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ベイビーフェイス 来日記念特集
今年9月に来日果たすプロデューサー、コンポーザー、そしてシンガーとして世界で1億枚を越えるセールスを上げているベイビーフェイス。伝統的なソウル/R&Bミュージックのマナーを守りながらも、常にアップ・トゥ・デイトなサウンドを生みだす才能が世代やジャンルを超えてリスペクトされ続けているR&B界の至宝を大特集。
ボーイズ・II・メン「End Of The World」(1992年)、TLC「Diggin' On You」(1994年)、ホイットニー・ヒューストン「Exhale (Shoop Shoop)」(1995年)、そしてエリック・クラプトン「Change The World」(1996年)。90年代を代表するこれらの名曲を作り出した天才、ベイビーフェイス。いや、もちろんそれだけではない。彼が最初に手がけたとされるミッドナイト・スターの「Slow Jam」(1983年)以降、数え切れないほどクオリティの高い仕事を残している。ボビー・ブラウン、ジョニー・ギル、トニ・ブラクストン、キャリン・ホワイト、アッシャーといった時代を作り上げたR&Bシンガーを筆頭に、ダイアナ・ロス、ライオネル・リッチー、フィル・コリンズ、シーナ・イーストン、そしてマドンナやマイケル・ジャクソンといったベテランにいたるまで、彼が関わったアーティストは膨大であり、いずれもなんらかのターニング・ポイントになっている。ポップ・ミュージック史に残る偉大なソングライターであり、プロデューサーであることは間違いないだろう。おまけに、ソロのシンガーとしても素晴らしい声の持ち主でもある。ここではひとりのアーティスト、ベイビーフェイスの軌跡を追いながら、彼の美しいメロディとメロウなヴォーカルを再確認していきたい。
▲ 「Two Occasions」MV / The Deele
ベイビーフェイスこと、ケネス・エドモンズは、1958年に米国インディアナポリスで生まれた。最初のプロとしてのキャリアは、マンチャイルドというグループのギタリストとして。ベイビーフェイスというニックネームは、ブーツィー・コリンズによって名付けられたそうだ。1981年にはアントニオ・L.A.・リードらが結成したザ・ディールに参加し、「Body Talk」(1983年)や「Sweet November」(1985年)、「Two Occasions」(1987年)といった数々のヒットを飛ばす。そして1989年には、L.A.リードとともにラフェイス・レコーズを立ち上げ、自身のアーティスト活動と並行して、ヒット・プロデューサーへの道を突き進むことになる。
ソロ・アーティストとしては、1986年にファースト・アルバム『Lovers』を発表。冒頭でスタイリスティックスの名曲「You Make Me Feel Brand New」のカヴァーを披露するなど、すでにバラード・シンガーとしての実力をはっきりと見せつけている。また、ミディアム・チューンの「I Love You Babe」をヒットさせるなど、まずまずのスタートとなった。しかし彼の実力ぶりを決定づけたのは、1989年に発表した2作目のアルバム『Tender Lover』だろう。ビルボードのトップ・ポップ・アルバムのチャートで14位、R&Bアルバム・チャートでは1位を獲得。当時のブラック・コンテンポラリーのシーンにおいて不動の地位を築いた。実際、シングルカットされて大ヒットしたニュー・ジャック・スウィング「It's No Crime」や「Tender Lover」のセクシーなたたずまいは、時代の流れに乗ったアーティストという印象が強い。
リミックスを集めた企画盤『A Closer Look』(1991年)を経て、1993年には3作目のアルバム『For The Cool In You』をリリース。本作もビルボードのトップ・ポップ・アルバムのチャートで12位、R&Bアルバム・チャートで2位を記録。特筆したいのは、シングルヒットした「When Can I See You」。アコースティック・ギターをバックに歌うバラードは、後の「Change The World」への布石といっても過言ではない。また、この年のグラミー賞では早くもプロデューサー・オブ・ザ・イヤーを獲得している。
来日公演情報
Babyface
Live at Billboard Live TOKYO
ビルボードライブ東京:2014/9/4(木)~9/5(金)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
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Text: 栗本斉
華麗なキャリアの総決算となった
4thアルバム『The Day』
▲ 「Every Time I Close My Eyes」MV
これまでの華麗なキャリアの総決算となったアルバムが、4作目となる『The Day』(1996年)。マライア・キャリーとケニー・Gをフィーチャーしたスロー・ジャムの傑作「Every Time I Close My Eyes」を筆頭に、エリック・クラプトンを迎えたブルージーな「Talk To Me」、スティーヴィー・ワンダーとの共演共作が実現したバラード・ナンバー「How Come, How Long」、シャラマーのヒット曲をLL.クールJやジョディ・ワトリーらと歌い上げた「This Is For The Lover In You」など、とにかく豪華なゲスト陣に圧倒される。また、比較的スローなナンバーをメイン据えることで、親しみやすい作品に仕上がっている。彼のパブリック・イメージをそのまま体現したようなアルバムといえるだろう。この雰囲気は同じく大ヒットした翌年発表の『MTV Unplugged NYC 1997』にも引き継がれている。こちらは、エリック・クラプトン、シャニース、スティーヴィー・ワンダー、シーラ・E、K-Ci & JoJoといった華やかなメンバーとともに、しっとりとアコースティックに構築したライヴ盤の傑作だ。
1998年に初のホリデー・アルバム『Christmas With Babyface』を発表後は、ベスト・アルバムなどのリリースが続いたが、2001年に5年ぶり5枚目となるオリジナル・スタジオ・アルバム『Face2Face』を発表。スヌープ・ドッグとのコラボレーションやファレル・ウィリアムスとの共作もあり、アップテンポ主体にまとめて新境地を切り開いた。しかし、セールス的に一時の勢いが無くなったこともあり、2004年に予定されていた『A Love Story』はお蔵入り。そしてそのあらためて練り直して再構築したのが『Grown & Sexy』(2005年)だ。原点回帰とでもいえるメロウな世界観で、再評価を得るには申し分のない内容に仕上がった。だが、彼のルーツを垣間見られる秀逸なカヴァー・ソング集『Playlist』(2007年)の後は、ライヴ活動は行っていたとはいえ、しばらくの間リリースは途絶えてしまっていた。
トニ・ブラクストンとのデュエット作
『Love, Marriage & Divorce』
▲ 「Hurt You」MV / Toni Braxton & Babyface
そして2014年に入り、ビッグ・ニュースが飛び込んでくる。なんと、ベイビーフェイスが育て上げたといってもいいトニ・ブラクストンとのデュエット・アルバムの発表。しかも『Love, Marriage & Divorce』という意味深なタイトル。様々な人生遍歴によって引退を表明していたトニを引っ張り出したことに大いに意味はあるが、それ以上に二人の息のあったデュエットが見事な傑作に仕上がっている。それぞれの90年代に成功した要素をベースにしながらも、今の時代にしっかり聴ける大人のアルバムであり、ベイビーフェイスのシンガーおよびプロデューサーとしての才能が、まだまだ枯渇していないことも証明する作品である。
90年代の音楽シーンに大きな功績を残したベイビーフェイス。しかし、彼の才能やセンスは今もキラリと光っている。その証拠に、彼が残した楽曲が今なお色あせることがないばかりか、時代が一巡してさらに輝きを増しているように感じられる。アーティストとしての底力も、昨今のライヴ・パフォーマンスの充実度にも表れているはず。久しぶりの来日でも間違いなく至福の時間を味わえることだろう。
来日公演情報
Babyface
Live at Billboard Live TOKYO
ビルボードライブ東京:2014/9/4(木)~9/5(金)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
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Text: 栗本斉
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