2021/10/31 12:00
“ソウルの女王”アレサ・フランクリンの生涯を描いた映画『リスペクト』が、2021年11月5日より全国公開する。
アレサ本人が生前にジェニファー・ハドソンを指名し、映画化された『リスペクト』は、『ドリームガールズ』(2006)でジェニファーがオスカーを手にした直後から、長期間にわたりプロジェクトが進められてきた。幼い頃から抜群の歌唱力で天才と称され、煌びやかなショービズ界の華となったアレサだったが、尊敬する父、そして愛する夫からの束縛や裏切りに苦しめられていく。すべてを捨て、自分の力で生きていく覚悟を決めたアレサの歌声に世界中が歓喜と興奮で包み込まれる。
日本公開を前に、本編を彩るアレサの名曲の数々を紹介。楽曲の秘話を知れば、より一層本作を楽しめることだろう。
★「I Never Loved A Man (The Way I Loved You)」
1967年2月に発表された<アトランティック>第1弾シングルで、邦題は「貴方だけを愛して」(同名アルバムに収録)。米デトロイトのソングライター、ロニー・シャノンが書いたブルース色の強いバラードで、アレサはこれでソウル・シンガーとしての第一歩を踏み出す。男に傷つけられても愛さずにはいられない女性の心情を歌った曲は、当時の夫テッドとの関係とも重なる。米南部アラバマ州マッスル・ショールズのフェイム・スタジオで、腕利きの白人ミュージシャンからなるバンド(彼らはスワンパーズと呼ばれた)と録音。夫テッドとフェイムのスタッフの間で揉めごとが起きたのも、このセッションだった。全米チャートR&B 1位/ポップ9位を記録。
★「Respect」
本作のタイトルにもなったアレサの代表曲。亭主に対し「家庭を守る私に敬意を払って!」と、女性に対する“リスペクト”を求めるこの曲は世界に広く知られているが、もともとは黒人男性歌手のオーティス・レディングの曲で、汗水流して労働し、帰宅した男が妻に対して「家では敬意を払ってくれ」と懇願する内容の歌だった。そんな原曲を大胆にアレンジしたのはアレサとその姉妹で、夫との関係に悩み、夜眠れぬアレサが、姉妹たちと共に遊び半分で歌いだした曲は、思わぬヒットに。アルバム『貴方だけを愛して』のトップを飾り、1967年4月にシングルを発表。オーティスのオリジナルを女性目線で歌うことで、女性への“リスペクト”を求める歌となった。アレサの力強い歌、それにレスポンスする姉アーマと妹キャロリンの快活なコーラスからも自立した女性のプライドが感じられ、今なお語り継がれるフェミニズムの象徴的な応援歌だ。全米チャートではR&B/ポップともに1位を記録。初の【グラミー】受賞曲にもなり、アレサの解釈に感心したオーティスは「あの娘に曲を奪われたよ」と語ったとされる。アレサは、映画『ブルース・ブラザーズ2000』(1998)に出演した際、リメイク版を披露。
★「(You Make Me Feel Like) A Natural Woman」
プロデューサーのジェリー・ウェクスラーからの要望でキャロル・キングとジェリー・ゴフィンが書き下ろした本曲は、1967年9月に発売され、翌年発表のアルバム『Lady Soul』に収録。「あなたに出会ったことで素の自分でいられる」という恋の歌だが、アレサがスケールの大きい声で歌うことで女性解放運動を後押しする曲となった(全米R&B 2位/ポップ8位)。ピアノや弦の響き、コーラスも印象深く、キャロルは自身の『つづれおり』(1971)でカバー。本映画でダイナ・ワシントン役を務めたメアリー・J. ブライジもカバーしている。アレサは晩年、キャロルが栄誉を手にした2015年のケネディ・センター名誉賞授賞式で本曲を熱唱し、拍手喝采を浴びた。
★「Ain’t No Way」
1968年のアルバム『Lady Soul』のラストを飾るバラードで、同年2月に発表されたシングルのB面曲だったが、全米チャートでR&B 9位/ポップ16位を記録。愛する人に自分を受け入れてもらえない辛さと諦めを切なげなヴォーカルで情感込めて歌い上げたこれは、夫テッド・ホワイトから暴力を受け、離婚寸前だったアレサの心情を映し出したかのような曲でもある。オペラ風の高音ヴォイスはアレサのコーラス隊であるスウィート・インスピレーションズのメンバーで、ホイットニー・ヒューストンの母親としても知られるシシー・ヒューストン。曲の作者はソングライターとしても才能を発揮した妹キャロリンで、彼女は1973年の名曲「Angel」も書いている。
★「Think」
1968年5月リリースで、同年のアルバム『Aretha Now』に収録されたヒット・シングル(R&B 1位/ポップ7位)。アレサ本人が書き、夫のテッド・ホワイトも作者として名を連ねた曲で、親交のあったキング牧師が凶弾に倒れた11日後に録音された。劇中では高圧的で時折暴力をふるう夫に対し、アレサが「考えて!」「自由が欲しい」と繰り返し力強く歌って自身を解放させようとする象徴的な歌として使用されているが、「Respect」同様、男女間の問題を扱った歌でありながら、暴動などで混乱する社会状況の中で人々に自覚を促す目的もあったとされる。映画『ブルース・ブラザーズ』(1980)にソウルフード店の女将役として出演したアレサが啖呵を切るようにこの曲を歌ったシーンも有名だ。アレサは<アリスタ>時代にセルフカバーしている。
★「Young, Gifted And Black」
1970年8月に録音され、1972年に発表した同名アルバムに収録された黒人讃歌。“ブラック・イズ・ビューティフル”が叫ばれた時代の空気を切り取ってニーナ・シモンが歌った曲のカバーで、シングルは未発売だが、アレサの人種的・社会的スタンスを明確にした意義深い一曲だ。これを歌った背景には、黒人/女性解放運動の闘士として活躍しながら、不当に収監されたアンジェラ・デイヴィスへの思いがあったとされる。完璧なニーナの歌を聴いたジェリー・ウェクスラーは、アレサがカバーすることに難色を示したが、オルガンで参加したビリー・プレストンの一声もあって録音を決行。ピアノはアレサで、コーラスはスウィート・インスピレーションズが担当している。
★「Amazing Grace」
アレサ史上最多セールスを記録したゴスペル・アルバム『Amazing Grace』(1972)のタイトルにもなった古い賛美歌のカバー。ジュディ・コリンズやエルヴィス・プレスリーなどのほか、日本でも歌謡曲やJ-POPシンガーにたびたび歌われている名曲だ。アレサは1972年1月に米ロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で行ったゴスペル・コンサートで本曲を披露。クワイアや会衆の喝采を受けて静かに歌い出し、天に届くような伸びやかで力強い声を爆発させた。旧知のジェームズ・クリーヴランド師による指揮で、教会ルーツに真正面から向き合った気高く慈しみ深いコンサートの模様は、40年以上を経て映画化され、『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』として、日本でも公開された。
◎公開情報
『リスペクト』
2021年11月5日(金)より、全国公開
監督:リーズル・トミー
出演:ジェニファー・ハドソン、フォレスト・ウィテカー、マーロン・ウェイアンズ、メアリー・J. ブライジほか
配給:ギャガ
(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像