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ウィル・バトラー of アーケイド・ファイア 映画『her/世界でひとつの彼女』インタビュー
そのチャイルドライクな感性とDIY精神で、独創的な世界観と作風を築いてきた映像作家スパイク・ジョーンズによる最新作『her/世界でひとつの彼女』を映画のスコアを手掛けたアーケイド・ファイアのフロントマン、ウィル・バトラーのインタビューとともに紹介!
『her/世界でひとつの彼女』
ソニック・ユース、ダフト・パンク、ビョーク、ビースティ・ボーイズ、R.E.M.など数々の著名アーティストのミュージック・ビデオをを手掛け、90年代にミシェル・ゴンドリー、ソフィア・コッポラ、ウェス・アンダーソンらと共に新たな時代を築いた映像作家スパイク・ジョーンズ。プロデューサーとして『ジャッカアス』シリーズを手掛け、俳優としての一面(レオナルド・ディカプリオ主演の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』に出演している)もある彼は1999年に『マルコヴィッチの穴』で長編映画監督デビューを果たし、これまでに4本の作品を発表している。
約4年ぶりとなる長編監督作となる『her/世界でひとつの彼女』は、近未来のLAでホアキン・フェニックス演じる主人公が、スカーレット・ヨハンソンが声を担当するSiri風のコンピュータ・オペレーティング・システムに恋をするという一見SFチックな“今っぽい”ラヴ・ストーリーだが、主人公の視点を通じて描かれる様々な恋愛や人間関係の中核にある普遍的な魅力が、各国で幅広い層の共感を生み、賞賛されている。これまで監督は、チャーリー・カウフマンやデイヴ・エガーズなどと脚本を執筆していたが、今作では初めて自ら脚本を手掛け、【第71回ゴールデン・グローブ賞】で脚本賞を受賞している。
▲ "Where The Wild Things Are" Trailer
そしてこのエモーショナルなラヴ・ストーリーのスコア担当したのが、カナダ・モントリオール出身のインディー・ロック・バンド、アーケイド・ファイア。スパイク・ジョーンズ監督とは、これまでに何度もコラボを重ねており、2009年に公開された『かいじゅうたちのいるところ』では、デビュー作『フューネラル』からライブでの定番ナンバーでもある「ウェイク・アップ」を映画トレイラーの為に再録。監督の描く世界観とテーマに絶妙にマッチし、大きな話題となった。その後もグラミー賞を受賞した『ザ・サバーブス』にインスパイアされたショート・フィルム『Scenes From The Suburbs』、昨年末行われた【第1回YouTube ミュージックアワード】では、授賞式で行われたバンドによる「アフターライフ」の生パフォーマンスをリアルタイムで監督して話題となった。
今回『her/世界でひとつの彼女』のスコアを共作しているマルチ・インストゥルメンタリストのオーウェン・パレットは、アーケイド・ファイアのデビュー作から主にストリングスのアレンジなどに携わっており、ヴァイオリニストとして初期のツアーにも参加している。これまでにもカルト名作『ドニー・ダーコ』などで知られるリチャード・ケリー監督作『運命のボタン』などのサウンドトラックをフロントマンのウィン・バトラー、メンバーでウィンの妻であるレジーヌ・シャサーニュとともに手掛けており、現地時間にて3月2日に開催される【第86回アカデミー賞】ではウィルとオーウェンの2人がオリジナル・スコア賞にノミネートされている。
"Her" (Official Trailer 1)
ウィル・バトラー インタビュー
Arcade Fire / Photo: Getty Images
▲ Arcade Fire and Owen Pallett Scoring "Her"
??マルチ・インストゥルメンタリストであるオーウェン・パレットと14か月を費やし、今作を作り上げたそうですね。監督のスパイク・ジョーンズは、まるでバンドの一員になったような気分になったそうですが、ウィルにとってはどうですか?
ウィル・バトラー:全てのプロセスに参加出来て、とても素晴らしかった―単に雇われた感じではなく、きちんとコラボレーターになれた。10枚組の『her/世界でひとつの彼女』のサウンドトラック・ボックス・セットをリリースしようって、ジョーク言ってるよ。
??ポストプロダクションの段階で、サマンサ・モートンからスカーレット・ヨハンソンに女優が変わったことによってサウンドトラックに変化はありましたか?
ウィル・バトラー:大分変わったよ。ハイ・コンセプトっぽさが薄まり、作品が2人の人間関係へとシフトした。音楽も同じように、当初『ブレードランナー』のような世界観を構想していたけど、よりピアノが中心となって、ストリングスと温かみのあるシンセサイザーを起用することで壮大な感じが抑えられたね。
??曲を書くのが一番難しかったシーンは?
ウィル・バトラー:最後の6分間。2日間を費やして5~10テイクぐらいやったんだ。バンドとして何かを作ると、一人のアイディアを貫き通すのとはまったく違う駆け引きがある。僕らはロック・ミュージシャンだから、やり方なんてわからない。自然と形になるんだ。
??スクリーン上には映らないセックス・シーンの為に曲を書くのは?
ウィル・バトラー:恐ろしかったよ。ラフ・カットでは、スクリーンが3分間真っ暗になって、セックスの音が聞こえるだけだった。「上手くいかない確率のが高いんじゃないか―それも無限大の確率で。」って思ったね。でもアルバムの中には、僕らが暮らす世界にもあり得るようなエモーショナルな要素がある。特にこういった重いロマンチックなシーンはね。『her/世界でひとつの彼女』の中で、『風と共に去りぬ』のようなシネマティックなナンバーだからね。
あのシーンの曲は、書き終えることが出来ないんじゃないかって思ってた。、スパイクにもこの映画の為に費やせる最後の日に「僕らは自分たちのアルバムもリリースしないといけないから、その作業へ切り替えなきゃ…。きちんと映画の為に曲を作れる人を雇ったほうがいいよ。」って伝えてた。最後の日、僕がピアノで、(アーケイド・ファイアのベーシストの)ティム・キングスベリーがドリーミーなエレキ・ギターを演奏していた。たしかワン・テイクだったと思うけど、感情のコアを捉えることが出来た。震えたね。その瞬間に「これだ。魔法が宿っている。」って2人とも共鳴したんだ。
Q&A by Tim Appelo / 2014年2月21日 Billboard.com掲載
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