2026/01/27 21:00
ロック・バンドとして垂直に駆け上っていく頼もしい成長と、アート・フォームとして立体的に可能性を押し広げていく変貌。バー・イタリアの1年半ぶりの来日公演は、その二つをデュアルに体感できる機会となった。
2020年の結成以来、コンスタントに作品をリリースし続け、2023年にマタドール・レコードからリリースされた『Tracey Denim』、『The Twits』の連作(と言っていいだろう)で、一躍ロンドンのインディー・ロック・シーンの要注目株となったバー・イタリア。しかし、彼ら自身はいわゆるシーンと呼ばれるものから意識的に距離を置き、ポスト・ロック、ポスト・パンクといったカテゴライズもクールに客体化、どこにも取り込まれないユニークな存在であり続けてきたバンドだ。故にライブ自体も正体を簡単には現さず、リスナーがその世界に没入するための複雑な回路を用意するようなパフォーマンスで、それが大いにミステリアスな刺激となったのが、2024年の初来日公演だった。
しかし、あれから1年半後のLIQUIDROOMで、キリング・ジョークの「Requiem」に乗って登場したバンドがオープナーの「my kiss era」を奏で始めたとき、早くも彼らのライブ・アプローチが大きく変化しているのを感じた。まず単純に、音が太くなっている。そして、硬質なのにしなやかで、ゆったりとグルーヴをかき混ぜながら徐々に渦の中心を見出していくような演奏の集中力も、とろ火で沸騰まで持っていく構成力も、前回とは段違いだ。そこから一転、2本のギターがピーキーなガレージで競い合い、3人の声がさまざまな角度から響き合う「my little tony」へのスイッチングも鮮やか。バー・イタリアの世界へと通じる扉は最初から全開になり、ミステリーがリアルタイムでガンガン解かれていくような興奮がそこにあった。「Fundraiser」はそんな彼らの現在地を端的に指し示す最新アンセムで、ロバート・スミスの躁鬱がそれぞれに憑依したかのような、サム・フェントンとジェズミ・タリック・フェフミの文字通りツインなボーカルは楽しすぎるし、二人の間で悠然と踊るニーナ・クリスタンテのボーカルの、肩の力が抜けたコケティッシュ具合も新鮮だ。
バー・イタリアのライブを変えた最大の要因は、やはり最新アルバムの『Some Like It Hot』だろう。ライブでプレイすることを前提に作ったという同作は、バンド史上最もダイレクトで肉感的なアルバムだ。その一方で、映画『お熱いのがお好き(Some Like It Hot)』からのネーミングにも象徴されるように、フォークロアやワルツ、50年代のイタリア映画音楽のようなアプローチなど、インディ・ギターから離れたものが豊かに含まれた、バンド史上最もシネマティックなアルバムでもある。つまり、『Some Like It Hot』はバー・イタリアにとってライブ・バンドとしての突破力を鍛える場であり、同時にレコーディング・バンドとしての想像力を鍛える場でもあった。結果としてバー・イタリアの音楽には現実と夢を行き来するようなダイナミズムが生まれ、彼らのライブにもいまだかつてない抑揚がもたらされたのだと思う。
「日本に戻ってこられてうれしい」とニーナ。タイトなミディドレスに足元はメリージェーンというフェミニンな装いで風を受けた髪をそよがせながら歌う彼女は、相変わらず絵になるフロントパーソンだ。しかも、より多彩な声を操る表現者になっており、情念をしっとりと込めて歌う局面ではまるで女優のようだ。自身のルーツであるイタリアのポップスを再発見し、ミーナ・マッツィーニに影響を受けたというのもうなずける。そんなニーナを挟む、メガネ&ネクタイをきっちり絞めたナードっぽい装いのサムと、サングラス&ジャストサイズのデニムでインディースリーズっぽい装いのジェスミという3人の佇まいは、これまで以上に統一感がない。そう、演奏を通じてバンドとしての一体感をこれまで以上に感じるのに、同時に3人の個性の違いもこれまで以上に感じるのだ。
中盤から後半にかけてはじっくりと“物語”を聴かせるスローなナンバーが際立っている。忘れかけていた大切な記憶が再び鮮やかに色付いていくような、ジェスミのアコギとサムのエレキが織り重なって生み出す深い倍音が特に印象的だった。まさに『Some Like It Hot』を作ったからこそ辿り着けた境地だろう。サポート・メンバーのリズム隊が、バー・イタリアのより大胆になった静と動のコントラストを絶妙にフォローし、落差の緩衝材としてシームレスに受け渡していく役割を果たしていたのも素晴らしかった。前列の3人はそれぞれフリースタイルで自分のプレイに没頭しているように見えて、何故か要所要所ではきっちり角が揃うというミラクルなトライアングルであり、彼らのその呼吸を捉えるのは容易ではないはずだが、これも5人で鍛え、支え合った怒涛のツアー生活の成果なのだろう。
バー・イタリアとは別の表現アウトプットも持っているニーナ、サム、ジェスミは、個々に異なるキャラクターをパーソナル・スペースとしてバンドの中に保有している。世の中には一つの繋ぎ目もなくメンバーが一体化し、唯一のアティチュードを打ち出すバンドもいれば、メンバーがモジュールとして存在し、曲ごとに自在に変化していくバンドもいる。バー・イタリアは明らかに後者であり、それが彼らの音楽に予測不能な面白さを与えている。そして3人は違うからこそ、違いを超えて共鳴した瞬間の威力は、最初から一体化しているバンドのそれを遥かに上回るものだということを証明したのが、今回の来日公演だとあらためて思った。
そして、3人の違いを超えて共鳴したバー・イタリアの無敵が炸裂したのが、後半から終盤にかけてのセクションだ。いくつもの転調を滑らかに超え、最後にはジャズ・インプロ的境地に達する「Nurse!」、トップギアで転がり始める「punkt」からの「worlds greatest emoter」へと至る流れは、まさに前述したバー・イタリアという“謎”を高速で解いていくプロセス、しかも理屈で理解させるのではなく、肉体を鼓舞することで直感させるという、ライブの醍醐味に満ちたクライマックスだった。「punkt」ではニーナが客席にひらりと飛び降り、最前のオーディエンスと直接触れ合う一幕もあった。
余韻が冷めやらぬなか始まったアンコールの1曲目が最新作のラスト・ナンバー「Some Like It Hot」で、しめやかな終幕を一旦迎えてから「Missus Morality」で再び生き生きと躍動し始める。音源より遥かにバイタルなポスト・パンクでフロアを沸かし切った「Cowbella」を終え、「ワン・モア?」とニーナが聞けばもちろん大歓声で、間髪入れずにオールラストの「skylinny」へ。「Cowbella」は『Some Like It Hot』の収録曲、「skylinny」は2020年のデビュー・アルバム『Quarrel』のナンバーで、こうして現在と過去をブリッジし、循環を生み出してから終わるのもバー・イタリアらしかった。終演後の客出しSEは初来日に引き続きブラーの「Song 2」だったが、同曲のスコーン!と突き抜けたノイズ・ギターの起爆力は、今回のバー・イタリアにより相応しかったのではないか。
Taxt:粉川しの
Photo:kokoro (@ookkro)
◎公演情報
【BAR ITALIA JAPAN TOUR 2026】
2026年1月21日(水)
東京・LIQUIDROOM
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