデオも話題を呼んだ「ブラッド・ピット」も、歌詞の世界観含めこれまでにない発想・手法が伺える。
新しい試みもみられたが、緊張感のある弦のイントロ~個性的なメロディ・ラインが光る、現在の心境を歌った「カインドネス」や、フックが記憶に残るパワー・ポップ「ホイールスピン」、巧みな業で魅了するボーカルと暗い旋律が感情の乱れを表現した「ユース・イズ・ロスト」など、スタイルを大きく崩さない曲もバランス良く配分されていて、非常に聴きやすい。最終曲として収録した「パンチズ」では、北欧の透明感ある伝統音楽を基としたコンテンポラリー・サウンドで、エンディングを美しく演出している。
コロナ禍の影響もあり、ここ1~2年自己解放やリラックスしたムードの作品が多々見受けられたが、抑圧している要因を取り除いて作り上げたという視点では、本作もそうだといえる。とはいえ、前述にもあるように風変わりなダンス・ポップは健在。こういった配慮や歌詞の内容からも、実は気遣いの人なんじゃないかと推測するが、果たして……?
Text: 本家 一成
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