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<コラム>紅白出場決定、藤井 風「死ぬのがいいわ」のグローバル現象をおさらい

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Text by 柴那典

 藤井 風の2年連続『紅白歌合戦』出場が決定した。その「今年の活躍」については言うまでもないだろう。デビューアルバムの『HELP EVER HURT NEVER』に続く2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』を今年3月にリリースし、初のスタジアムライブも開催。日本を代表するシンガーソングライターとしての地位を揺るぎないものにした。

 さらに、今、藤井 風は世界中で大きな“現象”を巻き起こしている。「死ぬのがいいわ」のバイラルヒットをきっかけに、海外のファンが目覚ましく増加し、その魅力がグローバルに広がっているのだ。

 これまで、海外で人気となるJ-POPの楽曲はアニメ主題歌のタイアップをきっかけに知名度を獲得するものが多かった。また、竹内まりやの「Plastic Love」や松原みきの「真夜中のドア~stay with me」のように、数年前からは80年代のシティポップの楽曲がリバイバル・ヒットする状況もあった。しかし、2022年の下半期、「死ぬのがいいわ」はそれとは全く違った経緯で世界中に広まっていった。

 SNSでの話題性を指標化したSpotifyのグローバル・バイラル・チャートで同曲は最高4位を記録(12月5日時点)。各国のバイラル・チャートでも23の国と地域で1位を獲得している。その内訳は、タイ、インドネシア、ベトナム、韓国などのアジア諸国だけでなく、イギリスやフランスなどのヨーロッパ各国、カナダやブラジルやエジプトなども含まれる。アメリカでも最高2位を記録しており、まさに世界中に反響を巻き起こしている。

 こうした話題性は再生回数にも反映され、Spotifyのグローバル・ソング・チャートでもこの曲は最高57位を記録(12月5日時点)。米Billboardのグローバル・チャート“Global 200”でも最高位118位となった(12月5日時点)。ここ日本でも、今年8月後半からストリーミング再生が上昇し、Billboard JAPANストリーミング・チャートで最高22位(9月28日公開チャート)、総合ソングチャート“HOT 100”では最高33位(10月5日公開)を記録した。

 同曲は、2020年にリリースされた1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』の収録曲。シングルとしてリリースされたわけでもなく、何かしらのタイアップがあったわけでもない。なぜ今年になって注目を集めているのか。

 最初に火がついたのはタイだった。きっかけは、7月下旬頃からタイのTikTokユーザーの間でこの曲を使った動画が自然発生的に流行しはじめたこと。初期に人気になった投稿はアニメなどの好きなキャラクターを紹介する「推し活動画」のBGMとしてこの曲を用いるものが多く、日本のポップカルチャーに親しみのあるユーザーが<わたしの最後はあなたがいい あなたとこのままおサラバするより 死ぬのがいいわ>という歌詞の意味も踏まえてこの曲をセレクトしたものと思われる。

 7月30日にはいち早くタイのバイラル・チャートで1位を記録。藤井本人も8月2日に自身のツイッターで「個人的にめちゃお気に入りの曲だし嬉しい」とこの事実を紹介している。


 8月に入ると、タイだけにとどまらず、TikTokを介してインドネシア、ベトナム、マレーシア、シンガポールなど東南アジア各国に流行が波及していった。「歌ってみた」動画、ギターやピアノで演奏する動画、タイの民族楽器チャケー(chakhe)でこの曲をカバーする動画など、さまざまな派生動画も生まれ、国境を超えたバイラルが広がっていく。

@ffoam.m Shinunoga E-Wa - จะเข้ cover #โฟมคนจะเข้ #จะเข้ #ดนตรีไทย #นักดนตรี #thaimusic #shinunogae_wa ♬ Shinunoga E-Wa - Fujii Kaze

 8月23日には「アジアでご好評につき公開致します」というコメントと共に、2020年に日本武道館で披露されたこの曲のライブバージョンが藤井のYouTubeチャンネルに公開された。




 情熱的なピアノの演奏から始まるこの動画への反響もあり、8月下旬から9月にかけてはアジア以外の各国にも楽曲の人気が広まっていった。動画のコメント欄には楽曲を称賛する各国語の感想が集まっている。つまり、あくまで偶発的なきっかけから現象が生まれ、純粋に「死ぬのがいいわ」という楽曲の持つ魅力から人気が広がっていったわけである。

 そして、特筆すべきはこの現象が決して一過性のブームに終わっていないということ。そのことを示すのが、Spotifyの「月間リスナー数」の推移だ。月間リスナー数とは、そのアーティストが配信している全ての楽曲のうち何らかの楽曲を直近28日間に再生した人数(重複なし)をカウントしたもの。対象リスナーが国内だけでなく海外も含んでいるため、ワールドワイドなファン層の広がりを知ることができる。

 藤井 風のSpotify月間リスナー数は9月に500万人を突破すると、それ以降も驚異的な伸びを続け、11月下旬に1,000万人を突破。YOASOBIやAdo、Official髭男dismを上回り、J-POPアーティストとしての最高記録を記録している。12月に入っても月間リスナー数の増加は続いており、現象が「死ぬのがいいわ」1曲だけのバズに終わらず、これをきっかけに藤井 風のファンになったファンが世界各国で増え続けているということが伺える。

 その背景に、藤井のアーティストとしての類まれなる実力があることは間違いないだろう。伸びやかな歌声、自由闊達なピアノ弾き語りのパフォーマンスなど、ミュージシャンとしての飛び抜けた才能が人気の由来となってきた彼。自然体で人懐っこく、肩の力の抜けた佇まいにも独特のカリスマ性がある。

 そして、デビュー曲の「何なんw」を自ら解説した動画「"何なんw”って何なん Kaze talks about “Nan-Nan”」を筆頭に、これまで藤井風が流暢な英語で自らの世界観と曲に込めたメッセージを発信してきたということにも、大きな意味がある。




 これまで、藤井は「一人一人の内に存在しているハイヤーセルフ」をテーマにした多くの楽曲を発表してきた。楽曲のキャッチーさや歌声の魅力だけでなく、歌詞の持つ深遠なメッセージ性もファンを魅了する大きな要素になってきた。

 たとえば<去り際の時に何が持っていけるの 一つ一つ 荷物 手放そう>と歌う『HELP EVER HURT NEVER』収録の「帰ろう」は、藤井なりの死生観をテーマにした曲。<生まれゆくもの死にゆくもの 全てが同時の出来事>と歌う『LOVE ALL SERVE ALL』収録の「まつり」には、生命の循環を俯瞰で見据えるようなスケールの大きな言葉が歌われている。

 こうしたメッセージ性や人間性の部分も国境を超えて届いたということが、単なるバイラルヒットに終わらない藤井 風の海外人気の広がりに大きく寄与していると思われる。

 10月10日には最新曲「grace」が発表された。YouTubeに公開されたミュージック・ビデオは全編インドで撮影。公開から約1か月半で1,000万回再生を突破したこの曲の映像は、まさに藤井のアーティスト性を鮮烈に伝えるものだ。コメント欄には各国語の感想が並び、特にインド在住の方々が喜びや感謝を告げているものが目立つ。




 新時代の「グローバルなJ-POPスター」になりつつある藤井 風。12月28日にはインドに密着した『NHK MUSIC SPECIAL 藤井 風 いざ、世界へ』の放送、そして大みそかには『紅白歌合戦』と、彼の国内外の反響を確かめることができる機会が連続で待っている。この先のさらなる活躍が楽しみだ。

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