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Salley 『フューシャ』インタビュー
デビュー1周年を目前に1stアルバム『フューシャ』完成。若者から「コンポって何ですか?」と聞かれるような時代でも、良質なポップミュージックを前世代からのバトンとして届けようとするニューカマーの葛藤。そしてようやく辿り着けた“待っている人”たち。思わず泣けてしまうアルバムを聴きながら、ちょっぴり泣けてしまうこのインタビューをご覧ください。
Salleyの行き先は自分たちで決める。2人の葛藤と解放。
▲Salley(サリー) - カラフル【ミュージックビデオ(short ver.1)】
--あとひと月もすれば、デビュー1周年。駆け抜けてきた感覚はありますか?
うらら(vo):去年の11月ぐらいまでは「駆け抜けたな」っていう感じ。そこから「力を抜けばいいんだな」っていうのを覚えて、ようやく自分のペースで活動できるようになりました。ナチュラルであることを心掛けるというか、頑張り過ぎないようにしないとなって。しばらくは全部を自分でやらなきゃいけない気がしていたんですよね。あれもこれも全部やらなくちゃ。全部できなくちゃいけないって。でも今は、自分はそもそも許容量の大きい人間じゃないんだから、そこまで頑張らなくていいって思えるようになったんです。
--約1年間、音楽業界に身を置いてみてどんなことを感じました?
うらら:……すごくしょうもないことなんですけど、音楽業界にいる人は普通のサラリーマンより若く見える(笑)。
--他の業種に比べると、同じ歳でも若く見えますよね。
うらら:それは上口くんもそうなんですけど。自分の大学時代の3つ上の先輩とかは「よっしゃ、金曜日は呑みに行こうや!」みたいな人たちで。金曜日に何かから解放される人たちで、大人!って感じなんですけど、それに比べると上口くんとか「年上なのかなぁ?」っていつも思う。
上口浩平(g):常に解放されてるから(笑)。誤解を恐れずに言えば、毎日が金曜日というか。
うらら:アハハハ!
--とは言え、メジャーで楽曲を世に打ち出していくのは重責ですよね。
上口浩平:Salleyの前に組んでいたバンドが解散したっていうのは、自分の中で“失敗”みたいな感じだったんで、自分の感覚とかセンスとかに対して常に“?”が付いている状態だったんですよ。当然、今も“?”を付けることは絶対大切なことだと思うんですけど、以前は付け方を間違っていた。アーティストがいて、楽曲があって動く世界なので、自分の「これ、格好良いな」とか「こういう風にしたら良いのにな」とか「これって俺らっぽいよな」って思う部分を大事にしていいのに、Salleyはデビューからすごく大きいプロジェクトだったので、最初はビビッて口に出すことを抑えちゃって、結果的に遠回りしちゃってたんです。
▲Salley(サリー) - 赤い靴(歌詞入りShort ver.)
--なるほど。
うらら:そこは2人で話し合ったことでもあって。いろんなことが同時進行でわぁー!っと行われていって、自分たちにとって初めての経験がずーっと続いている中で、私は全部に「期待に応えなきゃ!」って一生懸命になり過ぎていたし、すごく頭でっかちになっていた。そのうち「分担したほうが効率いいから」って上口くんとのコミュニケーションも希薄になっていったんですけど、それはやっぱり良くなかったなってすごく思って、昨年末ぐらいに2人でちゃんと話し合ったんです。今までSalleyでいろいろやってきた結果、結局は私たちから出るものじゃないと意味がないなって、お互いに確認することができて。
--Salleyとは、2人のことであると再認識したと。
うらら:いろんな人の意見をすべて取り入れて作り上げるんだったら、別に内容は私たちじゃなくてもいい。誰でもいい訳で。もっと可愛いモデルさんみたいな女の子を連れてきて、その人に「こういうことをして下さい」って言ってすべて造り上げればいい訳だから。私がここにいる理由は、何か私に良いものがあったからなんだろうから、最初に「私たち2人はこういうことがしたいんです」って言った上で、あとから肉付けしたり、意見を聞いたりすればいい。そこを見失っていた。
--では、今のほうが「Salleyである」自覚が強くなった?
うらら:そうですね。ここ4ヶ月ぐらいの話ですけど。
--以前はプロジェクトに乗っている感じだったと。Salleyという名の。
うらら:Salleyだったはずなのに、いつの間にか知らない電車に乗せられて、行き先は分からないけど物凄く進んでる!みたいな感じだったんで。それを「すみません、行き先はこっちにしてください」と、自分たちで言わなきゃいけないなっていうことが分かった。それからのほうが本当に楽しいというか、あんなこともしたいし、こんなこともしたいって思うし、2人でワンマンライブの内容を決めていくのも楽しいし、より一層活動に深みが出た感じがします。
リリース情報
フューシャ
- 2014/04/09 RELEASE
- 初回限定盤[VIZL-649(CD+DVD)]
- 定価:¥3,780(tax in.)
- ≪試聴可能≫
- 詳細・購入はこちらから>>
- 通常盤の詳細・購入はこちらから>>
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
音楽好きな子に「コンポって何ですか?」って言われて!
▲Salley(サリー) - green (short ver.)
--大きい話になってしまうんですが、そんな2人から見た今の音楽シーンってどんな風に映ってるんでしょう?
うらら:前々から思っていたことなんですけど、物凄く分かり易い大衆向けのものか、あるいは「J-POPはあんまり聴かないんだよね」って言っている人が聴く、ハードルが上がっちゃっているもの。その両極端になっちゃってる。少し前まではそんなことなかったと思うんですよ。スピッツさんだったり、THE YELLOW MONKEYさんだったり、誰もが気軽に聴いていたじゃないですか。今は「俺はこっち聴いてるから、そっちは聴かない」みたいになってて寂しい。
上口浩平:ただ、そもそも最近の邦楽を聴いていて「すげぇな!」って思うものがあんまり出てこない。セオリーを大事にしたり、安全パイ、規格内のことをやっている印象が強くて。変な考え方もしれないですけど、軽音楽って海外からの借り物の音楽だと思うんです。悲しいけど、日本が生んだものじゃない。やっぱり洋楽に湧き出てる音っていうのは、物凄く躍動感があったり、刺激的だったりするんで、そこに追いつける良いアプローチをしたいなって思いますね。
--今の時代におけるCDの価値ってどう捉えています?
うらら:私は好きなアーティストのCDをきちんと持っておきたいっていう、コレクション的な部分での価値を感じてます。あと、CDで聴いたほうが音も良いですよね。そう思うんですけど、この前、19ぐらいの子に「MDが聴けなくなってるコンポがあるんだけど、いる?」って聞いたら、「コンポって何ですか?」って言われて! すっごい衝撃だったんですよね。「え、嘘でしょ?」って(笑)。
--こちら的には「冷蔵庫って何ですか?」って聞かれるのと同じですからね。
一同:(笑)
うらら:それで「じゃあ、CDは何で聴いてるの?」って質問したら、「パソコンに入れます」みたいな。もうコンポを知らない子がいるんですよ。しかもその子、ライブハウスで働いてるのに「本当に?」って思って。音楽好きな子でもそうなんだなって。ただ、そういう時代になっても私がCDを手放したくない理由は、そのCDを手に取って買ったときの思い出があるから。ただ単純に音を聴くツールというよりは、そのアーティストや曲と自分の関係性を大事にしたいから。だからSalleyのCDも“SalleyのCDを持っている”ことに価値を感じてもらえたらいいなって思います。
--上口さんはいかがですか?
上口浩平:一時期、CDが売れない理由について真剣に考えたんですけど。とは言え、この頭なんで、てんで答えを見つけることができず……(笑)。そんなときに事務所の副社長が「昔の甲冑着たまま走ってるんだから無理は出てくる。新しい構造とか仕組みはあったほうがいい」って言っていたんですけど、じゃあ、それを受けて僕らミュージシャンやアーティストがすることって言ったら、やっぱり良いライブして、良い曲書いてしかないなと思って。それからはCD売れる売れないにウェイトは置かず、「本当に良い曲だね」って言ってもらえる楽曲を作ることに全部を注ぎ込む。僕はそれしか出来ないなと思って。
▲Salley(サリー) - あたしをみつけて (short ver.)
--ここ数年はアイドル全盛で、ヒットチャートもアイドルが席捲していますよね。それ以外のアーティストがなかなか主役になれない状況が続いていますけど、どんなことを思いますか?
うらら:あー……、私、アイドルも好きだからな(笑)。
--だから否定はしないですよね。
うらら:アイドルのCDを買う気持ちはすごく分かる。メンバー多いとメンバーの数だけ種類が出ますから、それで買っちゃうのも分かるんですけど、楽曲としてもAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」とかは良いから欲しくなっちゃう。あと、昔のモーニング娘。とかは“握手会が付いてくるからCD買う”とかじゃない状況でミリオンヒットを出していた訳で、結局はアイドルも楽曲ありきなのかなって。
上口浩平:たしかに良い曲はあるじゃないですか。聴いていて「ちゃんとマスタリングとか考えてるなぁ。スタッフ一丸となってやってるんだろうなぁ」って思える。たまに深夜のアイドル番組とか偶然観ると、普通に面白かったりもするし。だから「アイドルが売れておかしいだろ!」っていう感じは僕にはない。
--ただ、評価されてるアイドルもだんだんと、ハロプロみたいに音楽的にも本物志向なものがヒットチャートを賑わすようになり、小室ファミリー時代後の宇多田ヒカル的なより返しもあるのかなと個人的には思っていて、そういう意味ではSalleyってこれからしっかり評価されていくのかなと。自分たちではどう思います?
うらら:私が聴いてきた音楽は、それこそCDが売れていた90年代のものだったりして、親が青春時代に聴いていた音楽も今日までずっと残っているヒット曲で。そういう時代の影響をすごく強く受けてると思うんですよ。でも今の子供たちはそれを知らなくて「音楽ってこれぐらいのもんなんだ」って思っちゃってる。それはもう時代の流れとして仕方ないことではあるけど、私は自分たちが「素敵だな」って思ったもの、小さい頃に感銘を受けたもの、この道を選んだ理由になっているものを残していきたい。Salleyの音楽はどこか懐かしくて正統派な感じだと思うから、そこは自信を持ってやっていきたいなって思います。
リリース情報
フューシャ
- 2014/04/09 RELEASE
- 初回限定盤[VIZL-649(CD+DVD)]
- 定価:¥3,780(tax in.)
- ≪試聴可能≫
- 詳細・購入はこちらから>>
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Interviewer:平賀哲雄
誰かが自分を必要としてないと、生きていけていけない
▲Salley(サリー) - その先の景色を (short ver.)
--Salleyでそのバトンを繋いでいきたいと。
上口浩平:あと、うららはうららだし、上口浩平は上口浩平なので、この2人で作れる音しかこの2人では作れないと思うんですよね。突然、僕に坂本龍一さんの魂が乗り移って、急に凄まじいピアノを弾き出すとか……
うらら:あればいいですけどね。
上口浩平:(笑)。でも僕は僕でしかないので、その中で出来ることも限られていくと思うんですけど、その範囲の中で「良いな」って思うことをやることが逆に良いのかなと思っていて。そこに労力や時間はかけていいのかなって思ってます。「これでいいのかな?」っていう状態では出したくない。
うらら:私たちが自分たちで「良い」って思わないものは、どれだけキャッチーだったとしても、それで信じられないぐらい売れたとしても、「うーん」ってなるだろうから、そこはちゃんと一本筋を通しておきたい。
--今、これだけ心地良いポップミュージックを打ち出せているニューカマーもいないと思うんですが、自分たちではどんな風に評価してるんでしょう?
上口浩平:いや、もう、素ん晴らしい……
一同:(笑)
--素ん晴らしい音楽じゃないかと。
上口浩平:とは思うんですけどね。「そんなもん、自己満や!」って言われたらそれまでですけど(笑)。でも僕が出す曲には、ちゃんと自分自身が鳥肌立ってるし、すべて自分的に「良いな」と思う楽曲になっているので。あと、インタビュアーさんが言ってくれたりするんですけど、「今回のアルバム『フューシャ』を聴いてSalleyが解った」って。今まで解りづらくて伝わらなかった部分も、アルバム13曲を通して「Salley、良いな」っていう風になってくれたら嬉しいなって思う。
--うららさんは今作『フューシャ』にどんな印象を?
うらら:上口くんが作る曲が素晴らしい。
上口浩平:どうしたんですか?
うらら:(笑)
--でもここで否定したらさっきの話は何だったんだ?ってなりますから(笑)。
うらら:何回も何回も聴いて最近やっと客観的に聴けるようになったんですけど、良いなって思った。きっと良いんだろうなって。あと、もちろん、自信のないものは出すべきじゃないんで、現時点の私たちの最高傑作って言えるんですけど、「まだこの次があるんじゃない? まだ行けるでしょ?」みたいな感じもある。
--そこの伸びしろにはもちろん期待したいんですけど、今作はふと涙が滲むぐらい良いアルバムですよ。優しい音だから油断してると、ドラマティックな展開と言葉がグッと刺さって泣けてしまう。
上口浩平:そのちょっと泣いちゃう感じはすごく解ります。僕自身の基準が「感動するかどうか」なんですよ。曲作ってて「あ、今、鳥肌立ったわぁ」みたいなものを集めていったりして、それで勝手にひとりで切ない方向に持っていって、勝手にキュンとしちゃってる。まぁ自分の色でもあると思うんですけど、そういう傾向はあって。そこにハマると思ったからうららちゃんに声を掛けたんだと思うし、そういう切り口が人々に届いてくれたらなって思います。
--こうして1stアルバムが完成したこと自体にはどんな感慨を?
うらら:このアルバムが出ますよっていう情報を解禁したとき、ツイッターに「遂にアルバム出ます。楽しみにしててね」みたいなことを書いたら、凄い勢いでリプライがあったんですよ。「待ってました!」とか「本当に楽しみです」とか「もう今日予約してきました」とか。それに感動して、泣いちゃって、家でひとりで。「みんな待ってくれていたんだな」って思うと、すごく感動してしまう。まだまだ短い活動期間ではあるけど、そこでやってきたこととか、当たってきた壁とか、何とか乗り越えようとしてきたこととか……「あ、意味あったな」って。
--そこでうららさんが泣いた理由は、今作の「My little girl」という曲にあるのかなって思うんですけど。「My little girl 立ち上がれ 待っている人がいる」というフレーズ。
うらら:1曲目の「その先の景色を」は、本当に初めて2人で作った曲だし、私も上口くんも自分たちがこうなるって分かっていない中で、何とか進みたいんだって思ってる曲なんですけど、じゃあ、今、私がその気持ちで現在版「その先の景色を」を書いたらどうなるんだろう?みたいなところから、その曲でアルバムが終わるっていうことを考えて作ったんです。で、曲を聴いたときに、ひとつの道を歩いていってる感じ。それは決して穏やかな草原とかじゃないイメージが浮かんで。いろいろ寄り道しながらも、でも向かっていく先が一緒っていうイメージを歌にしたいなと思って。
--この曲の「待っている人がいる」ってキーワードですよね。これを信じてやってきたんじゃないですか?
うらら:……誰かが自分を必要としてないと、私、多分生きていけてないので。誰かの期待とか、誰かが待っている状況があったら、もう一歩が生まれる。とりあえず期待されないと頑張らない娘なので。バイト先で「別におまえの代わりなんかいくらでもいるんだからな」って言われたら、「あ、そうですか」って辞めちゃう人なので(笑)。でもここには、最初にも話したけど、私が私である意味がある。だから現在版「その先の景色を」を書くんであれば、なんかよく分からないけど進んでいきたいではなく“私だから!”みたいなことを意識するべきなんだろうなって。
--その私を本当に待っている人がいた訳ですが。
うらら:凄いことですよね。この前、何かのアンケートで「あなたにとってファンとはなんですか?」っいう質問があって、この言い方はキツイかな?と思いながらも「いなかったら活動する意味ない」って書いたんですよ(笑)。誰も認めてくれていないけど、上口くんと「いいね!」って言ってるだけだったら、それはやらなくていい気がしていて。1年近く活動してきて「いいね!」って言ってくれる人がいるから、それが頑張る理由になる。「やっててよかったな……やらなくちゃいけないな!」って気持ちになるんです。
Music Video
リリース情報
フューシャ
- 2014/04/09 RELEASE
- 初回限定盤[VIZL-649(CD+DVD)]
- 定価:¥3,780(tax in.)
- ≪試聴可能≫
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- 通常盤の詳細・購入はこちらから>>
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Interviewer:平賀哲雄
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