2022/01/01
桑田佳祐が、【LIVE TOUR 2021「BIG MOUTH, NO GUTS!!」】横浜アリーナ公演を2021年12月30日・31日の2日間にわたり開催し、待ちわびたファンたちと再会して、ライブを一緒に楽しめる喜びを分かち合った。このレポートでは、30日に行われたライブの模様をお届けする。
このライブは、9月18日・19日の宮城・セキスイハイムスーパーアリーナを皮切りに全国10か所20公演を巡ってきたツアーの最終公演として行われた。2021年の桑田佳祐は、3月にソロ初の配信ライブを東京・青山のBlue Note Tokyoにて開催、9月15日には4年ぶりのソロ新作にして初のEP『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼きfeat. 梅干し』(以下:『ごはんEP』)をリリース。テレビの音楽特番に出演する等、勢力的な活動が目立った。このツアーも、“どんな状況にあっても、音楽を届け続ける。”という意思のもとで各地を回り、桑田ファン、サザンファンにとってカウントダウンライブの聖地・横浜アリーナまでやってきた。
会場は見渡す限りスタンドの上まで、立錐の余地もない満員。場内アナウンスが開演を告げると、割れんばかりの拍手が起こり、すぐに場内が暗転。SEの行進曲「威風堂々」が流れ、スクリーンに「BIG MOUTH, NO GUTS!!」の文字が表れた。続いてバンドメンバーがステージに上がり、最後に桑田が登場。ステージに両端で深々と頭を下げて観客を迎える桑田。「1, 2, 3, 4!」と自らカウントしてからエレキギターを軽やかにかき鳴らして弾き語りしたオープニング曲は、「それ行けベイビー!!」だ。歌と共に、背後のスクリーンには<適当に手を抜いて行こうな 真面目に好きなようにやんな 我行く旅の道中は予期せぬことばかり>と、歌詞が映し出された。この2年間ほどコロナ禍で不自由な生活を送ってきた人々の、硬くなった心と身体をほぐしてくれるようなメッセージソングだ。桑田が療養から活動を再開した2010年の『第61回NHK紅白歌合戦』で歌ったシーンをダブらせたファンも多かったのではないだろうか。途中でバンドが加わり曲を終えると、すぐにそのままコードストロークで、「君への手紙」へ。文字通り、桑田の想いを手紙にしたためたような真っすぐな歌詞に、早くも涙腺が緩む。サビではステージ上のミラーボールが回り、光が客席を包み込んだ。
この日、入り口では「ナマケモノライト」「ナマケモノマスクカバー」「紙チケット」「ユニクロ エアリズムマスク」がお土産として配られたのだが、3曲目の「炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]」では観客が手首につけた「ナマケモノライト」がオレンジ色に光り、一気に華やかなムードに。弾むポップな演奏に乗って<開演お待ちどうさん ご来場大変ご足労さん>と、観客に向かって歌いかける桑田の表情は明るく、地元・横浜でライブを開催できる喜びが表れている。歌詞に合わせて、スクリーンの背景と「ナマケモノライト」が連動して変わる演出もあり、<目の前に 広がる海のように>と歌うとブルーの光が客席に広がった。また、<見えないジョッキで乾杯だ>と歌うと、まさに見えないジョッキをステージに向けて掲げる観客たち。きっと、ライブでのこの光景を夢見ていたはず。そんな歓喜を表すように、ステージ上からは序盤にして早くも金テープが放たれた。
3曲を歌い終えると、「開演お待ちどうさんでございます! ご来場大変ご足労さまでございます! 毎日おつかれさまでございます! 帰ってきました、横浜に! ようこそおいでくださいました。再会できてうれしゅうございます。お元気ですか~!?」との第一声から、「スタンド席! アリーナ席! センター席!」と恒例の呼び掛けを行うと、「じゃあ、最後の曲です」とボケる桑田とズッコケるメンバーたち。いつもの雰囲気を取り戻して、ライブは進む。長年の盟友・斎藤誠のソリッドなギターリフから始まった「男達の挽歌(エレジー)」、着物に番傘、狐の面を付けた女性が妖し気に踊った「本当は怖い愛とロマンス」と男性目線の曲が続くと、ハンドマイクに持ち替えて「若い広場」へ。<Pon pon pon...>と歌うコーラスと、背後に映し出されるヒヨコがピョコピョコ動く姿に心が和む。リラックスした様子で歌う桑田は、2番冒頭では前川清風の歌い回しを聴かせ、曲の終わりには美空ひばりを思わせる口調で「どうもありがとう」と挨拶して、昭和歌謡の世界観を感じさせた。そんなムードは「金目鯛の煮つけ」でも続いて、ノスタルジックなサウンドと海沿いの街並み、食卓がアニメーションで映し出される中で歌われた。
各地でご当地ソングとして歌ってきたという「OSAKA LADY BLUES~大阪レディ・ブルース~」の替え歌を、地元・横浜バージョン「新YOKOHAMA LADY BLUES~新横浜レディ・ブルース~」として、ハマっ子、ホテルニューグランド、桜木町、伊勢佐木町等の単語を織り交ぜつつユーモラスに披露した。<My sweet home 横浜 崎陽軒のシウマイがベスト>と歌ったり、<野毛山動物園に 珍獣オカピはいない!!>(オカピがいるのは「よこはま動物園ズーラシア」)、<横浜駅は永遠に工事してる 日本の『サグラダ・ファミリア』>と歌って笑わせたりしながら、最後には<“年越し”するなら やっぱり横浜アリーナがベスト!!>と締めて拍手喝采となった。
「こんな流れ者のような生き方にどこかで憧れているのかもしれません」というMCから歌われたのは、新作『ごはんEP』の収録曲「さすらいのRIDER」。16ビートの横ノリが心地良い。桑田のボーカルもひと際ブルージーで骨っぽさを感じさせた。教会のパイプオルガンを思わせる鍵盤の音色から、ピアノのイントロで始まった名バラード「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」に自然に大きな拍手が沸き起こった。しっとりと心に沁みる歌唱には、少しも衰えない歌声を感じさせたが、その後のMCでは「ライブをやっていないと、歌い方を忘れちゃうし筋肉が衰えちゃう」と、コロナ禍での試行錯誤を語った。そして、「みなさんにお会いしていない間に、私、高齢者になってしまいました(笑)。まあ、11年ぐらい前に病気をしまして、そういう意味ではおかげさまで高齢者になれたなっていう感謝の気持ちでおります」と告白すると、客席からは祝福の拍手が贈られた。
演奏に乗せてのメンバー紹介(鶴谷智生(Dr)、角田俊介(Ba)、深町栄(Key)、片山敦夫(Key)、中シゲヲ(Gt)、斎藤誠(Gt)、山本拓夫(Sax)、菅坡雅彦(Tp)、TIGER(Cho)、田中雪子(Cho))から、メンバーの個性がわかる無茶ぶりクイズのコーナーでしばしの間まったり。ライブは「私史上、最も暗いと言われる曲」との桑田の紹介から、アコースティックギターによる「どん底のブルース」で再開。曲の終盤で歌詞を変えて<嗚呼 来年もライブがやりたいんです 皆様さえよろしけりゃ その時はマスクを取って 笑顔を見せて欲しいから>と曲に乗せてメッセージする場面も。『ごはんEP』がチャート1位を獲得したことが自信になったというMCから披露された収録曲「鬼灯(ほおずき)」は、軽快なギターを中心とした明るいタッチのリバプールサウンドと、歌詞に描かれる情景のギャップが耳に残った。1stソロ・アルバム収録曲で現在CMソングとしても耳馴染みのある「遠い街角 (The wanderin' street)」等、それぞれの曲が持つ物語に想いを馳せるように聴くことができるのは、数々の名曲を生んできた桑田だからこその表現の豊かさを感じさせる。
1年を通して、日本中の人々の応援歌となってきた「SMILE~晴れ渡る空のように~」が、会場中が真っ白な光に包まれる中で歌われた。スクリーンには、「3.11祈り」と書かれた灯篭や「奇跡の一本松」、医療従事者の方々の姿が映し出され、桑田と共に観客は両手を左右に振り、拳を突き上げる。皆、きっと心の中で一緒に歌っていたのではないだろうか。斎藤が弾くギターのカッティングに合わせて手拍子が起こる。一瞬何の曲だろう?と思った矢先、ホーンが高らかに鳴り響いて始まったのは「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」。ミラーボールが回り、エンターテイメント・ショー全開のステージングが展開され、桑田は曲間で「ありがとな~!」とスタンドに手を振りながら熱唱。最後のサビ<まるでコブラツイストを喰らったみたいに>に合わせて、スクリーンにはアントニオ猪木がハルク・ホーガンにコブラツイストをかける姿(1984年6月14日蔵前国技館【第2回IWGP決勝戦】の映像)が映し出されるという、古き良き昭和を象徴する胸アツな演出も。
艶っぽいボイスが流れ出して、「Yin Yang(イヤン)」でライブは後半へと突入。ダンサーがステージを彩り、間奏では桑田がダンサーたちと重なり千手観音のようなパフォーマンスも見せた。終盤ではランジェリー姿になった女性2人に囲まれて、コブラツイストも喰らっていないのに悶絶。これぞ桑田流ライブ・エンターテイメントの真髄だ。そんな華やかな曲の後ですべてを失った男のように「大河の一滴」でドラマティックに刹那的にシャウトする桑田。曲間のTIGERとのセリフの掛け合いではコロナ禍での会話となっていて、「来年は良い年でありますようにー!」と叫んだ。「スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)」(KUWATA BAND)は、ギターリフではなくピアノを中心とした洗練されたライブアレンジで、オリジナルよりもアップテンポな演奏が興奮を煽る。中と斎藤がリレーした熱いギターソロもあり、この日一番の大盛り上がりに。最後はメンバーへのコール&レスポンスから、拍手のレスポンスを観客に求めて、見事に会場が1つとなった。本編最後は「悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)」。失恋ソングながらとびきり明るく、アップテンポな王道モータウンサウンドと手拍子に乗って歌い上げた。
アンコールでは、「ツアーがここまで来られたことを深く感謝申し上げます。本当にありがとう。今年も災害がすごく多かったですけど、東北をはじめ全国の被災地の復興、そしてみなさんの健康を祈って」とのMCから、「明日へのマーチ」が歌われた。「みなさん、ボウリング行きませんか?」と呼びかけてボールを投げて始まった「悲しきプロボウラー」、さらに「自分の趣味のレベルで歌います」と、ヒデとロザンナのカバー「愛の奇跡」を女性コーラス2人とデュエット。「来年こそは素晴らしい夏を」と最高のポップチューン「波乗りジョニー」で2022年の夏に向けての希望を観客と共有して、ラストは「みなさんにとって来年が素晴らしい1年になりますように、願いを込めてこの曲を歌います」と、「祭りのあと」で締めくくられた。エンディングでは、「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」がBGMで流れる中、「来年以降も、我々エンタメ業界も負けずに頑張っていきたいと思います。また来年会いましょう! よいお年をね!」と改めて感謝すると、「元気ですかー!? イチ、ニ、サン、ダー! どうもありがとうー!」と観客と一緒に天高く右腕を突き上げてライブは幕を下ろした。
アーティストも観客も、お互いに再会できた喜びを分かち合い楽しんだ2時間半、25曲。「SMILE~晴れ渡る空のように~」をはじめとする楽曲で昨年も日本中に勇気を与えてきた桑田佳祐から、2022年への生きる希望と元気を受け取ることができた最高の年末ライブだった。
尚、【BIG MOUTH, NO GUTS!!】のオンライン特別追加公演として、2021年11月20日・21日さいたまスーパーアリーナ公演の模様が2022年1月3日19:00から6つの配信メディア(ABEMA、PIA LIVE STREAM、U-NEXT、Rakuten TV、ローチケ LIVE STREAMING、ファンクラブ「サザンオールスターズ応援団」(LIVESHIP))でライブ配信される。こちらはツアーの一環としてアーカイブなしの1回限りの配信となるが、“おかわり配信”として、1月7日20:00~、8日13:00~、9日19:00~に追加配信も決定。ツアーに足を運べなかった方は是非お見逃しなく。
Text by岡本貴之
Photos by白石達也&西槇太一
◎セットリスト
【桑田佳祐LIVE TOUR 2021「BIG MOUTH, NO GUTS!!」】
2021年12月30日(木)神奈川・横浜アリーナ
1. それ行けベイビー!!
2. 君への手紙
3. 炎の聖歌隊[Choir(クワイア)]
4. 男達の挽歌(エレジー)
5. 本当は怖い愛とロマンス
6. 若い広場
7. 金目鯛の煮つけ
8. 新YOKOHAMA LADY BLUES~新横浜レディ・ブルース~(OSAKA LADY BLUES~大阪レディ・ブルース~替え歌)
9. エロスで殺して (ROCK ON)
10. さすらいのRIDER
11. 月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)
12. どん底のブルース
13. 東京
14. 鬼灯(ほおずき)
15. 遠い街角 (The wanderin' street)
16. SMILE~晴れ渡る空のように~
17. Yin Yang(イヤン)
18. 大河の一滴
19. スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)
20. 悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)
EN1. 明日へのマーチ
EN2. 悲しきプロボウラー
EN3. 愛の奇跡 / ヒデとロザンナ
EN4. 波乗りジョニー
EN5. 祭りのあと
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