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2021/05/18

『The Off-Season』J.コール(Album Review)

 昨今のヒップホップ・シーンにおいて欠かせない存在であり、トップを走り続けてきたJ.コール。米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”では、デビュー作『Cole World: The Sideline Story』(2011年)から前作『KOD』(2018年)まで5作すべてが1位を獲得し、「Deja Vu」(2017年)や「Middle Child」(2019年)などのTOP10ヒットも輩出。ラッパーはもちろん、R&Bやポップ・シンガーの作品にもゲストやソングライターとして参加する活躍と功績を遺した。

 『KOD』から本作『The Off-Season』をリリースするまでの間にも、自身のレーベル<Dreamville Records>としてのコンピレーション・アルバム『Revenge Of The Dreamers III』(2019年)や、EP『Lewis Street』(2020年)、いくつかのシングルや他アーティストとのコラボレーションをヒットさせてきたが、オリジナル・アルバムの完成にはこれまでで最も長い期間=約3年を要している。自らも「何年もかけて作り上げた作品」とアピールしていて、その発表に待ち望んだファンが沸いた。

 久々の新作ということはもちろん、昨年末に引退をほのめかす投稿をした後のリリース、ということでも話題を呼んだ『The Off-Season』。SNSにアップされたメモには『The Off-Season』ー『It's a Boy』ー『The Fall-Off』との記載があり、この3作が「ゴールまでの道のり」とされている。明確には示されていないが、全てをリリースしたら区切りをつける……ということだろうか。

 その第一弾となるオープニングは、復帰を盛大に祝うかのような華々しいイントロの「95 South」で幕開けする。フィーチャリング・アーティストとしてのクレジットはないが、「Hey Ma」(2002年)などのヒットで知られる中堅ラッパー=キャムロンがサポートに、ボーイ・ワンダがプロデューサーとして参加した。サンプリング・ソースには、イントロに故ボビー・バードの「I'm Not To Blame」(1970年)、騒々しいアウトロにはリル・ジョン&ジ・イースト・サイド・ボーイズの「Put Yo Hood Up」(2001年)を使用。強烈なラップも健在で、一曲目から目の覚めるような衝撃を食らう。

 続いては、ティンバランドとT・マイナスがプロデュースした「Amari」。弾力のある弦と不気味な笛の音が“和”っぽいテイストで、ティンバランド独特の中毒性がある。輝かしいキャリアと才能を誇り、試練や絶望から脱出するという集大成のような歌詞が意味深。次の「My Life」も自身の経験を基に書いた曲で、煮え滾る思いをジャジーなトラックに乗せて吐き出している。ゲストには「A Lot」(2019年)で共演した21サヴェージと同郷のラッパーMorrayが、制作にはジェイク・ワンが参加。21サヴェージは、リリース直前に公開されたドキュメンタリー「Applying Pressure」にも出演している。

 トップ・アーティストとしての苦悩やストレスが随所にあらわれた、ドキュメンタリーのタイトル曲「Applying Pressure」、NBAプレイヤーのデイミアン・リラードによるインタビューをサンプリングした「Punchin' the Clock」の2曲は、いずれも90年代ヒップホップの感触。「Punchin' the Clock」には、宗教的な表現も交えた鬱々しい回想が綴られていて、繊細さが随所から伝わってくる。デイミアン・リラード(にも)触発され、以前からNBA入りを目指してトレーニングに勤しんでいたJ.コールだが、36歳という年齢を取っ払い夢を追う姿には心を打たれる。

 6曲目の「100 Mil」には、<Dreamville Records>所属のラッパー=Bas(バス)がフィーチャーされている。Basは、その他にも6LACK(ブラック)とのトリプル・コラボ「Let Go My Hand」と、最終トラック「Hunger on Hillside」の計3曲に参加していて、それぞれに存在感を示した。「100 Mil」はボーカルをメインとしたトラップ・ソウル、「Let Go My Hand」はホーンや笛音によるセクションを従えたサイケ・ファンク風のトラックで、アーティストと父親それぞれの思いが歌われている。曲中に好きなアーティストとしてパフ・ダディーの名前が登場するが、シークレット・ゲストとして本人も参加している模様。プロデュースはDJ・ダヒとフランク・デュークスが担当した。

 もう一人のゲストは、7曲目の「Pride Is the Devil」に参加したリル・ベイビー。金、麻薬、人間関係、宗教、死にも触れた不穏な空気感のトラップで、バック・トラックには「Caroline」でブレイクした米オレゴン州出身のラッパー=アミーネの「Can't Decide」(2020年)が使われている。リル・ベイビーの『マイ・ターン』と、前作『KOD』のいいとこ取りをしたような曲だ。その他サンプリング曲では、昨年死去したマスク姿のラッパー=故MFドゥームによるインスト「Valerian Root」を使用した「Close」がある。

 ここ数年、曲数でストリーミングを稼ぎ上位ランクインを狙うアーティストが増えているが、J.コールはアルバムの質を重視してか12曲にとどめている。先行シングル「The Climb Back」と「Interlude」を除けばわずか10曲だ。それだけに12曲それぞれの個性は強く、ストーリー性もサウンド・プロダクションも秀逸。キャリアを振り返りつつ自己分析するというコンセプトもすばらしい。作風が如何なものかは定かでないものの、残り2枚のリリース含め3年待ったファンも納得の出来栄えだろう。

Text: 本家 一成

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