2021/07/15
ブクガことMaison book girl等のボイトレ講師を務め、SKY-HI主催の発掘オーディション『THE FIRST』でも“蟻先生”として奮闘している蟻。蟲ふるう夜に活休~キミノオルフェ発足から5周年を迎えた今夏、それらの活動で出逢った教え子たちへの愛、表現者としての自らの今、そしてティザー映像が公開されたばかりの新曲「パパラチア」について語ってくれた。ぜひご覧頂きたい。
◎キミノオルフェ5周年記念インタビュー
<教え子でもあったブクガ活動終了~ボイトレ講師としての物語>
--近年はボイトレ講師としても活躍していますが、その生徒でもあったブクガことMaison book girlが舞浜アンフィシアターでのワンマンライブで活動を終了しました。どんな気持ちで見届けましたか?
蟻:あのライブの日は彼女たちを「支えなきゃ」という気持ちでいながらも、喪失感が凄かったですね。私のバンド・蟲ふるう夜にが活動停止したときみたいな放心状態というか……前日にコショが眠りにつくまで電話で話し相手になったりもしていたんで……いきなりパッと涙が出たりしていましたね。
--ブクガに対してはどんなレッスンを行っていたんですか?
蟻:彼女たちって基礎じゃない部分がスゴいから、基礎だけがすっからかんみたいな状態だったんで(笑)。あとは歌の表現の幅みたいなところ。メンバーそれぞれの性格は知っていたので、それに合わせたアレンジみたいなことはやらせてもらいました。彼女たちがやりたい表現を掘り下げるというか、雇われたアイドルじゃなくて表現者としての自我の芽生えみたいなところの手伝いをさせてもらった気がしますね。 「教えた」と言うとブクガに関しては違和感があって、なんか私もメンバーになってアイデアを出し合った感覚でした。面白かったなぁ……。でも、この先も彼女たちが歌い続けるのなら、今までと変わらぬ関係でいたいですね。
--ボイトレ講師って「歌唱法やテクニック的な部分の教育をする人」というイメージがありますけど、それ以上にマインド的な部分の強化や変化を担う立場でもあるのかなと、今の話を聞いて思いました。
蟻:そうですね。やっぱり「歌は心」なんじゃないかなと思っていて、歌には必ず詞=言葉があるじゃないですか。で、例えば「空」について歌うとしても人それぞれの空があるから、それを知る為に「あなたは何を考えているの? どういう空が見えているの?」と問い続けています。
--そもそもステージに立ち続けるアーティスト=演者でありながら、同時にボイトレ講師の道も歩もうと思ったきっかけは何だったんですか?
蟻:『情熱大陸』でも取り上げられていたボイストレーナー・りょんりょん先生のもとに5,6年ぐらい通っていた生徒だったんですけど、すごく可愛がってもらっていて、その流れでまず歌詞の先生を任せてもらえることになったんです。で、作詞って物凄く内面に入っていくから、その人のトラウマだったり、過去のツラいことだったり、そういうところに触れなきゃいけなくなるんですよ。でもソレを隠そうとするから、その蓋を開けやすくしなきゃいけない。その過程の中で泣かせちゃったりすることもあるんですよ。そういったときにツラいまま帰ってもらうんじゃなくて、声を出してもらってスッキリさせる方向に持っていきたいなと思って、それで「ボイトレさせてもらえないですか?」って私からりょんりょん先生にお願いしたんです。そしたら「あなたがボイトレやってくれるんなら嬉しい」と言ってもらえて、そこからひたすら頑張りましたね。私は子供の頃からピアノを習ったり、クラシックや声楽の道に進んだわけではないので、まずは歌い手の心の部分について担えるボイトレ講師として強くなろうと思いました。
--なるほど。歌詞は“歌の言葉”だから必然的に「歌詞だけ」という訳にはいかなくなって、歌にも追求していかなきゃいけなくなるという。
蟻:そうなんですよ。いくらスゴい歌詞を書いたとしても、歌の表現の幅が狭かったら、その歌詞の世界も狭まっちゃうんです。それはずっと自分の中の課題でもあったから、その課題を背負いながら先生になることで克服してきた感じがしますね。生徒さんに伝えなきゃいけないことを伝えると、ソレを自分もやらなきゃいけなくなるから(笑)。
<SKY-HI主催オーディション『THE FIRST』“蟻先生”の想い>
--SKY-HI主催オーディション『THE FIRST』でも“蟻先生”として奮闘している姿がHuluや日本テレビ系『スッキリ』で放送されています。どんな気持ちで臨んでいるプロジェクトなんでしょう?
蟻:オーディションを受かっていく人に対しては、これまでと同じように、或いはこれまで以上に「何をしていくべきか」考えられる未来があるんですけど、オーディションを落ちた人に対しては「自分が何をやったら受かっていたんだろう?」と眠れなくなるぐらい悩んだりしていますね。私がボイトレを担当してきた結果「歌の成長があんまり感じられなかった」と言われてしまうと、「じゃあ、私がもっと歌を成長させてあげられていたら受かっていたのか?」と思うじゃないですか。オーディションですから誰かしらは絶対に落ちるんですけど……「私に何が出来たんだろう?」ってずっと考えてはしまいますね。
--古くは『ASAYAN』からボイトレの先生がオーディション候補生を叱る姿などは観てきましたけど、その視点からの話を今初めて聞いて「そりゃ先生には先生でそういう葛藤はあるよな」と気付けました。「私に何が出来たんだろう?」と落ちていった候補生ひとりひとりに対して思うわけですよね。
蟻:そうですね。やっぱり全員の「内面を分かりたい」と思っちゃうので……その上で「ここが足りないんじゃない?」とアドバイスしていく、そこは常に全員に対して意識してきたつもりだから、それで落ちてしまうと他人事ではないというか……。結構踏み込んでしまっている立場なので。
--自分はインタビュアーで職業は違いますけど、取材対象の内面に踏み込めば踏み込むほど、それが良い影響を与えたときは嬉しいですけど、その人がネガティブな展開を迎えたときは「自分のせいなんじゃないか」と落ち込んでしまうことも多々あるので、その気持ちは痛いほどよく分かります。
蟻:「あのとき、ああしておけば」と思っても過去は変えられないから、だからこそ禅問答のように考え込んじゃいますよね。
--しかもオーディションだと絶対に誰かは落ちますからね。全員合格するということはないわけで。でも、全員合格するような奇跡を起こそうとしちゃう感情ってあるじゃないですか。
蟻:そうなんですよ! 奇跡を信じちゃうんですよ(笑)。ただ、そこまで大前提を覆してしまうような奇跡が起きなかったとしても、みんな報われるとは思っているんです。オーディションに合格した人たちはもちろん、落ちていった人たちも。これは願いとかじゃなくて、そうなると確信している。ここまでやって報われないはずがないし、知識と技術はずっと残り続けるんですよ。それは自転車の乗り方みたいなもので、ちょっと乗らないとヘタクソにはなりますけど、また乗れば上手くなるじゃないですか。あのオーディションで経験してきたことや練習してきた時間は、絶対にこれから彼らの武器になっていくんですよね。だから今回のオーディションの結果がどうであれ、これからも頑張ってほしいなと思います。
--今日のインタビューで確信しましたけど、ボイトレの先生になって正解でしたね。問題児だった生徒が先生になるパターンってやっぱり良いんだなって。
蟻:アハハハハ! バンド時代とか問題児でしたもんね(笑)。でもそれがひとつの自信に繋がっている。私は人より出来ないことが多かったんですよ。知らないことも多かったし、技術的に出来ないことも多かったんで、それをひとつひとつ克服してきた人生なんですよね。なので、例えば、音程が取れない生徒さんに対しても、音程が取れない人間の気持ちが分かるんです。最初から音程が取れている人にソレは分からないと思うんですけど、私はその生徒さんの不安感や音程が取れていても「取れているか分からない」感覚が理解できるから、それの対応策も伝えることができる。だから「問題児でよかったな」と思います(笑)。
<キミノオルフェ5周年「おばあちゃんになっても続いていたら」>
--そんなボイトレ講師としても活躍している一方で、2021年6月4日に蟻さんのソロプロジェクト・キミノオルフェのデビューライブから5周年を迎えました。どんな感慨を持たれましたか?
蟻:いやぁー、正直、何も感じなかったですね(笑)。でも、そんな感じのままおばあちゃんになってもいいなと思っていて。ゼロからイチを創り出すことが好きだからやっているだけなので、それが「おばあちゃんになっても続いていたらいいなぁ」とは思います。ただ、あの日、私のイラストによる「バックパック」のリリック・ミュージック・ビデオ(https://youtu.be/CxnRs7TeWLQ)を公開したんですけど、あの曲への思い入れは強くて。薄く長くでいいから「届いたらいいなぁ」と思っているんです。
--「薄く長く」というのは、たくさんの人に届かなくてもいいけど、長く愛される曲になってほしい──という意味ですかね?
蟻:そうですね。ちなみに「バックパック」は自分で初めてMV(https://youtu.be/Fk6JS81tBJQ)を撮った曲でもあるんですけど、出演してくれた川口和宥くんのツイッターとか見ていると、顔つきが大人になってきているんですよ! でも、あのMVの中には変わらないままの彼の姿と自分の声が残っている。そこに不思議さを感じますね。
--それだけ濃厚な5年間を送ってきた証拠でもあるんじゃないですか。
蟻:でも、今ようやく「濃かった」とか「特別だった」とか言えるようになってきたのかもしれない。アーティストがボイストレーナーになるってガッカリされたりもするじゃないですか。まわりから「本当はステージで歌い続けたいくせに」とか「ボイストレーナーやってることをあんまり言わないほうがいいよ」とか思われる感じというか……その違和感に悩まされることも正直あったんですけど、でも今日のインタビューで語らせてもらったように、ボイストレーナーを頑張らせてもらってきたからこそ「濃かった」とか「良かった」とか今は言うことができる。
--ボイストレーナーの道を選ばなかったら、今日語ってくれたすべての経験や出逢いはなかったわけで、しかもソレがアーティストとして表舞台に立つ自分にも多大な影響を与えている。これ、誰もが歩めるストーリーじゃないですよね。ゆえに独自の表現を紡いでいけるわけじゃないですか。
蟻:そう思ってもらえると自信になります。
--いつか教え子だったアーティストやアイドル全員集めてイベント組んだらいいじゃないですか。そこで誰よりも強烈な歌を響かせて「先生!」ってみんなを泣かせて下さいよ。そんな『3年B組金八先生』みたいなノリで先生をやってないかもしれませんが(笑)。
蟻:いや、金八先生のノリかもしれない。もしくは『ごくせん』のノリ(笑)。高校3年生のときの学園祭で、実はごくせん役をやったんですよ。大きな体育館でセリフ飛ばして……
--今、それのリベンジを現実で果たそうとしているんですね(笑)。
蟻:ちゃんと良い先生になりたい!
<矢川葵(ex.Maison book girl)MV出演の新曲「パパラチア」>
--キミノオルフェ5周年、蟲ふるう夜に結成からカウントしたら15年ぐらい経ちますよね。今の自分はどんな表現者になっているなと感じますか?
蟻:自分の中では全然変わっていないんですよね。ただ出来ることが少し増えただけで、気持ちとか人間性は何にも変わっていないんじゃないかな。
--ただ、バンド時代は「大事なメンバーを傷つける奴がいたらぶん殴ってやる」ぐらいのスタンスでしたけど(笑)、今はそこまでバイオレンスなイメージではないかもしれない。
蟻:でも、今は守るべき者が増えたというか……
--あ、そうか。教え子は増えていく一方ですもんね。
蟻:そうです。教え子によく言うんですけど、「もしあなたが誰かを刺し殺してしまったとしても、私はあなたの味方」って……
--変わってないですね(笑)。初めて会ったときのインタビューと言っていることはほとんどいっしょ。
蟻:いっしょです(笑)。自分が「信じる」と決めた人だけを信じるから、その人のまわりから聞くウワサ話とかも信じないし、その信じている人の証言だけを信じる。そういう人が今はバンド時代より増えているんですよね。
--年齢を重ねると対人関係の距離感とか否応なしに考えるようになって、そこまで他者を深く受け入れられなくなっていくケースも多いはずなんですけど、今もなお「何があろうと私はあなたの味方」とか「信じる」とか断言できるのは、本当にスゴいことだと思います。
蟻:そこは本当に変わらないんですよね。ちなみに、距離感の話で言うと、キミノオルフェ5周年のタイミングで「パパラチア」という新曲を発表することになったんですけど、そのMVに葵ちゃん(矢川葵/ex.Maison book girl)に出てもらっていて、かなり近い距離で撮ったんですよ(笑)。もうグループとして絡むことは出来ないかもしれないけど、そうやって「ずっと繋がっているよ」という想いをカタチに出来たことがすごく嬉しくて。
--それこそ他の人には出来ない繋がり方じゃないですか。
蟻:面白いですよね。ブクガのファンの方々にも喜んでもらえたらいいなって。あの日のブクガのライブが終わった後に葵ちゃんが言っていたんです。「ファンの子を泣かせることだけが心残り」「ファンの子に笑っててほしかった」って。その言葉がすごく印象に残っていて。私はすごく能動的な人間だから、受動的な葵ちゃんのその発言のひとつひとつに惹かれるんです。「笑っててほしかった」っていうその儚さみたいなモノは、今回の新曲「パパラチア」にはピッタリかもしれない。ちなみに、ブクガのほかの3人は能動的にあってほしい人間だから「みんな、掴みにいってね」って思うんです。でも、葵ちゃんには「何か奇跡が降り注ぎますように」って思うんですよね(笑)。
--たしかに、そういう性質の女の子ではありますよね(笑)。そもそも「パパラチア」という楽曲自体はどんな想いや背景から生まれた曲なんですか?
蟻:前回のEP『Then, the Curtains Open』同様、kyohei Todoroki(EXPCTR)にメロディーもアレンジもお願いした曲で、歌詞に関しては、私は7月15日が誕生日なんですけど、夏生まれということが自分の中でずっと納得がいっていないんですよ(笑)。他の季節ならいつでも良かったんですけどね、夏だけ苦手なんです。でも、この曲は誕生日に発表するから夏を好きになりたくて、夏の明るくてハツラツとした感じじゃなく、私らしく蒸した湿っぽい感じの歌にしようと思ったんです。それで「瞳を洗えば」というフレーズがあるんですけど、涙って「眼球を洗浄している感じがするな」と思って、目ん玉を涙でゴシゴシ洗うイメージで……
--今回の「パパラチア」のオシャレな世界観に対して、歌詞の説明がハードコア過ぎませんか(笑)?
蟻:でも、そういうイメージから歌詞は生まれてくるんですよ(笑)。もちろん最終的には素敵な感じに仕上げるんですけど、要するに「遠くを見えるようにする為に泣いているんだな」っていう。あと、昔、新宿の西口の居酒屋で夜勤のバイトをしていたんですけど、その店の窓から見える新宿の灯りのすべては「人が点けているんだな」とふと思って。「この灯りすべてに人がいて働いているんだ」と思ったらすごく虚しくなったんですよ。で、そのことを別に仲良くもない友達に話したら「私はそのみんなの努力だって美しく感じるよ。だから夜景ってキレイだなと思うよ」って言われて……唾を吐きました。
--(爆笑)
蟻:そのときの感じを思い出しながら書きました。
--エピソードがパンクなんですよ(笑)。このインタビュー読んでから「パパラチア」聴いたら衝撃受けますよ、みんな。
蟻:この歌詞を書いているとき、コショージが隣で寝ていたんですよ。ネコみたいにふらっと現れて、隣でスッと寝て帰るんですけど。だから殺伐としたエピソードのままの歌詞にならなくて済んだのかもしれない(笑)。
--よし、とりあえず聴いてもらいましょう(笑)!
Interviewer:平賀哲雄
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