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ザ・ナショナル インタビュー
1999年にNYブルックリンにて結成されたザ・ナショナル。下積み期間が長かったものの、今やアメリカを代表するロック・バンドとなった彼らが昨年5月にリリースした最新アルバム『トラブル・ウィル・ファインド・ミー』は、米ビルボード・アルバム・チャートにて初登場3位、第56回グラミー賞にて【ベスト・オルタナティヴ・ミュージック・アルバム】にノミネート。ライブ・パフォーマンスに定評がある彼らが現在開催中のワールド・ツアーは、アメリカをはじめヨーロッパでも軒並みソールド・アウトとなっており、2月にここ日本で行われた来日公演も大盛況に終了した。
そんな彼らが、2010年にリリースした『ハイ・ヴァイオレット』のツアーに同行したフロントマンのマット・バーニンガーの弟であるトム・バーニンガーによるドキュメンタリー『ミステイクン・フォー・ストレンジャーズ』が、3月28日に全米公開に。公開に先駆け、マット&トムが作品について、そしてボン・イヴェール、ヴァンパイア・ウィークエンド、カート・ヴァイルなどが参加予定のグレイトフル・デッドのトリビュート・アルバムについて話してくれた。
映画『ミステイクン・フォー・ストレンジャーズ』について
2007年にリリースされたザ・ナショナルのアルバム『ボクサー』収録曲「ミステイクン・フォー・ストレンジャーズ」からタイトルをとった、フロントマンのマット・バーニンガーの弟トム・バーニンガーによる音楽ドキュメンタリー『ミステイクン・フォー・ストレンジャーズ』。アーロン&ブライス・デスナーの双子、スコット&ブライアン・デヴェンドーフ兄弟、そしてマット・バーニンガーによって成るザ・ナショナル。とあるインタビューでの、「メンバー内には、2組の兄弟がいるけど、マットは…」と言う問いに、10歳近く年齢が離れている弟トムがいることを明かすマット。当時ほぼニートで、兄とは性格もルックスも真逆の弟。そんな彼だが、兄の計らいにより、2010年に行われた『ハイ・ヴァイオレット』のツアーにアシスタント・ツアー・マネージャーとして雇われる。大学で映画を専攻していた経験からツアー中の撮影も任されるが、案の定そのダメダメな仕事ぶりで、幾度もチャンスを与えられるものの結局はクビになってしまう。
▲ 映画『ミステイクン・フォー・ストレンジャーズ』トレイラー
劇中には、過去にトムが自主制作したドB級な映像作品を見せられ苦笑するデスナー双子や取材嫌いで知られるブライアンのシャワーでのインタビュー・シーンなどザ・ナショナルの面々の素顔はもちろん、2人の両親やトムにダメ出しをするマットの愛娘アイラちゃん(撮影当時2歳)なども登場。“ロックスター”である兄に劣等感を感じつつも、彼の為、そして自分の為に誇れる作品を完成させようと奮闘するトムの姿を通じて家族愛を描いた今作は、【トライベッカ映画祭】のオープニングを飾り、【SXSW】をはじめとする数々の映画祭でも上映され、ありきたりなロック・ドキュメンタリーに新たな息を吹き込んだ作品として、大きな賞賛を得ている。なお、3月28日の全米劇場公開に先駆け、3月25日にはLAのShrine Auditoriumにてプレミア上映とザ・ナショナルによるライブが行われる。
マット・バーニンガー&トム・バーニンガー インタビュー
――『ミステイクン・フォー・ストレンジャーズ』は、ありきたりなロック・バンドのドキュメンタリーとは違いますよね。“うれしい偶然”が重なり、出来上がった作品と言えるでしょうか?
マット・バーニンガー:トムがツアーに同行することになった時、ビデオカメラを持ってこいとは伝えてた。ちょっとしたビデオかウェブ用のコンテンツを作ろうと思って。くだらないことをしてる映像はたくさん撮れたし、一時期なんてモンキーズや『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ』紛いの映像を作ろうと試みていた。トムがアシスタント・ツアー・マネージャーの仕事をクビになって、実家に帰った時、妻と一緒に彼が撮影した膨大な映像を見出したんだ。そこで彼女が、「あなた(トム)についての部分は、どれも可笑しくて、愛嬌があって、面白いと思う。特に、クビになって、自分の中で葛藤があるところが。」って言ったんだ。トムがクビになったことは、みんなにとってストレスだった。その時は、すごくガッカリしたけれど、より面白いストーリーになったと思うね。家族についての奇妙な映画になるなんて、誰も考えていなかったから。
トム・バーニンガー:ユーモアやコメディ要素を盛り込むことに、特に力を入れた。自分が酔っぱらって、泣いてるところを録ったり、自分自身を映像の中に多く組み込んでいたのには、みんなとても驚いていた。でもあれを実際に映画に入れたのは、みんなの説得があったからなんだ。この作品は、編集室でカットされるような映像から成り立っているんだ。
――劇中で、2人の間にはあからさまな緊迫感が伺えますが、お互いのことをこんな風に思うのは変な感じじゃないですか?
トム:映画は、嫉妬心についてでもあるんだ。なぜ兄はこれまで道を間違わなかったのか、そしてなぜ俺は間違えまくったのか。これは自分の中で常に考えていたことだった。俺たちは、いつだってそこそこ仲が良かったし、別に暴力をふるったり、からかったりするような兄じゃなかった。多かれ少なかれ、彼のことは大人として捉えてたし、アイドルでもあった。マットは、いつになっても追いつけないような存在になっていった。掴んだ成功やファン…彼が実際どんなをことをしているのかは、未だに謎さ。
▲ Interview @ Tribeca Film Festival 2013
――ステージを降りたマットが、ライブが最悪だったと表現するシーンがありますよね。最近だと、どんなことがザ・ナショナルのライブの良し悪しを左右しますか?
マット:物事がうまくいかない事はいつだってある。テクニカルな問題はまったく気にしないけど、自分が観客と繋がりを持てなかった…と感じるのが、良くなかった時だと思う。たまに繋がりが持てたか、そうじゃないか、わからなくなることがある。見分けがつかないんだ。自分の気持ちがライブに入ってないんじゃないか、自分が曲と繋がれてないんじゃないか、5人が一緒にいるのに気持ちが離れてるんじゃないか、って。そうだとすると、みんな最悪な気分になる。何千人もの人が40ドルずつも払ってくれたのに、それに値するライブが出来なかったんじゃないか、と思いながらステージを降りることだってある。それは積み重なった不安のせいでもある。ステージ上で結構酒を飲むから、その積み重なったものに加え、ライブが良くないと、余計にそれが身に染みる。ホント最悪な気分だ。これは稀だけど、ステージを降りて、自分自身が大嫌いになることもある。そうなると良くなかったショーだね。毎晩最高のショーを見せられるように努力しているけど、たまに現実が伴わない時もあるんだ。
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トムがいてくれたことが
俺の脳内にバランスをもたらしてくれていた
――もちろんですが、劇中にはザ・ナショナルの楽曲もいくつか起用されていますよね。映画全編のスコアを手掛けてほしいというオファーはこれまでありましたか?
マット:俺にはないね。TVはあるけど…映画だと『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』の為に1曲書いた。でもアーロンとブライスは、これまでにスコアを手掛けて欲しいというオファーをもらっているし、映画はいくつか手掛けてる。『ハンガー・ゲーム2』の為には1曲書いたけど、劇中には使われてなくて、サウンドトラックに収録されてる。何回か話をもらったことがあるけど、やるのは大好きだよ。
――最新作『トラブル・ウィル・ファインド・ミー』が完成してからしばらく経ちますが、新曲には取り掛かっていますか?
マット:いいや。でも俺たちにとって、それは目新しいことじゃない。ツアー中は―今年の夏はずっとツアー漬けの予定だけど、バンドにとって不思議とクリエイティヴな域に入り、ライブが中心になるんだ。正気を保つために、他のことは一緒にツアーバスに乗ってる時、移動してる時やホテルにいる時にやらなきゃいけない。でも人生のすべての時間をバンドに捧げるようになると、俺たちだって…嫌気がさしてくる。だからそうならない方法を見い出した。バンドが、生活のすべてを支配するようになると、やはり辛いんだ。『ハイ・ヴァイオレット』のツアーは、とても緊迫していて、トムがいてくれたことが俺の脳内にバランスをもたらしてくれていた。ザ・ナショナル以外のことも色々あるし。最後のショーから戻って何週間かしたら、ニュー・アルバムの制作に取り掛かると思うよ。その時になったら、新曲を書くことに頭を切り替える。
――今年の秋ぐらいから?
マット:(笑)。そうだな、もしかしたら今年の秋に取り掛かるかもな。
▲ Making Of "St. Carolyn by the Sea" / Bryce Dessner
――最近だと、他にどんなことに携わっていますか?
マット:色々な人といくつかコラボをしてる。俺はシヴィル・ウォーズのジョイ・ウィリアムスとコラボをした。他にもちょこちょこ取り組んでるものがあるんだ。アルバムで歌って欲しいって訊かれるんだ。(ザ・ウォークメンの)ウォルター・マーティンのアルバムの為にキッズ向けの曲をやった。そういった小さなことをちょこちょこやってる。アーロンはプロデューサーとして腕を振るってるし、ブライスはもっとハイ・アート的な音楽を作曲してる。なんとなくみんな携わってるグレイトフル・デッドのプロジェクトもあるし。これらはバンド以外の経験を蓄積するためものだ。こう言った小さなコラボを重ねることは、バンドにとって健全なことだと思うね。
――グレイトフル・デッドのプロジェクトですが、ザ・ナショナルとして曲を提供するのですか?
マット:そう。でもどの曲をやるか、大きな議論になってる。俺には「Box of Rain」がいいんじゃないか、っていう話がずっと上がってる。俺のヴォーカルの声域の関係らしいが。あまり関与してないんだ。多分スコットとブライアンが、一番“デッド”のファンで、頻りに何をやるかについてのメールがやり取りされてる。俺は詳しくないから、このプロジェクトからは外されたみたいだ。これまで個人的に特に追いかけてなかったし、彼らは…“デッド”の専門家になりつつある。楽しいプロジェクトだよ。ボブ・ウィアーに会って、一緒にサンフランシスコで演奏できたのは、シュールで最高だった。完成するのが、待ちきれないよ。
▲ Bob Weir & Members of The National @TRI Studios
――存命のメンバー、ボブ・ウィアーやフィル・レッシュなども参加するのですか?
マット:多分ね。よくわからないけど。いい質問だね。“イエス”と返事はできないけど、ボブ・ウィアーは絶対参加するはずだ…これまでに彼と何度か一緒に仕事してるけど、素晴らしくいい人だ。生き残っているメンバー全員、このプロジェクトを支持してくれてる。ボックス・セットも必要な分送ってくれたし、俺たちに過去のカタログをすべて解放してくれた。100%支持してくれてる。でも具体的に誰が参加するのかは分からないな。
――トムは、新たな映画に取り掛かっているのですか?
トム:今作がこれほど成功したのには、正直驚かされてる。自分にとってどの道を進むのがいいのか、まだ決断してる最中なんだ。この映画を経て、一つわかったことは、自分がカメラの前でもまったく怖気づかないということ。だからアップライト・シチズンス・ブリゲイドで演劇クラスを受講して、もっとシリアスな演劇クラスも受講しようと考えてる。その結果どうなるか、ってところだね。クラスにはカメラも同行して、この映画公開後の俺の人生についてにしてもいいんじゃないか、と思ってる。俺のカリフォルニアでの暮らしに密着して、オーディションを受けて、落ちたり、もしかしたら失敗する姿だったりね。
Q&A by Mike Ayers / 2014年3月18日 Billboard.com掲載
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トラブル・ウィル・ファインド・ミー
2013/05/22 RELEASE
BGJ-10173 ¥ 2,608(税込)
Disc01
- 01.I Should Live In Salt
- 02.Demons
- 03.Don’t Swallow The Cap
- 04.Fireproof
- 05.Sea Of Love
- 06.Heavenfaced
- 07.This Is The Last Time
- 08.Graceless
- 09.Slipped
- 10.I Need My Girl
- 11.Humiliation
- 12.Pink Rabbits
- 13.Hard To Find
- 14.Learning (日本盤ボーナストラック)
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