2021/06/21
1999年生まれ、米イリノイ州シカゴ出身の新星ラッパー=ポロG(本名トーラス・バートレット)。 2019年2月にリリースしたリル・ティージェイとのコラボレーション「Pop Out」が米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高11位、R&B/ヒップホップ・ソング・チャートで7位、ラップ・ソング・チャートでは5位を記録し、一躍シーンの寵児となったのも記憶に新しい。
同年6月には「Pop Out」を収録したデビュー・アルバム『ダイ・ア・レジェンド』を発表。本作は米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で6位、ラップ・アルバム・チャートでは初のNo.1に輝く大成功を収めた。その勢い冷めやらぬ翌2020年5月にリリースした2ndアルバム『ザ・ゴート』は、同アルバム・チャートで2位に最高位を更新し、「Go Stupid」や「Martin & Gina」などのヒット曲を輩出。まさに順風満帆なキャリアを築き、現2021年を迎えた。
そして今年4月リリースしたシングル「Rapstar」が、Hot 100チャートで自身初の首位を獲得。しかも「初登場1位獲得」という偉業を成し遂げ高い注目を集めたばかりだ。本作『ホール・オブ・フェイム』は、「Rapstar」の大成功を経て発表された通算3枚目のスタジオ・アルバム。この短期間で3枚のアルバムを完成させたこともだが、プレッシャーを跳ね除け前作以上の成功を更新し続けるメンタルの強さと実力・能力の高さには感服する。
「Rapstar」はメロディー・ラインの美しい幻想的トラックが印象的で、共同制作者として迎えたアイナー・バンクスによるウクレレの奏がその評価を決定的なものにした。自身の成功をある意味でネガティブに捉えた(若手らしい)今風の歌詞、そのリリックをリアルに再現したミュージック・ビデオ、SNSを駆使したプロモーション含め、すべての要素でヒットも納得の出来栄えといえる。
昨年9月にリリースした本作からの1stシングル「Epidemic」は、米国の銃問題と大切な人達の死を取り上げたピアノベースの哀愁系トラップ。クルージングやバイク、バスケットボールを仲間たちと愉しむシーンが使われたマイアミで撮影したMVも、内容に通じた良い出来だった。今年の2月に発表した2ndシングル「GNF (OKOKOK)」では一転、ピアノを基としたアグレッシブなドリル・スタイルを披露。トーンを抑えた前者とは対照の攻撃的なラップも見事で、ハードとメロウを併せ持つ奔放なキャラクター性をアプローチした。前月にリリースされた4曲目のシングル「Gang Gang」では、自身のキャリアにおいて大きな影響を与えたリル・ウェインとのコラボレーションを実現させている。
その他のゲストも豪華な面々揃い。ストリートにおける危険性を歌った「No Return」には、キラーワードを連発するヴァースにリル・ダーク、コーラスにはザ・キッド・ラロイを起用しスリリングな展開を広げた。スウェーデンのプロデューサーWIZARDMCEが手掛けた「Broken Guitars」では、米ニューヨーク出身のラッパーScoreyと共演し、銃や金に纏わるヒップホップらしいリリックを、タイトルに直結したロック・テイストのサウンドに乗せてラップしている。
若手にカテゴライズされる(であろう)アーティストでは、「Go Part 1」に同シカゴ出身のラッパーのG・ハーボが、インディア・アリーの「The Truth」(2002年)をサンプリングしたアコースティック調の「Fame & Riches」に米カリフォルニア州コンプトン出身のラッパー=ロディ・リッチが、オルタナティブ・ロックを融合させた「Party Lyfe」にダベイビーが、古いゲーム・サウンド風のトラックが耳の残る「Heart of a Giant」にロッド・ウェーブがそれぞれフィーチャーされている。なお、今年3月に初のNo.1を獲得したロッド・ウェーブの最新アルバム『SoulFly』では、先行シングルとして発表した「Richer」にポロGがゲストとして参加している。
コラボレーション曲の中で最たるインパクトを放っているのが、昨年2月に20歳という若さで逝去したラッパーのポップ・スモークとファイヴィオ・フォーリンによる「Clueless」。彼らの代名詞である米ブルックリン産ドリルは、前述の「GNF (OKOKOK)」に匹敵する泥臭さを導き出し強烈なインパクトを与えた。それらハードなトラックの秀作さ故、初のコラボレーションとなるヤング・サグとの「Losses」がユル過ぎて少々物足りなくなるほど。
昨年第一子を出産したニッキー・ミナージュとのコラボ曲「For the Love of New York」では、ニッキーのルーツに結びついた米ニューヨークへの賛辞をダンスホール調のトラックに融合させているが、本作のテイストにはそぐわないし、そもそもポロGは米シカゴ出身ということもあり違和感を拭えず。個人的には収録を見送った方が良かった……ような気もする。その他単独のトラックが何れも優秀だから、という理由も含め。
歌とラップ、語りの3パートを柔軟に使い分けた昨今の若手らしいエモ・ラップ「Painting Pictures」、周囲をとりまく悪しき対人関係を歌った「Toxic」~恋愛絡みを含んだ「Black Hearted」、アコースティック・ギターによる甘美なメロウ・チューン「So Real」、自身の経験を基に書いたギャング・スタイルの最終曲「Bloody Canvas」など、ゲスト不在の曲もポロGの内省的なリアリティが詰まっていてすばらしい。達成した成功を歌うだけでなく、複雑な感情やトラウマ、非ロマンチックな出来事も明るみにしているから尚説得力がある。
出ては消えを繰り返す新人ラッパーの中で、ポロGがこれだけの成功を収めた理由を紐解いていくと、トラップやエモ・ラップといった昨今の流行に則ったサウンドもさることながら、その多くは「本物の痛み」が感じられるリリックとラップにあるという。声質やキャラクターに際立ったインパクトがあるわけではないが、その感情を貫き胸を切り裂く“静かな熱さ”が若者の心に響いたのだろう。
なお、ポロGは本作のリリース・パーティーから帰宅する途中に警察官への暴行等による容疑で逮捕されたが、既に保釈金を支払って釈放されたとのこと。この事件がアルバムのストリーミング、セールスに影響を及ぼすかと思いきや、その翌週である最新のアルバム・チャート“Billboard 200”(2021年6月26日付)では、ミーゴスの新作『カルチャーIII』を破り見事自身初のNo.1デビューを飾った。名声を示唆するアルバムのアート・ワークそのまま、デビューわずか3年目にしてアメリカン・ドリームを実現させている。
Text: 本家 一成
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