2021/10/22 18:00
米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で1位を獲得したカミラ・カベロの「Havana」(2017年)やポスト・マローンの「Goodbyes」(2019年)、M.I.A.と参加したトラヴィス・スコットの「Franchise」(2020年)、そして今月No.1に輝いたドレイクの「Way 2 Sexy」など、途切れることなくヒット曲を輩出し続けているヤング・サグ。昨年から今年にかけては、クリス・ブラウンとコラボした自身のシングル「Go Crazy」もロングヒットとなり、ここ数年はその名前を見ない日はない……というほど活躍を加速させている。
アルバム・チャート“Billboard 200”では、2019年夏にリリースしたデビュー・アルバム『ソー・マッチ・ファン』と、今年4月に発表したコンピレーション・アルバム『Slime Language 2』の2枚が1位に、ミックステープを含む計7枚がTOP10入りした。早々に次作を発表すると公言していたこともあり、上位にランクインし続けた『ソー・マッチ・ファン』に続く新作のリリースはいつになるのか、ファンから多くの期待が寄せられていたが、パンデミックの影響等もあり約2年をかけて本作『パンク』を完成。アルバムから正式にリリースした先行シングルはなく、「本物のヒップホップ・アルバム」と公言するだけの自信に満ちている。
米アトランタのラッパー、ストリックが参加したオープニング・チューン「Die Slow」は、おセンチなギターの弾き語りにラップというよりは早口でメッセージを紡ぐメロウ。同性愛嫌悪ともとれるリリックは賛否がありそうだが、ヒップホップの枠を超えた斬新な曲ではある。この曲をはじめ、リル・ウェインの面影をみせるチルアウト「Stupid/Asking」、警察への批判と確固たる欲求、現代社会の在り方を歌った、ガンナをフィーチャーしたアコースティック・メロウ「Recognize Real」など、本作はアクの強いヒップホップよりミディアム~メロウの割合が多くを占める。
中でも、ポスト・マローンとエイサップ・ロッキーが参加した「Livin It Up」は、チャートにおけるヒットも狙えそうな傑作。ポスト・マローンといえば、前述の「Goodbyes」などヒップホップにカテゴライズするには悩ましいアーティストだが、同曲もギター・セクションによるインストルメンタルのメロディックなナンバーで、フォークやカントリーのような風格をみせる。故マック・ミラーをフィーチャーした最終曲「Day Before」も、ウクレレの演奏をバックに従えた非ヒップホップ・トラックで、ラップ・アルバムとして聴くと違和感があるが、こうした演出ができるのもヤング・サグの魅力といえる。
フューチャーと若手ラッパーのYNW BSlimeが参加した「Peepin Out the Window」や、得意分野である宝飾やファッションに触れたガンナとのコラボ「Insure My Wrist」、自身の価値観を強調したYSL直系の「Droppin Jewels」など、ピアノ主導のアーバン・ヒップホップもすばらしい。そのガンナとFUN.のフロントマン=ネイト・ルイス、「Uptown Funk」(2014年)のヒットで知られるジェフ・バスカーによるクアドラプル・コラボ「Love You More」も落ち着いた雰囲気の好曲で、ヒップホップに精通しないリスナーにとっても聴きやすく構成されている。
前述にもあるように、ヤング・サグは音楽を通じて様々なキャラクターを演じ、歌うことができる。「Stupid/Asking」にように、トラックはゆるやかでも歌っている内容は結構ハードだったりするのも、その特徴のひとつ。一方で、「Scoliosis」や「Road Rage」のように、リリックもトラックも攻撃的なアトランタ直系のヒップホップもあり、色んなカタチでリスナーをたのしませてくれる。故ジュース・ワールドのボーカルが蘇るへヴィ級のトラップ「Rich Nigga Shit」もしかり。
ゲストに支えられた曲では、J.コールとT-Shyne参加の「Stressed」、ドレイクとトラヴィス・スコットをフィーチャーした「Bubbly」のトリプル・コラボレーションもいい。前者は、3者の異なるスタイルがうまく調和した硬派なヒップホップで、タイトルの如くそれぞれのシーンにおける伴うストレスについて、後者はサイレンが鳴り響くスリリングなトラックに乗せて、金、女、名声とラッパーらしいアレコレをスマートに突き出した。ゲストが参加した曲は、その他ドージャ・キャットとコラボしたファンシーなラップ・ポップ「Icy Hot」もあるが、曲自体は悪くないものの、アルバムのトーンには見合わず、収録は見送った方が良かったように思える。
その他、下品なリリックを炸裂させるフロア映えのパーティー・チューン「Yea Yea Yea」、「イエス」を主張するカニエ・ウェストの雰囲気を醸した「Contagious」、「アーメン」と連呼する活気に満ちたクリスチャン・ラップ「Faces」、アンドリュー・ワット& ルイス・ベルがプロデュースしたファッション、ドラッグ、ライバル関係についてラップした「Fifth Day Dead」~アルバム中最も早い段階で公開された「Hate the Game」と、スタイルを貫いた曲からユニークなサウンド・プロダクションまで閃光の如く駆ける。
デビュー作『ソー・マッチ・ファン』とは対照に、本作は熱心なファンの多くが頷ける作品かというと微妙なところではあるが、期待を裏切らない安パイな作品を作り続けるのではなく、アーティストの拘りや変化を明確に反映させた意欲作で、ヒットを狙うこともできればエリック・サティのように“異端児”らしい曲も作れる、ラップ界を超越した存在であることを証明した。
Text: 本家 一成
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