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2021/06/11 19:00

<ライブレポート>赤い公園「12年間大変お世話になりました!」盟友たちも集ったラストライブ

 2021年5月28日、赤い公園のラスト・ライブ【赤い公園 THE LAST LIVE 「THE PARK」】が東京・中野サンプラザにて開催された。

 2010年1月の結成から、この日まで。11年半弱の歴史を歩んできた赤い公園は、徹頭徹尾、普通じゃない、特別なバンドであり続けた。決して世の中の誰もが知っている大ヒット・ナンバーを残したわけではないし、順風満帆なキャリアに彩られた道のりではなかった。本当に、そのサウンドと同様に無軌道で一筋縄ではいかない軌跡の中で、しかし、それと同時に彼女たちに魅了されたファンやスタッフや同業のアーティストたちには底なし沼のように深く、深く、愛されたバンドだった。

 津野米咲という音楽家が、歌川菜穂というドラマーが、藤本ひかりというベーシストが、石野理子と前ボーカリストである佐藤千明(現・チアキ)という歌うたいが、才能という言葉だけで片づけられない、比肩なき創造性と可能性を持つ表現者でありプレイヤーであることを、みんなよく知っていた。だから、赤い公園にすっかり魅せられてしまった人たちは、彼女たちの楽曲に満ち溢れている途方もない魅力──他のどのバンドにも似ていない、極めてオルタナティブでありながらどこまでもポップな音楽力について語りたがった。バンドのポテンシャルと世間的な評価の乖離に接し、そのアンバランスさに疑問を感じた。「赤い公園はまだまだこんなもんじゃない」と、もっともっと輝かしい未来をつねに想像していた。いや、事実上のセルフ・タイトル作でありラスト・アルバムとなった昨年4月リリースのアルバム『THE PARK』のラスト・ナンバーである「yumeutsutsu」で<行こうぜ うつくしい圧巻の近未来 絶景の新世界>と歌っているように、誰よりもメンバー自身がとびきりの将来に立つことを描いていたのはたしかだ。それでも、道半ばでメンバーが袂を分かつときが来てしまった。それは文字通り残念無念でならないことだけれど、しかし。このラスト・ライブで石野理子、歌川菜穂、藤本ひかりの3人は、ギターの小出祐介(Base Ball Bear)とキダ モティフォ、キーボードの堀向彦輝 a.k.a.hicoという、やはり赤い公園に格別の愛情を持つサポート・メンバーの力を借りながら、津野米咲が遺した至高の楽曲群はこれからも生き続けるということを、その歌唱と演奏で体現してみせた。ラスト・ライブでありながら、まるで新章を迎えたバンドの初ライブのような趣さえあった。そんな紋切り型とは永遠に無縁のあべこべさがまた、なんとも赤い公園らしかった。

 2021年、5月28日、東京・中野サンプラザ。解散ツアーを回ることもない、正真正銘、1公演だけのラスト・ライブ。言うまでもなくチケットはプラチナ化し、会場に来られない人たちのために生配信も実施された。赤い公園にとって初のホール公演にして最後の舞台となる会場は、生前の津野米咲が何度も「いつか立ちたい」と言っていた中野サンプラザとなった。本来であればバンドは昨年5月から7月にかけて『THE PARK』のリリース・ツアーを開催し、初日の東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)が初のホール公演となる予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響によりツアーは全公演中止。急きょ8月29日にバンドにとって実家的なライブ・ハウスである立川・BABELにてオンライン・ライブを開催、結果的にこれが10月18日に逝去した津野米咲のラスト・ステージとなってしまった。バンドの頭脳であり柱だった津野を喪った3人のメンバーは小出祐介のサポートを得て、年末の【COUNTDOWN JAPAN】への出演を決めるがしかし、やはり新型コロナウイルス感染症の拡大の状況を踏まえてイベント自体が中止。そこからしばらくの沈黙を経て、2021年3月1日。赤い公園は5月28日の中野サンプラザ公演をもって解散することを発表した。

 当然ではあるが、開演前の中野サンプラザは名状しがたい緊張感に包まれていた。それぞれの場所で生配信の開始を待っていたオーディエンスもそうだろう、ここに至るまでの経緯を思えば、緊張する理由しかなかった。そんなこわばった空気を、じんわりほぐしていたのが会場に流れる開場SE=津野米咲が愛聴した楽曲が並べられたプレイリストだった。

https://open.spotify.com/playlist/5PXsSUbD2JqfzGPhw5MVXf

 そして、ライブが始まった。1曲目は初期の楽曲である「ランドリー」。ステージの幕が上がりきり、赤い公園のメンバー3人と小出の姿を確認できる。石野のボーカルと演奏隊のアンサンブルは拭いきれない硬さと、丁寧に演奏をするという意思を同時に感じさせた。また、正直に言ってしまえば、1曲目の時点では津野米咲が不在であることの違和感をリアルに突きつけられるような感覚を覚えた。覆らない事実を認めなければならないのだ、と。しかし、喪失感以外の感情を引き上げてくれたのは、そこから紡がれていった楽曲を響かせる3人とサポート・メンバーの演奏に他ならない。2曲目は石野の加入後、新生・赤い公園の最初の作品としてリリースされたEPの表題曲「消えない」。「こんにちは、赤い公園です! 中野サンプラザ、最後までよろしく!」と石野が凛とした態度で咆哮する。小出の鋭いカッティングやドライブ感に富んだリズム隊のプレイを背に受けながら、ステージ中央に設置された赤いお立ち台に上がり、力強く歌う石野を見て、「そう、これが赤い公園だ」という実感が湧き上がってくる。さらに、「ジャンキー」「Mutant」、飛び出すようにステージに登場した堀向を加えた「紺に花」と、『THE PARK』の収録楽曲を立て続けに響かすバンドから、このライブをポジティブに動かすんだという気概をまざまざと感じた。そう、赤い公園はお涙頂戴みたいなマインドでライブをやったことなど一度たりともない。もしそんなライブをしようものなら津野が苦虫を噛み潰したような顔を浮かべることを、ステージに立つメンバーは心得ている。

 いろいろな感情が忙しなく去来したこの日、最初のピーク・ポイントを迎えたのは、キダも合流し、6人のフルメンバーがそろった6曲目「Canvas」だった。全員で噛みしめるように渾然一体のアンサンブルを築き上げ、石野の丁寧でありながらエモーショナルなボーカルが、リリカルかつドラマティックな楽曲の妙趣を立体的に浮かび上がらせた。じつに素晴らしい演奏だった。ライブを観た誰もが、小出とキダと堀向がラスト・ライブのサポートを務めてくれてよかったと、メンバーと同じくらいの強さで思ったはずだ。叶いやしないわがままを言うならば、このままツアーを回ってほしいと思ったくらいだ。

 『THE PARK』以降の楽曲を中心にサポートを担った小出は、津野が練り上げたフレーズを真摯に再現しながら、自らのギタリストとしての色をまぶした。同じ時代を過ごした同志として赤い公園をつぶさに見つめてきたキダは、ときに津野が憑依したかのような錯覚さえ抱くほどの生々しいプレイを見せた。赤い公園の楽曲や津野がYUKIに楽曲提供した「かたまり」でストリングス・アレンジなどを手がけてきた堀向は、彩り豊かで情熱的な鍵盤でサウンド・スケープをドラマティックなものにした。

 個人的には「風が知ってる」「透明」「交信」「pray」の流れがたまらなかった。津野の透徹した音楽愛と音楽室的な響きを宿した「風が知ってる」と「交信」。一つの旋律を転がしながら赤い公園のファースト・インパクトを起こした「透明」のすごみ。そして、ラスト・シングルに収録されている「pray」のあまりに切なすぎる感触。その後のMCで石野は、解散の決断に至った経緯を報告した。実に立派なステートメントだった。

 「楽しい話もしたいところなんですけど、大事なことをしっかり私たちの口から伝えます。私たち赤い公園は、本日5月28日をもって解散することになりました。米咲さんが亡くなって、3人とも本当にたくさんいろんなことを考えたんですね。いろんな案を出し合って、スタッフの方ともいろんな話をして、自分の将来のことも考えたけど──でも、やっぱりそもそも赤い公園は津野米咲という存在がいないとダメだ、意味がない。結局はみんなが納得するところはそこだった。みんなの総意で解散することにしました。それでも私たちはライブをすることが大好きなので、みなさんにはこの場が楽しかったと思えてもらえたら、それだけですごくうれしいです」

 続けて藤本が、ソーシャルディスタンス仕様の客席を指して「どこかの空席に米咲が座ってるかもしれない」とオーディエンスを笑わせた。そこから、3人だけの演奏セクションへ。石野が急きょ命名したユニット名は、“さんこいち”。ステージには津野が高校時代に購入した白のストラトキャスター“白田トミ子”も同座した。「衛星」「Highway Cabriolet」「Yo-Ho」を披露したこのセクションで、歌川はアコースティック・ギターやキーボード、藤本はシンセ・ベースもプレイした。リラックスしたムードがとても心地よかった。

 小出とキダが再び合流し、ツイン・ギターでぶちかましてくれたメドレー・パートは、なんとも痛快だった。「今更」「のぞき穴」「西東京」「ナンバーシックス」「闇夜に提灯」と、ポップでアッパーな歌謡性が光る楽曲群を性急に編んだ。

 終盤。アンサンブルの熱量と充実度がとめどなく増していく中で、「KOIKI」「NOW ON AIR」「yumeutsutsu」「夜の公園」と繋げた。筆者が担当した『THE PARK』のオフィシャル・インタビューにおいて、津野が「yumeutsutsu」について「私たちのここからの夢はまずホールに始まり、ドームへとつながっているので。歌詞はその夢への招待状という感じですね」と語っていたことを、ふと思い出す。「夜の公園」の最後、<私じゃ駄目ですか>と歌いながら石野はまっすぐ左手を差し出した。その姿は言いようもないくらい胸を打つものがあった。

 「次にやる曲が最後になるんですけど……うん、その前に一人ずつ、12年間あたたかく見守ってくださった、応援してくださった、私たちの音楽を聴いてくださったみなさんにご挨拶したいと思います」と石野が切り出す。歌川と藤本が順番決めのジャンケンをし、先に藤本が語ることに。

 「高校の軽音楽部の視聴覚室から始まったバンドが、こんなに大きくなるなんて、あの頃の自分に教えてあげたいです。いろんな人に助けられながら、いっぱいベースを弾きました。米咲は私たちに対してすごい心配性だったから、向こうの世界に先にピューンと下見しに行ったのかなと思っていて。私たちはこっちの世界の楽しいこととか、ワクワクすることをいっぱい見つけて、向こうでまた一緒に音楽ができたらいいなと思います。生きてる人たちは物語のページをめくることもできるし、書き足すことも、燃やすこともできるから。二人(石野と歌川)もなんでもできるよ。私の電話番号を、緊急連絡先として使って」

 最初から最後まで、このバンドの性格──突拍子もない赤い公園らしさを大きく担っていたのは、藤本の解読不明にして憎めないキャラクター性だったと思う。

 「11年と半分くらいなのかな? こんなにたくさんの人に聴いてもらえるバンドになると思わなかった。私自身が赤い公園の曲に救われ、助けられ……(涙で言葉に詰まる)。本当にいろいろあったんですけど……いろいろ話すことを考えてきたんだけど、全部忘れました(笑)。とにかく米咲が作る曲が大好きでやってきて……遠くに行ってしまいましたけど……ヤバい、まとまらない。赤い公園の曲を、自信を持って叩けるようになりたいと思っていて。ちょっとはそうなれたかなと今日思いました。本当にいい曲をただ伝えたい一心で。本当にたくさんの人に支えられて今日を迎えられました。本当にありがとうございました」

 歌川は努力の人だ。この11年半弱でプレイヤーとして最も成長したのは間違いなく彼女だ。津野がいなくなってしまってから、この日を迎えるまでバンドを引っ張ってきたのもきっと彼女だったのだろう。

 「私は楽器隊が音楽をしているときの楽しさに惹かれて赤い公園に入ったんですね。声しか聴いたことのない私のことを初日から受け入れてくれて。8歳も9歳も年の差があるのに“気にしなくていいよ、一人ひとりが持っているものをリスペクトし合ってやっていこう”と始まって。その関係性を保つためにやってきました。年下の私を受け入れてくれたファンのみなさんにも、メンバーにもすごく感謝してます。あと、ちょっと申し訳ない気持ちもあります。赤い公園のボーカルが変わってしまい困惑した方もいただろうし、だからといってその困惑は私がどうこうできるものでもなくて。ちょっと心苦しい部分もあったけど、毎回のライブで成長した姿を見せたくて。その最終目標として“行きたいね”と言っていた東京ドームに立てなかったことは残念だけど、今日こうやって来てくれている方たちのように、私たちの音楽を生活の一部にしてくれている方たちがいるだけでうれしい。場所(の大きさ)よりもみなさんの気持ちのほうが私の中では大きくて。今日、ライブができてみなさんのお顔を見れたこともうれしかったですし、赤い公園として会うのは最後になってしまったけれども、またどこかでみなさんとお会いしたいなと思うくらい、今日は本当に楽しいライブでした。みなさん、ありがとうございました」

 石野は完全に赤い公園の顔としてこの日のライブを牽引していた。赤い公園のボーカルとして生きてきた歴史よりも濃密さと覚悟で勝負していた。ものすごく頼もしい、不動のフロントマンでありヒロインがそこにいた。

 本編ラストは小出と堀向とともに「オレンジ」。5人は赤い公園の最後の代表曲を、全身全霊を捧げるようにして解き放った。

 アンコール。「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」と石野がおどけながらステージに戻ってきた。藤本が「まだ終われないよね」と言うと、「もっと笑いたいもんね」と石野が続ける。鍵盤の華を添える堀向とともに「KILT OF MANTRA」と「黄色い花」を多幸感に富んだ様相で聴かせてくれた。

 サポート・メンバーからの挨拶で、小出はこう言った。「僕はバンドとかロックというものは継承されていくものだと思うんです。音楽的な部分も、魂や精神も、脈々と引き継がれていくものだと思っていて。僕も赤い公園という素晴らしいバンドがいたこと、メンバーがめっちゃいいやつだったこと、米咲ちゃんがいたこと、キダさんと堀向さんと楽しくリハしたことも引き連れて音楽をやっていきたいし、絶対バンドやめねえからなと思ってます」

 そして、本当に最後のときがやってきてしまった。石野が高々と叫ぶ。「私たち赤い公園、12年間大変お世話になりました! ありがとうございました!」。小出も加わりラストに響かせたのは「凜々爛々」。新生・赤い公園の第一声として配信リリースされた楽曲だ。はちきれんばかりの笑顔で歌う石野と、“エモい”という言葉はこういう状態にこそふさわしいと思った歌川と藤本、小出のアンサンブルが最高に眩しかった。

 音楽を鳴らし終えると、3人はお立ち台に上がり「ありがとうございました!」と生声を響かせ、客席に向かって深々とお辞儀をした。石野が叫ぶ。

「じゃあみんな解散で! 解散!」

 全29曲。他にも聴きたい曲はたくさんあったが、それを言いだしたら、キリがない。潔くないけれど、「いつかどこかでまた」と願っているところも正直、ある。なにはともあれ、これだけはたしかだ。津野米咲が生み落とし、石野理子と佐藤千明、歌川菜穂、藤本ひかりと作り上げた赤い公園の至高の楽曲群はこれからも生きていく。そう、ずっと生きていくのだ。

Text by 三宅正一
Photo by 岸田哲平


◎公演情報
【赤い公園 THE LAST LIVE 「THE PARK」】
2021年5月28日(金)
東京・中野サンプラザ
<セットリスト>
01. ランドリー
02. 消えない
03. ジャンキー
04. Mutant
05. 紺に花
06. Canvas
07. 絶対的な関係
08. 絶対零度
09. ショートホープ
10. 風が知ってる
11. 透明
12. 交信
13. pray
14. 衛星(アコースティック)
15. Highway Cabriolet(アコースティック)
16. Yo-Ho(アコースティック)
17. [メドレー] 今更 ~ のぞき穴 ~ 西東京 ~ ナンバーシックス ~ 闇夜に提灯
18. KOIKI
19. NOW ON AIR
20. yumeutsutsu
21. 夜の公園
22. オレンジ
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23. KILT OF MANTRA
24. 黄色い花
25. 凛々爛々

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