2021/12/14 18:00
サックス&クラリネット奏者としてCalmera(カルメラ)やPOLYPLUS(ポリプラス)、そしてソロミュージシャンとしても大活躍中の辻本美博。聴く者を大いに鼓舞させる音をぶっ放しながら、年々確実にファンを増やしていきながら、今や音楽シーンに無くてはならない存在にまでなったタイミングで、その音楽人生を語ってもらうべく生い立ちインタビューを敢行した。
「超絶劣等生だった」というスタートから唯一無二の実力派ミュージシャンになっていくストーリー。そして「演奏家が夢をちゃんと叶えられる世界を実現したい」と後続の未来の為にも動き出さんとしている彼の想い、ぜひご覧頂きたい。
<音楽の目覚め「圧倒的最下位からのスタート」>
--CalmeraやPOLYPLUSのサックスプレイヤーとして活躍し、クラリネット奏者としても注目を集めている辻本さんですが、そもそも音楽の道へ進むことになったきっかけは何だったんでしょうか?
辻本美博:中学校の吹奏楽部でクラリネットを担当していたんですけど、それがスタートですね。ただ、なんで吹奏楽部に入ったのか自分でもよく分からないんです(笑)。中学に入ったら何か極めたいとは思っていて、スポーツでも武道でもよかったんですけど、何故か吹奏楽部をひとりでぷらっと覗きに行って、そしたら「見学か。希望の楽器とかあるのか?」「いや、楽器とかよく分からないです」みたいなやり取りから気付いたらクラリネットを渡されていたんです。
--なんとなく覗いてみたら、音楽の道に進むことになったと(笑)。
辻本美博:今の自分の立ち位置からいろんなことを振り返ってみても、そのときに吹奏楽部の部屋へ行った理由だけは自己分析しても分からなくて。思し召しとしか言いようがないんです。ただ、そんな感じで成り行きで始めてしまったから、最初の1年ぐらいは超絶劣等生でした。まわりの部員は「元々ピアノをやっていました」とか「親が吹奏楽部でした」とか何かしらそういうバックグラウンドがある。しかも自分は1ヶ月遅れての入部だったので、圧倒的最下位からのスタートだったんです。
--そこからどのように這い上がっていくんですか?
辻本美博:もがき苦しみながらひたすら練習ですね。歩みは遅かったんですけど、練習したら練習しただけ出来るようになっていったので、2年生になる頃には同級生と肩を並べられるぐらいにはなって。そうなると劣等生マインドから抜け出してみんなと仲良くできるようにもなっていくんですよね。で、3年生になったときにはソロのコンテストに出てグランプリを獲ったりするようになっていました。
--その頃には「プロとしてやっていきたい」みたいなヴィジョンは持つようになっていたんですか?
辻本美博:中3でグランプリを獲ったときぐらいからぼんやりと「プロになりたい」とは思っていたんですけど、その頃はまだ視野も狭いし、まだインターネットも黎明期だったから今みたいに簡単に情報も得られないし、プロになる為にどういうルートを歩めばいいのかよく分からなかったんです。そうなると、音大に行ってどこかの交響楽団に入る道筋ぐらいしかなくて、でも自分がそこに向かっていくイメージは出来なかったので、その時点では保留にしていた感じでしたね。なので、とりあえず目の前のことを頑張るのみ。
<SOIL & "PIMP" SESSIONSとの出逢い「なんじゃこれ!?」>
--では、バンドで演奏するルートはどのタイミングで見出すんでしょう?
辻本美博:吹奏楽部の強い高校に進学して、全国大会に出たり、ソロでもまたグランプリを獲ったりしていたんですけど、今振り返ってもおかしいレベルの厳しすぎる吹奏楽部だったので、萎縮しまくりながら演奏するような空気だったんですよね。それに対して「このままだと音楽もクラリネットも嫌いになりそうだな」と疑問を抱くようになって。そこからの行動力は自分でも褒めてあげたいぐらいなんですけど、毎日夜8時ぐらいに練習が終わって帰宅したら、そこからクラリネットを持って外へ出て路上ライブをするようになったんです。そこでいろんなミュージシャンと出逢って、ジャズとかポップスとか楽譜じゃない音楽を初めて体感することになって。そこで交響楽団じゃない道もあるんだと知って、音大じゃなく普通の大学に進学してビッグバンドでジャズをやろうと。
--そこがターニングポイントになったんですね。
辻本美博:それまでずっとクラリネット1本だったんですけど、そのタイミングでサックス奏者としてのキャリアがスタートするんです。ただ、最初は「クラリネットの延長やん。いけるやん」と思っていたんですけど、似ているところと似ていないところがしっかり混在している楽器だから、クラリネットもサックスもどっちも調子悪くなるような現象に陥っちゃって。それで、関西の小林充さんというサックスプレイヤーに習いに通いだして、しっかりレッスンして基礎を作ってもらって。そこから表舞台に出て行くようになるんですけど、今、POLYPLUSを一緒にやっているギターの後藤さん(後藤俊明/Neighbors Complain)は「サックス、ヤバい奴おる」ってその当時から気にしてくれていたらしくて。
--POLYPLUSのエピソードゼロですね!
辻本美博:後々繋がっていくんですけど、その大学時代に4年間どっぷりビッグバンド及びジャズをやって勉強して。その中で管楽器のバンドというモノを知ったというか、SOIL & "PIMP" SESSIONSの存在を知るんです。当時、先輩との「ジャズ・サックスのCD、何枚持ってんねん?」「2枚ぐらいですかね」「アカンわ」みたいなやり取りから(笑)奈良のHMVに行って、チャーリー・パーカー、ジャッキー・マクリーン、アート・ペッパーみたいな有名どころのCDを1枚ずつ手に取っていったんですけど、そのときに店内に流れていたサックスが激烈に格好良くて「なんじゃこれ!?」と思って。店員さんに「今流れているコレ、何ですか?」って聞いたら「SOIL & "PIMP" SESSIONSの『マシロケ』です」と。それからSOILを掘りまくるんですけど、そこでもうひとつ選択肢の幅が広がったんです。
--SOILとの出逢いが今のバンド活動に繋がっていったと。
辻本美博:そんな感じで、大学はビッグバンドでの活動とSOILを追いかけることに費やしていたんですけど、卒業するタイミングで就職するのか、フリーランスミュージシャンになるのか、しっかり考えたんです。親からも「就職だけはせぇよ」と言われていたので。そこで「サックスプレイヤーとしてはバンドで名を上げたい。クラリネットはソロアーティストとして表現していきたい」という二本柱を自分の中で立てたんですよね。その時期に降って湧いたように、高校時代の吹奏楽部の1コ上の先輩で、今はスタジオミュージシャンとしてトランペットを吹いている真砂さんから連絡があって「新しくバンドをやることになったんやけど、初ライブの前にサックスの奴がいきなり飛んじゃったから手伝ってくれへん?」と言われて、そしたらそのバンドにまさに自分がやりたいことが揃っていたんですよね。
<上京~軌道に乗るまで「貯金を崩しながら音楽一本で生活」>
--運命的な出逢いですね。
辻本美博:テリトライというバンドだったんですけど、何回かライブをやってメンバーと呑んでいるときに「正式に合流してほしい」「僕もそう思っていました」「よろしく」みたいな会話をリーダーとして。Calmeraは気付いたら勝手にサポートから正式メンバーになっていたんですけど(笑)、テリトライはしっかりそういうやり取りがあって。でも、そのバンドが解散したときに「あなたの力が必要です」って声をかけてくれたのがCalmeraのリーダー・西崎ゴウシ伝説だったんですよ。当時のCalmeraに正直そんなに良い印象がなくて、「1回、スタジオ行ってみますね」って中に入ってみたら、トランペットの小林洋介とか鍵盤のPAKshinとか同世代で良いと思うプレイヤーがいることも分かったので「しばらく居させてもらいます」と伝えて。そしたら……
--なし崩し的にサポートから正式メンバーになっていたと(笑)。ちなみに、その頃には音楽で飯が食えるようにはなっていたんですか?
辻本美博:僕、当時は視野が狭かったんで、専業ミュージシャン至上主義だったんですよ。バイトも含めて副業とか他のことをやりたくないと思っていたんですけど、いきなり音楽だけで飯食っていける状況にはならず、関西に居た頃はバーやラウンジで働いていたんです。ただ、Calmeraとその事務所のフラッグシップ・アーティスツに入ることになって上京して、ワーナーからメジャーデビューすることになってからは、お金は全然なかったんですけど、バイトを探すようなことはせず、貯金を崩しながら音楽一本で生活していました。なので、上京してから3,4年がいちばんお金はなかったですね。でも、Calmeraもだんだん軌道に乗っていって、それと並行してクラリネット関係のレコーディングの仕事とかもいっぱいオーダーしてもらえるようになってきて、2016年ぐらいには「あー、お金がない」と思わなくなっていた気がします。
--そこまで踏ん張った結果、今の辻本さんの活躍ぶりがあると思うと夢がありますよね。サックスやクラリネットで副業せずに生きていくことって狭き門だと思うんですけど、辻本さんが夢を実現すればするほど、もっと言えば売れれば売れるほど、そこのルートって広がっていくわけじゃないですか。
辻本美博:僕が次目指しているところはそこなんですよ。もちろん自分のことも現在進行形で、まだまだやりたいこともやらなきゃいけないこともあるんですけど、後続の僕みたいなプレイヤーが夢を実現できるアシストも出来たらなと。そういう意識も強くなってきているんですよね。
--それって今日ここまでお話頂いたストーリーや現在の活躍ぶりがあるからこそ出来ることだと思うんですけど、辻本さんは何よりも音に説得力を持っているじゃないですか。Calmeraを初めて聴いたときも「なんだ、このサックスプレイヤーは!」と思いましたし、POLYPLUSを聴いたときも「こんなにも突き刺さるサックスを吹ける人は滅多にいない」と思いましたし、他の何よりも音で勝負している人だからこそ、後続にも夢を見せられると思うんですよね。
辻本美博:そう言ってもらえると、めちゃくちゃ嬉しいです。実際にサックスを持っているときの第一心情はソレなんですよ。戦いだと思っているし、サックスは武器だと思っているんで。
--ぶっ放しているイメージですよね(笑)。
辻本美博:ぶっ放すっていいですね(笑)。でも、本当にそんなイメージです。
<Calmera、POLYPLUS、Clarineについて~未来の話>
--そんな辻本さんの今現在の音楽活動は、Calmera、POLYPLUS、Clarinetの三本柱ですよね。ひとつずつ伺っていきたいのですが、今年2月にクラリネットソロデビューアルバム『Vermilion』をリリースしました。クラリネットの作品を発表するのは念願だったんですか?
辻本美博:念願でした。クラリネットを始めて20年経って、サックスは武器と先程言いましたけど、クラリネットはどんどん体の一部になっているような存在で、クラリネットという楽器とクラリネット業界への想いもどんどん強くなっていく中で、5,6年前から「ひとつ形にしたいな」と構想は練っていたんです。それが今年ついに生み落とせた。20年間分の技術と想いと人との繋がりを全部集約して1枚の作品に込めることが出来たんですよね。ちなみに、本作を制作するきっかけになったのは、大河ドラマ『篤姫』や『Dr.コトー診療所』など名だたる作品の劇伴も手掛けている作曲・編曲家の吉俣良さんなんです。それこそお金もなくて自信も持ちきれていなかった頃に出逢えて、吉俣さんが僕のクラリネットを聴いた瞬間に目の色を変えて「クラリネットを使う楽曲のときは絶対に頼むから」と言って下さって。それで、最初に映画『四月は君の嘘』で大抜擢してもらって、それ以来、吉俣さんのほとんどの作品に参加させて頂いているんです。それがあったからクラリネットのアルバム『Vermilion』を制作してリリースすることが出来たんだと思いますね。
--続いて、辻本さんの活動の基盤になっているホームバンド・Calmeraは、自身にとってどんな存在になっていますか?
辻本美博:ほんまにホームですね。母船というか、なんやかんや言ってもここがあるからいろんなことが出来ている。節目節目で「この母船ありきやな」と思わされます。
--今年はカンニング竹山さんとのユニット・タケヤマカルメラの「ヘイ・ユウ・ブルース」でも注目を集めました。あの楽曲の反骨的なメッセージっておそらく辻本さんの思想とも重なる部分があったでしょうし、やり甲斐のあるプロジェクトだったんじゃないですか?
辻本美博:仰る通りです。インストのバンドをやっていると言葉って使えないじゃないですか。でも、自分なりの考えとか思想が込められたメッセージって音楽とバシっと重なったときに刺さることも分かっているんですよ。なので、タケヤマカルメラをやれたのは嬉しかったですし、かなり尖ったメッセージだからめちゃくちゃ刺さる人と「は?」と思う人に分かれる作品だと思うんですけど、僕の思想とも好きな音ともハマったんで「これはぶっ刺しにいけるぜ!」「やってやった!」って感じでした(笑)。ああいうコラボが出来ちゃうのもCalmeraの面白さだと思います。
--そんなCalmeraが辻本さんのホームだとしたら、もうひとつのバンド・POLYPLUSはどんな存在なんですか?
辻本美博:POLYPLUSは、僕が本当に表現したいことがあるときにソレを実現していける場所です。2018年にデビューアルバム『debut』を出したタイミングでは「規模をデカくしていこう」とか「セールスを伸ばしていこう」みたいなことをすごく考えていたんですけど、この3年間でいろんな現場や表現者を見てきた中で「POLYPLUSを何の為にやっているんだろう?」と再考したんですよ。で、2021年現在は「表現者としてやりたいことをやりたいときに出来るバンド」として捉えるようになったんですよね。それを面白いと思って集まってくれるオーディエンスやスタッフチームたちとゴロゴロ転がっていけたらいいなって。なので「何年後にどこそこでライブする」みたいな明確な目標は敢えて立てず、このまま積み上げていってどこに到着するのかを楽しむイメージ。地図を見ずに進んでいく面白さをPOLYPLUSでは味わっていきたいなと思っています。
--では、最後に未来の話を。辻本さんがこの先、実現したい夢や野望があったら聞かせてください。
辻本美博:今回のインタビューでお話したこと全部とまるっと繋がると思っているんですけど、今は「演奏家が夢をちゃんと叶えられる世界を実現したい」という想いが強いです。例えば、音大を卒業したのはいいけど、演奏家としての進路を見つけられず、意志を持ってではなくなんとなく先生になったり。でも、元々は音楽に夢を持って頑張っていた人ってたくさんいると思うんですよね。なので、その夢をちゃんと拾い上げて実現できる手伝いが出来たらいいなと考えていて。その為にコミュニティを作っていくのか、ちゃんとアシストできる事務所的なモノを作るのか、その辺は本当に今練り上げていっているところで。もちろん現役プレイヤーとしてやりたいことはまだまだあるし、それと同時進行にはなるんですけど、自分とアシストしたい演奏家たちの相互でフィードバックしていきながら一緒に進めていって、それこそ音楽で生きていく道を広くしていけたらなって。それが今の僕のいちばんの夢です。
Interviewer:平賀哲雄
◎辻本美博 ツイッターアカウント
https://twitter.com/tsuujiimot
◎イベント情報
2022年2月5日【東京クラリネットフェスティバル】メルパルク東京ホールにて開催決定!#東京クラフェス
新時代の演奏家がクラリネットとホールコンサートの魅力を拡げる公演。更に学生応援の招待席を300席用意。クラウドファンディングでサポーターと共に作り上げる。
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