2021/07/21 18:00
米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高13位を記録したデビュー曲「ノー・サッチ・シング」、同チャート18位、アダルトTOP 40エアプレイ・チャートで3位入りした「ユア・ボディー・イズ・ワンダーランド」などを収録したデビュー作『ルーム・フォー・スクエア』(2001年)のリリースから、今年の6月で20周年を迎えたジョン・メイヤー。2003年開催の【第45回グラミー賞】では<最優秀新人賞>にノミネートされ、「ユア・ボディー・イズ・ワンダーランド」が<最優秀男性ポップ・ヴォーカル>を受賞するなど、輝かしい功績も多数残している。
2003年9月にリリースした2ndアルバム『ヘヴィアー・シングス』は、初週317,000枚を記録して米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で自身初のNo.1デビューを果たし、3rdシングル「ドーターズ」もアダルトTOP 40エアプレイ・チャートで1位を記録する大ヒットとなった。本作の大ブレイクを経て、翌2004年1月には初来日公演を開催。日本でも高い知名度と人気を博し、20年来の熱狂的ファンも数多く獲得している。
以降、米アダルト・コンテンポラリー・チャートで1位を獲得した「ウェイティング・オン・ザ・ワールド・トゥ・チェンジ」を含む3rdアルバム『コンティニュアム』(2006年/全米2位)、“Billboard 200”で6年ぶりに首位を獲得した4thアルバム『バトル・スタディーズ』(2009年)、2週連続1位をマークした5thアルバム『ボーン・アンド・レイズド』(2012年)、喉の手術を経て復活劇を果たした6thアルバム『パラダイス・バレー』(2013年/全米2位)、EP 2作を先行で発表した意欲作の7thアルバム『ザ・サーチ・フォー・エヴリシング』(2017年/全米2位)と、順調にキャリアを積み重ねてきた。
本作『ソブ・ロック』は、前作『ザ・サーチ・フォー・エヴリシング』から約4年ぶりとなる通算8枚目のスタジオ・アルバム。その間にはEPやコンピレーション・アルバムも一切リリースしておらず、キャリア史上最も長い期間を経て完成した作品ということになる。他のアーティストと同様、パンデミックの影響もあったと思われるが、ベテランの域に達したからこそ“ムダ打ち”はせず、納得がいくまで作品のクオリティ追求した……という捉え方もできる。
アルバム完成までの4年間には、4曲のシングルをリリースしている。約3年前の2018年5月に発表した1stシングル「ニュー・ライト」は、主にラッパーやR&Bシンガーの楽曲を手掛けるシカゴ出身のトラックメイカー=ノー・アイディーによるプロデュース曲で、80年代初期のディスコ・フロアが蘇るニューウェーブ~テクノ・ポップ風のサウンド・プロダクションとなっている。ザ・ウィークエンドやデュア・リパなどを筆頭に、ここ数年アメリカやヨーロッパではこのテの曲がチャートを荒らしているが、「ニュー・ライト」はその先駆けとなる重要な役割を果たした……のではないだろうか。
煌めくキーボード、インタールードのギター・ソロも懐かしさに溢れていて、色気を醸すソフトなボーカル・ワークも最高。家着で踊りながら・演奏しながら各地を巡るミュージックビデオも“安っぽい合成感”が80年代っぽく、昨今の若者がSNSで「逆におしゃれ」としている(ある意味)今風の仕上がりになった。同ビデオは公式チャンネルで8,000万再生を突破し、米ビルボード・ロック&オルタナティブ・ソング・チャートで7位に、RIAAでプラチナ認定されるヒットを記録した。この曲が「80年代」をテーマとする本作の軸となった……というのは言うまでもない。
翌2019年2月にリリースした2ndシングル「アイ・ゲス・アイ・ジャスト・フィール・ライク」では一転、繊細なメロディ・ラインにシルキーなボーカルを乗せた、かつてのジョン・メイヤーらしいアコースティック・メロウに回帰している。楽しかった思い出も全て消えてしまいそう/未来が消えつつある~今日は諦めたけどまた道を見つける……と、悲観的な思想をポジティブに切り替えようとする曲で、女々しいボーカル~雑味と男気あるエンディングのギター・ソロが心情の変化を物語っている。
同年9月に発表した3rdシングル「キャリー・ミー・アウェイ」も、冒頭から「退屈でダメな奴だ」とネガティブさを露わにし、そんな自分を違う世界に連れ出して欲しいと率直で内省的な想いを示した。40代を迎えたばかりということもあり、この時期のジョンは少々精神状態が不安定だったことが伺える。同曲には、ニューヨークを拠点とするシンガー・ソングライターのコーシャス・クレイが参加していて、80年代らしい“わかりやすさ”がある煌びやかなロック・ポップに仕立てた。
アルバム発売の前月にリリースした最新シングル「ラスト・トレイン・ホーム」は、AORシーンで高い人気を博すロック・バンド=TOTOのNo.1ヒット「アフリカ」(1982年)をリメイクしたような、80's直結のポップ・ロック。それもそのはず、TOTOのメンバーでもあるグレッグ・フィリンゲインズがキーボードを、レニー・カストロがパーカッションを担当していて、シンセによるイントロ、ギターのカッティング、重圧なコーラスを従えた広がりのあるサビが何れも「TOTO風」になるのは必然だった。
TOTOのメンバーに加え、同曲には女性カントリー・シンガーのマレン・モリスがボーカル・ゲストとして参加している。とはいえ、彼女のボーカルはほんの添えた程度で、ネームバリューに頼った感はなく、それが逆に良いアクセントとなった。彼女は著名なアーティストだが、80年代のポップ/ロックには、無名の女性コーラスがバックで存在感を示す曲も多く、そのあたりも80's風といえる(?)。MVも、両サイドに配置したキーボードやパステル・カラーのギター、過度に焚いたスモーク、ソバージュヘアのカメラマン、黒い革ジャン……など当時の流行が垣間見えた。敬愛するスティーヴィー・レイ・ヴォーンのようなギター・プレイが光る、サイケデリック・ロック風味の「ワイルド・ブルー」も、まんま80's。
そのマレン・モリスがコーラスを、グレッグ・フィリンゲインズがシンセを担当した6曲目の「ショット・イン・ザ・ダーク」や、叙情的な歌詞と温かみのある歌声、穏やかなキーボード&アコースティック・ギターの演奏による「シュドゥント・マター・バット・イット・ダズ」は、80'sというより2ndアルバム『ヘヴィアー・シングス』あたりの曲に類似する。女々しい男ゴコロを哀愁系の旋律に乗せた「ホワイ・ユー・ノー・ラヴ・ミー」も、初期の作風に近い。サウンドは類似点もあるが、歌詞においては初期の腕白で活気に満ちた感じはなく、人生を静観し自分の弱さを曝け出している曲が目立つ。
間奏のバンジョーが雰囲気を彩る、ディスコのリズムとカントリーの演奏を組み合わせた「ティル・ザ・ライト・ワン・カムズ」も捨てがたいが、本作のハイライトは物語の最終曲に相応しいカントリー・バラード「オール・アイ・ウォント・イズ・トゥ・ビー・ウィズ・ユー」だろう。キャリア20年・43歳という絶妙な年齢だからこそ醸せる味わいのボーカル、ブルース・スプリングスティーンを彷彿させる終盤のエレキギターもすばらしく、説得力にも長けている。
SNSのプロモーションやメディアの煽り、リチャード・マークス風のカバー・アートからも、どっぷりとエイティーズ・サウンドが充満しているのかと予想したが、良い意味で依存度は低く、これまでの作品と違和感なく聴けるジョン・メイヤーらしいアルバムだった。エイティーズというテーマは、単に再ブームに乗っかっただけでなく、彼が幼少期に受けた影響とそのレジェンドたちへの敬意、それらを歌い熟せるようになった自身の成長、そしてこの暗い時世に明るい兆しを与える糧諸々が含まれている、そんな気がする。
Text:本家 一成
◎リリース情報
『ソブ・ロック』(国内盤)
2021/7/21 RELEASE
SICP-31454 2,500円(tax out.)
※高音質Blu-Spec CD仕様
※ジョン・メイヤー本人によるセルフ・ライナーノーツ封入
※初回仕様限定ポスター封入
※歌詞・対訳・解説付き
https://SonyMusicJapan.lnk.to/JohnMayer_SobRockBJ
https://www.sonymusic.co.jp/artist/JohnMayer/
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