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平原綾香 『スマイル スマイル』インタビュー
「みんなを愛したくて生まれてきた気がする」と語り、その人間性をストレートに表現したようなニューシングル『スマイル スマイル』をリリース。震災後の未解決のままの問題や相次ぐ通り魔事件など、人間の在り方について考えさせられる混沌としたこの世界で、彼女はなぜこんなにも純粋に正しく歩んでいくことができるのか。その生き様に迫った。
音楽の中で「これは嫌い、あれは好き」と決めない
--前回のインタビューでは、共感できる音楽を目指していきたいと仰っていましたが、今作『スマイル スマイル』は正にその通りの作品なんじゃないですか?
平原綾香:『スマイル スマイル』はそうですね。誰かの曲を聴いていても「そうそう」って自分の気持ちと一致したりすると癒される。独りじゃないなと思えたりするので、今作もまずは自分が一行一行に共感できる歌詞にしたくて。その上で聴いてくれた人にも共感してもらえたらいいなって。
--また、共感を目指す為、弱い自分もさらけ出すようになったと仰っていましたが、2曲目『Boy, I Wish You Were Here ~ここにいてくれたら~』はそれが顕著ですよね。
平原綾香:すごく切ない曲ですからね。「たとえ離れていても」という気持ちは私にもあるし、大切に想うからこそ空回りしちゃう部分もすごく共感できる。誰もがじわじわ共感できる曲かもしれない。前シングル『NOT A LOVE SONG』と同じくaika&Nicolas Farmakalidisタッグに作ってもらったんですけど、今回も染み込んでくる感じがあるんですよね。この2人の曲は、普段洋楽しか聴かない人たちからも評価されれるので、今作も反応が楽しみです。
--aikaさんは実姉ですが、彼女の作ったものを聴いて「さすが姉妹。分かっている」と感じることはありますか?
平原綾香:ありますね。私のいろんなことが分かっているというか、姉妹だからこそ通じ合っているところがあって、作ってもらった曲を聴いていて感じるところがたくさんある。そこに書かれているメッセージもすごく共感出来るし、『NOT A LOVE SONG』もそうでしたけど、私が今何を考えているのかを察知して書いてくれているので、想いにズレがない。
--今回は、切ないラブソング『Boy, I Wish You Were Here ~ここにいてくれたら~』を歌う平原綾香に新鮮さを感じたんですが、同時にもはや平原さんは何を歌っても平原綾香になる。そんな次元に到達しているなとも思いました。自分ではいかがですか?
平原綾香:そうであったらいいなという願いはいつもあります。デビュー当時とかは「まだこの曲は私には合わない」みたいな考えがあって。でも、それって「平原綾香ってこういうもの」って自分で限定していることに気付いた出来事があったんです。ある曲に対して「私っぽくないな」って思っているときに、母が「音楽に補助輪なんかいらないんだから、どんな曲でも自分の歌にしていけばいい」って言ってくれて、それがすごく自分を変えたんですね。「よし、歌ってみよう」って。そしたら、その曲がすごくみんなから愛されたんです。それからはどんな曲でも愛して、歌おうと思うようになりました。
--そうして積み重ねたものが、今の自分を形成したと。
平原綾香:そう思います。ジャンルとか関係なく、クラシックっぽくても、ハードロックっぽくても、民謡っぽくても、演歌でも、今はみんな好きだし、愛そうと思える。音楽の中で「これは嫌い、あれは好き」って決めてしまうと、あんまり広がりがなくなっちゃう。嫌いなものを好きになったときこそ、自分がもっと見えてくると思うので、最近は「何でも好き」って思えるようになりました。だから何でも歌ってみる。大体は良い方向に進むというか、得るものは必ずあるので。
--先日、よこすか芸術劇場公演を観させて頂いたときも感じたんですが、ここに来て確実に表現力も迫力も増していますよね。自分では自分の歌をどう評価されていますか?
平原綾香:多分、1年後に今の自分の歌を聴くと「まだまだだなぁ」って思ってるかな。常に最善を尽くして歌をうたっていると、自分では思っていて。だからきっと1年後には「まだまだだなぁ」って思いながら、少しは成長している証を感じられたらなって。もっともっと自信をもって歌えたらいいなと思いますね。まだどこか歌に対して不安があるから、どことなく「伝わってないんじゃないかな」っていう想いがある。それで時に喉を使い過ぎちゃったりするので、もっと“伝わってる”ってことを信じて、ラクに、リラックスして歌うってことも出来たら格好良いなって思います。伝えようとしなくても実がすごく伝わっている、そんなところまで行けたらいいなと。
--先日の横須賀公演ではその領域に踏み出していると感じましたよ。その一方、喉に負担を掛けかねないような鬼気迫る感じは、震災直後の平原さんに顕著だった気がします。
平原綾香:たしかに去年とは全然違う気持ちですね。去年のツアーはアカペラの『Jupiter』を1曲目にしたんですけど、それは自ずと気合いが入るし、少し調子が悪いだけですぐ分かってしまうので怖い部分もあって。それでも歌いたい気持ちを優先していたんですね。何故なら、去年の自分は伝えたいことが10あったら、すべてをその日のうちに伝えなきゃいけないと思っていたので。ただ、今はここにある気持ちをみんなに見てもらって、皆さんにとって必要なものを引き出してもらえたらいいなっていう、ちょっと気楽な方に向かっているような気がします。
--震災後は平原さんに限らず、THE BACK HORNというバンドの言葉でもあるんですが、誰もが“野性的”だったんでしょうね。理性とは違うところでやるべきこと、伝えるべきことを伝えようとしていた。
平原綾香:それはあるでしょうね。皆さんがそれぞれ必死だったし、東北の人たちだけじゃなくて、誰もが落ち込んでいく気持ちを奮い立たせているような。お客さんの反応もすごくそういう感じがしたし、なかなか自分を冷静に見ることはできないけれど、私自身もそうだったのかな。
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