2021/12/13
2019年12月、薬物のオーヴァードーズにより21歳という若さで逝去し、シーンに大きな衝撃を与えたラッパー/シンガーのジュース・ワールド。
2018年リリースのシングル「Lucid Dreams」が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高2位を記録。同曲を収録したデビュー・アルバム『グッドバイ&グッド・リダンス』(2018年)も、アルバム・チャート“Billboard 200”で4位にランクインし、翌2019年に発表した2ndアルバム『デス・レース・フォー・ラヴ』は、同アルバム・チャートで自身初のNo.1をマークした。訃報を受け発表した3rdアルバム『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』も全米、そして全英チャートでも初の1位を獲得して、主要各国のヒップホップ・チャートを制する大ヒットを記録したのも記憶に新しい。
というのも、その『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』は2021年に入ってからも上位にロングランし、今年の米Billboard 200年間チャートでは、昨年の9位に続き11位にランクインする快挙を達成したからだ。2021年は、ミーゴスの『カルチャーⅢ』やトリッピー・レッドの『トリップ・アット・ナイト』、ヤング・サグの新作『パンク』など、人気ラッパーの作品にもゲストとして客演し、死後も“大活躍”というべく功績が続いている。
本作『ファイティング・ディーモンズ』は、その“伝説を残した”『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』から約1年ぶり、遺作としては2作目、通算4作目のスタジオ・アルバム。本作も、前作同様に生前抱えていたストレスや薬物中毒、鬱問題などが取り上げられていて、リリースの前日には、ジュースの母親カーメラ・ウォレスが、同じ苦しみを抱える若者を支援することを目的としたチャリティ基金「ライヴ・フリー999・ファンド」と共同の「ジュース・ワールド・デイ」をアマゾン・ミュージックで配信し、注目度を高めている。
本作も豪華ゲスト陣が参加。中でも、ジャスティン・ビーバーが参加した「Wandered to LA」と、BTSののSUGAが単独でクレジットされた「Girl of My Dreams」の2曲は、発売前から話題を呼んだ。前者は、ルイス・ベルとバーナード・ハーヴェイがプロデュースを務めたナンバーで、キャッチーなメロディ、ポップ・ロックにクロスオーバーしたサウンド・プロダクションが、両者のキャラ性とフィットした。後者も、ギターのイントロ~インタールードのストリングスが“哀愁漂わす”ポップ・ロックで、どちらもラジオ・ヒットが期待できそうな高クオリティ。とはいえ、歌詞のトーンはジュース色強めで、そのあたりは故人に対する配慮が伺える。
それから、ジュースのキャリアに大きな影響を与えたエミネムによるインタールード「Eminem Speaks」も、曲ではないが本作の目玉のひとつ、といえる。ここでの語りは、自身の経験を基に薬物使用と蔓延を描いたドキュメンタリー『How to Make Money Selling Drugs』から抜粋したもので、ジュース自身や周囲の人たちへはもちろん、現在依存症の患者に向けてのメッセージとして、ダイレクトに刺さる。その他インタールードには、前述の『デス・レース・フォー・ラヴ』をリリースする際にインタビューされた音声の 「Juice Wrld Speaks」~「Juice Wrld Speaks 2」も収録されている。
ゲストをフィーチャーした曲では、今年自身初の全米1位を獲得した「Rapstar」で大ブレイクのポロ・Gと、前述のトリッピー・レッドを招いた「Feline」も、滑らかなビートとそれぞれの叙情性豊かな表現力が、今年リリースした彼らの作品にも通ずる傑作。
6曲目には「Rockstar in His Prime」というタイトルがあるが、彼の生き様を「ロックスター」だと表現したとおり、トラックも伸びやかなで力強いボーカルが印象的な“ラップ・ロック”に仕上がっている。プロデュースは、数々のヒット作を輩出したT・マイナスがクレジットされている。その他にも、ロッカーさながらのシャウト~オルタナティブ・ロックを融合させたテイク・ア・デイトリップ作の「Doom」や、重低音と不穏なトラックがリフレインする「Go Hard」、昨年から今年にかけて大ヒットした24kゴールデンの「Mood」や、ポスト・マローンの楽曲陣と重なるドクター・ルークによるプロデュース曲「Not Enough」など、ラップ・ロックが本作の大半を占める。
気怠い歌い回しで自身の成功を称える「Relocate」、アコースティック・ギターとマイナー・ラインが歌詞中の刹那を示した「Until the Plug Comes Back Around」、任天堂のマリオ兄弟や映画『ランボー』など80年代のキャラクターが登場する「From My Window」など、ミディアムもヒップホップにはカテゴライズし難い独自の世界観がある。
薬物問題についてを幻想的で繊細なトラックに乗せた、メトロ・ブーミンによるプロデュース曲「Burn」や、ピアノの無造作な音階が切なさを強調させる「Already Dead」、米フロリダ州出身の新人ラッパー=YNWメリーの「Nobody's Around」をサンプリングした「You Wouldn't Understand」など、ジュースらしい哀愁系エモ・ラップはもちろん健在。 「Already Dead」は、「Lucid Dreams」や「Robbery」、「Bandit with ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン」等ジュースの代表作を手掛けたニック・ミラが、「You Wouldn't Understand」は808・マフィアがプロデュースを担当していて、ニックはその他にも本作の大半の曲に携わっている。
最後の2曲は、本作の中でも1、2を争う傑作。「Feel Alone」は、仄暗いギターの音色が歌詞の“病んだ”ニュアンスを上手く音に反映させたサイケデリック・ロックで、ジュースの特徴的な“うめき”と陰を纏った雰囲気孤独を特徴した。最終トラックの「My Life in a Nutshell」は、重厚な残響音と重奏するエフェクト・ボーカルが不気味な詞と音が一致した傑作で、陰気な中にも希望が垣間見えるフレーズがあり、すばらしい締め括りを果たした。
昨年『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』と同じタイミングでリリースされた故ポップ・スモークの大ヒット作『シュート・フォー・ザ・スターズ、エイム・フォー・ザ・ムーン』も、約1年で遺作第二弾『フェイス』がリリースされたが、お世辞にも評判が良いとは言えず、前作の成功を超えることはできなかった。故人の作品を世に出すにあたり、場合によってはファンのテンションを気落ちさせてしまうこともあることから、慎重さが求められる。本作『ファイティング・ディーモンズ』も、中には「不本意だ」~「故人の意思を尊重できていない」等の批判もあるだろう。
しかし、少なからず作り手の想い、拘り、愛情は感じられる、そんな作品ではあった。生前みせていた“別の顔”も伺わせたり、サウンド面においても新しい発見・挑戦があったと思う。エンディングの「My Life in a Nutshell」に綴られたとおり、彼の痛みは理解できないが、才能は理解できる。ラジオから曲が流れる限り、ジュース・ワールドは生き続ける。そういう“想い”が伝わった。
Text: 本家 一成
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