2021/10/18 18:00
エルトン・ジョンが最新作『ロックダウン・セッションズ』のリリースに先駆けて、2021年9月21日にプレス向けのQ&Aを行った。英ラジオ・パーソナリティのマット・エヴァレットを聞き手に迎えて開催されたこのQ&Aセッションで、エルトンは新作に取り組むことになった経緯、今作でコラボした若手からベテラン・ミュージシャンたち、そしてメインストリームにおけるLGBTQアーティストの飛躍について語った。
まずエルトンは、「ロックダウン中に音楽を作るなんて思ってもみなかったし、その予定もなかった。だから、本当に偶然に出来上がった作品なんだ」と前置きすると、コロナ禍で音楽を作る引き金となった出来事について「制作がスタートしたのは2020年3月で、たまたまLAのレストランでチャーリー・プースに出くわしたことがきっかけだった。彼に会うのはその時が初めてだったけれど、私のLAの家から4軒先に住んでいたことが発覚した。“自宅にスタジオがあるから、もし興味があれば、滞在中に一緒に曲作りができたら”と彼が誘ってくれたので、応じることにした。それがアルバムに収録されている“アフター・オール”なんだ。とても素晴らしい経験だった」と明かした。
「この翌日、自宅から3軒隣りに暮らす音楽出版の担当者の家を訪れて、サーフェシズとの楽曲“ラーン・トゥ・フライ”をZoomを使って制作した。初めての経験だった。彼らはテキサスにいたのでね。この曲にはヴォーカルとピアノを提供した。この2曲がきっかけになったんだ」とエルトンは話した。
その後も次々とコラボのオファーを受けたそうで、「イギリスに帰国すると、デーモン・アルバーンからゴリラズの曲に参加してほしいと連絡があり、リナ・サワヤマからは“チョーズン・ファミリー”でデュエットしピアノを演奏してほしいと言われた。そしてメタリカとマイリー・サイラスの楽曲にアンドリュー・ワットと取り掛かって、オリー・アレクサンダーと“哀しみの天使”をやって、続いて故グレン・キャンベル、リル・ナズ・Xとのコラボに取り掛かった」と話し、これらの曲をアルバムにできるのではないかと考えたそうだ。
先行配信されたデュア・リパとのきらびやかなディスコ・ナンバー「コールド・ハート(プナウ・リミックス)」は、元々エルトンのボーカルのみだったが、「自分で“ロケットマン”を歌うのも気が引ける」ので、デュエット相手を探す必要があったそうだ。今年に入り、LAでのディナーを通じてデュアと仲良くなったこともあり、「曲を気にいるかどうか聴いてみてほしい。できれば、プールサイドで大音量で聴いてほしい」と彼女に連絡したそうだ。リクエスト通りプールサイドで曲を聴いたデュアから“参加したい”と返事があり、コラボが実現することとなった。同曲でエルトンは、実に21年ぶりに米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”にチャートインし、最新の全英シングル・チャートでは16年ぶりに1位に輝く快挙を果たした。
You’ve made me feel infinitely better after my surgery and I can’t wait for you to hear the whole of ‘The Lockdown Sessions’ when it comes out next week!#coldheart #thelockdownsessions
— Elton John (@eltonofficial) October 15, 2021
その後、LAに再び戻った彼は、ブランディ・カーライル、エディ・ヴェダー、スティーヴィー・ワンダー、ヤング・サグ&ニッキー・ミナージュ、スティーヴィー・ニックス、ジミー・アレンとのレコーディングを行い、SGルイスと書き上げた楽曲も完成したため、アルバムに収録されている全16曲が揃うこととなった。「すべてチャーリー・プースのせいだよ!」とエルトンは笑いながら振り返ったものの、「今作を通じてたくさんの友情、多くの魔法と喜びが生まれた。作るのが本当に楽しかった。発見が数多くあるしね」と続けた。
エルトンは、キャリア初期にセッション・ミュージシャンとして生計を立てていたが、様々なアーティストのために演奏を行った今作のレコーディング中に、当時のことを思い出したそうだ。「リル・ナズ・X、故グレン・キャンベルの曲の録音はアビー・ロード・スタジオで行ったけれど、その54年前には同じスタジオでホリーズの“兄弟の誓い”のレコーディングに参加していて、まるで一巡したような気がした。他のアーティストの楽曲で演奏するのは大好きなんだ」と彼は明かした。
ただ、自然と”エルトン節”になってしまうこともあるそうで、コラボ相手から「“もう少し抑えてほしい。あなたのではなく、私の曲で演奏してもらっているので”と言われることもある(笑)。でも、私としてはその方が助かる。相手がどういう風に演奏してほしいかを知れる方が、自分が思うように演奏するより興味深い。例えばマイリーとのメタリカの曲の場合、元々の曲はギターのみだけど、(プロデューサーの)アンドリュー・ワットは、私のピアノの演奏で曲を初め、終えるようにした。新たな視点だよね」とコラボの醍醐味についても触れた。
今作でエルトンは多くの若手アーティストと共演を果たしている。およそ6年前からApple Musicで自身のラジオ番組『Rocket Hour』を放送しているエルトンは、その中で気になった新人アーティストの楽曲を精力的に紹介しており、直接FaceTimeなどでインタビューを行うこともある。「新人アーティストによる新しい曲を聴くと興奮させられるんだ」と話した彼は、「いまだにCDを買っているよ。毎週金曜日に発売される作品のリストを入手し、欲しいタイトルのCDとアナログ盤を購入している。毎週欠かさずラジオ番組もやっているので、Appleが新曲いつも送ってきてくれるし、Spotifyでは毎週大体3万曲配信されるので、選択肢は山ほどある」と新作をまめにチェックしていることを明かした。
そして「若いアーティストに友情の手を差し伸べることは、自分にとって重要なこと。私が初めてアメリカに来たとき、ニール・ダイアモンド、ビーチ・ボーイズ、故レオン・ラッセル、ザ・バンド、故ジョージ・ハリスンなど、みんな連絡してきてくれた。レオンにはツアーにも帯同させてもらった。彼らが、私の音楽を気に入ってくれたことが、とても嬉しかったし、自分の音楽に確証を持たせてくれた。そういったことを若手に継承していきたいんだ。彼らの助けになることだから」と胸の内を語った。
今回デュエットした若手アーティストの中で、自分と考え方などが一番似ているアーティストは誰かという質問には、「どのアーティストにも何かしら似た要素があると思う。デーモン・アルバーンは、若いアーティストではないけれど、彼には親近感を抱いている。彼は自由な魂を持っていって、私もそうだから彼の音楽は大好きだ」と彼は答えており、アルバム収録曲の中でもデーモン率いるゴリラズとの楽曲「ザ・ピンク・ファントム」は特に気に入ってるそうだ。
「一緒に仕事をした全てのアーティストから新しいことを学んだ」と続けたエルトンは、「スティーヴィー・ニックスからスティーヴィー・ワンダー、SGルイスからリル・ナズ・Xまで。今年74歳になったけれど、74歳になっても他のアーティストから学べるということは最大の贈り物だと思う。ミュージシャンは、学ぶ事を止めてはいけないし、心を閉ざしてはならない。もう全てやり尽くしたし、全てやり遂げたから、他のものを聴く必要はないと思うのは、私にとって行き止まりだ。今がこれまでで一番音楽に対して情熱を持っている」と74歳になった現在も音楽を作り続けている理由を明かした。
今作で初めてコラボをすることになったスティーヴィー・ニックスについては、「彼女のことは長年大好きだった。素晴らしい声の持ち主だと思うし、フリートウッド・マックはクリスティン・マクヴィーとスティーヴィーという二人の女性ヴォーカルに恵まれている。スティーヴィーはロック界を代表する歌声を持っていて、とても特徴的な声をしている。彼女とはずっと一緒に曲をやりたいと思っていた」と明かし、同様にエディ・ヴェダーなど「素晴らしいアーティストだと知っているけれど、まだ一緒に仕事をしたことがないアーティストとコラボをする機会を与えられるのは、喜ばしいことでスリリングだ」と語った。
作品を締めくくる故グレン・キャンベルの「アイム・ノット・ゴナ・ミス・ユー」は、エルトンにとって思い入れの強い楽曲だ。アルツハイマー型認知症を患っていたグレンが最後に録音したこの曲は、【第57回グラミー賞】で<最優秀カントリー・ソング>にも輝いた。リリース当時から曲の素晴らしさについて公言していたエルトンは、彼の遺族からデュエットを直接依頼され、今回の時を超えたコラボが実現した。グレンがレッキング・クルーのギタリストとして活躍していた頃からファンだったというエルトンは、「彼の歌声と同じぐらいの感情を自分の歌声に持たせなければならなかった」ため、アルバム収録曲の中でも特に難しかった曲だったそうだ。「とても光栄で、特にこの曲に携われたことには感激した。同時に原曲としっかりと向き合ったものにしなければならなかった」と彼は説明した。
アルバムに多様な音楽要素が取り入れられていることについてエルトンは、様々な音楽が好きで、これまでも色々なアルバムで演奏や歌唱してきたと話した。だが、ヤング・サグとニッキー・ミナージュとコラボをする日がくるとは思わなかったそうだ。「ヤング・サグがスタジオに入ってきて、フリースタイルするのを聞いた時は興奮した。本当にアメイジングで、マイクの前に座ったと思ったら、そのままリリックが流れ出てきたんだ。ラップをくだらないと批判する人もいるけれど、私は圧倒された」とその才能に魅了されたそうで、「自分が普段関わっているジャンルとは全く違っていて、やろうと思ってもどこから始めたいいのかわからない」と続けた彼は、「SGルイスとエレクトロニック・ミュージックに関しても同じことが言える。だから、彼と一緒に仕事がしたかったんだ」と述べた。
昨今のLGBTQアーティストの飛躍について問われると「才能溢れるクィア・アーティストは数多くいる。特にリル・ナズ・Xは、ヒップホップ・コミュニティやブラック・コミュニティとの間にある垣根を取り払っていて、これは非常に重大なことだと思う。稀に同性愛嫌悪の傾向にあるから」と述べた。そして友人でもあるThe xxのオリヴァー・シム、パフューム・ジーニアス、トロイ・シヴァン、アーロ・パークスから今後ビッグになると断言するジェイク・ウェスリー・ロジャースまで、多くのクィア・アーティストが活躍していると話し、「素晴らしいソングライティングやアーティスト性を押さえつけることはできない」と続けた。
◎リリース情報
アルバム『ロックダウン・セッションズ』
2021/10/22 RELEASE
UICY-16027 / 2,750 円(tax incl.)
※日本盤CDのみSHM-CD仕様、ボーナス・トラック1曲収録
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