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井乃頭蓄音団 『おかえりロンサムジョージ』インタビュー

井乃頭蓄音団 『おかえりロンサムジョージ』 インタビュー

3年ぶりのオリジナルアルバム『おかえりロンサムジョージ』を引っさげ、遂にシーンへ殴り込みをかける! ……と思われていた話題のロックバンド 井乃頭蓄音団から、リリース直前になって「広告予算が無くなった!」と驚きの知らせが届いた。

2012年秋の記事初掲載以来、足しげく取材し、“世間に気付かれればブレイク必至”と信じてきた彼らに今、何が起きているのか。『おかえりロンサムジョージ』の魅力を伝えると共に、井乃頭蓄音団に起きた悲しき事件の真相について訊いた。

広告費を出せなくなった真相に迫る

--今回の特集掲載については広告出稿も含めた話で進んでいましたが、不測の事態で予算が出せなくなった、と先日マネージャーから連絡がありまして。

ヒロヒサカトー(g):はい。

--まずは事の真相から教えてもらえますか?

松尾よういちろう(vo,g):先日、私たちはあるミュージックビデオの撮影をしていたのですが、移動の多い撮影だったので車が必要だったんです。ただ、レンタルカーだと高くついてしまうので、友人から車をお借りしまして。その途中でアクシデントが起きたんですが、詳しい事の真相は私もまだ存じ上げていないんですよ。

ジョニー佐藤(g):そのときは俺やヌッキー(=大貫)たちが運転班でして、ヒロヒサくんと松尾さんはすでに降ろした後だったんですよ。で、そのお借りしていた車がなかなかハイカラでして、ギアをR(リバース)に入れると、車の後部カメラの映像がカーナビの画面に映るんですよね!

大貫(b):その画像に心奪われてしまいまして(笑)。感動しながら「スゲー! スゲー!」ってバックしてたら、そのうち車の左側の方から鈍い音がしまして……。サイドミラーをぶつけてしまったんですよね。曲がってはいけない方に曲がってました。

ヒロヒサ:それでサイドミラーを総取替えということで弁償となりまして、結果、広告費が捻出できないという状況に陥りました。

松尾:3年ぶりのオリジナルフルアルバムですよ! 10曲も入ってるんです! 今のメンバーでは初めてです! めちゃくちゃ大切なアルバムだから、今までやってこなかった宣伝したいし、こうやって取材してもらえることも本当に嬉しい! なのに……。

--広告費が出せなくなったと(笑)。

松尾:ジョニーと大貫は36歳、僕もアルバム発売時には33歳です。ヒロヒサくんも30歳になりますから、年齢的には楽器の演奏などはある程度できて当たり前な所まで来ちゃっているんですよ、もう!

「ステージ上では勃起してる」で大貫を説得

井乃頭蓄音団版「カントリーロード」
▲不朽の名曲に独自解釈を加えた井乃頭蓄音団版「カントリーロード」

--そんな現状を打破するためにも、3年ぶりのオリジナルアルバム『おかえりロンサムジョージ』が売れてくれないと困るわけですが、本作は現メンバーの井乃頭蓄音団としては初めてのリリースになります。

大貫:準備段階としては正直慌しかったと思うんですよ。その中でのみんなのがんばりが良い具合に出てしまって、良い音源になってしまったな、と。

--大貫さんは新メンバーとして加入してから1年ほど経ちました。この1年でバンドのイメージが変わった所はありますか?

大貫:ヒロヒサくんは前から知ってたし、ジョニーさんはそのまんまだし……。松尾さんは最初の頃は真面目に対応してたんですけど(笑)。ただ、加入のきっかけは松尾さんなんですよ。まだ井乃頭蓄音団に入る前、みんなで飲んでたときに松尾さんが良いこと言ったんですよ。

松尾:「音楽しか無くなっちまったんだよ」って……

ヒロヒサ:それじゃないよ(笑)。

松尾:「どういう音を鳴らしたいかじゃなくて、このメンバーだから鳴ったっていうのが井乃頭蓄音団なんだ」でしたっけ?

ジョニー:それも違う(笑)。

大貫:松尾さんはそのとき、「ステージ上では勃起してる」って教えてくれたんですよ。「俺はエレクトしてる」って聞いて、「俺も負けてられねえ!」と井乃頭蓄音団への加入を決めたんですよ。(※1)

ジョニー:スタジオアルバムとしてはかれこれ3年ぶりですし、ヌッキー(=大貫)も入ってバンドらしくなったんですよ。井乃頭蓄音団のメンバー、ギタリストとしてちゃんとに出せたと思うアルバムは今回が初めてですね。それぞれの個性もサウンドの中に溶け込んでるし、これぞ井乃頭蓄音団NOW!って感じの作品がやっとできたかなって。

--そういえば昨年、「カントリーロード」のミュージックビデオをYouTubeに公開しましたが、歌詞は英語やスペイン語、中国語などの対訳が掲載されていましたよね。

松尾:ジョン・デンバーの世界的に有名な楽曲ですから、それぞれのふるさとが各国ごとにあるだろうと。僕が作った歌詞は基本的に日本的だと思うんですけど、あれはジョン・デンバーの原曲を踏まえた上での歌詞だったんですよ。あの歌詞とメロディと演奏なら、世界各国に伝えられると信じてたんです。

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新作で下品な言葉を使わなかった理由

未来をテーマに3.11を歌う「東京五輪」
▲未来をテーマに3.11を歌う「東京五輪」

--僕が初めて観たのが2012年秋から1年半、井乃頭蓄音団を追い続けた理由は、世間に気付いてもらえれば爆発する可能性を感じたからなんですね。

松尾:嬉しいです!

--ただ、そんな井乃頭蓄音団のひとつの武器だと思っていた攻撃性の高い歌詞、下品で強烈な言葉が、今作がほとんど使われていないんですよ。

松尾:確かにファンの方々からすれば驚きはあると思います。デモの段階ではひどい歌がいっぱいありましたし、ひどい歌も作ってます。キンタマが揺れる歌とか、卑猥な言葉だけを並べた歌とか……。

--昨年ソロで出した『松尾な気分』には、「コンドームになりたい」や「スメルズライク北朝鮮」といった迷曲がてんこ盛りでしたね。

松尾:ただ、バンドの場合はメンバーの意見が凄く大切だし、それが一番だと思う。もっと言えば、過激な言葉を使った曲も、過激ではない言葉で作られた曲も、想いの強さは同じなので変わりはないです。 前のアルバムから3年経って年齢を重ねましたし、生活も考え方も変わっていく。その中で瞬間的に一番良いと思った音を出しているので、変わっていくのはしょうがないことだと思います。それが生きるってことなんじゃないですかね。

ヒロヒサ:かっこいいね!

松尾:……最近、本当に歌しか無くなっちゃったなあって思うんですよね。33歳までやってくると、歌しか無くなっちゃいますね。他に資格もないし自信を持てる物も無いので、歌しか無くなっちゃった。

ジョニー:「普通にやってたらコイツとは組まねえよな」って奴らが集まって、面白いことをやりたい。それが井乃頭蓄音団なんですけど、それでも共通して言えるのは、歌しか無くなっちゃった、ギターしか無くなっちゃったっていう奴らの集まりなのかなっていうのはあるよね。

--「カントリーロード」の歌詞に通じる物はありますね、“振り返るとそこにあるのは一本道でした”って。

松尾:あー、確かに!

ヒロヒサ:だからまぁ、「今回はコンドーム入ってねえんだ」って残念に思う人はいるだろうし、ぶっちゃけ若干の怖さはありますよ。確かに今回、下品な言葉が少ない。ただ、今までの松尾さんの曲って、全然下品だと思わないんですよ。詞になってるし、そこから伝わってくる感情は凄く純粋。
そして僕らやっぱり紅白に出たいし、僕とジョニーさんはグラミー賞も獲りたいと思ってるんです。それは本当に思ってるから、そうなると“コンドームの歌で紅白に出れるの?”って所もあるじゃないですか。

--出るのは相当難しいでしょうね。

ヒロヒサ:入口として下品な歌があった方が……って人もいるんでしょうけど、ずっと井乃頭蓄音団のライブに来てくれている人って、その奥にある松尾さんという男の純粋さ。詞の世界を好きで、僕らを応援してくれているっていうのは感じてるから、そこは何にも変わってないですよね。ただ、「なんだよ、コンドームないのかよ!」っていう人がいたら、正直ごめんなさい!

ジョニー激論「激しさはエモーションの量!」

新作からの第1弾ミュージックビデオは「アンゴルモア」
▲新作からの第1弾ミュージックビデオは「アンゴルモア」

--ただ、そうした変化は音にもあって、いわゆる激しい音は減りましたよね。

ジョニー:ん~……、それは単純に曲調が早いとか遅いとか、ギターの音が歪んでるとか歪んでないとか、そういうカテゴライズで捉えていると思うんですけど、激しさってやっぱり詰まっているエモーションの量じゃないですか!
『親が泣くLIVE』に詰め込まれている当時のエモーションと、今作はなんら変わりない。バンドの結束力はそれ以上になってると思うから、ちゃんと聴いてもらえればわかると思います。

--そういう想いは、ジョニーさんが作曲された7曲目「渋谷ステーション」からも伝わってきますね。

ジョニー:今までの井乃頭蓄音団だったらやらないような曲だと思うんだけど、THE BANDみたいなロックな曲をやりたくてメロディを書いて、それにヒロヒサくんが詞をつけてくれたんです。ヒロヒサくんとは、最後の「東京五輪」のアウトロでのギターバトルも楽しかった! 今までライブでやることもあったんだけれど、音源化では初めての試みで。

松尾:ふたりって完全に両極端なギタリストなんですよね。ジョニーは野生なんですよ! ほとばしる情熱! そしてヒロヒサカトーは、ロック界の伊能忠敬!

ジョニー:日本地図作った人?(笑)

松尾:そう! 彼は俯瞰で物を見られるギタリストなんです! そんなふたりが戦っているのが凄く面白くて! このふたりのギタリストは、今の井乃頭蓄音団の見所なんです。

--ギターといえば9曲目「アンゴルモア」でも素晴らしいギターソロが出てきますよね。

松尾:3人目のギターソロがあるので、ぜひ聴いてください! 技術とかよりもっとシンプルに、純粋な“ギターが好きだ!”って気持ちで鳴らした音でした!

ジョニー:「アンゴルモア」はスタジオで色々ジャムっている内に今の形になってきたんですけど、井乃頭蓄音団の音楽って意図的なものは少なくて、ほとんどが偶発的に出てきたものを楽しみながら作ってるんですよ。“面白いものを作ろう”っていうテーマだけがあって、後は地図もなく進んでいる感じですね。レコーディングのときも含めて、今の日本でこんなにダイナミズムを大事にしているバンドもいないと思うよ?

--大貫さんのベースもどんどん表に出てきてますしね。

松尾:そう。ベムベムして欲しいじゃないですか。

ヒロヒサ:本当に最高なベーシスト。僕は前からファンだったし、すごくソウルフルなんだよね。

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ヒロヒサカトーが語る3.11の影響

--また、今作の大きな特徴として、ヒロヒサさんが作詞した楽曲があります。例えば2曲目の「少年」がそうですが、この曲の主人公の状況って、結局何にも変わらないじゃないですか。

ヒロヒサ:どこかへ飛び出したいという想いだけを歌ってるんですよね。飛び出していつか帰ってくるとか、君に会いにいくとか、それってつまらないと思っちゃう。だったら徹底的にここにいるというか、それも僕から何かへのアンチテーゼだと思います。

松尾:前に磔々のワンマンで「少年」を歌っている最中に、ヒロヒサくんに耳打ちで「良い曲だね!」って言っちゃったんですよ(笑)。後でマズいなって思ったんですけど、ステージで伝えたくなるくらい歌ってて気持ち良い曲なんです!

--あと、もし歌詞の攻撃性が足りないと思う人は、ぜひ10曲目の「東京五輪」を聴いて欲しいですよね。“え? じゃあこれから7年は面倒見なきゃいけないの?”っていう嫌な攻撃性が。

ジョニー:そこか(笑)。

ヒロヒサ:僕はとにかく勇気付けるような、がんばって欲しい人に“がんばれ”って言うような歌詞はあんまり書かない。ある状況だけを書いて、何かを感じてもらいたいんです。1曲目の「昔はよかった」は松尾さんの歌詞ですけど、やっぱりタイトル通りに思っている所だけを書いてるし。

松尾:『おかえりロンサムジョージ』は僕が作詞した「昔はよかった」から始まってヒロヒサカトー作詞の「東京五輪」で終わるんですけど、この2曲はそれぞれに過去と未来をテーマにしながら、同じ3.11について歌っているんです。
今と昔の生活と環境を区別するとき、アメリカだったら9.11かもしれないし、もっとさかのぼれば阪神大震災かもしれないし、関東大震災だって第二次世界大戦だってそうかもしれない。自分の人生に対して区切りがある人は、それを軸に考えることができるんだって、3.11のときに思ったんです。

ジョニー:だから、今を生きているミュージシャンっていうのはそれを詞なのか音なのか、表現に対して影響は出るし、背負っていかなければいけないのが宿命なのかもしれないよね。

ヒロヒサ:何を言ってもある立場の人からは批判されちゃうと思うんだけど、僕はやっぱり3.11に対して何もしてないと思う。何もしてないことへの後ろめたさがあります、僕は。こういうときに音楽は何ができるかとか、全然考えなかったし、間接的にはあったとしても具体的にギターでできたことって無いっちゃ無いじゃないですか、現実として。

いじめ問題の本質をつく問題曲「けんちゃん」

「嘘をついて生きるのは嫌」いじめ題材の問題作「けんちゃん」
▲「嘘をついて生きるのは嫌」いじめ題材の問題作「けんちゃん」

--そういう意味でも4曲目「けんちゃん」の歌詞が凄いんですよ。歌い出し、“ほんとの事言うと 僕もいじめた”という歌詞。本当に多くの人が心に潜ませていた忸怩たる想いを、一撃で言い当てています。

松尾:この曲は即興から生まれた楽曲で、あるライブの最中に「今から「けんちゃん」っていう曲を作ります」くらいの感じからスタートしたんですよ。

ヒロヒサ:あのときの「けんちゃん」は凄かった……。会場が凄い空気になった。で、ライブ後に「あれは凄い! やろうよ!」って言ったんだけど、松尾さん思い出せないの、本当に即興だったから(笑)。

松尾:僕が高校生の頃、いじめ報道が流行ってしまったことがあって、その現実を受け止めた上で、30歳のときに即興で歌ったんです。ようは12~3年思い続けてきたことを、やっと吐き出せた。何でしょうね……、この歌はしょっちゅう説明してるし話すと凄く長くなるんですけど……。

--だったら止めておきましょう。

ヒロヒサ:えーっ!?(笑)

ジョニー:そんなインタビューある!?(笑) 嘘でしょ!?

--だって長いんですもん。

松尾:酔っ払うといつも話してますもんね(笑)。でも、「けんちゃん」を作れて本当によかったなって思うんですよね。やっぱり嘘をついて生きるのは嫌なんですよ。30歳の誕生日に、12~3年間の集大成がパンと出た。そこから一回作り直したのが今の2代目「けんちゃん」なんですけど、僕らの世代は学校というのがまだ神聖な物だった。だけど今では先生も権力が無くなってしまったし、学校に守られるという感覚は無くなってしまったと思うんです。

だから起こってはいけないこと、ありえないこと、いじめという物は最初から無かったというのは、防げなかったときの言い訳にしかすぎない。それが今、僕が「けんちゃん」を歌う理由です。前はこの歌を通して、僕の不甲斐なさだったり、それでも生きている情けなさ、生きることへの執着をどこかで感じていたんですけど、今の「けんちゃん」はそこじゃない所に向かっていると思います。

で、結局どうする?広告費

--じゃあ最後になりますけど、『おかえりロンサムジョージ』が何枚売れたら広告費出してもらえます?

松尾:えーっと1枚2000円だから、ん~……。

ヒロヒサ:かといって非現実的な数字じゃダメだしねぇ。ただ、今流行ってる曲って5年後10年後には絶対飽きると思うんですよ。今、このお店で流れているBGMも、80年代の洋楽ばっかりじゃないですか。『おかえりロンサムジョージ』は絶対に飽きないアルバムに仕上がってますし、何年後に聴いても褪せない作品に仕上がってると思います。仮に「東京五輪」が違う五輪になってもいいし、どれだけ時が経ってもいじめはあると思うから……。

ジョニー:これは松尾さんが言ったんだけどね、音楽を続けるために音楽をやっちゃいけない。そこじゃない。やっぱり気持ち良いからやっているわけで、ダラダラ36歳になってモジャモジャしながらギター弾いてるんだからさぁ……

松尾:それって死ぬほどかっこいいと思いますよ!

ジョニー:松尾さんだって変な色のジャケット着てるわけじゃない。そういうのを大事にしていくのって大事じゃないですか!

--じゃあ何枚を目標にしますか?

松尾&ヒロヒサ&ジョニー:う~ん………。

松尾:10000枚!

--それだと非現実的すぎて……。

ヒロヒサ:おい!(笑)

松尾:じゃあまずは1000枚!

--現実的ですね(笑)。では報告、楽しみにしてますね!

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井乃頭蓄音団「おかえりロンサムジョージ」

おかえりロンサムジョージ

2014/04/09 RELEASE
INORC-4 ¥ 2,200(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.昔はよかった
  2. 02.少年
  3. 03.この人は誰だろう
  4. 04.けんちゃん
  5. 05.遠い小さな町
  6. 06.面白い話
  7. 07.渋谷ステーション
  8. 08.泣き上戸
  9. 09.アンゴルモア
  10. 10.東京五輪

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