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吉澤嘉代子 『変身少女』インタビュー
「もうひたすらぶりっ子で貫こうと。そうしなくちゃ壊れてしまう」
インディーズ時代からキュートとも猟奇的とも受け取れる世界観で独自のポジションを確立していた吉澤嘉代子。ヒャダインや綾小路翔がテレビ番組で絶賛したことから一気に注目度を上げていった彼女が、その勢いに乗ってアルバム『変身少女』でメジャーデビューした。これを記念して初インタビューを敢行したところ、次から次へと“今の音楽シーンで生きる”に相応しい、興味深い価値観や意思が浮き彫りに。
嘉代子が好きな世界観=BiSテンテン+井上陽水+サンボマスター?
--メジャーデビューのお披露目コンベンションで、初対面なのにウチの実家の居酒屋の話をされて驚きました。
吉澤嘉代子:居酒屋じゃがいも、ですよね(笑)。平賀さん(このインタビューのインタビュアー)のことを知ったのは、とある音楽ライターの方から「凄いアイドルがいるんだよ」ってBiSの話を伺っていて、そこでBiSを追っていらっしゃる平賀さんの話も聞いたからなんですけど。で、BiS界隈の話を聞いているだけでも凄いなと思っていたんですけど、YouTubeで調べてみたら本当に樹海を全裸で走ったりしてて、その上で曲も格好良かったので、「これは……」って気になる存在になっていきました。
--吉澤さんがいきなりBiSの話をするとは思いませんでした(笑)。
吉澤嘉代子:今のメンバーになってからは、テンテンコちゃん(身長142cmの殺し屋担当)がすごくツボにハマっていて。テンちゃんが好きです。
--元々アイドルは好きだったんですか?
吉澤嘉代子:全く知らない世界だったんですけど、ベルハー(BELLRING少女ハート)とかもライブを観てから「こんなに参加型のライブがあるんだ」と思って。観ているだけのライブももちろん面白いんですけど、お客さんも参加できるのって実は一番楽しいじゃないですか。そういうところをちょうど良い具合にすくってるなと思って、勉強になりました。
--カオティックでアンダーグラウンドのノリだったものが、今はメジャーシーンにどんどん食い込んできてますよね。ある種、吉澤嘉代子もその流れでメジャーデビューした印象はあるんですが、自分では吉澤嘉代子をどう評価してますか?
吉澤嘉代子:うーん……、自己分析は難しいですね。ここへ行きたいっていうものは、ありそうでないというか。ただ、音楽はすごく真面目に作ってきているので、パフォーマンスとか見せ方次第で、新しい立ち位置を何とか掻き分けて探せるんじゃないかなと。そこでだったら戦えるんじゃないかなと思っているんです。やっぱりそのまま出ても埋もれてしまう時代だと思うので。あと、やっぱり売れていかないと次の曲も出せないので、実はすごく売れたくて。だからある種、戦略的にも……私はそこまで考えなくてもいいような立場でもあるんですけど、今のディレクターさんがすごく考えてくれているので、一緒に吉澤嘉代子を創っていってる感じではありますね。
--既存の「良い歌をうたって、良いパフォーマンスをして」という感覚だけでは、この先通用しない。だからどれだけ個性を出せるかとか、面白いと思ってもらえるものを出せるか。常に意識して考えている?
吉澤嘉代子:本当に面白い曲とか良い曲であれば、絶対に出ていけると思ってはいるんですけど、でもバランスなのかなとも思っていて。私も好きな人、今生きている人でいっぱいいますけど、でもその人たちがいる場所というのは、少し……まぁお茶の間ではないというか。芸術的、アートに寄っていて。でも私はお茶の間に行きたいんですよね。なので、音楽性のバランスも考えなきゃいけないし、キャラクターとかも大事なのかもしれないんですけど……こんな話、しちゃって大丈夫ですかね(笑)。
--どんどんしちゃってください。
吉澤嘉代子:万人ウケするところと、マニアックなところ。その大きな輪の中の小さい輪を狙っていけたらなとは思っていて。
--それはサカナクションの山口一郎さんもよく話していました。エンターテインメントの輪と、アートの輪があって、それを重ねたときの真ん中に生まれる輪に向かってアクションしてきたい的なことを。2010年代における、音楽での戦い方のひとつの定義とも言えますよね。
吉澤嘉代子:私はどっちにも寄りきれないと思うんですよ。それが出来ないからその真ん中を狙っているところもあるんです。私がどっちかだけに寄っちゃったらとりあえず売れなさそうですよね(笑)。でもサカナクションの方も仰っていたんですね。うんうん。
--吉澤嘉代子の世界観のルーツを知りたいです。
吉澤嘉代子:歌をうたった一番古い記憶が、父と一緒に歌った井上陽水さんの「白いカーネーション」なんですけど、私が子供の頃から父は井上陽水さんのモノマネをしていて。それは近所ののど自慢大会に出るぐらいの範囲の活動だったんですけど、その姿を見て育ったので、陽水さんの詞曲はすごく刷り込まれている。陽水さんもお茶の間で受け入れられているけど、歌詞とか曲とかアートと言えばアートですもんね。その影響はすごく受けてると思います。
--なるほど。
吉澤嘉代子:あと、中高生の頃にサンボマスターが好きになって。サンボマスターの曲を聴いたときに、サンボマスターは私のこと知らないけど、私に歌いかけていると思って、私もそういう音楽がやりたいなって。それで高校生から歌をうたい始めるようになったんです。サンボマスターも精神的なところで憧れとしている人たちですね。
--井上陽水、サンボマスターと音楽的路線は違うものの、吉澤嘉代子も実に日本ならではの音楽を表現してますよね。そしてレトロである。
吉澤嘉代子:曲を作るときは“レトロ”であることを意識せずに作っていて、必死に作り出すということだけに集中しているので、何かを狙ったりしたことはないんです。でも短い歌詞で1曲を表現するのは、私自身もそういう曲が好きだからで、松本隆さんの歌詞とか全部好きなんですけど、字面だけ見ても綺麗に感じる日本語の歌詞が好き。あと、歌詞でもメロディーでも自分なりの答えがあって、そのマスターピースを当てはめていくというか。なるべくそれを見つけて作っていきたいとは……何の話をしてるんだっけ(笑)?
--いや、何が言いたいかはちゃんと解りますよ(笑)。
吉澤嘉代子:絶対あるんですよね。歌詞でもメロディーでも答えが。
ライブ情報
◎ライブ【吉澤嘉代子デビューAL「変身少女」リリースパーティー ~嘉代子、メタモルフォーゼ!~】
06月15日(日)渋谷duo MUSIC EXCHANGE
OPEN 17:15 / START 18:00
リリース情報
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
ヒャダインや綾小路翔も絶賛した
“ぶりっ子”大塚 愛と同じ苦悩?
--だからぶりっ子が過ぎるフレーズも惜しみなく使ってる? テレビでヒャダインさんや綾小路翔さんがキュンキュン来ていたようなフレーズを。
吉澤嘉代子:それはまた別の話になるんですけど、ぶりっ子っていうのは滑稽さを追及したときに出てくるものですね。私の曲を作る上でのテーマは“滑稽なものを作る”なんですけど、だから分かりやすく滑稽なぶりっ子要素をふんだんに使っているんです。敢えて過剰に乙女を表現することで、自分がラブソングとかを歌うバランスが取れているんですけど。ただ、「可愛い」と表現されるとは思っていなかったんですよ。
--それは想定外だった?
吉澤嘉代子:「気持ち悪い」っていうところを追求してきたので、「可愛い」って言われるのは……嬉しくはなかったんです。「可愛い」って言われるということは、つまり狂気の域まで達してないっていうことなんだなと思って。アマちゃんってことなのかなって受け止めてしまっていたんですけど、でも「可愛い」って今すごく表現の幅が広いから。格好良いとかオシャレっていう意味も含まれていたりするから、良いように受け止めたほうがいいよと言われて。「たしかにそうだな」と思って、今は冷静になって有難いなと思ってるんですけど。
--ただ、いずれにしても“ぶりっ子”というのは、吉澤嘉代子の一番分かりやすい武器になってますよね。
吉澤嘉代子:ライブでのパフォーマンスもそうなんですけど、素の自分のままステージに立ってしまうと、普段はこんな感じなので……歌う感じではないじゃないですか(笑)。スウィッチを入れないと始まらなくて。で、やっと去年『魔女図鑑』を出したあたりからスウィッチを入れられるようになって、普段の常に恥ずかしい状態から振り切れるようになった。思いっきり振り切ることで曲の主人公になりきる、という前提でパフォーマンスをするとぶりっ子の曲を作ればぶりっ子なパフォーマンスになるし、おどろおどろしい曲なら私もそういう風になるし、曲に合わせて自分が変わっていく。
--例えば、ぶりっ子を表現として捉える人もいれば、吉澤嘉代子のパーソナルな部分そのものだと捉える人もいるじゃないですか。「吉澤嘉代子? なんだ、このぶりっ子な女」ってなる人もいる。大塚 愛の「さくらんぼ」も本人からしたらギャグなのに、世間は「可愛い」「大塚 愛はアイドル?」ってなったように。そこって自分の中でどう消化していこうと思ってますか?
吉澤嘉代子:いや、なんかもう……平賀節が炸裂っていう感じ(笑)。
--ただのひとつの質問ですよ(笑)。
吉澤嘉代子:そうですねぇー。それが大きな問題ですよね。コアなファンの方とか、ライブに来てくれる方は、私の人となりが分かってるかもしれないですけど、曲とかMVとかだけで知って頂いた場合は、曲とイコールになってしまう。なので「チョベリグ」だったりとか、こんな人いないだろ?みたいな感じにしたり。でもこんな人いると思っちゃうんですかね?
--今回のアートワークや、ヒャダインさんや綾小路翔さんが絶賛した『musicるTV』で紹介された吉澤嘉代子だけ見たら「こういう変わった人もいるんだな」ってなりますよね。日常では出逢えないタイプの人って。
吉澤嘉代子:そうですよね。だからこそ芸能の世界に出てきたんだろうって思いますもんね。
--だからこそメジャーデビューできたんだとも思います。ただ、見事だなと思うのは、メジャーデビュー作のタイトルが『変身少女』っていう。あくまで変身=表現してるんだって捉えさせられるタイトルじゃないですか。
吉澤嘉代子:このタイトルにはふたつ意味があるんです。リード曲が「美少女」っていうタイトルなんですけど、これは姿形の美しさの“美少女”という意味だけではなくて、自分の理想とする人に変身した自分を“美少女”と呼ぼうと思って。なので“変身少女”とは意味がイコールになっている。あとは、インディーズで『魔女図鑑』を出したんですけど、子供の頃に魔女修行していたっていうお話があって、そこの部分から地続きになっていて「メジャーデビューします」っていうのを示したくて、魔法少女と変身少女は同じ意味と捉えて『変身少女』と名付けたんです。
--いろいろイコールになってるんですね。
吉澤嘉代子:ただ、『変身少女』っていうタイトルからして、私はもう少女ではないので、そこで「ん?」ってなるかなと思ったんですけど、意外とそんなことなくて。「美少女」も、私は美少女ではないし、ましてや少女でもないので完全なるフィクションなんですよ。でも「美少女じゃないのに……」みたいなことを本気で言っている人もいて。
--(笑)
吉澤嘉代子:世の中ってそうなんだなぁと。なので、これはもう気にしていたらキリがない。ただ、そこで例えば反感を買ったとしても、それは「気になる」の材料になると思うので。引っ掛からないより引っ掛かったほうが全然良い。
--ちなみに『musicるTV』で紹介されたときは、どんな気分だったの?
吉澤嘉代子:全国放送のテレビに出るのは初だったと思うんですけど、ヒャダインさんも綾小路翔さんもオリジナルを確立してきた方なので、「吉澤嘉代子は誰にも似ていない」と言って頂いてすごく嬉しかったですね。でも本当にいろんなことを言われるじゃないですか、表に出ていくと。何かに似てるとか似てないとか、個性があるとかないとか。私からしたら自分自身のことなので分からないんですよね。だから真面目にやっていくしかないっていうか……真面目にやってるだけじゃダメなんですけど、真面目に面白いものを作れたらきっと日の目を見ると信じているので。はい、信じています。
ライブ情報
◎ライブ【吉澤嘉代子デビューAL「変身少女」リリースパーティー ~嘉代子、メタモルフォーゼ!~】
06月15日(日)渋谷duo MUSIC EXCHANGE
OPEN 17:15 / START 18:00
リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
チャットモンチー福岡晃子、
田渕ひさ子等参加のメジャーデビュー作
--そんな吉澤嘉代子のメジャーデビュー作『変身少女』、仕上がりにはどんな印象や感想を?
吉澤嘉代子:メジャーデビューの1枚目としては優秀な出来だと。自分がやりたいことはこの先にあるので、今回は“みんなに聴く耳を持ってもらう窓口になるアルバム”を目指していて。ラブリーポップスっていうテーマを掲げて、サウンドも世界観もそこに寄せて作っているので統一感もありますし。
--ラブリーポップスっていうキャッチーなところでまず勝負して、間口を広げる為の一枚?
吉澤嘉代子:そうですね。ラブソングも多いですし。前作『魔女図鑑』は「もうこの先出せないかもしれない」と思っていたので、とにかく自分のカタログになるような、バラエティに富んだものにしたんです。それで今回は同じことをしてもしょうがないと思って、すごくシンプルで濃厚な一枚を作るのが格好良いなと思ったんです。もうひたすらぶりっ子で貫こうと。そうしなくちゃ壊れてしまうような気がしたので。
--で、この先に“ぶりっ子の向こう側”が待ってると?
吉澤嘉代子:“ぶりっ子の向こう側”が……待ってますね。今回はぶりっ子をやりすぎて“サムい、イタい”女の子をやったので。
--あと、今作をつくる為に招聘しているミュージシャンが豪華過ぎます。福岡晃子(チャットモンチー)、田渕ひさ子、あらきゆうこ……みんな、有名人ですよね。
吉澤嘉代子:これはたまたま皆さんのスケジュールが合ったんですけど、リード曲の「美少女」は女性のミュージシャンに演奏して頂きたかったんです。それで私が憧れている方を挙げていって、そしたら叶ったっていう。ただ、去年のクリスマスにレコーディングしたんですけど、本当に緊張してしまって。チャットモンチーの晃子さんがシュークリームを差し入れして下さったんですけど、普段はあんまり甘いもの食べれないのに、緊張のあまりバクバク食べまくっていて。それで「これ、すごく美味しいですね!」って言ったら、「あ、美味しい? コンビニで買ったんだけど」みたいな(笑)。
--それぐらい舞い上がっていたと。
吉澤嘉代子:そうですね。舞い上がっていたというか……石のようになっていました。
--そんな参加ミュージシャンも凄い『変身少女』、世にどんな風に響いていってほしいですか?
吉澤嘉代子:うーん……………………どんな感情でもいいので、吉澤嘉代子に引っ掛かる一枚になってもらえたらと思います。
--吉澤嘉代子は、この音楽シーンでどんな存在になっていけたらいいなと思ってるんでしょう?
吉澤嘉代子:この世の中に名曲と呼ばれるものをとにかく残したくて。そういう風に思うと、憧れの存在としてはユーミンさんが一番近いのかなと思う。あと、ミュージシャンは音楽だけやってるのが格好良いって云う人もいると思うんですけど、私は出来ることがあるんだったら何でもやりたいと思っていて。なのでライブでも踊ったりするようになったんですけど。
--元々は踊ってなかった?
吉澤嘉代子:去年からですね。今作『変身少女』にも入ってる「チョベリグ」っていう曲をやるようになってから。私は「踊るとかないでしょ?」って嫌がっていたんですけど、「一回ちょっと踊ってみてよ」って言われて自分なりに踊ってみたら、今の形とそんなに変わらないというか、最初から出来上がっていたんですよね(笑)。ずっと未完成という完成を見ていた。それで目の前のお客さんが笑ってくれたら「どんな風に言われてもいいや」って思えて、それから何でもやるようになりましたね。
--楽しんでもらえるなら何でもやれる自分に気付いた?
吉澤嘉代子:そうですね。いろんなこと言う人がいるんですけど、結局はその目の前のお客さんを信じるしかないんですよね。今、目の前にいるお客さんのことだけを考えるようになった。それだけをエネルギーにして今は生きていて、例えば「今はしんどいけど、来週にはライブがあるから」みたいな。前はライブがすごく怖くて「ライブなんかなければいいのに」って思っていたんですけど(笑)、今は逆にライブが支えになっていたりして。
--吉澤嘉代子が目指しているライブってどんなものなんでしょうね?
吉澤嘉代子:時代時代によって違うのかな?って思ってたんですけど、やっぱり同じなのかなって今思いました。目指すライブっていうのは……ドキドキするライブ(笑)。ワクワクするライブ。
--今作『変身少女』を携えたライブって決まってるんですっけ?
吉澤嘉代子:6月15日にあるので、平賀さんにも来て頂けたら嬉しいです。
--じゃあ、そこで吉澤嘉代子が僕らをドキドキワクワクさせてくれる、という話でいいですかね?
吉澤嘉代子:………はい(照)。
Music Video
ライブ情報
◎ライブ【吉澤嘉代子デビューAL「変身少女」リリースパーティー ~嘉代子、メタモルフォーゼ!~】
06月15日(日)渋谷duo MUSIC EXCHANGE
OPEN 17:15 / START 18:00
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