2021/05/25 18:00
米オハイオ州コロンバス発、ジョシュ・ダンとタイラー・ジョセフによるロック・デュオ=トゥエンティ・ワン・パイロッツ 。デビューは遡ること12年前の2009年で、2013年発表のメジャー・デビュー作『ヴェッセル』(2013年)が米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で最高21位を記録、イギリスやカナダなどの主要国でもTOP40入りを果たし、ブレイクに繋げた。日本でも同年に初の単独来日公演、翌2014年は【SUMMER SONIC】に出演し、人気と知名度を高めている。
2015年にリリースした次作『ブラーリーフェイス』は、Billboard 200でグループ初の首位を獲得。本作からのシングル「ストレスド・アウト」が米ソング・チャート“Hot 100”で2位、「ライド」は5位にTOP10入りし、ロック・ソング・チャートではどちらも1位を記録する大ヒットに至った。翌2016年には映画『スーサイド・スクワッド』のサウンドトラックに提供した「ヒーゼンズ」がHot 100で2位、 ロック・ソング・チャートでは3曲連続のNo.1に輝き、翌2017年に開催された【第59回グラミー賞】では<最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス>を受賞。そして前作『トレンチ』(2018年)では、1位を獲得したオーストラリアやニュージーランド他、各国で最高位を更新するなど大成功を収めている。
本作『スケイルド・アンド・アイシー』は、その『トレンチ』から約2年半ぶりにリリースされた、通算4枚目のスタジオ・アルバム(インディー2作を除く)。制作期間には新型コロナウイルス感染によるロックダウンがあり、打ち合わせやセッションがスムーズにいかなかったと思われるが、ジョシュはドラムのエンジニアリングを、タイラーは曲作りにそれぞれ没頭できたようで、実験的で遊び心のある、これまでにはなかったタイプのサウンドに挑戦することができた模様。
たとえばオープニングの「グッド・デイ」は、エルトン・ジョンやマイケル・ブーブレを受け継いだ(ような)ピアノ・リフによるポップ・ソングで、過去2作にはなかった陽気さと爽やかさを演出している。「家族を失ったら……」というネガティブな思想も、ポジティヴなメッセージに変えて高らかに歌い上げた。プロデュースは、「ストレスド・アウト」や「ヒーゼンズ」を手掛けたマイク・エリゾンドが担当。7曲目の「マルベリー・ストリート」も彼のプロデュースで、こちらはストリート感覚のミディアムに回帰しているが、メロディとボーカルは本作使用のライトな仕上がりになっている。
米オルタナティブ・ロック・チャートで1位を獲得した1stシングル「シャイ・アウェイ」は、80年代風シンセ・ポップ。ニューウェイブやテクノが再燃している昨今の流行を取り入れてはいるが、彼らの曲としては珍しいタイプで、これもまた新しい試みといえる。アーティストとしての苦悩、悲観を前向きに転換する「チョーカー」や、グレッグ・カースティンがプロデュースしたキャッチーなエレクトロ・ロック「サタデイ」も近年の作品とは一線を画いた曲で、メジャー・デビュー以前に自主制作でリリースした1stアルバム『トゥエンティ・ワン・パイロッツ』のテイストに近い。この曲では、タイラーが妻と過ごすパンデミック中の様子が描かれている。
オルタナティブ・ロックとヒップホップを融合させた「ジ・アウトサイド」や、米ニューオリンズのロック・バンド=ミュートマスのポール・ミーニーがプロデュースした最終トラック「リデコレート」など、『ブラーリーフェイス』路線の曲もあるが、どちらも「陰」ではなく「陽」のイメージ。誤った情報や混乱を招くメディアを批判した「ネヴァー・テイク・イット」や、ザ・キュアーを手本にしたような「フォーミダブル」、トランプ前大統領が発令した移民政策についての「バウンス・マン」でさえ、カラっとしている。むしろ、「ヒーゼンズ」に似せたノイズ交じりのゴシック・ロック「ノー・チャンセズ」が浮いているほど、全体はポジティブで明るい。
前作『トレンチ』は全体的に暗く、メタルやオルタナティブ・ロック、ヒップホップの重たいサウンドが中心だったが、本作『スケイルド・アンド・アイシー』は、親しみやすいポップ・アルバムという印象で、タイラーのボーカルもラップを控えめに、聴き手の気分を高揚させるようなテンションで楽しませてくれる。歌詞には不安や恐怖、批判、孤独などネガティブなフレーズもみられるが、重々しくはなく、コロナ禍で抱える不安を解消してくれるような作品だった。この方向転換が、長期的にはいい方向へむかえば何よりだ。
Text: 本家 一成
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