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楽園おんがく Vol.11:ヴァ乳インタビュー
旅と音楽をこよなく愛する、沖縄在住ライター 栗本 斉による連載企画。第11回は沖縄発のへヴィ・ロックバンド ヴァ乳(VANEW)を直撃!
ヴァ乳(VANEW)。そのバンド名だけでも、タダモノでないことが伝わるだろうか。10年近く前に結成し、様々な変遷を経ながら孤高の活動を行っている沖縄発のヘヴィロック・バンドだ。メンバーは、全曲の詞曲も手がけるhyone(ヴォーカル、ギター)、Hiroaki(ギター)、Nargy(ベース)、都(ドラムス)の4人組。2010年に日本語によるヘヴィロックのオムニバス・アルバム『真神楽』に参加して注目されたが、この1月に満を持してファースト・アルバム『べっかんこう』を発表した。
女性リズム隊とは思えないヘヴィでラウドなサウンド、トリッキーな楽曲構成、土着的な薫りを醸し出すキャッチーなメロディ、そしてhyoneが描く摩訶不思議でストーリー性の高い歌詞によって形作られるヴァ乳の音楽は、どのジャンルにも当てはめられないほど独自の世界だ。『べっかんこう』には、そんなヴァ乳の集大成ともいえる8曲が詰まっている。
沖縄県内だけでなく、少しずつ本土にも進出し始めたヴァ乳。ここでは、結成当初からの不動のメンバーである、hyoneと都に話を聞いてみた。
バンド名の由来は
僕らでさえ意味がわかんないんですよ。
――2005年に結成ということですが、そのいきさつを教えてもらえますか。
hyone:沖縄国際大学の音楽サークルに所属していた仲間です。当初は女性ヴォーカルも入れての4人組で、僕はギターとコーラス、都がドラムで、ベースはNargyではなく別のベーシストでした。女性ヴォーカルだけど、暴れまくってデス声出すっていうような。最初はシステム・オブ・ア・ダウンのコピーをやって、その後すぐにオリジナルを作り始めました。
都:当時はサークルの部室で練習していたんです。すごく自由で、お酒を飲みながらやってて。酔っぱらって何も考えずに作った曲なんかも、いまだにレパートリーになっています。
――ヴァ乳というバンド名の由来は。
hyone:これもべろんべろんに酔っぱらった勢いで付けたので、僕らでさえ意味がわかんないんですよ。
都:本当にヒントすら無いっていうくらいで。
hyone:かっこいい理由があれば後付けで考えようと思ったんですけど、それも思い付かないからいいやって(笑)。名前を変えた方がいいっていう話も出たんですけどね。
――ライヴはひんぱんに行っていたんですか。
都:月に一回ライヴをやる程度です。
hyone:その後、ベースとヴォーカルが抜け、Nargyが入ってトリオ編成になったんです。その時に僕がちょっと歌ってみようかなって思って始めてみたのが、今のヴァ乳の原型です。本当はヘヴィなデス声を出せるような別のヴォーカルを探そうとか考えたんですけど、歌い出したら僕のヴォーカルでバンドがまとまって来ちゃったので、それはそれでいいのかなと。ま、メンバーはどう思ってたのかわかんないですけど(笑)。
――2007年にファースト・ミニ・アルバム『セアカゴケグモ』がリリースとのことですが、どういう経緯で作ったんですか。
hyone:サークルの部室にMTR(マルチトラック・レコーダー)があったんです。面白そうな機械だなあと思って先輩に聞きながらやってみたら、なんて便利なんだって感じて。それで、ひとりでドラムやベースなど全部の楽器を入れてみたら、盛り上がってきたんで、これ、ヴァ乳でもやってみようかなと。それで3曲入りのミニ・アルバムを録音したんです。
――MTRで録った音源が、CDになったんですか。
hyone:そうです。この頃、広く浅くいろんなことに手を出して、着うたで配信したりもしました。それで、次の年にギターのHiroakiさんが加入して今の4人編成になるんです。
――Hiroakiさんが入ったいきさつは。
hyone:大学の先輩のつながりで紹介してもらったんです。でも彼はゴリゴリのテクニカルなハードロック・ギタリストだったから、最初は僕とは水と油状態。僕はどっちかっていうと、トリッキーなプレイが好きで面白い曲が作れればいいやっていうタイプだったから、知識もなくなんとなく雰囲気でやってたんですよ。そこに、音楽的にしっかりしているHiroakiさんが入ったことで、バンドががっちりと固まりました。
――2010年に日本語のヘヴィロック・コンピレーション『真神楽』に参加しますが、そのきっかけは。
▲日本語へヴィロック・バンド4組によるコンピ『真神楽』(2010)
hyone:地獄車のマサ一撃さんが僕らのことをなぜか知っていて、413TRACKSに紹介してくれたんです。レコーディング・スタジオでちゃんと録った作品は、この『真神楽』が初めてですね。基礎的なところからいろいろと教えてもらいました。それまでは、演奏が雑だなと自分たちでも感じていたんですけど、そこがしっかりと固まりました。この『真神楽』では他のバンドとツアーをやったんですけど、いまだに一番面白かったツアーですね。
――次の年にはシングル「オオカミ」を発表していますね。
都:『真神楽』で仲良くなったバンドと、またツアーしたいということになって、せっかくだったらCD作ろうってことで制作しました。
hyone:これ、8cmシングルなんですよ。みんながみんな12cmで出しているから、それだったら8cmで出してみるのもいいかなって思って。8cmシングルって、当時はすでに若い子は知らないっていうくらいの時期。だからちょっと話題になったけど、嫌がる人もいましたね(笑)。
偏屈な人ばかりだから、すぐに「いいね」って絶対に言わないんですよ
――そして、2012年にアルバム制作開始とのことなんですが、ずいぶん時間かかりましたね。
▲1stアルバム『べっかんこう』
hyone:ツアーをやっているうちに、413TRACKSのプロデューサーのtetsuさんから、「うちから出しなよ」って言ってもらいました。でも、なんせ偏屈なバンドだから、自分たちがやりたいことを優先して、他人に指示されることにとまどいました。レコーディングも何度かやり直したりしているうちに、1年半くらい経ちましたね。いろいろと大変だったんですけど、実際にマスタリングされた状態で聴いたら、文句なしの出来映えになっていました。だから満足しています。
――アルバムの全体像は出来ていたんですか。
hyone:僕らは持ち曲がそんなに多くないので、持っている曲を全部CDに入れようっていうくらい。だから収録曲は、すでにライヴでやっていた曲ばかりです。
――でも、ライヴとレコーディングは違いますよね。
hyone:ヘンなことはいろいろやりました。例えば、一曲目の「言音(コトネ)」は、プロデューサーのtetsuさんから「シャコシャコした音を入れて欲しい」といわれて、それでギターにエフェクターを一杯つなげてとりあえずいろいろやってみたんです。僕のギターが壊れていたので、わざと音をか細くさせたりしたものを半信半疑で送ってみたら、「ああ、これこれ!」といわれてOKになったりとか。
――「言音」もそうですが、どれも曲名が面白いですね。
hyone:僕は、曲のタイトルで完結させられるとつまらないと思っているんです。だから、敢えていろんな方向性を残したままの曲名にしています。
――曲が先で歌詞は後ですよね。どういう手順で作っていくんですか。
hyone:すでに楽器も歌もすべて入ったデモをみんなに聴いてもらって、反応の良いものだけやるんです。みんなにプレゼンしなきゃいけないので、いまだに反応が悪かったりすると泣きそうになりますよ。
都:「面白くなーい」なんていったりするよね(笑)
hyone:みんな偏屈な人ばかりだから、すぐに「いいね」って絶対に言わないんですよ。「こんなドラムは絶対に叩きたくない、ダサイ」とか言われたりして(笑)。もちろん、僕のデモは不完全だから、実際叩いてもらったらすごくいいリズムになったり、ベースやギターも面白いリフを入れてくれたりとかして、僕がもともと持ってきたものよりもグッと質がよくなって曲が出来るというのが毎回のパターン。悔しいんですけど、やっぱりみんなでやることに意味があるんだなって。
――「言音」はいつ頃の曲なんですか。
都:何年も前の曲です。バンドを始めてすぐかな。
hyone:まだ女性ヴォーカルだった頃の曲ですね。もともとはシャウトするタイプの曲だったんですけど、僕が歌うようになってからはメロディを付けきれずに何年も置いていたんです。
――次の「頭膨(ズボウ)」は、途中でテンポが変わったりしてアレンジがかなり面白いですね。
都:これはヴァ乳でいちばん最初に作った曲です。最初のフレーズだけは決まっていたけど、展開は何回かみんなでやっているうちにこうなりました。この時も、みんなべろんべろんになりながら(笑)。
hyone:これも女性ヴォーカルでシャウトする曲だったから、実際に僕が歌い始めたのはわりと最近です。今回アルバムが出る前にデモ音源としてツアーで配ってきたんですけど、けっこう評判がよかったですよ。
――少しプログレっぽいですけど、そういうのを聴く人はいるんですか。
都:誰が好きだったっけ? みんな好きな音楽がそれぞれ違うんですよ。
hyone:僕はそんなに音楽聴かないんですよ。都はデス・メタルですよね。Nargyはラルクが好きだよね(笑)。
都:でも彼女は幅が広いですよ。安室ちゃんも聴くし。
hyone:ベースのセンスがいいんですよ。僕が作るフレーズに、いい感じのうねうねしたベースを合わせてきてくれるので、ずいぶん信頼性が高いですね。
――3曲目の「パウペブラ」では、フレットレス・ベースを弾いていますよね。
hyone:この時が初めて弾いたらしいんですけど、いい味出してますよね。いつも彼女は「かっこいい!」っていわれてる。たまには僕のことも誉めて欲しいんですけど(笑)。Hiroakiさんは僕らより4つほど年上なんですが、昔からギター小僧という感じで、ホワイトスネイクとかヌーノ・ベッテンコートとかああいうの弾いてた人なんですよ。もろハードロックの。だから最初はヴァ乳と混ざるのに違和感があって。もとの3人はコードとか構成とか難しいところは全然わかってないんで好き放題やってたんですけど、Hiroakiさんが入って音楽的にもまとまりました。
――この「パウペブラ」もタダモノじゃない感じがしますね。ギターもフラメンコっぽい風味が入っていて。
hyone:ポルトガル語で“まぶた”という意味なんですけど、これもかなり古い曲です。スパニッシュとかも好きなんで、たまにこういうのもやるんです。こういう古い曲ほど僕がギターソロ弾いてるんですよ。「テクニカルじゃねえよ」みたいな(笑)。Hiroakiさんがソロを弾いている曲は弾き倒してるんですぐわかります。
――「小槌(コヅチ)」は、リズムがファンキーですね。
hyone:僕らにとってはポップな曲かもしれませんね。明るめの曲というか。これもまあまあ古い曲です。
都:これは、3人編成になった時にすぐ作った曲ですね。
hyone:ヘヴィな世界からいったん解放して、僕が歌いたい曲を作ったらこうなった。だから当時はバンド・メンバーにはなかなか受け入れられなくて。
都:この曲、あの当時はいやだった(笑)。Hiroakiさんが入ったからできるようになりました。Nargyのベースがかっこいいですね。
――「黒い影が来る」は、またミディアム・テンポで違う雰囲気ですね。
都:この曲はお客さんの評判がすごくいいんです。
hyone:キャッチーだからね。実は都が一時期辞めている時があって、別のドラマーと適当にあわせてたら出来た曲なんです。
――タイトルは他の曲に比べると具体的ですね。
hyone:そうなんですけど、「黒い影が来る」って歌っているだけで、具体的にいったい何が来るのかはわからないっていう。鬼太郎とか妖怪モノも好きなので、そんなイメージです。
――「朱道(アカミチ)」は3拍子リズムの異色曲ですね。歌詞も神秘的。
hyone:僕はストレートなラブソングは書けないんですけど、珍しくこれは男女のすれ違いのようなことをテーマに歌ってみたんです。風景のイメージはしっかりあるんです。「大きな木が一本立っていて、遠くでお祭りの音が聴こえていて、二人の影が伸びている」みたいな。
沖縄を武器にしたくないというプライドはある
――そういうイメージは、曲ごとにあるんですか?
hyone:そうですね。漠然とはあります。本当は一曲ずつ歌詞の解説をしたいくらいなんですが、聴いている側のイメージを大事にしたいからあまり言わないですけどね。
――歌詞はどういう時に出てくるんですか。
hyone:車に乗っている時とか、風呂に入っている時なんかに思いつきでメロディに言葉を乗せたりしますね。あと、韻を踏んだりキャッチーなフレーズというのを心がけてて、それでどんどん歌詞を組み立てていくんです。自分の世界観は保ちつつも、メロディ・ラインが他の音とぶつからないようにとか。そうすると、ある程度謎なままのイメージで歌詞が出来上がります。
――歌詞を作る時に参考になるものとか、影響を受けた文学などはあるんですか。
hyone:まったく本は読まないんです。マンガは好きなんですけど。だからあくまでも妄想のなかで「こういう人がでてきてこういうことをやったら面白いんじゃないかな」と思い浮かべながら、メロディに当てはめていく感じですね。だから、よく物語調といわれます。
――「雷(ライ)」はこれだけ英語詞が入っていますね。
hyone:『真神楽』にも入っている曲です。何言ってるかわかんない英語をワーッと歌うのは好きじゃないので、中学生でもわかる単語だけを使って意味がわかるように歌っているつもりです。ヴァ乳には英語の歌詞を付けないという制限もないし、たまたま思い付いたのが英語だったというだけですね。この曲は雷のイメージで詞を書いています。これも映画が一本作れそうなくらいのストーリーがあるんですよ。
――最後の「ダーラ」というタイトルは、ヨガか何かの言葉かなと思ったんですけど。
hyone:いや、イントロが“ダーラッ”って始まるからなんですけどね(笑)。それくらいタイトルがその曲のまとめにならないように、わざと外して付けた曲です。
――歌詞に出てくる「聖地インクレシャブ」というのも謎ですね。
hyone:これも完全に造語です。語呂で作ったんです。語感を優先することも多いですね。誰に審査されるわけでもないから、自由に作っています。
――ヴァ乳は、民族的といわれることが多いと思うのですが、そのことについてはどう考えていますか。
hyone:実は、僕らはあまり民族的とは思ってないんですよ。でも紹介される時に、純粋なヘヴィロックでもないしメタルでもないし、エスニカルというわけでもないんですけど、とりあえず“民族的”ということにしておこうってくらいです。ただ、今回のアルバムのキャッチコピーは“寓話的怖夜彩気音樂”ってなっています。僕らも読めないんですけど(笑)、プロデューサーのtetsuさんに思い浮かぶ漢字をずらっと並べてもらいました。
――沖縄は意識しますか。
hyone:あまりないですね。むしろ出したくないというか。いわゆる三線みたいな音は入れないし、沖縄音階に近いメロディはあったりするけど、沖縄を武器にしたくないというプライドはあるかな。沖縄音楽とヘヴィロックの融合ってあまりかっこよくないかなって思っています。
――バンドにとっては初のアルバムとなりますが、一段階進んだ感覚はありますか。
hyone:ほとんどが古い曲なんですけど、あらためて見つめ直すことで磨きがかかったかなとは感じます。
都:やっと、っていう感じです。待ってくれている人がいたのでありがたいですね。
――これからやってみたいことはありますか。
都:曲は増やしたいですね。ずっと同じ曲やってるから(笑)。
hyone:僕のストックはあるんですけど、なかなか進まないんですよ(笑)。曲はどんどん生まれてきているので、形にしていきたいです。
都:あと、楽しいツアーに出たいですね。
hyone:この間4連チャンのライヴをやって自信は付いたんですけど、身体はボロボロで。
都:一回ライヴやったら、次の日は観光するようなツアーがいい!
hyone:それ、志が低くないか(笑)。でも沖縄以外では、まだ、東京、名古屋、大阪でしかライヴをやったことがないので、知らないお客さんのいる場所でやってみたいですね。あとは大きいステージに立ってみたいと思っています。僕ら、野外は似合わないんですけど(笑)。
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Writer:栗本 斉 Hitoshi Kurimoto
旅と音楽をこよなく愛する旅人/旅&音楽ライター/選曲家。
2005年1月から2007年1月まで、知られざる音楽を求めて中南米へ。2年間で訪れた国は、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、ボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、トリニダード・トバゴ、パナマ、メキシコ、キューバの、合計14カ国。
帰国後は旅と音楽にこだわり、ラジオや機内放送の企画構成選曲、音楽&旅ライター、コンピレーションCD企画、ライナーノーツ執筆、講演やトークイベント、ビルボードライブのブッキング・コーディネーターなどで活動中。得意分野はアルゼンチン、ワールドミュージック、和モノ、中南米ラテン旅、世界遺産など。2013年2月より沖縄県糸満市在住。
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